フラワーアレンジなどでおなじみのガーベラは、カラフルで鮮やかな色合いと、丸く愛らしい花顔が印象的で、世界中で親しまれている花です。南アフリカ原産で、熱帯アジアや南アフリカなどに野生種が約40種も分布する、というちょっと意外な一面があります。ガーベラを健康的に育てて美しい花を咲かせるには、土がとても大切。ここでは、ガーベラ栽培に適した土と植え替えについて紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
ガーベラを育てる前に知っておきたいこと
ガーベラは多年草で、きちんと管理して育てれば、数年にわたり花を咲かせてくれます。まずは、ガーベラと仲よくなるための基本情報を知っておきましょう。
ガーベラの基本データ
学名:Gerbera jamesonii Hybrid
科名:キク科
属名:ガーベラ属
原産地:南アフリカ
和名:花車(ハナグルマ)、大千本槍(オオセンボンヤリ)
英名:Gerbera
開花期:3~5月、9~11月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、緑、茶、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:10~20℃
切り花の出回り時期:オールシーズン
花もち:5~10日
ガーベラを種から育てるなら、植えつけは4~5月がベストです。また、暑さが落ち着く9月下旬~10月中旬も種まきに適しています。苗は、3月中旬~5月、または9月中旬~10月に出回ります。ガーベラを育てるには、気づかうべき点がいくつかあります。植物の栽培で基本となる土をテーマに、次の項以降で詳しく説明しましょう。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
植物を育てるために使う土を「用土」といいます。用土にはさまざまな種類(後述参照)があり、それらを何種類かブレンドしたものが「培養土」です。
植物は根の働きが弱ってくるとだんだん元気がなくなり、放置しておくとやがて枯れてしまいます。つまり、根がしっかりしていれば、植物は健やかに成長するのです。その根を育てる土台であり住処となるのが”土”です。
植物にとって「よい土」とは、栄養分に富み、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた状態のものです。土には、成長に必要な栄養素がバランスよく豊富に含まれていないといけません。また、乾きやすく通気性があると、土中に新鮮な水と酸素が保たれ、根腐れしにくくなります。土中の酸素は、土に保温効果や断熱効果をもたらし、寒さや暑さなど急激な気温の変化から根を守ります。ただし、乾きやすさは度が過ぎると水不足を招くため、適度な保水性が必要なのです。
このようなよい状態の土は、通常「団粒構造」になっています。団粒構造とは、砂や粘土など、さまざまな土の粒子(単粒)がくっつき合って、小さな固まり(団粒)を形成して重なっている状態。団粒の中には小さな隙間が、団粒と団粒の間には大きな隙間があります。これらの隙間が排水、通気、保水、保肥に役立ち、植物が根を張りやすい環境を作っています。団粒構造の土は、フカフカと柔らかいのが特徴です。
一方、水はけの悪い粘土質の土や、水もちしない砂土を「単粒構造」といい、一般的な植物の栽培には向いていません。
園芸店やホームセンターには、あらかじめブレンドされた培養土のほか、赤玉土や黒土、腐葉土など、さまざまな用土が販売されています。園芸初心者の方は、どの用土を買えばよいのか迷うでしょう。次の項で紹介する用土の特性を参考に、育てる植物や環境に合わせて、よい土を作ってください。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土の種類やその特徴を知ることは、植物栽培に必要な「よい土」作りに役立ちます。ここでは、園芸店やホームセンターでよく見かける用土について紹介しましょう。
【基本用土】
基本用土は鉢土のベースとなるもので、ブレンドの配合割合が大きい土。代表的なものは以下のとおりです。
黒土
一般的に畑用の土として知られている黒い土。柔らかく、保水性と保肥性に富みますが、排水性と通気性はやや劣るため、単体で使うことはあまりありません。
赤玉土
関東ローム層の赤土を玉状に乾燥させたもので、粒の大きさは大・中・小があります。通気性、保水性、保肥性に優れており、ガーデニング用の基本の土としてよく利用されています。
鹿沼土
栃木県鹿沼地方でとれる火山性の玉土。通気性、保水性、保肥性に優れています。酸性なので、山野草やブルーベリー、サツキ、ツツジなどと相性がよいとされています。
真砂土
花崗岩が風化した粒子の細かい用土で、粘土質。排水性が悪いため、通気性に優れた改良用土(後述参照)と一緒に使います。
【改良用土】
基本用土をよりよい性質にするために加える土です。
腐葉土
広葉樹の落ち葉を腐熟させたもの。有機質に富んでいるので土中の微生物の働きを高め、土を肥えさせてくれます。また、排水性、保水性、保肥性も高く、土質改良に有効です。
ピートモス
水ゴケなどが泥炭化したもので、腐葉土とよく似た性質。軽くて、排水性、保水性、保肥性がよく、室内園芸に適しています。酸度が強いので、酸性の土を好む植物には「酸度未調整」のものを、一般的な草花には「酸度調整済み」のものを使い分けましょう。
堆肥
わらや落ち葉、枯れ草などを腐熟させたもので、通気性と排水性をよくする働きがあります。腐葉土よりも有機質の肥料分が含まれており、花壇や畑の用土に最適です。
【調整用土】
バーミキュライト
蛭石(ひるいし)を焼いて発泡させたもので、軽いのが特徴。通気性と保肥性に優れ、保水性もよい土です。
パーライト
真珠岩(しんじゅがん)を高温高圧で焼成したもので、軽くて無菌。通気性と排水性に富むため、水はけの悪い用土に混ぜて使います。
砂
排水性や通気性を高めるために使います。桐生砂(きりゅうすな)、矢作砂(やはぎすな)、富士川砂など種類はさまざまですが、川砂が一般的。
【特殊用土】
水ゴケ
湿地に自生する水ゴケを乾燥させたもので、保水性と通気性に優れています。水をたっぷり含ませてから使います。
※「○○用」として市販されている培養土は、これらの用土の特性を生かして、配合割合を各社で研究して対象植物用にブレンドしたものです。
元気に育てるための、ガーベラの土作り
ガーベラの原産地である南アフリカは、基本的にアルカリ土壌であるため、ガーベラは酸性の土を嫌います。
ガーベラを鉢植えで育てる場合、市販の草花用培養土を使いますがこれらの大半は弱酸性。また、地植えにおいても、日本の土は弱酸性です。そのため、使う土に、アルカリ性を強める苦土石灰(くどせっかい)を混ぜて、中和させた状態で、種や苗を植えるとよいでしょう。 ただし、苦土石灰は量が多いと土質が悪化して、植物の生育を妨げることがあるため、土と混ぜて見えなくなるぐらいの少量にしておきます。苗の定植は苦土石灰を混ぜて、2週間ほど経過してから、植えつけることをおすすめします
鉢植えで使う草花用培養土のなかには元肥入りの製品があります。これらは自分で元肥を与える必要がないので便利です。培養土は、できるだけ清潔で新しいものを使ってください。過去に別の草花を育てたときの土を使い回すと、病原菌が潜んでいることがあるからです。これはガーベラ栽培に限らず、どの植物においても同じことがいえます。
用土を自分でブレンドして使う場合は、赤玉土(小)と腐葉土、パーライトを、6:3:1の割合で混ぜたものが理想的。あらかじめ、緩効性肥料と苦土石灰を土に混ぜてからガーベラを植えつけ、その後、春または秋の開花時期に追肥を行います。
地植えの場合も、苦土石灰で弱酸性の土を中和させ、パーライトなどを混ぜて水はけをよくします。ガーベラは多湿に弱く、常に土が湿っている状態だと根腐れしやすいのが弱点。
鉢植えも地植えも、水はけのよさが求められます。
ガーベラの、植え替えの時期と頻度
ガーベラの根はとてもよく伸びます。そのため、鉢や市販の苗用ポットでしばらく育てると、土中が根でいっぱいになる、根詰まり現象を起こして、成長が妨げられます。また、用土の劣化も、生育悪化の一因に。毎年3月中旬~4月、または9月中旬~10月中旬の花が咲いていない時期に、植え替えをしましょう。
植え替えをするときは、抜いた株の周りについている土を落としてから、ひと回り大きな鉢に移して植えます。このとき、太い根はなるべく傷めないように注意します。植える際は深さに気をつけ、地際にある芽が土に埋まらないように行ってください。
なお、最初から地植えで育てている場合は、株分け以外で植え替える必要はありません。
土のほか、植え替え時に準備したいもの
ここでは、ガーベラを植え替えるときに必要なものをまとめました。事前に以下のものを用意しておきましょう。
準備するもの(鉢植え)
・適した土(前述のとおり)
・植え替えするガーベラの苗
・ひと回り大きなサイズの深鉢、または深鉢タイプのプランター
・鉢底ネット
・鉢底石
・ラベル
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
深鉢タイプのプランターに複数並べて植える場合は、苗と苗の間を30㎝程度はあけるのがポイント。幅60㎝のプランターなら、ふた株ほどを目安に植えます。また、ガーベラは日なたを好むので、植え替え先の地や鉢の置き場所は日当たりのよいところを選んでください。
ガーベラの植え替え方法が知りたい
必要なものを準備したら、実際に植え替えしてみましょう。手順は以下のとおりです。
鉢植えの場合の手順
①植え替え先の鉢(またはプランター)に鉢底ネットを入れ、鉢底石を敷き、培養土を鉢の高さ1/3ほどまで入れます。
②鉢(またはプランター)からガーベラを、なるべく根を傷つけないように引き抜きます。
③植え替え先の鉢(またはプランター)の中心に苗を置き、その周りを埋めるように培養土を隙間なく入れます。プランターに植える場合は、30㎝程度の間隔で複数株を植えましょう。
④ラベルに品種名や定植日を記入して挿します。鉢底から出るまでたっぷりと水を与えて、日当たりのよい場所に設置します。
地植えの場合の手順
①花壇に元肥を施し、ガーベラを植える場所をやや高めに土を盛ってから穴を掘ります。
②各穴にガーベラをひと株ずつ植えます。少し盛り上がっている状態で植えると、水はけがよくなります。複数植えるときは、プランターと同様に、30㎝ほどの間隔で植えてください。
③ラベルに品種名や定植日を記入して挿します。たっぷりと水を与えておきましょう。
植え替えのコツは、根を傷つけないことです。鉢やポットからガーベラを引き抜くときは、ポットの土(根鉢)を触らずそのまま植えましょう。
植え替えをするときの注意点はこちらです
ガーベラの植え替えで、特に注意したいことは2点あります。ひとつは、根を傷つけないこと。前述のとおり、根鉢には触らず、そのまま植えてください。ただし、黒ずんで腐っている根があれば、切りとってしまって構いません。もうひとつは、植え替え先の土をよい状態にしておくこと。鉢植えの場合、培養土はできるだけ清潔で新しいものを使います。また、鉢植えも地植えも、肥料を施した栄養たっぷりの用土を用意しましょう。
“よい土”で育て、適切な植え替えを行えば、ガーベラはきっと美しい花を咲かせてくれるはずです。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
新着記事
-
ガーデン&ショップ
バラ咲くシーズンも間近! 特別な時間を過ごせるバラ園「横浜イングリッシュガーデン」 ロ…PR
バラ咲く季節はもうすぐです! 希少なアンティークローズから最新品種まで2,200品種、2,800株のバラをコレクションする「横浜イングリッシュガーデン」では、バラの開花に先駆けて「ローズ・フェスティバル2025」(…
-
ガーデン
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園【花盛りの4月】
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台にスタートし、春の花が次々と咲き始めています。…
-
イベント・ニュース
【5月の連休は横浜へ!】日本最大級の園芸イベント「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2025」に出かけ…
日本最大級として大盛況の園芸イベント「横浜フラワー&ガーデンフェスティバル2025」が今年も5月3日(土)〜5日(月)の3日間、開催決定! 場所は、2027年国際園芸博覧会の開催を控える横浜市。多彩なコンテ…