春から夏にかけて白く小さい花を咲かせるカモミールは、そのやさしい香りに鎮静効果があるとされています。ハーブティーとして飲用することも多いカモミールを安心に育てるための肥料の与え方とその注意点をNHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
カモミールを育てる前に知っておきたいこと
カモミールと呼ばれる植物はいくつかありますが、その中でも代表的なものがジャーマン・カモミールとローマン・カモミールです。見た目も育て方も似ていますが、ジャーマン・カモミールが一年草なのに対し、ローマン・カモミールは多年草です。日本では一般に、ジャーマン・カモミールをカモミールと呼んでいることが多いようです。
ジャーマン・カモミール
上に伸びる直立性の一年草で、よく枝分かれしながら60cmほどの高さまで育ちます。葉には香りがなく、花の部分をハーブティーとして用いるのが一般的です。春と秋に種をまくことができ、3〜6月に開花、収穫をすることができます。黄色の中心部が盛り上がってきた時が収穫期です。白い花弁が反り返って下向きになる前に収穫するとよいでしょう。開花期が長く初心者でも育てやすい花です。
ローマン・カモミール
ジャーマン・カモミールよりもやや大きめの花で、葉や茎にも香りがあります。枝分かれはあまりせず、茎の先に花をひとつだけつけるのも、ジャーマン・カモミールと見分ける特徴です。横に広がりながら成長し、花が開いてもジャーマン・カモミールほどは中心部が盛り上がりません。じょうぶで育てやすく、一緒に植え付けた植物を健康にするコンパニオンプランツとしても知られています。お茶にすると、ジャーマン・カモミールよりも苦味があります。
カモミールの基本データ
学名:Matricaria recutita(ジャーマン・カモミール)/Chamaemelum nobile(ローマン・カモミール)
科名:キク科
属名:シカギク属(ジャーマン・カモミール)/ローマカミツレ属(ローマン・カモミール)
原産地:ヨーロッパ、中央アジア、中国東部モンゴル、朝鮮半島(ジャーマン・カモミール)西ヨーロッパ、北アフリカ(ローマン・カモミール)
和名: カミツレ
英名:German chamomile(ジャーマン・カモミール)/Roman chamomile(ローマン・カモミール)
開花期:3〜6月(ジャーマン・カモミール)/5〜6月(ローマン・カモミール)
花色:白
発芽適温:15〜20℃
花もち:基本的には1日で、2〜3日もつものもある。
カモミールは風通しが良く乾き気味の環境を好み、鉢植えでも地植えでも育てることができます。地植えにすると自然に種が落ちて、そこから生える「こぼれ種」で増えていくので、群れをなして美しい白い花を咲かせるのを見ることもできます。
苗や種は、ホームセンター、園芸店、街のフラワーショップなどで市販されています。キッチンハーブとして人気があり丈夫で育てやすいため、ハーブの育成キットとして雑貨店などで購入できることもよくあります。苗はすぐに楽しめるメリットがありますが、種から育てるのもさほど難しくありませんので挑戦してみるのも良いでしょう。
ポプリや入浴剤などで香りを楽しむほか、ハーブティーとして飲むと、少しりんごに似た甘くやさしい味がして、不安、ストレス、炎症、鎮静、胃弱などに効果があります。ただし、妊娠中の人やキク科の植物にアレルギーのある人は使用や飲用を避けましょう。
カモミールには栄養を補うための肥料が必要です
植物は光を浴び光合成を繰り返して、養分やエネルギーとなる物質を生み出し生育します。光合成は、植物の葉(葉緑素)に光が当たることで行われますが、その際に必要なのが水です。光合成により水が分解されて養分やエネルギーが作られます。ですから植物には、光合成を行うための光と水が必要ということです。
しかし、家庭で育てられている植物は、光と水だけでは栄養が不足することがあります。用土や置き場所など、人間が植物のために用意する環境は、植物が自力で生きていける原生地の生育環境と同じにすることが難しいです。そのため、栄養補給にも人間の力が必要です。水と光が植物にとって必要最小限の食事とするならば、肥料はより元気にするため栄養補助食品といえます。特に鉢植えの場合は、水やりのたびに土の中の栄養成分が流れ出てしまいますので、長期間肥料を与えないでいると生育にも影響が出てきます。
カモミールは一般的な植物と比べると、肥料が少なめでも育ちますが、たくさんの花を咲かせるためには適度な肥料が必要です。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料にはどういうものがあるか
植物に与える肥料には液体と固形がありますが、肥料の成分、効き方でもそれぞれの種類があります。成分の違いでは有機質肥料と無機質肥料があります。有機質肥料が動物や植物など自然のものから作った肥料であるのに対し、無機質肥料は化学的に作られたものです。効き方の違いでは、効き目がゆっくりとあらわれ持続効果の長い緩効性肥料・遅効性肥料と、効き目は早いけれど持続時間の短い速効性肥料とがあります。それぞれの肥料をもう少しくわしく説明していきましょう。
有機質肥料
動植物由来のもので、動物のふんや骨粉、油かす、落ち葉や生ごみの堆肥などがあります。土の中の微生物が肥料を分解し、それが植物の根に吸収されていくため、肥料の効果が出るまでに時間がかかります。においを伴うものも多いため、庭で使うのが良いでしょう。
無機質肥料
鉱物などを原料として化学的に合成した肥料で、化成肥料ともいいます。化成肥料はにおいなどもほとんどなく初心者でも扱いやすいですが、多くやりすぎると植物にダメージを与えることがあります。容量や使用方法に注意が必要です。
緩効性肥料
遅効性肥料とも呼ばれます。肥料成分がゆっくりと溶け出し、数か月から一年以上にわたって効果が持続します。固形肥料が一般的で、庭に植え付けるときの元肥(もとごえ)や、鉢植えでの置き肥(おきごえ)などに使われます。有機質肥料の多くは緩効性・遅効性の肥料です。
速効性肥料
肥料成分がすぐに溶け出しますが、持続期間が短いのが特徴です。植物の開花期や最盛期など特定の時期に追肥(ついひ)として使われるのが一般的です。速効性肥料は液体肥料が多く、原液のまま使うものと薄めて使うものがあります。使用方法に沿って使うことが重要です。
カモミールの鉢植えの場合は、緩効性肥料を元肥として混ぜてください。庭への植えつけの場合、2~3週間前に有機質肥料を入れておきます。年に1〜2回、規定濃度の半分に薄めた液体の速効性肥料を与えるのが基本です。
肥料の三大要素について
植物を育てるためにはさまざまな養分が必要ですが、なかでも欠かすことのできない三大要素は、「窒素(N)」「リン酸(P)」「カリ(K)」です。肥料のラベルには、略号で三大栄養の配合割合が表示されています。たとえば、N-P-K=6-10-5と書かれていれば、窒素6%、リン酸10%、カリ5%がその肥料に含まれていることを表しています。
窒素(N)
窒素は細胞の元となるタンパク質を作り、葉や茎を育て光合成をするのに欠かせない葉緑素を作る助けもします。窒素が足りなくなると、色が薄くなったり元気がなくなったり、与えすぎると葉だけが茂りすぎたり、茎が細くひょろりと伸びる徒長がおきます。
リン酸(P)
リン酸は植物に元気を与え、苗や根の成長を促し、花や実や種がよくできるように働きます。リン酸が不足すると、根が十分育たず生育が鈍くなり、下葉や茎の色が暗くなって落ちる葉が多くなります。
カリ(K)
カリはカリウムのことで、葉緑素の生育、特に根の発育を促し、茎や葉を元気にします。また植物の体内で水分がうまく行き渡るのを助け、浸透圧を調整します。カリウムが足りなくなると、茎が弱くなり、下葉が痛みやすくなります。逆に与えすぎるとカルシウムなどが不足することがあります。
カモミールは花つきをよくするために、リン酸分の多い肥料を与えると良いでしょう。
三大栄要素以外にも植物に必要な栄養
三大栄要素は植物にとってなくてはならない必須の養分ですが、それ以外にも「多量必須要素」というものがあり、炭素、水素、酸素、マグネシウム、硫黄などがあげられます。またごく微量でも必要となる「微量必須元素」と呼ばれるものには、モリブデン、銅、亜鉛、マンガン、鉄、ホウ素、塩素などがあります。
たとえば、マンガンは、光合成を促進するのに重要で、これが欠乏すると葉脈間が黄化します。ホウ素は、細胞の分裂や花粉の受精やほかの成分の吸収を助け、これが足りなくなると葉や茎が硬くなってしまいます。鉄は葉緑素を作るのを助けますが、これが欠乏すると新芽が小ぶりになったり、葉が弱々しくなったりします。
有機物を多く含む土には微量要素が入っていますが、酸度が高い土や何度か植物を植えて疲弊した土は微量要素が足りなくなっていることがあります。
カモミールへの肥料の与え方が知りたい
実際に、カモミールを育てる過程での肥料の与え方を見てみましょう。肥料の与え方には、植物を庭に植えつける時や鉢の植え替え時に与える「元肥(もとごえ)」と、栽培中に与える「追肥(ついひ)」があります。
元肥の肥料には、効き目がゆっくりで効果が長続きする穏効性肥料や遅効性肥料を用います。鉢植えで使う市販の培養土には、最初から肥料分が含まれているものもありますので、その場合元肥は必要ありません。自分でブレンドした土の場合は、必要に応じて元肥を加えましょう。追肥に使うのは効き目の速くでる速効性肥料が求められます。水やりの時に一緒に施せる液体肥料が便利です。
カモミールは、植え付けや植え替えの際に、用土に規定量の緩効性肥料を混ぜ込んで元肥を施します。追肥は少なめで、ジャーマン・カモミールはソメイヨシノが咲く頃にリン酸分の多い緩効性化成肥料を施します。ローマン・カモミールは、花の収穫や刈り込みのあと、本格的な夏が来る前に、規定濃度の半分に薄めた速効性の液体肥料を水やりと一緒に与えます。
カモミールに肥料を与えるときの注意点は?
カモミールは肥料が控えめでも育つので、肥料のやりすぎはNGです。肥料をやりすぎてしまうと、過剰な肥料のせいで根の機能が弱まり、栄養を吸収できない「肥料やけ」の原因になります。肥料やけで栄養が吸収できなければ、そのまま枯れてしまいます。葉の色が黒っぽくなってきたり、全体がしおれたようになってきたりしたら、肥料やけの可能性があります。心配なら1年くらいは肥料なしでも育ちますので、与えすぎるよりは控えめのほうが安心です。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・ブライズヘッド
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