細い花びらが反り返ってうねる、燃えあがる炎のような花形のグロリオサ。鮮やかな色、躍動感のある花姿は庭のアクセントとして最適です。1本に数輪ずつ花がつき、つぼみが全部咲く花つきのよさも魅力。明治末期に渡来し、以降、切り花としても変わらぬ人気があります。そんなグロリオサの育て方について、日々のお手入れから寄せ植えまで、さまざまな角度から紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにグロリオサ栽培のコツをお聞きしました。
目次
グロリオサを育てる前に知っておきたいこと
グロリオサは、半蔓性の球根植物です。鉢植え、地植え、どちらにも向いていて、巻きひげ状になった葉先が他のものに絡んで伸びていきます。蔓が伸びてきたら、鉢植えの場合はアサガオなどによく使われる円筒形の器具に、地植えの場合は支柱やフェンスなどに誘引する必要があります。
グロリオサの基本データ
学名:Gloriosa
科名:イヌサフラン科
属名:グロリオサ属(キツネユリ属)
原産地:熱帯アジア、アフリカ
和名:狐百合(キツネユリ)、百合車(ユリグルマ)
英名:Gloriosa lily、Glory lily
開花期:6~9月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、紫、複色
発芽適温:20~30℃
生育適温:20~30℃
切り花の出回り時期:オールシーズン
花もち:7~10日
グロリオサを育てるのは、それほど難しくはありません。熱帯原産のため高温を好む植物なので、植えつけは少し暖かくなってから、4月下旬~5月下旬が適期です。植えてから約2か月で花が楽しめます。
種類を知ると、選び方がわかります
グロリオサ属は規模の小さな属で、アフリカから熱帯アジアにかけて、スペルバなど10種類ほどの原種が知られています。それらを改良した主な園芸品種には、下記があります。
ロスチャイルディアナ
もっともよく出回る品種です。クリムゾンレッドの花びらの縁に黄色が入る大輪。花びらの根元は緑色を帯びています。多くの品種の親になりました。
カルソニー
花びらが紫色で、中心に黄色が入ります。
シンプレクス
花色が緑がかった状態から黄色、赤へと変わっていく小輪です。
スペルバ・ルテア
スペルバの園芸品種。花びらの縁が強く波打ち、レモンイエローの花を咲かせます。グロリオサの中では背が高く、2m近くまで伸びることも。
ローズ・クイーン
濃いピンクの花びらに濃い黄色が入ります。縁がわずかに波打ちます。
ピンク・ウィング
白い花びらの中心に、かすれたようにピンクが入ります。
グロリオサを育てるときに必要な準備は?
グロリオサは鉢植えでも、花壇などへの地植えでも育てることができます。育てるときは以下のものを準備しましょう。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・グロリオサの球根
・土
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
・ラベル
・円筒型の誘引器具、または支柱など
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・鉢、またはプランター(深さのあるもの)
・鉢底ネット
・鉢底石
熱帯原産のグロリオサは日なたを好みます。鉢の置き場所や植え場所を考慮しておきましょう。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
グロリオサは水はけがよく、通気性に富み、肥料もちのいい土を好みます。基本的には市販の草花用培養土を用いれば大丈夫です。自分で土をブレンドして作る場合には、赤玉土5、腐葉土3、調整ピートモス1、パーライト1の割合で混ぜるとよいでしょう。
地植えの場合には、日当たりと水はけのよい場所を選びます。隙間が多く、水はけ、水もちともに「よい土」を作るために、あらかじめ堆肥や腐葉土などの有機物をすき込んで、30㎝ほどの深さまで耕しておきます。特に水はけが悪いときは、川砂やパーライトなどを加えてみましょう。
日本は酸性の土壌が多いので、草花の好む弱酸性に中和するため、球根を植える2週間前に苦土石灰をまくのもいい方法です。ただし、必ずpH試験紙で土壌のpHを調べてから行ってください。グロリオサの好きな酸度は、pH5.5~6.0ぐらいの弱酸性です。
グロリオサの育て方にはポイントがあります
グロリオサは、球根を購入して育てるのが一般的です。種から育てることも可能ですが、時間がかかるので、あまりおすすめできません。日当たりと風通しのよい場所で育てましょう。
真夏の直射日光があたると葉が傷むので、鉢植えにする場合、梅雨明けから秋の彼岸くらいまでは、直接日差しが当たらない半日陰へ移動させます。彼岸以降はまた日なたに戻し、葉が黄色くなる10月頃までそのまま置きます。
葉が黄色く枯れてきたら、地植えの場合は球根を掘り上げ、10℃以上を保ちながら春まで保存します。
グロリオサの育て方~球根から始める~
球根の選び方
グロリオサの球根は先端に芽がひとつしかありません。これを傷つけてしまうと発芽しないので、購入するときには、できればひとつずつ手に取って、ちゃんと芽がついているかどうかを確認してください。細長い球根の、少し尖った側に芽がつきます。全体的には、花が咲くまでの養分をしっかりと蓄えた、大きくてまるまると太ったものを選びます。多少の傷や変形は問題ありませんが、カビがついているものや力を入れて持つとへこむようなスカスカするものは避けましょう。
植えつけ時期と方法
グロリオサは高温を好む植物なので、4月下旬~5月下旬が植えつけの適期です。なかには秋咲きの品種があり、その場合は8月上旬が植えつけの適期になります。
グロリオサの発芽には、十分な温度が必要です。発芽していない球根を植えると、育たないことがあるため、植えつけをする前に「芽だし」という作業をしておくといいでしょう。そのまま植えた場合、気温の上昇とともに発芽しますが、1か月ほどかかることがあります。
早く植えたいときや確実に発芽させたいときは、湿らせたパーライトに球根を埋めてビニールで覆い、日なたに置いて25~30℃で保温してください。これが、「芽だし」です。その際、水やりは不要です。芽が1㎝ほど伸びたら植えつけをします。
鉢植えの場合の手順
①球根は地下に伸びて肥大するので、なるべく深さのある鉢を用意します。鉢に鉢底ネットを敷いて、水はけをよくするために鉢底石を入れます。その上に、鉢の高さの2/3くらいまで(球根の高さ+ウォータースペース分)培養土を入れます。
②芽を傷つけないように注意しながら、球根を斜め横向きに培養土に差し込みます。
③芽の部分が5㎝ほど土に覆われるように、培養土をかぶせます。このとき、大輪種は6号鉢に1球、小~中輪種は4~5号鉢に1球植えが目安です。大きな鉢やプランターに複数の球根を植えるときは、しっかりと間隔をあけてください。
地植えの場合の手順
①苦土石灰や堆肥を入れて土作りを行います。深さは30㎝程度まで、掘り上げましょう。土作りから2週間ほど経過してから、球根の植え込みを行います。
②球根を植える穴を掘ります。グロリオサの球根は横向きにして浅植えするので、5㎝程度でかまいません。
③横にした球根を穴に置き、芽の位置が表土から5㎝ほどの深さになるよう土をかけます。植えつけ間隔は、30㎝が目安です。
地植えの場合には、上部の葉がなくなったときに、誤って掘り起こして球根を傷つけないように、また、どこに植えたのかわかるように、ラベルを立てるとよいでしょう。
植えたあとは、鉢植えの場合は鉢底から水が流れ出るくらい、地植えの場合はたっぷりと水やりを行います。芽が出ていない球根を植えた場合は、その後は10日くらい水を与えないようにしてください。この間、グロリオサの球根は徐々に水分を吸収し、新しい芽と根を伸ばします。土の表面に芽が出るまでは、水やりは控えめにしましょう。
グロリオサと仲よくなる日々のお手入れ
水やりのタイミング
鉢植えの場合は、土の表面が乾いて白っぽくなってきたら、鉢底の穴から水が流れ出るくらいたっぷりと水やりをします。グロリオサは水分を多めに必要とする植物です。水が切れると葉先が枯れたようになるので、夏の時期に水を切らさないように注意してください。春~秋は生長期なので水をよく吸いますが、秋に葉が枯れ始めたら、徐々に水やりを停止して乾かします。
地植えの場合は、根がしっかりと張るまでは、土の表面が乾いたらたっぷりと水をやります。根が張ったら、極端に暑い日が続いたとき以外、ほとんど水やり不要です。
肥料の施し方
芽が出ている球根を植えつけた場合には、植えつけ時に暖効性化成肥料を施します。鉢植えの場合は土の表面にばらまきます。地植えの場合は土に混ぜて施すか、発芽点の近くに半分埋めるようにするといいでしょう。芽が出ていない球根の場合は、芽が出てから肥料を与えてください。
グロリオサは、肥料を多めに必要とします。生育中に肥料が不足すると、花も球根も育ちが悪くなるので、草丈が伸びてきたら2週間に1回くらい速効性の液体肥料を与えます。最初に施した緩効性化成肥料は、45~60日程度で効果が切れるので、球根の生育が悪くならないよう、花が終わっても9月いっぱいくらいまでは追肥を与え、肥料を切らさないようにします。
蔓の誘引
グロリオサは半蔓性植物です。葉の先端にある巻きひげで、周囲のものにつかまって伸びていく性質があります。このため、蔓が伸び始めたらフェンスや支柱へ誘引してください。下の方の葉には巻きひげがありませんが、やがて先端に巻きひげがつく葉ができるようになり、物に絡みつぃていきます。さらに茎が伸びると枝が3本くらいに枝分かれするので、分かれた枝が絡み合わないように、つぼみが出る前に広げて誘引しましょう。
鉢植えの場合は、円筒型の誘引器具を使って、アサガオのような行灯(アンドン)作りにすると、低い位置で花を咲かせることができます。蔓が15㎝くらいに伸びたら、折らないように気をつけながら、器具の支柱に蔓をぐるぐると巻きつけます。最初のうちは、紐で蔓を軽く支柱に結びつけておくといいでしょう。蔓が少しずつ上に伸びて行くような感じで、らせん状に誘引すると、花が多く咲きます。
地植えの場合は、多量の球根を植えたらネットを張り、数個なら支柱を立てて、それに巻きつくように誘引するといいでしょう。庭の塀としてフェンスなどがあれば、それを利用しても構いません。蔓は時間がたつと硬くなって曲がらなくなるので、こまめに誘引してください。
花が終わったら…
7~9月の開花中、花がらをそのままにしておくと種ができ、球根に養分が蓄えられなくなってしまいます。咲き終わった花は、きちんと摘み取りましょう。ただし、葉や茎は枯れるまで残します。こうすると、葉や茎で作られた養分が球根に蓄えられ、球根を大きく太らせることができるのです。
立派に育てるための、植え替え時期と方法
2~3年に1回、4月下旬~5月下旬に行います。古い土を落として、植えつけと同じ要領で新しい用土に植えつけます。根を傷めないよう、慎重に扱いましょう。
知りたい!グロリオサの増やし方
分球の時期と方法
グロリオサの球根はなかなか増えません。球根を掘り上げてみて、V字状になってふたつに分かれていたら、分球という方法で増やします。手順は下記のとおりです。
①葉が黄色くなる10月くらいに行うのがいいでしょう。鉢植えは鉢を押さえながら、株を抜きます。地植えの場合は、丁寧に球根を掘り上げます。
②掘り上げた球根がV字状にふたつにわかれていたら、子球ができているということなので、分球が可能です。子球が小さすぎるときは、分球をせずに翌年また植えつけをして、さらに球根を太らせます。固まった土を落とした球根を、風通しのよい日陰で、10℃以下にならない場所に置き、2~3日乾燥させます。
③球根に枯れた葉や茎がついていれば取り除き、箱などに入れます。おがくずやバーミキュライトを詰めて、温度が10℃以上あるところで春まで保存します。このとき、球根はV字状になっていますが、切り分けずにそのまま保管してください。
④ 4~5月になったら、植えつけ前にV字になった球根を分岐部分で切り分けます。このとき、切り口を数日よく乾かしてください。切り口が乾いていないと、そこから雑菌が入って球根が腐ってしまうことがあります。
⑤分けた球根をそれぞれ、鉢や庭に植えつけます。
球根の掘り上げ
繁殖をするかどうかに関わらず、地植えのグロリオサは、秋になったら球根を掘り上げて春まで貯蔵しておきましょう。夜の気温が5~6℃になると、葉が枯れて休眠期に入ります。晴天が3日くらい続いて土が乾いているときを選び、球根の掘り上げを行います。
掘り上げた球根は日陰の10℃以下にならない場所で2~3日乾燥させ、球根内の余分な水分を減らします。あとは上記③~④のようにして保存し、翌年植えつけましょう。球根を保存している間は、1か月に1回くらい状態をチェックして、カビなどがついていないか確認してください。
暖地では、球根の上を敷き藁や腐葉土(枯れ葉)などで覆ったりすれば、掘り上げずに越冬させることができます。
鉢植えの場合は、繁殖をしないなら、球根の堀り上げを行わず、冬期は鉢ごと10℃以上ある暖かい場所に置いておけば大丈夫です。必要なら、春になってから植え替えを行います。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
ウイルス病
花や葉にモザイク状の色の濃淡が現れます。ウイルス病はいちどかかると治らないので、症状の出た株は廃棄してください。アブラムシに汁を吸われる際や、ハサミなどの器具によっても伝染します。アブラムシの発生に注意し、器具は塩素や熱湯で消毒してから使いましょう。
育てるときに注意したい害虫
アブラムシ、ハダニ
5~11月は、新芽にアブラムシやハダニが発生しやすくなります。植物の養分を吸い取るので株が弱るのはもちろん、アブラムシはウイルス病を媒介するので、早めに駆除しましょう。
グロリオサと相性のよい寄せ植えの植物
花が非常に個性的なグロリオサは、寄せ植えにすることはあまりありません。ほかの花とバランスを取るのが難しいので、足元にドラセナやプテリスなどの南国風グリーンを配するのがおすすめです。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・高梨奈々
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