長くて太い茎の先に、ユリによく似た大きめの花を複数つけるアマリリス。その華やかな佇まいから人気の高い球根植物です。豪華な大輪や八重咲きの花が多く出回りますが、花びらが細くて繊細なタイプや愛らしい小輪も見かけるようになりました。花色も、スタンダードな赤や白だけでなく、渋い茶色やカラフルな複色も揃っています。そんなアマリリスを増やす方法と、そのときのコツを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
アマリリスを育てる前に知っておきたいこと
アマリリスは、おもに春植えされる球根植物で多年草です。園芸上アマリリスと呼ばれている植物は、実際にはヒッペアストラム属の植物です。かつてアマリリス属に分類されていたために、今でもこう総称されています。本来のアマリリスともいうべきアマリリス属は、南アフリカ原産のアマリリス・ベラドンナなど2種しかありません。
アマリリスの基本データ
学名:Hippeastrum× hybridum
科名:ヒガンバナ科
属名:ヒッペアストラム属
原産地:中央アメリカ、南アメリカ
和名:ジャガタラズイセン
英名:Amaryllis、Barbados lily
開花期:4~7月
花色:赤、オレンジ、ピンク、黄色、白、紫、緑、茶色、複色
生育適温:15~23度
切り花の出回り時期:通年
花もち:7~10日
アマリリスを育てるのはそれほど難しくはありません。球根が多く出回るのは2~3月で、植えてから約2か月で花が楽しめるようになります。春咲き、真夏咲き、秋咲きの品種もあり、秋に鉢植えの株が出回ることもあります。地植えもできますが、温度管理が簡単な鉢植えで育てるのがおすすめです。熱帯原産の植物でやや寒さに弱いため、地植えはある程度気温が上がってからするほうがいいでしょう。各地で桜の花が散り、葉が出る頃が適期とされます。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
アマリリスの増やし方について述べる前に、植物はどうやって増やすのか、その一般的な方法について知っておきましょう。
植物の増やし方は、大きく分けて「種子繁殖」と「栄養繁殖」とに大別できます。
「種子繁殖」とは、その名のとおり種による繁殖方法です。一度にたくさん花を咲かせたい場合に向いていて、芽吹きのような生育初期ならではの感動を味わえる楽しみもあります。
「栄養繁殖」には、以下のようないろいろな方法があります。
挿し木
葉、茎、根など植物の一部を切り取って、用土や水に挿す方法です。やがて切り口から根が伸びてきて、新しい苗になります。成熟した植物を使うので生長が早く、親株のいわばクローンのようなものなので、親と同じ色形に育つというメリットがあります。イネ科やヤシ科の一部をのぞき、多くの植物に使える方法です。
取り木
親となる植物の一部に傷をつけて、枝の途中から発根させ、親株から切り離して増やす方法です。挿し木同様、親の形質を受け継ぐことができるうえ、挿し木でうまくいかない植物でも増やすことができます。初心者でも失敗の少ない方法なので、観葉植物や樹木などで多く用いられます。
株分け
親となる植物を根とともに分けて、複数の株を作る方法です。いちどに得られる株数は少ないのですが、生育が悪くなった大株や老化した株を更新させる効果があります。
接ぎ木
増やしたい植物の一部を、根が張っている土台の木、「台木」に接合して生育させる方法です。病害に強い丈夫な植物に育てるために、バラのほか果菜類にもよく用いられます。同じ属や科に含まれるような、互いに親和性のある近縁の植物を使うのが基本です。
分球
球根植物を増やす方法です。球根は植えたままにしておくと地中で分かれて増えていきます。ただし、そのままでは花が咲きにくくなるので、球根を掘り上げ、親球から子球をわけて植え替えます。
このほかに、ムカゴや木子(きご)といった形で増える植物もあります。また、家庭で行なうことはまずありませんが、「組織培養」という手法で人為的に増やす方法もあります。
球根は形態によって、5つに分類されます
アマリリスは、球根植物に分類されます。そこで、球根について、詳しく見てみましょう。球根は、茎や葉、根の一部などが肥大化して、内部に養分を蓄えたものです。肥大化する部分によって、次の5つに分類されます。
葉が変化したもの
鱗茎(りんけい)
短縮化した茎の周囲に、養分を蓄えて厚くなった鱗片葉が、層状に重なって球形になったもの。鱗茎は、さらに下記のふたつに分けられます。
「有皮鱗茎(層状鱗茎)」
鱗茎のうち、薄皮に包まれているもの。⇒アマリリス、チューリップ、ヒヤシンス、タマネギなど
「無皮鱗茎(鱗状鱗茎)」
鱗茎のうち、薄皮のないもの。⇒ユリ、フリチラリアなど
茎が変化したもの
球茎(きゅうけい)
地下茎の一種で、茎が養分を蓄えて球形に肥大化したもの。薄皮に包まれています。⇒グラジオラス、クロッカス、クワイ、サトイモなど
塊茎(かいけい)
地下茎の一種で、茎が養分を蓄えて肥大化し、塊状になったもの。薄皮はありません。⇒アネモネ、カラー、シクラメン、ジャガイモ、球根ベゴニアなど
根茎(こんけい)
横に這った地下茎が肥大化し、節から芽や根を出すもの。⇒タケ、ハス、フキカンナ、スズラン、ジャーマンアイリス、ハスなど
根が変化したもの
塊根(かいこん)
根が養分を蓄えて肥大化したもの。⇒ダリア、ラナンキュラス、サツマイモなど
アマリリスを増やす、最適な方法と時期
前項で述べたように、アマリリスは球根のなかでも、「有皮鱗茎」に分類されます。
アマリリスは種から増やすことも可能なのですが、時間と手間がかかるため、家庭で行うことはまずありません。球根から増やすのが一般的です。とはいえ、アマリリスの球根はなかなか増えないもの。人為的に球根をナイフで切り分けて土に挿す「鱗片さし」という方法もありますが、初心者には難しいので避けたほうがいいでしょう。気長に待って大きな株に育てると、親球が自然にわかれて子球ができることがあるので、これを分けて増やすのがおすすめです。この方法を「分球」と言います。
分球の適期
アマリリスの分球は、茎や葉が枯れた10月~11月の晴れた日が適しています。
知りたい! アマリリスの増やし方「分球」
アマリリスを増やすには、まず球根を肥大化させる必要があります。そのため、花が咲き終わったら、花がらとタネが出来る部分を切り取り、花茎や葉は枯れるまで残します。こうすると、葉や花茎で作られた養分が球根に蓄えられ、球根を大きく太らせることができるのです。その後、葉が枯れたら、その葉は取り除いてかまいません。
準備するもの
・シャベル(地植えの場合)
・ナイフ
・新しい鉢や用土(鉢植えの場合)
・段ボール(保存する場合)
・ピートモスやおがくず(保存する場合)
地植えの場合、球根を傷めないよう大きく穴を掘るため、シャベルは穴掘り用のものを使うほうがよいでしょう。
分球の手順
①鉢植えの場合、鉢を押さえながら、鉢から株を抜きます。地植えの場合は、アマリリスの周りの土を広めにシャベルで掘り起こします。どちらの場合も、球根を傷つけないように十分注意してください。
②固まった土を落としながら、丁寧に根をほぐしていきます。
③親球から子球をわけます。堅くて割れないときはハサミやナイフなどを間に差し込んでください。
④わけた球根を鉢植えにするの場合は、すぐにそれぞれを鉢に植えつけます。地植えの場合は、春まで待って植えつけるために、球根を保存します。
⑤保存する球根の周りの土を落とし、風通しのよい半日陰で乾燥させます。
⑥しっかり乾いたら、茎や葉や根を取り除き、球根だけの状態にします。
球根を保存する場合、掘り上げた球根についている茎や葉は、すぐに取り除くこともできますが、乾いてからのほうが取りやすく、球根を傷めることもないでしょう。
球根の保存方法
ピートモスやおがくずを詰めた容器に入れ、10℃以上の室内に置いて春まで保存しておきます。1か月に1回は球根の様子をチェックして、カビなどがついていないか確認してください。どれがどの品種かわからなくならないように、品種ごとに分けて保存するか、名札をつけておくといいでしょう。
コツと注意点
前述したように、アマリリスを増やすには、まず子球を肥大させる必要があります。ヒガンバナが咲き終わるころになると葉の生長が止まりますが、このとき、葉が8枚以上あれば球根は十分に栄養を蓄えているので、翌年も花が咲くはずです。今年は小さかった球根も、再び栄養を蓄えることで太らせていくことができるので、ぜひこの機会に、前述したような花後の処理の仕方を覚えて球根を太らせましょう。
アマリリスの球根の掘り上げについて、ひとつ補足しておきます。
アマリリスは、増やすかどうかにかかわらず、かつては秋に球根を掘り上げて春まで貯蔵しておくことが多かったようです。でも、最近では鉢植えにして室内で気温が15度以下にならないように温度管理をし、そのまま越冬させることが増えています。関東以西の地域(高冷地を除く)では、地植えの場合でもアマリリスの上を敷き藁や腐葉土などで覆ったりすれば、掘り上げずに越冬させることができます。気温がマイナスになる寒冷地に地植えした場合は、10~11月になったら同様に球根を掘り上げて、春まで保存しておきましょう。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・高梨奈々
全国の花ファン・ガーデニング
ファンが集う会員制度です。
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