初夏から咲き始め、秋に最盛期を迎えるダリア。花色や花姿は多彩で、迫力に富む豪華なものから可憐なものまで種類豊富です。どれも華やかで弾むような生命力を秘めているダリアは、ガーデニング初心者にとっても育てにくい花ではありません。ただし、美しい花を咲かせるために肥料は欠かせないポイントです。そこで、ここではダリアの肥料の与え方やちょっとしたコツ、気をつけたい点などを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
ダリアを育てる前に知っておきたいこと
ダリアは、メキシコやグアテマラに自生する多年草です。古くから世界中で栽培され、品種改良が重ねられて、今までに作られた品種は3万品種を超えるといわれています。
ダリアの基本データ
学名:Dahlia
科名:キク科
属名:ダリア属
原産地:メキシコ、グアテマラ
和名: 天竺牡丹(テンジクボタン)
英名:Dahlia
開花期:5~11月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、茶、黒、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:15~25℃
切り花の出回り時期:オールシーズン
花もち:5~7日
ダリアは日当たりと風通しのよい場所を選び、その性質さえ知って育てれば、栽培は難しくありません。基本的には春植え球根植物で、地域によって異なりますが、発芽適温は20℃以上。植えつけ適期は、ソメイヨシノが開花する頃から梅雨があける前が目安です。3月下旬から7月上中旬までに植えつけましょう。寒冷地では、霜の降りなくなる頃に植えつけます。
また、一年草のように、種から育てられるミニタイプの品種(実生ダリア)が多数あります。発芽適温は20℃なので、暖かくなった4月中旬~4月下旬が種まきの適期です。
初夏から咲き始め、夏の猛暑を耐えて、秋に最花期を迎えるダリアには、苦手なものがふたつあります。ひとつは日照不足。日当たりが悪いと、花のつき具合が悪くなります。もうひとつは高温多湿。特に、30℃を超える季節の、直射日光や強い西日、コンクリートの照り返しはNGです。
鉢植えで育てる場合は、季節によって移動できるように、地植えの場合は遮光ネットやよしずを使いやすいように、栽培場所を考えて育てましょう。
ダリアには栄養を補うための肥料が必要です
メキシコやグアテマラの高地が原産地の花ならば、そんなに手をかけなくても大丈夫では?と思うかもしれません。しかし、どの植物も生きていくためには、光、水、栄養は欠かせません。
なかでもダリアをはじめ、花を咲かせる植物は開花のために栄養をたくさん使うので、栄養不足になりがちです。土耕栽培の植物は、土に含まれるさまざまな栄養素を根から吸収します。そして、土にもいろいろな種類があるため、その質も含まれている栄養素も異なります。園芸店やホームセンターに並んでいる市販の培養土も同じです。
土に植えたダリアは、私たちが食事をするのと同じように、根から必要な栄養素を吸収し続けます。土はそれらの栄養素を生産できるわけではないので、次第に栄養素に偏りが生じたり、栄養不足になったりして、ダリアの生育に影響を及ぼすことがあります。その足りない栄養素を補うのに欠かせないのが、肥料なのです。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料とひと口にいっても、さまざまな種類があります。植物の種類によって必要とする養分の種類や成分の割合が異なるため、それに合わせて多様な肥料が作られています。ダリアに必要な肥料を入手する前に、まずは肥料について知っておきましょう。
肥料は大きく分けて、有機質肥料と無機質肥料の2種類があります。
有機質肥料
油かす、骨粉、魚かす、鶏ふん、牛ふんなど動植物由来の有機質を原料とした肥料です。そのため、独特のにおいがします。土壌中の微生物によって分解されてから植物に吸収されるので、効果はゆっくりと現れます。
無機質肥料(化学肥料)
鉱物などの無機質を原料として、化学的に合成した肥料です。化学肥料、化成肥料ともいいます。におわず、初心者にも扱いやすく、効果が早く現れるのが特徴です。
肥料は、その効き方から、緩効性(かんこうせい)肥料、遅効性肥料、速効性肥料の3種類があります。
緩効性肥料
成分の溶け出すスピードが“緩やか”で、一定期間“効きめ”が持続する肥料です。
遅効性肥料
施してからしばらく時間が経って、“ゆっくり”と“効きめ”が出始める肥料です。土中の微生物が分解することで成分が溶け出すため、それまでに時間がかかるからです。有機質肥料のほとんどがこの遅効性です。
速効性肥料
与えると“速やか”に成分が吸収され、すぐに“効きめ”が現れる肥料です。そのぶん、効果がなくなるまでの時間も早く、持続性はありません。
肥料は形状も粒状、粉状などさまざまですが、大きく分けると固形と液体の2タイプがあります。
固形肥料
粒状や粉状、小石ほどの大きさのものなどで、有機質肥料と無機質肥料のどちらにもあります。土に混ぜ込んだり、上からまいたり、置いたりして使います。
液体肥料
無機質肥料の一種で、水で希釈して使う液体タイプの肥料です。液体肥料と混同しやすいものに活力剤がありますが、これはいってみれば人間にとってのサプリメントのようなもの。栄養のベースになる“食事”=肥料の代わりにはならないので、間違えないようにしましょう。
植物に必要な、肥料の三大要素
人間の成長に欠かせない栄養素と同じく、植物にも育つためにはさまざまな栄養素が必要です。なかでも特に大切なのが、「チッ素(N)」「リン酸(P)」「カリ(K)」の3つで、肥料の“三大要素”といわれています。
N:窒素(nitrogenous) 一般的に「チッ素」と呼ばれています。枝や葉の生育に欠かせない養分で、“葉肥(はごえ)”ともいわれます。
P:リン酸(phosphate) 一般的に「リン」あるいは「リン酸」と呼ばれています。花や実のつきをよくするのに欠かせない養分で、“花肥(はなごえ)、実肥(みごえ)”ともいわれます。
K:カリウム(kalium) 一般的に「カリ」と呼ばれています。根の生長を促し、茎や葉を丈夫にする働きがあり、“根肥(ねごえ)”ともいわれます。
この3つは上記の順で「N-P-K」と示され、市販されている肥料の袋には、その配合比率だけを数字で大きく「6-6-6」などと書かれたものがあります。これはチッ素(N)、リン酸(P)、カリ(K)が6%ずつ含まれた肥料であることを表しています。
N-P-K以外に必要な要素は?
三大要素が植物に欠かせない“大量要素”であるのに対し、必要量は少ないものの極端に不足すると生育に影響する養分として“中量要素”と“微量要素”があります。中量要素の代表的なものは、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg・苦土)、イオウ(S)など。微量要素の代表的なものは、亜鉛(Zn)、塩素(Cl)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ホウ素(B)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)などです。三大要素にこれらを加えた肥料がいろいろ市販されています。
こんなタイプの肥料が、ダリアにおすすめ
ダリアの細かい根は有機物の多い土を好み、横に旺盛に根張りしていきます。その根からたっぷりの養分を吸収して、鮮やかで美しい花を咲かせるのです。そのためにも適切な肥料は欠かせません。
ダリアの開花期は夏から霜の降りる頃までと長いので、肥料も速効性のものより緩効性や遅効性など持続性のあるものを選びます。
肥料を与えはじめる、時期とタイミング
肥料の与え方には、大きく分けて「元肥(もとごえ)」と「追肥(ついひ)」の2種類があります。
元肥
種まきや植えつけ時の土に混ぜ込んで与える、最初の肥料です。元肥には、緩やかで長く持続する緩効性肥料や、効果がゆっくり現れて長く続く遅効性の有機質肥料を使います。
追肥
元肥は、植物の生育とともに効果が薄れてきます。そのため、生育途中で補う肥料のことを、追肥といいます。
ダリアへの肥料の与え方が知りたい
実際に、ダリアを育てる過程での肥料の与え方を見てみましょう。
ダリアは春植え球根です。植えつけ適期は、ソメイヨシノが開花する頃から梅雨があける前が目安。3月下旬から7月上中旬までに植えつけます。鉢植えや地植えを問わず、植えつけ前には元肥として緩効性肥料(N-P-K=10-10-10)を加えて、土をよく耕しておきます。
鉢植えで市販の培養土を使用する場合は、あらかじめ、元肥が入っているものがあります。よく確認して、入っていない場合だけ、市販の速効&持続型をうたった粒状肥料を加えるようにしてください。用土1ℓ当たり5gを混ぜます。
地植えの場合は、ダリアを植えつける2~3週間前に、有機質肥料を土によく混ぜてもよいでしょう。緩効性肥料を使う場合は、植えつけの直前で構いません。入手しやすい市販の速効&持続型をうたった粒状肥料を用いると便利です。目安は、1m²当たり150gです。
追肥は、気温が高くダリアが疲れている真夏を避け、秋になり涼しくなってきてから行います。目安は、ヒガンバナの花が開花する9月中旬から10月上旬。緩効性肥料(N-P-K=10-10-10)か、速効&持続型粒状肥料を土の上にばらまいて施します。ダリアの花が本領を発揮して美しく咲く季節なので、追肥で栄養をあげましょう。
また、植えつけから1か月ほど経ち、ダリアが生長しやすい初夏(5月頃)に様子を見て、葉や茎の成長が思わしくなかったり、色が薄いなどの症状が見えたりした場合は、追肥をしてもよいでしょう。
特に、鉢植えで育てる場合は、土が少ない分、庭植えよりも肥料を必要とするので、夏を除いた花を咲かせるまでの間、薄めた液体肥料を月に1~2回ほどの頻度で与えると、花を咲かせやすくなります。
ダリアに肥料を与えるときの注意点は?
ダリアは前述のとおり、鮮やかな花を咲かせるために肥料が欠かせません。とはいっても、何事も“過ぎたるは及ばざるが如し”。肥料の施しすぎは、後述の「肥料やけ」が起こるので禁物です。
基本的には、元肥のあとにもう1回追肥を行えば大丈夫ですが、土の状態や肥料の種類によっても異なるので、ダリアの様子を見て、なんとなく茎がひょろひょろして頼りない、花や葉の発色が悪い、花つきが悪いといった症状が見られたら、追肥のタイミングです。
ダリアの細かい根は水分と栄養を求めて、横に旺盛にのびていくので、追肥は根元より離れたところに与えることも大切です。
肥料をあげすぎると「肥料やけ」が起きます
ダリアに限らず、どの植物も肥料を多く与えすぎると、土中の肥料成分の濃度が高くなって、根が傷む「肥料やけ」が起こる可能性があります。肥料やけになってしまうと、場合によっては枯れてしまうことも。そんなトラブルが起こらないように、肥料を与えるときは、袋に記載されている説明書を確認し、使用量の目安と使い方(土に混ぜる、水で希釈するなど)を守りましょう。
鉢植えも地植えも追肥の頻度に、特に決まりはありません。日々、ダリアをよく観察し、栄養状態を見ながら、水やりと同様に“過保護”にならないよう注意して行いましょう。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・岸田直子
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