春を告げる花として知られるスノードロップは、比較的育てやすく、人気の高い球根植物のひとつです。寒さの中での凛とした草姿やうつむき加減に咲く白い花は、とても愛らしいですよね。可憐な花を楽しむには、育て方のコツがあります。日々のお手入れから寄せ植えまで、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
スノードロップを育てる前に知っておきたいこと
はじめに、スノードロップを育てるにあたって知っておきたい、基本的なことを見ていきましょう。
スノードロップの基本データ
学名:Galanthus
科名:ヒガンバナ科
属名:ガランサス属
原産地:東ヨーロッパ
和名:マツユキソウ(待雪草)
英名:Snowdrop
開花期:2~3月
花色:白に緑の斑点
発芽適温:10℃前後
生育適温:5℃~10℃
スノードロップという名前は、17世紀頃ヨーロッパの女性に人気だった耳飾りに由来しています。学名のガランサスとは、ギリシャ語のミルクと花を意味する言葉を合わせたもので、その名の通り乳白色の可憐な花を咲かせます。
寒さには非常に強いものの、暑さには若干弱い傾向があります。冬の間に芽を出し、早春に花を咲かせた後は初夏まで成長を続け、気温の高い夏場は休眠期に入ります。また、球根が十分な寒さに当たらないと発芽しないため、暖地では芽が出ないことが多くあります。
基本的に一度植えてしまえば数年はそのままでよく、それほど手入れの必要もないことから、初心者に育てやすい花と言えるでしょう。生花店や園芸店などで、球根や鉢植えの状態で買うことができます。
スノードロップの球根には、強い毒性を持つアルカノイドも含まれており、体内に入ると下痢や嘔吐・めまいなどの症状が出てきます。小さな子供やペットがいる場合には、十分に注意して管理しましょう。
種類を知ると、選び方がわかります
スノードロップの仲間はいくつか種類があり、原産地の東ヨーロッパからコーカサス山脈付近には、約15種類が分布しています。代表的なものには、次の2種があります。
ガランサス・ニヴァリス (G. nivalis)
スノードロップといえば、通常はこちらを指します。英名コモン・スノードロップ、マツユキソウの和名がついているのもG.ニヴァリス(G. nivalis)です。明治初期に日本に入ってきましたが、現在国内ではあまり栽培されていません。また、ニヴァリスの園芸品種には、大輪咲のアトキンシーや八重咲のフロレ・プレノなどがあります。
ガランサス・エルウェシー(G. elwesii)
日本国内でスノードロップとして栽培されているのは、こちらのエルウェシー種です。英名はジャイアント・スノードロップ、和名ではオオマツユキソウ(大待雪草)とよばれています。
G.ニヴァリス(G. nivalis)に比べて、球根が大きめです。休眠期に乾燥しても劣化しにくい特徴があり、国内で広く普及するようになりました。 国内の園芸店などでスノードロップとして販売されているのはほとんどがG.エルウェシー(G. elwesii)なので、選び方で迷うことはまずないでしょう。
スノードロップを育てるときに必要な準備は?
スノードロップを育てると決まったら、栽培に必要なものを準備しましょう。球根・種から育てられますが、球根を植えるのが簡単で一般的な方法です。鉢植えはもちろん、庭がある家庭なら地植えすることもできます。
鉢植えで必要なもの
・スノードロップの球根
・植木鉢や横長プランター
*植木鉢はテラコッタ(素焼き鉢など)をおすすめします
・鉢底ネット
・鉢底石
・土
・肥料(緩効性化成肥料・液体肥料)
・ラベル
地植えで必要なもの
・スノードロップの球根
・腐葉土
・緩効性化成肥料
・ラベル
いずれも、園芸店で簡単に手に入ります。4号鉢(直径12cm)に5球を目安に植えていきます。鉢やプランターの底には鉢底石を敷いて、水はけを良くしましょう。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
健康な株を育ててきれいな花を咲かせるコツは、その花に適した土作りをすることです。 スノードロップは基本的に育てやすい植物ですが、特に水はけのよい環境を好みます。鉢植えやプランターに植え付ける場合には、球根用や草花用・野菜用などの培養土を選びましょう。
自分で土をブレンドする場合には、小粒の赤玉土5:腐葉土3:黒曜石パーライト2に、緩効性の化成肥料を規定量より少なめに混ぜ込みます。
地植えにする場合には、スノードロップを植える場所に腐葉土を混ぜ込み、あらかじめ水はけのよい土壌を作っておきます。そこに元肥(もとごえ:植物の苗を植え付けする際や植え替えをする前に、土へ施しておく肥料のこと)として緩効性化成肥料を規定量よりも少なめに加えましょう。
スノードロップの育て方にはポイントがあります
スノードロップの育て方には、球根からと種からの2通りあります。しかし、種から育てて球根を作り、花を咲かせるのには何年もかかるため、一般的ではありません。球根を植えるのが、ベストな方法です。 管理の際は、次のポイントに注意しましょう。
・植え付けから発芽まで:半日陰の涼しい場所
・発芽から花が終わるまで:日当たりの良い場所
・花後の休眠期:半日陰から日陰の風通しの良い涼しい場所
耐寒性が非常に強いので、鉢植えの場合も発芽後は日当たりの良い屋外で管理しましょう。 地植えにする場合には、夏の間は日陰になる落葉樹の下に植えるのが最適です。土壌が乾燥すると球根が枯死することがあります。敷き藁などで株元を覆うと、乾燥と地温上昇を防ぐことができます。
スノードロップの育て方
苗や球根の選び方
スノードロップの多くは、球根の状態で販売されています。苗として出回るのは、1月~2月の間の限られた期間です。芽にしっかりと勢いがあるものが良く、蕾がついた株なら確実に花が見られます。 球根で購入する場合には、表面に傷がなく、中身が充実したものを選ぶのがコツです。実際に手に取って、重みを確認してみると良いでしょう。
植え付け時期と方法
植物には、それぞれ植え付けに適した時期というものがあります。スノードロップの植え付けに最適なのは、8月下旬の暑さが和らぐ頃から10月中旬の間です。植え付けは、次のような方法で行いましょう。
鉢植えの場合
①鉢の底に鉢底ネットを敷き、鉢底石を1/4程度入れます。
②培養土を植木鉢の半分強の高さまで入れて、球根の上下の向きを揃えて、適度に間を開けて置きます。
③土を1~2cm程度被せ、鉢底から流れ出るまで十分に水やりをします。
地植えの場合
①地面から球根1個分ほどの深さ(2~3cm)に、5~10cm程度の間隔で並べます。
②土を1~2cm程度被せ、たっぷりと水やりをします。
スノードロップと仲よくなる日々のお手入れ
水やりのタイミング
スノードロップの水やりは、その他の植物を育てる時と同様です。鉢植えやプランターの場合、土が乾きやすい傾向にあります。表土が乾いたら、鉢底から流れ出るまでたっぷりと与えましょう。その際、花や葉に水をかけないようにするのが大切です。
花が終わって休眠期に入った後は、水やりの回数は減らし気味にします。しかし、球根自体が乾燥を嫌うので、土を完全に乾かしてしまってはいけません。様子を見ながら、適度な湿度を保つようにします。比較的管理がしやすいスノードロップですが、休眠期の水やりは失敗しやすいポイントなので注意しましょう。
地植えで育てる場合、植え付け直後にしっかりと水やりをすれば、基本的にその後は必要ありません。
肥料の施し方
スノードロップの栽培に、多くの肥料は必要ありません。植え付けの際に規定量の半分の緩効性化成肥料を土に混ぜ込み、球根に時間をかけて栄養を蓄えられるようにします。
花後(8割程度散った後)は、緩効性化成肥料を少量施すか、カリが多い液体肥料を1000倍に薄めたものを2週に1回程度与えて、次の花のための下準備をしておきます。 肥料の与えすぎは、花付きを悪くしたり根を傷めたりする場合があるので注意しましょう。
スノードロップの花が咲いたら…
元気に咲いていた花がしぼんできたら、そのまま放置しておいてはいけません。種ができてしまうとそちらに栄養を取られ、球根が弱ってしまいます。種ができていなくても、そのまま腐って病気が発生する場合もあります。花がしぼんできたら、ハサミで根元から切りとりましょう。
立派に育てるための、植え替え時期と方法
乾燥を嫌うスノードロップの球根は、頻繁に植え替えを行う必要はありません。目安としては、3年に1度程度で十分です。植え替えはヒガンバナが咲き始める9月中下旬、葉が枯れて休眠する時期に次の方法で行います。
①鉢の底に鉢底ネットを敷き、鉢底石を1/4程度入れ、土を植木鉢の半分強の高さまで入れます。
②球根に傷をつけないように掘り起こし、親球と子球に分けます。
③乾燥させないようにすぐに新しい鉢に移し、土を1~2cm程度被せ、鉢底から流れ出るまで十分に水やりをします。
通常、掘り出した球根には子球が1~2つ付いています。子球が1cmほどまで育っていれば親球からはずし、乾燥させないようにすぐに用土に植え替えましょう。植え替えてから2年ほどで花が付きます。子球が小さすぎる場合には敢えて離さず、そのまま親球と共に植え直しましょう。
掘り起こした球根を植えずに保管したい時は、湿らせたバーミキュライトやミズゴケの中に入れて涼しいところに置きます。 地植えをしている場合、掘り起こさなければいけない理由がない限り、植え替えの必要はありません。
剪定を行うときは、時期に注意しましょう
前述した通り、開花時期にしぼんだ花を切り取る以外、スノードロップに剪定は必要ありません。むしろ、充実した球根を育てるためには、花後に残った葉を切り取らないように注意しましょう。葉を切ってしまうと、球根の成長を止めてしまうことになります。自然に黄色くなって枯れるまで、手を加えてはいけません。
知りたい! スノードロップの増やし方
スノードロップは、分球で増やすのが一般的です。種を採取して増やすこともできますが、前述した通り育てるのに非常に時間がかかる上、球根を弱らせてしまうので、あまりおすすめできません。
分球の時期と方法
分球の適期は、休眠期の8月下旬~9月上旬ごろです。球根を堀り上げて、親球の下についている子球をはずします。乾燥を嫌うので、分球したらすぐに用土に植えつけます。
植え付け方法は、「5. スノードロップの育て方にはポイントがあります」の「植え付けの時期と方法」内の手順と同じです。
種の採取の時期と方法
どうしても種で増やしたい場合には、以下の手順で種の採取を行いましょう。採取できるのは、花後の4月ごろです。
①花が咲いている間にピンセットなどで雄しべを引き抜き、他の花の雌しべに受粉させます。
②結実するとやがて緑色の丸い実になるので、黄色くなるまで待ちます。
③実がわずかに割れてきたらはじける前に切り取り、中から種を採取します。
トウモロコシの実を極小にしたような、少し黄色みがかった白く可愛らしい種が取れます。なお、受粉作業をしなくても、自然に結実する場合もあります。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
スノードロップは比較的病気に強い植物ですが、一般的に多くの植物がかかりやすい病気には注意する必要があります。
灰色カビ病
灰色カビ病は、多くの植物がかかりやすい病気のひとつです。低温多湿の環境で発生しやすいため、春先から梅雨、秋から初冬にかけての時期で、雨が多い時は特に注意が必要です。咲き終わった花や枯れ葉なども、発生の原因となります。
水が染みたような淡い褐色の病斑が現れ、やがて枯れて腐敗し、灰色のカビに覆われてしまいます。一度灰色カビ病が発生すると株の成長が阻害され、茎の場合にはそこから上の部分が枯れてしまうため、大きな被害を受けることもあります。
かかってしまったら、発病部はただちに取り除き、病気が続いている間は殺菌剤を散布しましょう。発病させないためには、過度な水やりに注意し、できるだけ風通しの良い場所で育ててください。咲き終わった花をこまめに取り除くことも、予防に効果的です。
育てるときに注意したい害虫
スノードロップは害虫にも強い植物なので、特に気を付けなければいけない害虫はいません。
スノードロップと相性のよい寄せ植えの植物は?
スノードロップをまとめて植えた群生は、それだけでも素晴らしいですが、他の草花との寄せ植えも味わいがあります。
例えば、紫や黄色のビオラや青いムスカリと合わせることで、スノードロップの白が引き立ちます。グレコマのように根元を覆うように伸びるものと合わせるのもバランスが良く素敵です。また、多年草のクリスマスローズもスノードロップと相性の良い花です。
寄せ植えする際は、空気を通しにくいプラスチックの鉢よりも、通気性の良いテラコッタを利用すると良いでしょう。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
文・ランサーズ
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