多彩な花や葉が楽しめるベゴニアは、世界中で愛されている植物のひとつ。数千もの品種があり、白、赤、ピンク、黄、オレンジ、紫などの花を一年中咲かせます。剪定は花をたくさん咲かせるためにも必要な作業です。上手に剪定してベゴニアの花を楽しみましょう。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
ベゴニアを育てる前に知っておきたいこと
一般的に植物の葉は左右対称が多いものですが、ベゴニアは左右非対称で少しいびつ。そのアンバランスで素朴な形が親しみを感じさせる理由のひとつかもしれません。さらに特徴的なのが、ベゴニアは「雌雄異花」だということ。これは、雄しべのつく雄花と雌しべのつく雌花が別々に咲く性質のことで、ベゴニアはひとつの株に形の違う雄花と雌花がそれぞれ咲きます。通常は、八重咲きのもが雄花、一重咲きのものが雌花です。
ベゴニアの基本データ
学名:Begonia
科名:シュウカイドウ科
属名:シュウカイドウ属
原産地: 熱帯、亜熱帯(オーストラリアをのぞく)
英名:Begonia
開花期:一年中
花色:ピンク、赤、オレンジ、黄色、白、青、紫
発芽適温:20〜25℃
生育適温:18〜20℃
ベゴニアは花だけでなく、色や模様などが多彩な葉の観賞にもファンが多い植物です。ベゴニアは種類が多いので、ここでは形の上から大きく、木立性ベゴニア、四季咲きベゴニア、根茎性ベゴニア、球根ベゴニア、エラチオールベゴニアの5つの分類で紹介します。
タイプによって剪定のポイントが異なりますが、初心者にも育てやすく長く花を観賞できる植物です。茎が上に伸びるタイプのほか、地面を這うように伸びるつる性タイプもあるので、ハンギング仕立てなどでも華やかに楽しめます。
木立性ベゴニア
茎がまっすぐに立って伸びるベゴニアです。花が美しいもの、葉が美しいものなど多種多様な品種があり、ベゴニアの中でも育てやすく人気のあるタイプです。
四季咲きベゴニア
環境によっては1年を通して花を楽しめるタイプで、センパフローレンスとも呼ばれます。鉢植えのほか花壇の花としても人気があり、その多くが種から育てられます。四季咲きベゴニアは種類の多い木立性ベゴニアの中のひとつのタイプですが、丈夫な性質で人気があり、品種も多いため、独立したタイプとして扱われることが多くなりました。春から秋にかけて小ぶりの花をたくさん咲かせ、こんもりとしたシルエットを作ります。
根茎性ベゴニア
茎が太く、地面を這うようにして成長します。園芸種の種類が最も多いタイプです。よく知られるレックス・ベゴニアは品種が多いため独立して扱われることもありますが、この根茎性に分類されます。花よりも美しい葉を楽しむタイプのベゴニアです
球根ベゴニア
気温が下がると地上部が枯れて、球根で冬を過ごすタイプです。アンデス山脈に自生する6〜7種類の原種を複雑に交配しているため、デリケートで日本の暑さには弱いものが多く、管理がやや難しいタイプです。ベゴニアの中では大きな花を咲かせるところから、最も華やかな種類ともいえます。
エラチオールベゴニア
球根ベゴニアとベゴニア ソコトラナとの交配によって誕生したもので、冬に咲く鉢花として人気があり、贈り物などにもよく使われます。暑さにも寒さにも弱く、20℃前後の環境が最適です。
植物の剪定の種類と目的を知っておきましょう
植物の手入れをせず自然にまかせて自由に成長させておくと、いろいろな不都合やデメリットが起こり、植物にとってはよい状態とはいえません。
そこで必要になる手入れのひとつに剪定があります。剪定とは枝や茎を切る作業のことです。見た目を整えたり、生育を促したりする目的があります。剪定にはいくつかの種類があり、それぞれ目的があります。
ベゴニアの剪定方法をみる前に、植物を剪定する一般的な方法を確認してみましょう。
強剪定と弱剪定
剪定の解説ではよく「枝を強く切る/弱く切る」などと言うことがあります。これは剪定する位置をあらわしており、切る位置が枝のつけ根に近いと「強く切る」と表現されます。これを「強剪定」と呼びます。枝や茎の先端に近い位置で切ることは「弱く切る」と表現され、「弱剪定」と呼ばれます。植物は強剪定をすると、太くて勢いのある「強い枝」が伸びてきます。弱剪定では細めの「弱い枝」が伸びます。
間引き剪定
不要な枝や茎をつけ根から切り落とす剪定で、「すかし剪定」と呼ばれることもあります。枝葉が混み合っている株の場合、間引き剪定を行うことで、風通しがよくなり内側まで光が届くようになります。隙間ができることで、枝や茎も伸びやすくなります。
切り戻し剪定
伸びた枝や茎を途中で切って、株を一定の大きさに保ったり、バランスを整えたりする剪定です。植物は剪定した位置の下から新しい枝を伸ばします。ですから切り戻し剪定では、剪定した後に伸びる枝や茎の方向を想定しながら、芽の位置を確認して切る必要があります。剪定の時期やその株の状態によって、強剪定と弱剪定をバランスよく行います。
花がら摘み
花がらとは咲き終わった花のことで、その花を取り除くことを花がら摘みと言います。花がら摘みは剪定とは少し違いますが、草花を育てる時には必要な作業です。生育期に花がら摘みをすると、そのあとも花がどんどん咲いてくれます。また、しおれた花を取り除くことで見た目を美しく保ち、枯れた花につく病気を防ぐ目的もあります。
摘心
摘心(てきしん)とは生育中の芽の先端を手で摘まみ取ることで、「ピンチ」とも呼ばれます。花がら摘み同様、摘心も剪定とは少し違いますが、植物の生育を促すための作業のひとつで、枝数を増やし花つきをよくしてくれる効果があります。
剪定のポイントは、枝や茎の選び方です
剪定は植物の生育に不要な枝や茎を取り除いたり、植物の見た目のバランスを整えたりすることです。剪定は難しいと思っている人も多いかもしれませんが、植物の枝や茎にはどんなものがあるか知っていれば、切るべきものが選びやすくなります。剪定すべき不要な枝や茎を覚えておきましょう。
徒長枝
その年に伸びた枝で、勢いよく伸びすぎた枝。草花の場合はヒョロヒョロと細長く伸びてしまった枝や茎。または葉があまりつかず茎だけがヒョロヒョロと細長く伸びてしまったもの。
枯れ枝
変色して枯れている枝や茎。
ベゴニアは、放っておくと徒長します。茎が伸びすぎると見た目だけでなく花付きも悪くなるので、切り戻しをしましょう。根茎性のものなどで葉の観賞がメインのベゴニアの場合は、葉が傷んでいたり変色していたら茎のつけ根から切り取ります。
知りたい! ベゴニアに必要な剪定方法
ベゴニアを育てるために日常的に行うのは、切り戻し剪定と摘心、花がら摘みです。それぞれの作業の目的やメリットを理解しておきましょう。
切り戻し剪定の目的とメリット
一般的な品種のベゴニアは、生育が旺盛で葉も花もたくさんつけます。そのため定期的に切り戻しをしておかないと、株の内側まで光が届かずに弱ってしまったり、風通しが悪くなり蒸れて枯れ込んでしまったりします。ベゴニアにとって切り戻し剪定は、仕立て直しをして株をリフレッシュさせる目的があります。見た目も整いますし、切り戻すことで次の花もつきやすくなります。
花がら摘みの目的とメリット
花がらとは咲き終わったり、しおれたり、枯れたりした花のことです。ベゴニアは花がらを見つけたらすぐ摘み取りましょう。そのままにしておくと、花がらの湿気からカビが生えたり、病気に感染したりします。また咲き終わった花をそのままにしておくと、実になり種ができることになるのですが、種を作ることにエネルギーを使われてしまうと、株全体の生育が弱まってきます。長い期間たくさんの花を楽しみたいなら、まめに花がら摘みをして、養分が次の花に行き渡るようにします。
摘心の目的とメリット
摘心は新しい枝や茎の先端にある芽を摘み取ることで、摘心を行うと茎の側面の芽(側芽)が発達します。この側芽の発達によって枝が横に伸びるため、こんもりとした株に育てることができます。摘心を行うと枝が増えますので、花がたくさんつくメリットもあります。摘心は、こんもりとたくさんの花を咲かせるために欠かせない作業です。
剪定に適した時期を見極めましょう
切り戻し剪定の適期
ベゴニアの切り戻し剪定は、ベゴニアのタイプによって適した時期が異なります。それぞれのベゴニアにあった剪定時期を確認しておきましょう。
木立性ベゴニア
枝が伸び、草姿が乱れてきたら、年間を通して切り戻し剪定ができます。生育が旺盛な5月中旬〜10月上旬頃であれば、ある程度短く切り詰めても大丈夫です。真夏と冬は混み合った葉や茎を整理する程度にしておくほうが良いでしょう。
四季咲きベゴニア
木立性ベゴニアと同じように、生育が旺盛な5月中旬〜10月上旬頃であれば切り戻し剪定が可能ですので、草姿が乱れてきたら行うとよいでしょう。ただし、真夏と冬は短く切り詰めてしまうと株が弱ることがあるので、混み合った葉や茎を整理する程度にしておきます。
根茎性ベゴニア
梅雨時や真夏など高温多湿で株が蒸れやすくなる時期に、混み合った葉や茎を整理する程度にします。
球根ベゴニア
初夏の花が終わったあとに、株を半分くらいの高さに切り戻すと秋にまた花をつけてくれます。
エラチオールベゴニア
冬に花を咲かせ草姿が乱れている株は、3月中旬〜4月に軽く切り戻します。5月下旬〜6月中旬には花が終わりを迎えるので、株を半分くらいの高さに切り戻します。
切り戻し剪定の基本的な方法
花が咲かなくなってきたベゴニアは、切り戻すことで新しい花を咲かせてくれます。切り戻しをする時は、わき芽のある節の少し上で切るようにしましょう。剪定した部分のわき芽から新しい茎が伸び、花のつぼみや葉が育ちます。
全体の高さが揃うように切り戻していくと、茎が伸びてもバランスよく整います。
花がら摘みの適期
花がら摘みは、花が咲き終わったものから順に行っていきます。花がら摘みの方法は、花のつき方で少し異なりますので、基本的な方法を確認してください。
基本的な方法
1本の茎の先端に花がひとつだけ咲くタイプのベゴニアは、花が終わったら茎を引き抜くか、つけ根からハサミで切り落とします。1本の茎の先に複数の花をつけるタイプのベゴニアは、花が終わったものからひとつずつ花柄(かへい)をつまむように折り取ります。茎の先に複数花をつけるタイプも、ほとんどの花が終わったら茎のつけ根から切り取ります。
ベゴニアの種類によっては、花がらを摘み取る前に自然に落下するものもあります。花がらが落ちているのは見た目にも悪いですし、落ちた花がらが腐ったり病気に感染することもあるので、自然に落ちた花がらも取り除いておきましょう。
摘心の適期
摘心は苗の状態のときに行うと、ボリュームのある株に育てることができます。挿し木などで増やしたベゴニアが1〜2か月経って茎が伸び、5節程度の節ができた頃が適期です。
基本的な方法
苗の先端につく芽を「頂芽」といいますが、摘心はその頂芽を指でつまむように折り取ります。その時、先端から2番目にあるわき芽のすぐ上をつまむようにしましょう。そのわき芽から新しい茎が伸びてきます。
茎が伸び、新しい頂芽が出てきたら摘みます。摘心を何度か繰り返すことで、こんもりとしたボリュームが出て、花がたくさん咲く株になります。
ベゴニアの剪定にはコツがあります
剪定や摘心を行う時は、必ずわき芽を確認しましょう。わき芽は茎の途中に出ている芽で、ベゴニアの場合は、葉のつけ根についています。わき芽の少し上で切ることで、わき芽の生育がうながされ、新しい茎が伸びてきます。新しい茎が伸びるということは、そこにまた新しい芽がつき、葉や花が増えることになります。
剪定するときの注意点はこちらです
生育期などに短く切り戻しした後は、葉の数がずいぶんと減ることになります。葉が減ると、葉から水分が蒸発する「蒸散」が減りますので、それまでよりも必要な水分量が減ってきます。
そのため、切り戻し剪定の前と同じ頻度で水やりをしていると、土が乾きにくくなり、鉢内が蒸れた状態になることがあります。ベゴニアは湿度を好む植物ですが、鉢内の過湿はとても苦手です。強く切り戻しした後は水やりの加減にも注意しましょう。必ず鉢土の表面が乾いていることを確かめてから水を与えます。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・ブライズヘッド
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