秋になるとオレンジの花を枝に密生させて咲き、強い甘い香りを放つキンモクセイ。キンモクセイは、ジンチョウゲ、クチナシとともに、香りの強い花をつけることから、三大香木(さんだいこうぼく)と言われて親しまれています。日陰でも育ち、初心者でも育てやすいため、人気がある庭木です。ここではキンモクセイの育て方の基本を紹介します。監修・宮内泰之(恵泉女学園大学准教授)
目次
キンモクセイを育てる前に知っておきたいこと
キンモクセイは初心者にも育てやすい庭木のひとつですが、栽培を始める前に、上手に育てるための基本情報を知っておきましょう。
キンモクセイの基本データ
学名:Osmanthus fragrans var.aurantiacus
科名:モクセイ科
属名:モクセイ属
原産地:中国(詳細は不明)
和名:キンモクセイ(金木犀)
英名:fragrant orange-colored olive
開花期:9〜10月
花色:オレンジ
植え付け時期:3〜4月
耐寒気温:−10℃

キンモクセイは樹高5〜8mになる常緑小高木です。9月下旬から10月中旬に、オレンジ色で強い芳香のある5mm程度の小花を枝に密につけて咲かせます。近年では開花が年々早まっている傾向があります。その香りは、低温、多湿になると特に強く香ります。日本では芳香剤としてよく知られる香りですが、中国では花(日本と同一かは不明)を使い、桂花陳酒や桂花茶などで香りが楽しまれています。葉は、オレンジ色の花が映える濃い緑で、光沢があります。庭木や生垣によく利用されています。日本では雄株しか知られておらず、そのため実をつけることはありません。

キンモクセイは、花が白色のギンモクセイ(O.fragrans)の変種とされています。属名のOsmanthusは、ギリシャ語でにおいを意味する「osme」と、花を意味する「anthos」が由来です。
キンモクセイにはどんな種類があるの?選び方は?
キンモクセイの園芸品種は少なく、同じモクセイ科の仲間にギンモクセイやヒイラギモクセイなどがあります。ギンモクセイは、ほのかに黄色がかった白い花をつけ、やや光沢のある縁がギザギザ(細鋸歯)の葉を持ちます。香りもありますが、キンモクセイほどではありません。ヒイラギモクセイは、ギンモクセイとヒイラギの(O.heterophyllus)の雑種と考えられている植物です。芳香のある白い花が咲きます。葉は楕円形で、縁にとげがあり、生け垣などにも利用されます。
キンモクセイを育てるために必要な準備と道具
キンモクセイは鉢植えでも地植えでも育てることができます。植えつけをはじめる前に、以下のものを用意するとよいでしょう。
準備するもの
・キンモクセイの苗木
・8号以上の大きな鉢 *鉢植えの場合
・鉢底石 *鉢植えの場合
・赤玉土
・腐葉土
・元肥:完熟たい肥など
・支柱 *必要であれば
・剪定バサミ
・スコップ
鉢植えで育てる場合、小さな鉢だとすぐに植え替えが必要になってしまうので、苗木よりも一回りから二回り大きな鉢を選ぶようにしてください。また、キンモクセイは成木になってからの移植を嫌います。最初から、大きめの鉢を用意したほうがよいでしょう。
適した土作りがキンモクセイを育てる第一歩
キンモクセイは、水はけがよく肥沃な土壌が適しています。鉢植えの場合は、赤玉土7、腐葉土3の割合で配合した土を使います。庭植えにする場合は、やや湿り気があり、肥沃で水はけのよい土(砂質分に粘土質が3割ほど混じった土)がよいでしょう。
キンモクセイの育て方にはポイントがあります
暖地を好み、寒さにはやや弱く、霜が降りるような場所では、あまり育ちません。冬に寒風が当たらないところに植えましょう。日陰の場所でも育ちますが、花つきをよくしたいのであれば、日当たりのよい場所から半日陰の場所が適しています。また、大気の汚れた場所だと、花つきが悪くなってしまうので気をつけてください。
植え付け・植え替えの時期とその方法
植え付けは春、あるいは秋に行う
キンモクセイの苗木の植え付けは3〜4月、または10〜12月が適しています。
鉢への植え付けの方法
①苗木の準備
苗木は鉢から抜いて根鉢をくずさないようにします。
②用土の準備
鉢に鉢底ネットを敷いた上で、鉢底石を3cmほどの厚さに入れ、赤玉土7、腐葉土3の割合で配合した土を用意します。
③植え付け
用意した用土を使って植え付けます。この時、元肥も入れます。
④用土を調整
最終的に用土の表面が鉢の縁より3cmほど下がるように用土を調整し、苗木の株元が用土の表面とそろうように植え付けます。用土の高さを鉢の縁より下げるのは、水やりの際、この部分に水がたまるようにするためで、ウォータースペースといいます。
⑤水やり
植え付け後、必要に応じて支柱を立てて固定し、たっぷりと水やりをします。
庭への植え付けの方法
①穴を掘る
キンモクセイの苗木を用意したら、植え付け場所に根鉢の大きさの倍の深さ・直径の穴を掘ります(できれば可能な限り深い穴を掘り、さらに底をスコップなどで耕しておきましょう)。
②土の準備
あらかじめ腐葉土や完熟堆肥などを混合した元肥を掘り起こした庭土によく混ぜて、半分ほど穴に埋め戻します。
③植え付け
苗木の根鉢を軽くほぐし植え穴に入れて、残りの土を使って植え付けます。このとき、苗木の株元が地面の高さになるように調整をします。
④水やり
植え付け後はたっぷりと水やりをします。棒などでつついて根と土をなじませるとよいでしょう。ぐらつく場合は支柱を立ててください。
植え替えは春に
地植えをしたキンモクセイは、基本的に植え替えはしません。植え替えすることにより、根が傷つきやすく、水や養分を吸い上げる力が衰えてしまうためです。鉢植えの場合は、根詰まりを起こしやすいので、2〜3年に1回、3〜4月に行います。
植え替えの方法(鉢植え)
鉢全体に根が回ったり、水はけが悪くなったりしたら植え替えをしましょう。一回り大きな鉢に植え替えます。
①鉢から苗を取り出す
キンモクセイの鉢から苗をそっと取り出します。
②根鉢をかるく落とす
根の周りについた土をもみほぐしながらかるく落とします。
③黒い根を切り取る
黒く変色した根があれば剪定バサミで切り取ります。
④植え替え
一回り大きな鉢に鉢底ネットを敷き、鉢底石を3cmほどの厚さに入れ、赤玉土7、腐葉土3の割合で配合した土を使って植え替えます。この時、元肥も入れます。
⑤用土を調整
最終的に用土の表面が鉢の縁より3cmほど下がるように用土を調整し、苗木の株元が用土の表面とそろうように植え付けます。
⑥水やり
植え付け後、必要に応じて支柱を立てて固定し、たっぷりと水やりをします。
キンモクセイに肥料は必要なの?
鉢植え、庭植えともに、2月下旬〜3月に寒肥として有機質肥料を中心に施します。寒肥とは、寒い時期に与える肥料のことです。寒い時期には植物は成長しませんが、肥料は土の中で植物が吸収されやすいかたちに変化し、春に効き目を表します。
キンモクセイの水やりの方法とタイミング
鉢植えの場合
鉢の場合、土の量が限られているため保持する水の量も限られてしまいます。表面の土が乾いてきた頃には鉢の中の土も乾き始めていることが考えられるので、土の表面が乾いてきたらたっぷりと水やりをします。
庭植えの場合
庭植えの場合、水やりはそれほど神経質になる必要はありません。植え付け直後や夏の高温で乾燥する時期には、土が乾かないように水やりをします。
キンモクセイの剪定時期や方法は?
キンモクセイはとても生育旺盛です。大きくなってから一気に強剪定すると、小枝が枯れ込んでしまうことも。また、萌芽した枝が成熟できず、開花枝にならなくなってしまいます。ですので、秋の開花後から、翌春の4月までの厳冬期を避けて剪定を行いましょう。それ以降は徒長枝などを切る程度に。
剪定の方法
①不要な枝を間引く
枝葉が茂り株の内側が混み合ってくると、日あたりや風通しが悪くなり、木が弱ったり、病害虫の発生が増えたりします。そこで、太く長い枝や混み合った枝、交差する枝などをつけ根から切り取って間引き、枝数を減らして株内の日当たりや風通しを図るようにします。
②枝先を2〜3節残して切り詰める
株をコンパクトに維持し、また枝を充実させるために、花の咲いた枝を先端から2〜3節残した位置まで切り詰めます。4月以降に新梢が伸び、これに花芽がつくられます。
知りたい!キンモクセイの増やし方
キンモクセイは、挿し木と取り木で増やすことができます。
挿し木の時期と方法
挿し木は、5月下旬〜7月の新梢が充実しきる前のものを採取し、挿し穂にします。
穂木の採取方法
①時間帯
朝、夕、雨天時などに行います。
②株の選び方
日当たりの良い場所で健全に育てられ、若くて花着きの良い株を選びます。
③枝の選び方
日当たりが良く、病虫害がなく、節間が間延びしておらず、葉が小さめで形がそろった部分の充実した(少し硬くなった)長さ15~20cmの新梢をハサミで切ります。
④水に浸す
穂木は切り口を直ちに水に浸します。
挿し穂の調整と挿し木
①葉を整理する
上葉を4〜5枚残すようにして、下部の葉を取り除きます。残す葉が大きい場合は半分に切ります。
②切り口を斜めに切り戻す
吸水しやすいように切り口をナイフで斜めに切り、60分ほど水につけます。
③発根促進剤をつける
発根促進剤を切り口に薄くつけ、余分な粉は軽くたたいて落とします。
④挿し床の準備
赤玉土や挿し木用土を鉢などに入れて挿し床とし、たっぷりと水やりをします。
⑤挿し木する
割りばしで挿し穴をあけてから、挿し穂の1/3~1/2を挿し、まわりの土をピンセットで押さえて安定させます。
挿し木後の管理
①挿し木後から夏の間
直射日光を避けて、湿度が高く保てる場所に置きます。挿し床ごとビニール袋で覆ってもよいでしょう。
②秋ごろ
ビニール袋で覆っていた場合は取り除き、朝夕の弱い光や外気に当てるようにします。
③冬ごろ
玄関や軒先などのなるべく暖房のない暖かい場所に置き、乾かさないように管理します。
取り木の時期と方法
取り木は植物の樹皮をはぎ、発根させてから苗木にする方法です。取り木をする場合は、5〜6月が最適です。
①樹皮を剥ぐ
キンモクセイの幹2~3年枝の途中をよく切れるナイフで2〜3cmの間隔で2カ所、枝を一周する切れ目を入れます。切れ目の間の樹皮を木質部が露出するまで一周剥ぎ取ります。
②水苔を巻きつける
樹皮を剥いだ部分に、水につけておいた水苔を巻きつけ、ビニールシートで覆います。ビニールは上下をヒモで結んで固定し、密閉してください。
③遮光する
取り木した部分は、日陰になるように遮光します。
④水やり
水苔が乾燥していると感じたら、上のヒモをほどいて水やりをします。水やりの後は再びヒモを結びます。
⑤根の下で切り離す
根が伸びたら、春または秋に根の下で切り離します。
⑥植え付け
切り離したらすぐに植え付けましょう。
キンモクセイを育てるときに気をつけたい病気と害虫
キンモクセイで注意したい病害虫
褐斑病
葉の先や縁に淡褐色の斑点ができ、後に灰白色や灰褐色になってしまう病気です。被害を受けた場合は、周りに伝染しないようにすぐに取り除きます。
先葉枯病
葉の先端が淡褐色になり、後に灰白色になります。被害を受けた場合は、葉を切り取ってください。落ち葉も掃除し、処分します。
カイガラムシ類
ヒイラギハマキワタムシなどのアブラムシ類、ウメシロカイガラムシ、トビイロマルカイガラムシなどのカイガラムシ類が発生することがあります。風通しが悪いと発生するので、風通しをよくすることが重要です。
ハダニ
葉裏に群生し、吸汁によって被害が発生します。葉は白い斑点がつき、かすれたような黄色になります。湿気が苦手なので、乾燥時に葉裏から水をかけると被害が減ります。
風通しが悪いと病気や害虫の被害に
キンモクセイは風通しが悪い環境だと、病気や害虫が発生しやすくなってしまいます。まずは環境を整えて病気や害虫の発生を予防し、それでも病気や害虫の被害が見られたら早めに対処するようにしましょう。
薬剤に頼らない病害虫対策
適切な作業や管理によって株を丈夫に育てれば、病気や害虫の被害を減らすことができます。また雑草を刈るなど株元をきれいにしておくことも大切です。とくに適切な剪定によって樹冠内の日あたりや風通しをよくすることは、木が健全に育つための大切なポイントとなります。薬剤散布は病害虫を駆除するだけでなく、病害虫の天敵も一緒に駆除、遠ざけてしまい、逆効果の場合もあります。
病虫害の予防には根を健全にする
樹木は樹勢が衰えると病虫害に対する抵抗力が落ちてしまいます。樹勢を衰えさせる最も大きな原因は地下部、つまり根の生育障害にあります。
鉢植えで多い障害
鉢植えで最も多い障害は、根が鉢の中に回った根詰まりです。鉢植えの生育が悪くなった場合、根詰まりとなっている可能性が高いので、適期を見計らって一回り大きな鉢に植え替えましょう。
地植えでの注意点(植え付け前)
根をよく伸ばすために、植え付け前にも注意が必要です。植え付け時には、植穴をなるべく広く深く掘って根が伸びる範囲を確保し、さらに底をスコップなどで耕して排水性を改善しておきましょう。植え付けの際に植穴が小さいと小さな鉢に植えることと同じ状態になり、すぐに根詰まりになってしまいます。
地植えでの注意点(植え付け後)
地植えでは、毎年冬に寒肥を兼ねて樹冠の外縁部の地面を環状に耕し、堆肥や腐葉土をすき込みましょう。根の先端と樹冠の外縁は同じくらい広がっているため、根の先端の土がよい土となります。
強剪定、不適期の剪定は根と葉のバランスを崩す
強く切り戻す剪定や適期でない時期に剪定してしまうと、根の水分供給と葉からの蒸散(水分の放出)のバランスが崩れてしまいます。このような状態になると、根が生育障害をおこし、樹勢を衰えさせ、病虫害の発生につながります。
構成と文・さいとうりょうこ
併せて読みた
Credit
監修 / 宮内泰之

みやうち・やすゆき/1969年生まれ。恵泉女学園大学人間社会学部社会園芸学科准教授。専門は造園学。とくに庭園等の植栽デザイン、緑化樹の維持管理、植生や植物相調査を専門とする。最近は休耕田の再生活動に取り組み、公開講座では自然観察の講師を担当。著書に『里山さんぽ植物図鑑』(成美堂出版)がある。
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