スイセンは、球根を秋に植えつけることで、早春から春の花壇を彩る代表的な花です。寒さに強い植物で、ことに12月末から花を咲かせるニホンズイセンはその楚々とした花姿が好まれ、正月用の花としても流通しています。ややうつむき加減に咲く花を、美しい自分自身に見惚れる姿になぞらえた、ギリシア神話「ナルシス(ナルキッソス)」の逸話でも有名な花です。洋の東西を問わず、人を惹きつける魅力あるスイセンを、よい状態で育て、きれいな花を咲かせるためには、土が重要になってきます。スイセンの植えつけと土作りについて、掘り下げてみましょう。All Aboutガイドで、ガーデンライフアドバイザーの畠山潤子さんにお聞きしました。
目次
スイセンを育てる前に知っておきたいこと
スイセンは秋植えの球根植物で、多種多様の品種があります。その数は1万種を超えるとも。花色や花姿が豊富で、早春から春の花壇の彩りとして、欠かせない植物です。
スイセンの基本データ
学名:Narcissus
科名:ヒガンバナ科
属名:スイセン属
原産地:地中海沿岸、スペイン、ポルトガル、北アフリカ
和名:雪中花(せっちゅうか)
英名:Narcissus
開花期:11月下旬~4月
花色:ピンク、黄、オレンジ、白、緑、複色
生育適温:5~20℃前後
切り花の出回り時期:12~3月
花もち:5~7日
スイセンは、園芸ビギナーの方にも育てやすい植物です。スイセンを球根から育てるなら、秋、10~11月頃が植えつけの適期です。翌年の1月中頃から芽出し球根のポット苗が出回ります。球根を植えそびれた場合は、このポット苗から育て始めるとよいでしょう。
スイセンにとっての、土の役割とは…
スイセンは土中に根を張り巡らせることで、自分自身の体を支えています。それと同時に、土中の根で呼吸を行ったり、水で溶け出した土中の栄養分を根から吸い上げたりしています。つまりスイセンの根は、人間でいうと、体を支えるための足であり、呼吸をするための肺であり、栄養補給をするための口(胃)であるといえるでしょう。
また、土は、その大切な根を夏の強い日差しや高温、乾燥、風といった急激な環境変化から守る役割も担っています。これは人間にたとえると、「住まい」にあたる役割を果たしているといえます。
元気に育てるための、スイセンの土作り
用土とは、園芸で使われる土のこと。さまざまな種類があります(※後述)。培養土とは、数種類の用土がブレンドされ、そのまま使用できる土のことです。
スイセンは、水はけのよい土を好みます。
スイセンの球根を鉢植えにする場合は、市販の草花用培養土で問題ありません。「球根用」と書かれた培養土も市販されています。
植えつけの際は、清潔で新しい培養土を使うようにしましょう。古い土は「団粒構造(後述)」が崩れ、水はけが悪くなりがちです。古い土には、病原菌や害虫の卵などが潜んでいることがあるので注意しましょう。
なお、製品により、スイセンに対しては水はけが悪いこともあります。そういったときは、砂やパーライトを足すことで改善されます。
自分で単用土(※後述)をブレンドして作る場合には、赤玉土と腐葉土、パーライトを6:3:1の割合で混ぜます。
地植えの場合には、日当たりと水はけのよい場所を選び、あらかじめ堆肥や腐葉土をすき込んで耕しておきます。水はけが悪いときは、川砂も加えて水はけをよくしてください。
いずれの場合も、あらかじめ元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
スイセンをはじめとした植物の栽培には、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた「よい土」が必要となります。
「よい土」とは、園芸用語でいう「団粒構造をもつ土」のことです。団粒構造とは、砂や粘土など、さまざまな土の粒子(単粒)がくっつきあって小さな固まり(団粒)を形成して重なっている状態を指します。団粒のなかには小さい隙間が、団粒と団粒の間には大きな隙間があります。それらの隙間が、それぞれ排水、通気、保水、保肥に役立ち、植物が根を張りやすい環境を作っているのです。このようなよい土は、フカフカとしていて、よい匂いがします。
ホームセンターや園芸店には、たくさんの土が販売されています。あらかじめメーカーでブレンドされ、袋詰めされた培養土の他に、「赤玉土」とか「黒土」などの単用土も販売されているので、園芸ビギナーの方は、どれを買ってよいのか迷われるかもしれません。次の項で紹介する用土の特性を参考に、育てる環境や選んだ商品に合わせて、混ぜる用土を見極め、「よい土」に仕立ててください。
補足として、赤玉土7~6:腐葉土3~4のブレンドは、ベースとして、ほとんどの植物に使えるので覚えておくとよいでしょう。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土の種類について知ることは、植物栽培に必要な「よい土」作りに役立ちます。ここでは、ひととおり、土の種類とその特徴を見てみましょう。
黒土
畑土などにみられる、黒い土。粒子が細かく、多用すると水はけが悪くなるため、コンテナなどの容器栽培には不向きとされています。
赤玉土
関東ローム層の赤土をふるって粒子を揃えたもので、水はけ、水もちがよいのが特徴。小粒・中粒・大粒と選別されて袋詰めになっています。ほかの用土とブレンドして使うときは、中~小粒のものを選びます。
鹿沼土
栃木県鹿沼地方で産出される粒状の軽い土。水はけ、水もちがよく、性質は赤玉土に似ています。酸性なのでツツジやサツキ、山野草などの栽培向き。
腐葉土
広葉樹の落ち葉を腐熟させたもので、水はけ、水もち、通気性に優れています。肥料分はそれほどありませんが、土中の微生物を増やして土を活性化する働きがあります。袋を開けたとき、カビや嫌な匂いのするものは使用を避け、しっかり完熟したものを使いましょう。
堆肥
藁、落葉、野菜くずなどを腐熟させたもので、土中の微生物を増やし、水はけや通気性をよくする働きがあります。腐葉土よりは、有機質の肥料分が含まれます。 腐葉土同様に、しっかり完熟したものを使います。
ピートモス
水ゴケ、シダなどが堆積し泥炭化したもので、軽くて水もち、通気性がよいのが特徴。 酸性が強いので、一般的な草花には「酸度調整済み」のもの、酸性の土を好む植物には「酸度未調整」と表記されたもの、と使い分けてください。
バーミキュライト
蛭石を高熱処理して膨張させた人工用土で、軽いのが特徴。水はけ、通気性、保肥力に優れています。
パーライト
真珠岩を高熱処理して膨張させた、白い粒状の軽い人工用土。 配合することで、水はけ、通気性がよくなります。
砂
水はけや通気性をよくするために用いられます。川砂が一般的ですが、 群馬県桐生地方で産出される「桐生砂」や、富士山周辺から産出される「富士砂」は火山砂礫で、主に山野草の栽培などに使われます。
水ゴケ
湿原のコケ類を乾燥させたもの。軽くて通気性がよく、保水性に優れています。
籾殻くん炭
籾殻を燻して炭化させたもの。水もち、通気性に優れ、根腐れ防止の効果があります。アルカリ性なので、酸性土の中和にも使われます。
たとえば、いつも水やりしすぎて過湿で植物を枯らしてしまう場合は、ベースに砂やパーライトを加えることで、水はけをよくすることができます。用土の種類と特性を知っていれば、このように、自身で調整し、より「よい土」を作ることができるのです。
※市販の「○○用」などと銘打った培養土は、これら用土の特性を生かして、配合割合を各社で研究してブレンドしたものになります。
スイセンの植えつけの時期
スイセンの球根は、10~11月頃が植えつけの適期です。植えつけが遅れると、根張りが悪くなります。
1月中頃から、園芸店やホームセンターの園芸コーナーなどに「芽出し球根」が出回ります。苗から育て始める場合は、購入したポット苗はできるだけ早く定植をしてあげましょう。
土のほか、植えつけ時に準備したいもの
用土について理解を深めたら、実際の植えつけについて紹介しましょう。スイセンの球根を鉢に植えつけるときは、以下のものを用意します。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・植え付けるスイセンの球根
・土入れ、移植ゴテ(球根植え用のバルブプランター、ディバー)
・ジョウロ
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・鉢(浅鉢は避けます)
・鉢底ネット
・鉢底石(なくても可、砕いた発泡スチロールで代用も可能)
スイセンは過湿により球根が腐ってしまうことがあるので、植えつけ用の鉢は、それ自体に吸水性、通気性がある素焼き鉢が望ましいです。しかし、寒冷地では鉢の水分が夜間の冷え込みで膨張し、鉢が割れてしまうことがあります。近年はポリカーボネートやグラスファイバー製など、多種多様な鉢が出回っていますので、環境にあったものを使用するとよいでしょう。
鉢底石は排水の意味でもよいのですが、球根を植えたあと根が伸びるスペースを確保したいので、鉢の高さにあまり余裕がない場合は、鉢底ネットの上に培養土だけでも構いません。もちろん、培養土は水はけのよいものを使用します。
鉢底石の代わりとして、砕いた発泡スチロール(清潔なもの)を使うこともできます。
スイセンは日当たりを好みますが、開花後は直射日光を避けてください。冬の間は、葉が落ちて日差しが得られる落葉樹の下などが最適です。植え場所や鉢の置き場所も考慮しておきましょう。
スイセンの植えつけ方法が知りたい
必要なものを準備したら、次は実際の植えつけに。手順は以下のとおりです。
鉢植えの場合
①鉢に鉢底ネット、鉢底石を入れ、培養土を鉢の上端から8~10㎝くらい(球根の高さ+ウォータースペース分)まで入れておきます。鉢植えの場合は、根張りのスペースを取りたいので、球根の頭が隠れる程度の浅植えになります。
②培養土の上に球根を並べます。球根同士の間隔は、球根1個分が目安です。
③球根の上に覆土をして、植えつけ完了です。
球根植えに特化した穴掘り(バルブプランター、ディバー)がある場合は、鉢の上端から2~3㎝くらいウォータースペースを確保して培養土を入れ、穴を開けます。球根を配置したあと、覆土をします。
地植えの場合
①事前に土作りを済ませて、よく耕しておきます。
②球根の植え穴を掘ります。深さは、球根の高さ2~3個分が目安です。
③植え穴に球根を並べます。植え付け間隔は、球根2~3個分が目安です。
④球根の上に覆土をして、植えつけ完了です。
鉢植え同様に、耕してならした地面に穴掘りで穴を開けて植えつけても構いません。地植えした場合には、誤って掘り起こしてしまわないよう、どこに植えたのか、わかるように印をつけておくようにするとよいでしょう。
鉢植え、地植えとも、植えつけ後、たっぷりと水やりをしておきます。
植えつけをするときの注意点はこちらです
球根の上に覆土をする際は、ギュウギュウと力を入れて押しつけると、土中の空気が抜けてしまいます。球根が安定する程度に、やさしく押さえるようにします。
地植えのスイセンは植えっぱなしでよく増えますが、数年経って密植状態になると球根が十分肥大せず花の数が少なくなってきます。そのようなときは、開花後に葉が黄変し始めたら球根を掘り上げて選別し、植え替えてあげましょう。掘り上げる際は、球根を傷めないよう、株の周囲を大きく掘るようにします。
スイセンは美しい花姿に相反して、花や葉、球根まで全草に毒を持つ「有毒植物」です。このスイセンを食用と間違えて誤食してしまった食中毒のニュースが、毎年のように報じられています。植え場所を区別する、買ってきた球根を放置しておかない、など留意して自衛しましょう。
Credit
監修/畠山潤子
ガーデンライフアドバイザー
花好きの母のもと、幼少より花と緑に親しむ。1997年より本格的にガーデニングをはじめ、その奥深さや素晴らしさを、多くの人に知ってもらいたいと、ガーデンライフアドバイザーとして活動を開始する。ウェブ、情報誌、各種会報誌、新聞などで記事執筆や監修を行うほか、地元・岩手県の「花と緑のガーデン都市づくり」事業に協力。公共用花飾りの制作や講習会講師などの活動も行っている。
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