秋の花の代名詞ともいえるコスモス。高原で、郊外で、住宅街の庭先で、風に揺れる清楚なな花姿は、すっかりおなじみです。最近では春に種をまいて、夏から開花を楽しむケースが増えています。楽しめる期間が長くなると、もっとコスモスを増やして、たくさん花を咲かせたいと思いませんか。そこで、ここでは植物の「増やし方」についての基本とともに、コスモスを増やすのに適した時期や注意点などを詳しく紹介します。NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
コスモスを育てる前に知っておきたいこと
コスモスは一年草で、昼間の時間が短くなり始めると開花する、短日植物です。寒さには強くありませんが、日当たりと風通しがよい場所であれば、あまり土質を選ばずに育つので、初心者でも比較的育てやすい花です。
コスモスの基本データ
学名:Cosmos bipinnatus
科名:キク科
属名:コスモス属
原産地:メキシコ
和名:秋桜(アキザクラ)
英名:Cosmos
開花期:6~11月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、複色
発芽適温:20℃前後
生育適温:15~30℃
切り花の出回り時期:9~10月
花もち:5~10日
コスモスは、種からでも苗からでも育てられます。かつては春に種をまき、秋に花を楽しみました。近年は、それほど日の長さに影響されずに開花する早生品種が主流になり、春に種をまいて夏から開花を楽しむケースが増えています。
種から育てる場合、早生品種は早くまけばそれだけ開花も早くなります。晩生品種は早い時期に種まきすると、秋までに草丈が高くなりすぎるので、7月、または8月に入ってからまきましょう。早生品種もまく時期が遅ければ遅いほど、扱いやすい低い草丈で花を楽しめます。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
植物を育てる楽しみのひとつに、大切に育てた株をどんどん増やすことがあります。コスモスの増やし方を説明する前に、植物はどのようにして増やすことができるのか、まずはその方法について知っておきましょう。
一般的な植物の増やし方には大きく分けて、種による「種子繁殖」と、胚や種子を経由せずに、根、茎、葉などの栄養器官から繁殖する「栄養繁殖」があります。耳にする機会が多い、挿し木や接ぎ木などは「栄養繁殖」です。そのほかにもいろいろな方法があるので、簡単に説明していきましょう。
挿し木
成長期の植物の茎や葉などの部分を切り取って、用土や水に挿して発根させ、新たな株を作る方法。
取り木
枝や茎など親となる植物の一部に傷をつけて、そこから発根させたあとに切り離して、新たな株を得る方法。挿し木での繁殖が難しい場合でも、この方法で増やすことができます。観葉植物や樹木などで多く用いられます。
接ぎ木
植物には、2本の枝が強く交差して接していると、くっついて1本になるという性質があります。この性質を利用して、品種が同じか近縁の枝をつないで増やす方法です。主に果樹や果菜類に用いられます。
株分け
その名のとおり、親となる植物の株を根とともに分けて、複数の株を得ること。冬になっても根は枯れず、毎年花を咲かせる植物(宿根草)に向いている増やし方です。株が育ちすぎて大きくなったものや、老化してしまった植物を若返らせる効果もあります。
分球
スイセンやチューリップなどの球根植物に用いられる方法です。文字どおり“球”根を“分”けること。球根類は成長すると、親球から小さな子球(しきゅう)ができます。その子球を切り離して、数を増やしていきます。子球が増えすぎると、親球がやせたり花が咲きにくくなったりするので、何年かにいちど、この作業が必要になる植物もあります。
コスモスを増やす、最適な方法と時期
コスモスを増やす場合は、前述の方法のうち、「種まき」、「挿し木」の方法を使います。最適な時期は方法ごとに異なります。
種まきの適期
コスモスには、6月頃から開花する早生品種(開花期6~11月)と、9月以降に開花する晩生品種(開花期9~11月)があります。
コスモスの種を採って増やす場合は、品種によって異なりますが、いずれも開花後に花が枯れはじめてからが種の採取の適期です。
※「交配種」「○○交配」「F1」と種の袋に記載されているものは、育てたものと同じような特徴が出にくいです。変わった花が咲くことがあるので、また別の楽しみ方ができます。
挿し木の適期
こちらも品種によって異なりますが、早生品種は6月、晩生品種は6月頃が適期です。切り戻しをしたときに出る茎を利用してもいいでしょう。
4.知りたい! コスモスの増やし方「種まき」
準備するもの
・採取用の小さめの紙袋
・保存用紙袋もしくは密閉保存容器
・乾燥剤
種を採る手順
コスモスが開花し始めたら、花をたくさん咲かせるために、花がらを摘みます。しかし、花数が減り、花が終わりに近づいたら、種の採取へと意識を切り替え、花がらは摘まずに、そのままにして種を育てます。
6月頃から開花しはじめる早生品種、9月以降に開花する晩生品種、と品種によって時期は異なるので、どちらもコスモスの咲き具合を見ながら、花盛りが過ぎて寂しくなってきたな…という頃から準備にかかるとよいでしょう。
コスモスの種は、花の中心部分にできます。雄しべや雌しべが密集する、黄色の中心部に縦長の膨らみが現れます。それがコスモスの種です。しばらくして黒く目立つようになったら、採取するタイミングです。そのまま放置しておくと、種の部分がはじけ飛ぶので、その前に採取するようにしましょう。
採取してもよいかどうか見極めるには、花が枯れたあとに、花を支えている首部分の色を見ます。周囲の花と見比べて緑色が消えていれば、種を採取できるサインです。また、種ができていない場合は、手で触っても落ちることがないので、実際に手で触ってみるのもいいでしょう。
採取してもよいかどうか見極めるには、花が枯れたあとに、花を支えている首部分の色を見ます。周囲の花と見比べて緑色が消えていれば、種を採取できるサインです。この時期に採種しないと種がこぼれやすくなります。実際の手順を追ってみましょう。
①首部分(ガク)が緑色から黄緑色に変わった、花がらを選びます。その花のすぐ下で切り取り、紙袋に入れます。
②種の入った紙袋を洗濯ハンガーの洗濯バサミに挟み、日陰干しします。1か月ほど乾燥させます。
③採取した種は殻がついているものもあるので、息を吹きかけたり、扇風機やうちわなどで軽く風を当てたりして、種と殻を分け、種だけにします。
種の保存
種は乾燥後、湿気を吸い取ってくれる保存用の紙袋か密閉容器に除湿剤と一緒に入れます。そして、カビが生えないよう、涼しくて日が当たらない、湿気の少ない場所で翌年まで保管します。
コツと注意点
種の採取は、晴れた日に行いましょう。雨降りの日や雨上がりなど、湿気を含んでいる状態だと、種が腐ってしまう可能性があります。
知りたい! コスモスの増やし方「挿し木」
準備するもの
・鉢(鉢植えの場合)
・育苗箱や駄温鉢など
・挿し木用土(赤玉土やバーミキュライトなど肥料分のない新しい土)
・剪定用ハサミ(茎の導管を潰してしまわないよう、よく切れるもの)
・穴あけ用の細い棒
挿し木の手順
コスモスを挿し木する場合は、以下の手順で行いましょう。剪定時に切り戻しした茎を、利用することも可能です。
①新芽が伸びる前の茎の先を3節(※)ほど切り取ります。この切り取った茎を“挿し穂”といいます。※節とは、茎の中で葉や芽ができる部分のこと。
②挿し穂の切り口を、よく切れる剪定ハサミで斜めにもういちど切ります。切り口は1時間ほど、水につけておきます。
③茎についた葉のうち、挿し木をした際に土に埋まってしまう部分を切り取ります。また、上のほうの葉も、枚数が多い場合は、切り取って半分くらいに減らしておきましょう。
④挿し木の用土はあらかじめ充分湿らせておき、挿し穂を挿し込みやすくするために細い棒で穴を開けておきます。
⑤挿し穂を傷めないよう用土に挿し、隙間が生じないように、そっと土を寄せます。
⑥切り口から発根するまでは水を吸い上げる力が弱いので、土が乾燥しないように水やりをします。茎葉が萎れずにしゃっきりした状態を保ちましょう。新しい葉が数枚出てくれば、無事に発根しているサインです。
コツと注意点
コスモスは植え替えが苦手なので、挿し木をする場所も、植え替えをしなくてすむような庭か鉢植えがおすすめです。
挿し穂の葉を少なくするのは、切り口からしっかり水分を吸収させ、葉の蒸散(呼吸に合わせて水分が蒸気となって出ていくこと)による水分損失を少なくするためです。挿し穂は、これまで根から供給されていた水分が絶たれるため、挿し穂内の水分が不足するとしおれてしまいます。そのため葉の枚数を減らして、切り口から効率よく水分を吸収できるようにする必要があります。
また、挿し木をしたあと、すぐに日なたに置くと、やはり葉からの蒸散量が増えてしまいます。そこで、挿し木後半日くらいは半日陰に置いて、切り口からしっかり水が吸収できるようにしてあげましょう。
鉢に挿し木した場合は半日陰への移動も簡単です。一方、庭の花壇などに挿し木した場合は、ホームセンターなどで販売されている寒冷紗(かんれいしゃ/日差しを遮れるような資材)を利用して、日陰を作ってあげるとよいでしょう。寒冷紗の遮光率は30~50%くらいがおすすめです。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・岸田直子
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