チューリップを増やしたい! 最適な時期と方法、注意点を知っておきましょう
チューリップは、花色が豊富で、ユリ咲きや八重咲きなど、さまざまな花姿があります。春の花壇を彩るのに欠かせない植物で、秋に球根を植えつけます。その本格的な栽培が始まって普及し始めたのは、大正時代以降のこと。昭和初期より童謡にも歌われたことから、いまでは子どもから大人まで、誰もが知っている馴染み深い花となりました。チューリップは、どのようにすれば増やすことができるのか…増やしたいときに準備すべきことや、増やし方の手順を見てみましょう。All Aboutガイドで、ガーデンライフアドバイザーの畠山潤子さんにお聞きしました。
目次
チューリップを育てる前に知っておきたいこと
チューリップは秋植えの球根植物で、多種多様の品種があります。その数は5000種を超えるとも。花色や花姿が豊富で、早春から春の花壇の彩りとして、欠かせない植物です。
チューリップの基本データ
学名:Tulipa
科名:ユリ科
属名:チューリップ属
原産地:中央アジア~地中海
和名:鬱金香(ウコンコウ、ウッコンコウ)
英名:tulip
開花期:3~5月
花色:赤、ピンク、黄、オレンジ、白、緑、紫、黒、複色
生育適温:5~20℃前後
切り花の出回り時期:12~3月
花もち:5~7日
チューリップは、園芸ビギナーの方にも育てやすい植物です。チューリップを球根から育てるなら、秋、10~11月頃が植えつけの適期です。翌年の1月頃には芽出し球根のポット苗が出回ります。球根を植えそびれた場合は、このポット苗から育て始めるとよいでしょう。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
チューリップの増やし方の前に、植物はどのようにして増やすことができるのか、その方法について知っておきましょう。
一般的な植物の増やし方は、「種子繁殖」と「栄養繁殖」とに大別できます。
「種子繁殖」とは、その名のとおり種による繁殖方法です。
一方の「栄養繁殖」には、以下のような方法があります。
挿し木
葉、茎、根など植物体の一部を切り取って、用土や水に挿して発根させ、新たな個体を得る手法。
株分け
親となる植物を根とともに分けて、複数の株を得ること。いちどに得られる株数は少ないが、大株になったものや老化した株の更新にも用いられる手法。
接ぎ木
植物体の一部を、台木となる別の植物に接合して生育させる方法。病害に強い丈夫な個体を得るために、バラのほかトマトやキュウリ、ナスなどの果菜類にもよく用いられます。
取り木
親となる植物の一部に傷をつけて、発根させた後に親株から切り離して新たな個体を得ること。挿し木でうまくいかない植物でも増やすことができ、観葉植物や樹木などで多く用いられます。
球根
葉や茎、根が変化した部分に養分を蓄えたもの。変化した器官により、鱗茎、球茎、塊茎、根茎、塊根と分類されます。
このほかに、ムカゴや木子(きご)といった形で増える植物もあります。また家庭の園芸で行なうことはまずありませんが、「組織培養」という手法で人為的に増やす方法もあります。
球根は形態によって、5つに分類されます
チューリップは、球根植物に分類されます。ここでは、球根について、もう少し詳しく見てみましょう。球根は、茎や葉、根の一部などが肥大して、その内部に養分を蓄えていることが特徴です。肥大する部分によって、次の5つに分類されます。
葉が変化したもの
鱗茎(りんけい)
短縮化した茎の周囲に、養分を蓄えて厚くなった鱗片葉が層状に重なって球形を成しているもの。さらに、ふたつに分けられます。
「有皮鱗茎(層状鱗茎)」鱗茎のうち、薄皮に包まれているもの。⇒チューリップ、ヒヤシンス、タマネギなど
「無皮鱗茎(鱗状鱗茎)」鱗茎のうち、薄皮のないもの。⇒ユリ、フリチラリアなど
茎が変化したもの
球茎(きゅうけい)
地下茎の一種で、茎が養分を蓄えて球形に肥大したもので、薄皮に包まれています。⇒グラジオラス、クロッカス、クワイ、サトイモなど
塊茎(かいけい)
地下茎の一種で、茎が養分を蓄えて肥大し、塊状になったもの。薄皮はありません。⇒アネモネ、カラー、シクラメン、ジャガイモ、球根ベゴニアなど
根茎(こんけい)
横に這った地下茎が肥大化し、節から芽や根を出すもの。⇒タケ、ハス、フキカンナ、スズラン、ジャーマンアイリス、ハスなど
根が変化したもの
塊根(かいこん)
根が養分を蓄えて肥大化したもの。⇒ダリア、ラナンキュラス、サツマイモなど
チューリップを増やす、最適な方法と時期
前項で述べたように、チューリップは球根のなかでも、「有皮鱗茎」に分類されます。チューリップは、植えつけた母球に蓄積された栄養を使って花を咲かせるので、開花後には母球は小さくなってしまいます。代わりに、母球の脇に新しい球根(子球、側球)を形成します。チューリップは、この子球が再び栄養を蓄えて肥大して、次の世代の親(母球)となるのです。これを繰り返すことで、チューリップは増えていきます。
市販されている球根は、子球を分け(分球)、ひとつひとつの球根に手間ひまをかけて十分に肥大させたものです。
家庭で育てている場合は、球根を腐らせてしまわない限り、植えっぱなしでも構いません。
球根掘り上げの適期
チューリップは、早生が3月下旬~4月上旬、中生が4月上旬~中旬頃、晩生が4月下旬~5月上旬頃と開花期に開きがあります。球根の掘り上げは、いずれの種類でも、茎葉が枯れた5月末~6月初旬の晴れた日が適しています。
知りたい! チューリップの増やし方「球根の掘り上げ」
チューリップを増やすには、母球の周りにできる子球を肥大させる必要があります。そのため、花が終わったら、葉と花茎はそのまま残し、種ができる子房(花のあったところ)を手で摘み取ります。この作業をすることにより、種を作ることに費やされるエネルギーを球根に蓄えることができるのです。
このあと、葉が黄色く変色するまでは、通常どおり水やりを行います。葉が枯れ出したら、その葉は取り除いて構いません。
植え場所の都合などにより、チューリップの球根を掘り上げる場合も、葉が黄色く変色して枯れ始めてから行います。
準備するもの
・シャベル
・ネット袋
掘り上げの際は、鉢植えの場合は移植ゴテでも構いません。地植えの場合は、球根を傷めないよう大きく掘るため、穴掘り用のシャベルを使うほうがよいでしょう。
球根の掘り上げ手順
①葉が黄色く枯れたチューリップの球根を、傷つけないように掘り起こします。
②球根の周りの土を落とし、風通しのよい半日陰で乾燥させます。
③しっかり乾いたら、茎や葉や根を取り除き、球根だけの状態にします。
掘り上げた球根についている茎や葉は、すぐに取り除くこともできますが、乾いてからのほうが取りやすく、球根を傷めることもないでしょう。
茎や葉を取り除く際に、球根が自然に分かれてしまうことがあります。一方、いくつかの子球が薄皮に包まれて、ひと塊になっている場合は、無理に分ける必要はありません。
球根の保存
掘り上げた球根は、品種ごとに分けて名札をつけておきましょう。秋の植えつけ適期までネット袋に入れ、風通しのよい涼しい日陰で保管します。
コツと注意点
「チューリップを増やす、最適な方法と時期」で述べたように、翌年以降も花を楽しむには、花後に新たに形成された子球を肥大させる必要があります。しかし、球根を植えつける際に間隔を詰めすぎると(密植)、花が咲いたときは豪華ですが、そのあとの球根の十分な肥大はあまり望めません。そのため、翌年に開花できないことがあり、毎年、新しい球根を買い求めているという方も少なくないのではないでしょうか。しかし、今年は小さかった球根も、再び栄養を蓄えることで、太らせていくことができます。ぜひ、この機会に、前述したような花後の処理の仕方を覚えておきましょう。
また、これは必ずしも必要な作業ではありませんが、自分で掘り上げた球根を再度植えつけたい場合、球根の消毒をすると球根腐敗病の防除に役立ちます。方法は、掘り上げた球根を保存する前か、秋の植えつけ前に、ベンレート水和剤、もしくはオーソサイド水和剤やホーマイ水和剤などの殺菌剤を、使用説明書に従って水で薄め、そこにネット袋に入れた状態の球根を30分ほど浸け込みます。その後、陰干しをします。ただし、市販の球根では必要ありません。
チューリップの種まきについて
ここまで球根植物のチューリップの増やし方について述べてきましたが、チューリップも花が終わったあとに子房(雌しべの基部、種ができる部分)を取らずにおくと、ほかの植物のように種を結ぶことがあります。その種を採取して、種まきで増やすことも理論上は可能です。しかし、品種改良されたものは不稔(種ができない)のことが多く、うまく種が取れたとしても、必ずしも親と同じ性質を受け継ぐわけではありません。
チューリップの種は、採取してから開花できるようになるまで5~6年はかかるため、種まきでの栽培はあまり現実的とはいえないでしょう。とはいえ、うまく種が採れた場合、もしかしたら育苗後に思いがけない花姿を見せてくれるかもしれませんから、種まきにチャレンジしてみる価値はあると思います。
Credit
監修/畠山潤子
ガーデンライフアドバイザー
花好きの母のもと、幼少より花と緑に親しむ。1997年より本格的にガーデニングをはじめ、その奥深さや素晴らしさを、多くの人に知ってもらいたいと、ガーデンライフアドバイザーとして活動を開始する。ウェブ、情報誌、各種会報誌、新聞などで記事執筆や監修を行うほか、地元・岩手県の「花と緑のガーデン都市づくり」事業に協力。公共用花飾りの制作や講習会講師などの活動も行っている。
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