濃厚な香りが特徴的なゲッカビジン(月下美人)は、夜にまっ白い花を咲かせることで知られる多肉植物です。年にいちどしか開花しないイメージがありますが、じつは上手に育てれば複数回花を咲かせることができます。ゲッカビジン(月下美人)の育て方のコツや日々のお手入れについて、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。ポイントを押さえて、神秘的で美しいゲッカビジン(月下美人)の花を楽しみましょう。
目次
ゲッカビジン(月下美人)を育てる前に知っておきたいこと
ゲッカビジン(月下美人)を育てる前に、知っておきたい基本情報を見ていきましょう。
ゲッカビジン(月下美人)の基本データ
学名:Epiphyllum oxypetalum
科名:サボテン科
属名:クジャクサボテン属
原産地:中南米
和名: 月下美人(ゲッカビジン)
英名:Dutchman’s Pipe、Queen of the night
開花期:7~11月
花色:白
生育適温:8~10℃以上
ゲッカビジン(月下美人)は、高温多湿な環境を好む植物です。冬に気温が生育適温を下回ることが多い日本では、こまめな温度管理が必須です。また、株がある程度成長しないと開花しないため、美しい花を観賞するには根気よく世話を続ける必要があります
しかし、特別な栽培技術が必要というわけではないので、育て方のコツを押さえて株の状態に気を配っていけば、園芸ビギナーでも育てることが十分に可能な植物といえます。
ゲッカビジン(月下美人)は、「1年にいちどしか咲かない」というイメージが、一般にあります。しかし、株の状態や育て方によって、開花するのに十分な体力が回復すれば、年に複数回花を咲かせることもあります。一方、1年にいちども開花しないというのも、珍しくはありません。
このような誤った情報に加え、月明かりの下でまっ白な花を咲かせる様子が神秘的なことから、古くからさまざまな俗説が流布しています。たとえば、「満月の夜にしか咲かない」という話がありますが、実際には月の満ち欠けとゲッカビジン(月下美人)の開花に関係はありません。
ゲッカビジン(月下美人)という和名がついたいわれも、紹介しておきましょう。まだ皇太子だった昭和天皇が台湾を訪問した際、ゲッカビジン(月下美人)の花の美しさに目を奪われ、駐在大使に花の名を訪ねました。その時に「月下の美人です」と大使が答えたことから、ゲッカビジン(月下美人)という和名がつけられたそうです。
種類を知ると、選び方がわかります
日本では、当初は原産地から持ち帰った、ひとつの株から増やしたもののみが流通し、自家不和合性(じかふわごうせい ※1)により、人工授精しても果実が実ることはありませんでした。
現在は複数の株から増やしたものが出回っているため、人工授粉で果実を採取することが可能です。一般的にゲッカビジン(月下美人)として流通しているものは原種のみで、他の種類はないため、選び方で困ることはないでしょう。
近年は、「ヒメゲッカビジン(姫月下美人)」などの近縁種(※2)との交配が、盛んに行われています。
※1「自家不和合性」 特定の被子植物において、同一の遺伝子構成を持つ植物の柱頭(めしべの先端)に花粉が受粉しても、種子が形成されない性質のこと。
※2「近縁種」 明確な定義はないものの、一般的には「属」が同じ別種を指します。
ゲッカビジン(月下美人)を育てるときに必要な準備は?
ゲッカビジン(月下美人)を育てるときは、以下のものを用意しましょう。
準備するもの
・ゲッカビジン(月下美人)の株
・鉢
・土
・肥料
・鉢底ネット
・鉢底石
ゲッカビジン(月下美人)の栽培には、通気性がよい素焼きの鉢が最適です。根腐れを起こさないように、5号鉢(直径15㎝)にひと株を目安に植えていきます。鉢底には鉢底石を敷いて、水はけをよくしてください。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
ゲッカビジン(月下美人)の栽培に最適な土作りのコツは、排水性を意識することです。市販の「シャコバサボテン用培養土」は、ゲッカビジン(月下美人)の栽培に最適なバランスで配合されているので、初心者におすすめです。
自分でブレンドする場合には、赤玉土5・腐葉土3・鹿沼土2の割合で、土を用意。ゆっくり長い時間をかけて効果が出る遅延性の粒状肥料とともに混ぜ合わせます。
ゲッカビジン(月下美人)の育て方にはポイントがあります
ゲッカビジン(月下美人)は、市販の株を購入して育てるのが一般的です。種から育てることも可能ですが、種を採取するのに時間がかかり容易でないこと、市場で種の流通が少ないことが、その理由です。
ここからは、ゲッカビジン(月下美人)を苗から育てる場合の育て方やポイントについて解説します。
月下美人の育て方~苗から始める~
苗の選び方
ゲッカビジン(月下美人)の株は、4~6月頃に園芸店やホームセンターなどで販売されます。株がしっかりしていいて、葉にシワがない株を選ぶのが、元気な株を見分けるコツです。虫がついていないかも確認しましょう。
植えつけ時期と方法
ゲッカビジン(月下美人)の植えつけに最適な時期は、5~9月です。ただし、植えつけ後は、しばらく日陰で管理して少しずつ日光に慣らす必要があるため、日光の強い真夏の植えつけは避けたほうが無難です。植えつけ手順は、下記のとおりです。
①株をポットから抜きます。
②古い土や腐った根を取り除きます。
③鉢の底に鉢底ネットを敷き、鉢底石を1/4程度入れます。
④土を1/3程度入れて、株を鉢のまん中に置きます。
⑤鉢の上部から2㎝程度空けて、細部までしっかりと土を詰めます。
ゲッカビジン(月下美人)と仲よくなる、日々のお手入れ
水やりのタイミング
ゲッカビジン(月下美人)は多肉植物のなかでは、水を好む植物です。成長期である春~秋にかけては、土の表面が乾いたら水やりをします。水は、鉢底から流れ出るくらいたっぷり与えるようにしてください。土の中に溜まった不要物を取り除き、新鮮な空気を取り入れてくれます。
休眠期である冬の水やりは、土が完全に乾いたタイミングで、月に2、3回程度に抑えます。土が湿る程度の少量の水で十分です。
肥料の施し方
ゲッカビジン(月下美人)は、チッ素の多い肥料を与えると花芽がつきにくく、葉茎だけが育ってしまうことがあります。リン酸やカリウムが多く含まれた肥料を与えて、株の成長を促しましょう。
4~9月頃は、40~60日にいちどの頻度で緩効性肥料を株元に置きます。10月には月に2回、液体肥料を施しましょう。11~3月は休眠期にあたるため、肥料は不要です。
立派に育てるための、植え替え時期と方法
ゲッカビジン(月下美人)の株を大きく育てるには、株の大きさに適した鉢へ植え替えることが重要です。5~9月の暖かい時期に、株の成長度合いを見ながら2年にいちどのペースで、ひと回り大きな鉢に植え替えを行ってください。植え替え方法は、下記のとおりです。
①株を古い鉢から抜きます。
②古い土や腐った根を取り除きます。
③新しい鉢の底に鉢底ネットを敷き、鉢底石を1/4程度入れます。
④土を1/3程度入れて、株を鉢のまん中に置きます。
⑤鉢の上部から2㎝程度空けて、細部までしっかりと土を詰めます。
剪定を行うときは、時期に注意しましょう
ゲッカビジン(月下美人)の剪定に最適な時期は、9~10月の開花期後半です。「切り戻し」という、不要な部分を切って、元の状態に戻す剪定方法で行いましょう。具体的な手順は、下記のとおりです。
①枯れている茎や葉は、根元から切り落とします。
②伸びすぎた茎や葉は、室内に取り込む邪魔にならない程度に切ります。
ゲッカビジン(月下美人)は大株になるほど花が咲きやすいという性質があるため、伸びすぎた部分は切りすぎないように注意します。
また、ゲッカビジン(月下美人)の株元からは、「シュート」と呼ばれる棒状の茎が伸びます。シュートが伸びすぎてしまうと花芽がつきにくくなるので、時期に関らず、適当な長さで切り戻しましょう。切ったところから平らな茎が伸び、花芽がつきます。
シュートを根元から切ってしまうと、新しいシュートが出なくなってしまうので、先のほうだけを切るようにしてください。
知りたい! ゲッカビジン(月下美人)の増やし方
種の採取の時期と方法
ゲッカビジン(月下美人)は開花するまでに時間がかかり、さらに果実を実らせるには、別々の株を元にしたクローン株を交配する必要があります。増やしたいときには、後述する挿し木を行うとよいでしょう。
挿し木の時期と方法
ゲッカビジン(月下美人)は挿し木を行えば、簡単に増やすことができます。この方法では、植え替えや剪定で切り取った茎を利用できます。挿し木に最適な時期は、5~9月。手順は下記のとおりです。
①切り落としたゲッカビジン(月下美人)の茎を、15~30㎝程度の長さに切り分けます。
②日陰で1週間ほど乾燥させて、切り口をふさぎます。
③乾いた赤玉土や鹿沼土を鉢に入れ、茎を浅く挿します。
④風通しがよい明るい日陰に置き、1週間経過したら、10日にいちどの割合で土が湿る程度の少量の水やりをしながら管理します。
⑤1か月ほどで発根するので、根がある程度伸びたら、肥料を混ぜていない土に植え替えます。
⑥新芽が5㎝程度伸びたら、肥料を施します。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
ゲッカビジン(月下美人)は、特定の病気にかかりやすい性質は持ち合わせていませんが、根腐れや害虫が原因の病気にかかることがあります。症状が現れたら早めに対策できるよう、予防をしっかり行うとともに、毎日株の状態を観察するようにしましょう。
赤枯れ病
根腐れや根詰まりが原因で発病し、葉が茶色く変色し枯れてしまいます。傷んだ葉を正常な部分まで切り落とし、腐った根を取り除き、新しい土に植え替えましょう。予防するためには、時期や株の状況にあわせて、適切な水やり管理をすることが重要です。
すす病
後述するカイガラムシの排泄物が原因で発病し、葉が黒ずんだり黒い斑点が現れたりします。症状が現れた部分に殺菌剤を塗布し、すす病菌を殺菌してください。
病変部がわずかな場合は、切り戻しも併せて行うようにします。予防するためには、害虫の駆除が第一なので、次項で紹介する害虫対策を徹底しましょう。
育てるときに注意したい害虫
ゲッカビジン(月下美人)は、とりわけ虫がつきやすいということはありませんが、年間を通して他の植物でも見かける一般的な害虫がつくことがあります。毎日異変がないか観察し、虫がついている場合には早めに対処しましょう。
カイガラムシ
表面が硬い殻で覆われた白い虫で、葉や茎につきます。前述した、すす病の原因となることがあるので、早急に駆除しましょう。以前は歯ブラシなどを使ってこすり落としましたが、数年前からカイガラムシ専用のスプレー殺虫剤が発売されています。風通しの悪い場所だと発生しやすいので、通気性のよい場所に鉢を置くようにしてください。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
文・ランサーズ
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