植物を育てていると、好むと好まざるとにかかわらずお付き合いの始まる相手が、虫。今回は、できれば出会いたくないナメクジの忌避方法をご紹介します。人にとっては素晴らしい香りの「あの植物」で、ナメクジは一目散に逃げるんですよ!
ナメクジは雑食性で植物、ペットのエサ、手紙まで食べます
発芽したばかりの植物の芽は、どれも可愛らしいものです。日に日に育っていく様子を見守るのは、ささやかながら幸福感があります。しかしある日突然、そのささやかな幸せをぶち壊す事件が起きます。昨日までお日様を目指して精一杯背伸びをしていた若葉が、突如として消えてしまったのです。葉を失った弱々しい茎が、楊枝を土に刺したように立つ姿。一瞬、視力の著しい低下を疑いますが、錯覚ではないことが分かると同時に、黒い疑念が渦巻き始めます。「一体どうして? 誰がこんなことを? まさかあの人が…?!」。サスペンスドラマでは大抵こんな時、必ず現場に事件解決の糸口が残されています。ベテラン刑事さながら現場を観察してみると、何やら銀色の細い筋が…。
そう、犯人はナメクジ。ヌラヌラと光るジメジメゾーンの住人は、平安時代の女流歌人、清少納言も「いみじうきたなきもの なめくぢ」とわざわざ書き残すほどの歴史的嫌われ者です。代表的な庭の害虫として知られていますが、実は虫ではなく陸に生息する巻き貝の仲間で、元々はカタツムリのように貝殻を背負っていたものが、殻を脱ぎ捨てて進化したのがナメクジです。カタツムリは殻の中に内臓をしまっていますが、ナメクジは全身を筋肉で覆い、その中に内臓をしまうことで、より身軽に行動範囲を広げたと考えられています。「殻を脱ぎ捨てて、広い世界へ」という青春のキャッチコピーのような進化を遂げたナメクジですが、そのフロンティア精神で人家の中にも侵入しては余計に嫌われています。新芽を食害するだけでなく、花や野菜、肉、ペットのエサ、郵便ポストの中の手紙までかじる雑食性です。ちなみにカタツムリは殻の生成にカルシウムを必要とするため、コンクリートやブロック塀も食べます。果たしておいしいのでしょうか。それはさておき、ナメクジは雨の日以外は主に夜活動し、日中、日が高いときは植木鉢の裏や落ち葉の下などにいます。
ナメクジ退治の塩は植物を傷める心配があります
さて、せっかく育てた花をナメクジに食害されないためにはどうしたらよいのでしょう。最もよく知られているナメクジの退治方法は塩ですが、あるガーデンデザイナーはフランスでの修行時代、早朝塩水の入ったバケツを持って庭を巡回し、バケツいっぱいのナメクジを取るのが日課だったそうです。ただし、塩はナメクジを退治するのには有効ですが、植物の成長を阻害するので、決して庭中に塩をまいたり、塩水を植物にかけたりするのはやめましょう。また、イギリスのガーデンでは、ナメクジが大好物なアヒルがナメクジ・ハンターとして活躍していますので、もしアヒルなどを飼える環境ならその手もあり。しかし、我々は別にナメクジを全滅させたいわけではなく、あくまでも食害を防ぎたいだけであり、できれば殺したくないし、むしろ触りたくないし、見たくもないというのが本音です。つまり、庭や家に入って来ないでくれれば、人もナメクジもハッピー。
ナメクジにラベンダー!小学生の貴重なナメクジ研究結果
人とナメクジの不幸な出会いを避けるために、ナメクジの回避方法についてまとめた研究報告があります。なんと研究者は小学生。2004年静岡市立田町小学校、当時6年生だった長田頼河さんは、夏休みの自由研究で3年生の頃からナメクジを題材として継続的に研究を行い、6年生で発表した「ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究」は、第48回静岡県学生科学賞・県科学教育振興委員会賞を受賞しました。市販の忌避剤やコーヒー、唐辛子など忌避効果が予想されるさまざまな素材を用いた比較実験の中で、最終的に最も効果が高かったのはラベンダーの精油と木酢液。どちらも強い香りのあるものですが、実はナメクジは高度な嗅覚学習機能があり、嗅覚と味覚を連動させて学習することが分かっています。編集部でもラベンダーオイルをナメクジの進行方向へ数滴垂らしてみたところ、全員の動きが瞬時にピタッと止まり、きびすを返して反対方向へ逃げて行くことを確認しました。
長田さんは実験のまとめに、大変心優しい解決方法を示していますので、どうぞご参考に。
「今後の課題と感想」
小3の時からずっとナメクジの研究を続けてきて、ぼくはナメクジのことがとても好きになった。だから今回の研究も、ナメクジが殺されないでいるためにはどうしたらいいのか、どうしたら立ち入り禁止の信号をナメクジに伝えることができるのかと考えたのが研究の初めだった。
研究をしてみて、身近にあるラベンダーや木酢液にその効果があることがわかったのでとてもうれしかった。
それで、ぼくなりにどういう花壇にしたらナメクジと、花や野菜がどちらもうまく育っていけるのかを考えてみた。1.花壇や鉢を植え込むときにはラベンダーも一緒に植え込む。
2.木酢液には花や野菜の栄養となる有機物もいっぱい入っているそうなので、時々うすめて葉や根元にかけてやる。
3.人間が加工した花壇や鉢植えだけではなく、自然のほったらかしの状態の所を他の生物のために残しておく。」長田頼河さんの「ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究」
◉実験の経過の詳細はこちらでご覧いただけます。
http://park2.wakwak.com/~heiwa008/04name/04namekuji0.htm
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
Photo/5)koenigpunk/ 8)Kuttelvaserova Stuchelova/ 9)johan.lebedevski/Shutterstock.com, 他)3and garden
新着記事
-
ガーデン&ショップ
「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」 ガーデナー5名の“庭づくり”をレポート!
第3回目となる「東京パークガーデンアワード」が、東京・世田谷区にある都立砧公園でキックオフ! 作庭期間は、2024年12月中旬に5日間設けられ、書類審査で選ばれた5名の入賞者がそれぞれ独自の手法で、植物選びや…
-
宿根草・多年草
花束のような華やかさ! 「ラナンキュラス・ラックス」で贅沢な春を楽しもう【苗予約開始】PR
春の訪れを告げる植物の中でも、近年ガーデンに欠かせない花としてファンが急増中の「ラナンキュラス・ラックス」。咲き進むにつれさまざまな表情を見せてくれて、一度育てると誰しもが虜になる魅力的な花ですが、…
-
ガーデン&ショップ
都立公園を新たな花の魅力で彩る「第3回 東京パークガーデンアワード」都立砧公園で始動
新しい発想を生かした花壇デザインを競うコンテストとして注目されている「東京パークガーデンアワード」。第3回コンテストが、都立砧公園(東京都世田谷区)を舞台に、いよいよスタートしました。2024年12月には、…