星のような形の葉が愛らしいアイビー。つる性植物の代表ともいえる人気の観葉植物で、学名でもある「ヘデラ」と呼ばれることもあります。葉色や斑入りのバリエーションが豊富で、寄せ植えやフラワーアレンジメントなどにもよく使われます。アイビーを元気に育てるための肥料の与え方とその注意点を、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
アイビーを育てる前に知っておきたいこと
鉢から垂れ下がるように伸びたつるが、ナチュラルでさわやかな雰囲気のあるアイビー。常緑の観葉植物で、花よりも葉を観賞する植物です。実際、開花するアイビーの品種は限られており、開花品種であっても花がつくまでには数年かかり開花時期も短いため、アイビーを長く育てている人でも花を見ることができるのはめずらしいようです。
アイビーの基本データ
学名:Hedera
科名:ウコギ科
属名:キヅタ属
原産地: 北アフリカ、ヨーロッパ、アジア
和名: キヅタ
英名:Ivy
開花期:9〜12月
花色:黄緑、黄、ピンク
生育適温:0〜30℃
アイビーは丈夫な性質のため初心者でも育てやすく、トピアリーなどに這わせた立体的な楽しみ方も気軽にできます。鉢植えのインテリア・グリーンとして育てる人が多い植物ですが、寒さや暑さに強く日陰でも比較的よく育つため、フェンスに這わせたりグランドカバーにしたり、庭で活用するのもおすすめです。
ホームセンターや街の花屋さんはもちろん、インテリアショップや雑貨店などでも鉢植えされたアイビーを見かけることができます。小さなミニ観葉であれば100円ショップなどでも苗を購入でき、そういったものでも上手に管理すれば大きく育てることができます。
また、土いじりが苦手という人には、ハイドロカルチャーという手も。ハイドロカルチャーとは水耕栽培のことで、ふつうの用土の代わりに水耕栽培用の素焼きの土を使用します。アイビーはハイドロカルチャーでも育てられる植物なので、室内を土で汚すことなく楽しめます。
アイビーには栄養を補うための肥料が必要です
実はアイビーは、一般的な植物と比べると、肥料が少なくても育てることができる植物です。ただし、丈夫でつやのあるみずみずしい葉をたくさんつけさせるには、やはり肥料が必要です。特に鉢植えの場合は、水やりのたびに土の中の栄養成分が流れ出てしまいますので、長期間肥料を与えないでいると生育にも影響が出てきます。たくさん与える必要はありませんが、生育期に適量の肥料を施すことで元気なアイビーに成長します。
種類を知ることが、適した肥料選びの近道
肥料にはどういうものがあるか
植物に与える肥料には、液体のものと固形のものがありますが、肥料の成分、効き方でもそれぞれの種類があります。
成分の違いでは有機質肥料と無機質肥料があります。有機質肥料が動物や植物など自然のものから作った肥料であるのに対し、無機質肥料は化学的に作られたものです。それぞれの肥料をもう少しくわしく説明していきましょう。
有機質肥料
動植物由来のもので、動物のふんや骨粉、油かす、落ち葉や生ごみの堆肥などがあります。土の中の微生物が肥料を分解し、それが植物の根に吸収されていくため、肥料の効果が出るまでに時間がかかります。
無機質肥料
鉱物などを原料として化学的に合成した肥料で、化成肥料ともいいます。化成肥料は初心者でも扱いやすいですが、多くやりすぎると植物にダメージを与えることがあるので、容量や使用方法に注意が必要です。
また、効き方の違いでは、効き目がゆっくりと現れ持続効果の長い緩効性肥料や遅効性肥料と、効き目は早いけれど持続時間の短い速効性肥料とがあります。
緩効性肥料
遅効性肥料と呼ばれることもあります。肥料成分がゆっくりと溶け出し、数か月から一年以上にわたって効果が持続します。固形肥料が一般的で、庭に植え付けるときの元肥(もとごえ)や、鉢植えでの置き肥(おきごえ)などに使われます。有機質肥料の多くは緩効性・遅効性の肥料です。
速効性肥料
速効性肥料は肥料成分がすぐに溶け出しますが、持続期間が短いのが特徴です。植物の開花期や最盛期など特定の時期に追肥(ついひ)として使われるのが一般的です。速効性肥料は液体肥料が多く、原液のまま使うものと薄めて使うものがありますので、使用方法に沿って使うことが重要です。
アイビーの場合は、庭への植えつけや鉢の植え替えの際に元肥として緩効性肥料を施し、生育期に緩効性肥料を置き肥するか、液体の速効性肥料を与えます。アイビーを鉢植えなどで楽しんでいる場合は、液体の速効性肥料を水やりの時に一緒に施すのが便利でおすすめです。
植物に必要な、肥料の三大要素
植物を育てるためにはさまざまな養分が必要ですが、なかでも欠かすことのできない三大要素は、「窒素(N)」「リン酸(P)」「カリ(K)」と言われています。そのため肥料にもこれらの栄養素が含まれたものが最適です。
肥料のラベルには、略号で三大栄養の配合割合が表示されています。たとえば、N-P-K=6-10-5と書かれていれば、窒素6%、リン酸10%、カリ5%がその肥料に含まれていることを表しています。
窒素(N)
窒素は細胞の元となるタンパク質を作り、葉や茎を育て光合成をするのに欠かせない葉緑素を作る助けもします。窒素が足りなくなると、色が薄くなったり元気がなくなったり、与えすぎると葉だけが茂りすぎたり、茎が細くひょろりと伸びる徒長がおきます。
リン酸(P)
リン酸は植物に元気を与え、苗や根の成長を促し、花や実や種がよくできるように働きます。リン酸が不足すると、根が十分育たず生育が鈍くなり、下葉や茎の色が暗くなって落ちる葉が多くなります。
カリ(K)
カリはカリウムのことで、葉緑素の生育、特に根の発育を促し、茎や葉を元気にします。また植物の体内で水分がうまく行き渡るのを助け、浸透圧や酸性度を調整します。カリウムが足りなくなると、茎が弱くなり、下葉が痛みやすくなります。逆に与えすぎるとカルシウムなどが不足することがあります。
アイビーには葉の色を鮮やかにする窒素成分がやや多めの肥料がおすすめです。
三大栄要素以外に植物に必要な栄養は?
三大栄要素は植物にとってなくてはならない必須の養分ですが、それ以外に、カルシウム、マグネシウムなども植物の成長に必要です。一般に植物を育てる土は弱酸性がよいとされていますが、日本の土は酸性に傾きやすいため土壌改良が必要です。その際によく使われるのが市販の「苦土石灰」で、これにはカルシウムとマグネシウムがミックスされています。
またごく微量でも必要となるものには、銅、亜鉛、マンガン、鉄、ホウ素、塩素などがあります。こういった要素は、単品で与えるよりも、市販の肥料の中に含まれているものとして覚えておけばよいと思います。
肥料を与え始める、時期とタイミング
肥料の与え方には、植物を庭に植えつける時や鉢の植え替え時に与える「元肥(もとごえ)」と、栽培中に与える「追肥(ついひ)」があります。
元肥は土全体に肥料を混ぜ込む場合と、苗を植える穴に適量埋め込む場合があります。アイビーの元肥は、土全体に混ぜ込むように与えます。元肥の肥料には、効き目がゆっくりで効果が長続きする緩効性肥料や遅効性肥料を用います。鉢植えの場合は、市販の培養土に肥料が混ぜ込まれているものもあるため、必要に応じて元肥を与えます。
元肥は効果が持続するといっても、時間が経てば土の中の栄養分は薄れてきます。特に鉢植えの場合は、水やりの際に養分も流れますので、庭植えのものよりも追肥が必要です。追肥に使うのは効き目の速くでる速効性肥料が求められます。水やりの時に一緒に施せる液体肥料がよく使われますが、固形状の化成肥料を土の上に置く「置き肥(おきごえ)」の形で施されることもあります。
アイビーにはそれほど追肥は必要ありませんが、4~9月の生育期やこんもりと茂らせて育てたい時などは、追肥を施すことでよく育ちます。ただし、厳しい暑さの期間中の追肥は控えます。
アイビーへの肥料の与え方が知りたい
まずは、鉢を植え替える時に、用土に規定量の緩効性肥料を混ぜ込んで元肥を施します。生育期の4〜9月は、液体肥料を2週間に1回程度与えます。水やりとあわせて行うとよいでしょう。ハイドロカルチャーの場合も、水やりの水に肥料の濃度を合わせて、水やりと一緒に与えます。どちらも冬は肥料を与える必要はありません。
寄せ植えのひとつにアイビーを入れている場合は、液体の追肥を施すとアイビーばかりが茂ってしまうことがあります。寄せ植えの時は、緩効性肥料の置き肥がおすすめです。
アイビーに肥料を与えるときの注意点は?
アイビーは肥料が控えめでも育つので、肥料のやりすぎはNGです。購入したばかりの鉢植えは、土の中にどれくらい肥料が含まれているかわかりにくいので、3〜4週間は肥料を与えず様子をみてもよいでしょう。
肥料をあげすぎると「肥料やけ」が起きます
肥料やけとは、過剰な肥料のせいで根の機能が弱まり、栄養を吸収できないようにしてしまうことです。栄養が吸収できないのですから、ひどくなればそのまま枯れてしまいます。葉の色が黒っぽくなってきたり、全体がしおれたようになってきたりしたら、肥料やけの可能性があります。アイビーの場合は、心配なら1年くらいは肥料なしでも育ちますので、与えすぎるよりは控えめのほうが安心です。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・ブライズヘッド
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