夏の定番植物であるアサガオ。時期ともなると、軒先に昔ながらの駄温鉢に行灯仕立てされた大輪アサガオの姿を見かけたり、簾や葦簀とともに掛けられたネットを青空めがけて這い登るアサガオを目にしたりすることがあるでしょう。アサガオは、自分で種をまいたり市販の苗から育てたり、また花つきの鉢植えを買い求めて楽しむことができます。このアサガオの花をたくさん咲かせ、よい状態で長く楽しむためには、土が重要。ここでは、アサガオの植え替えと適した土について、掘り下げてみましょう。All Aboutガイドで、ガーデンライフアドバイザーの畠山潤子さんにお聞きしました。
目次
アサガオを育てる前に知っておきたいこと
アサガオは、朝花開き、その日のうちに萎んで終わる「一日花」。一方で、毎日次々と新しい花を咲かせます。アサガオを使って、近年、地球温暖化対策のひとつとして注目されている「緑のカーテン」を作ることもできます。
またアサガオは、種からでも育てやすい植物でありながら、江戸時代には交配させることで、さまざまな変化に富んだアサガオを作出することが一大ブームとなりました。人々の暮らしと密接にかかわってきた歴史をもつ、奥深い植物でもあります。
アサガオの基本データ
学名:Ipomoea nil
科名:ヒルガオ科
属名:サツマイモ属
原産地:熱帯から亜熱帯地域
和名:朝顔(アサガオ)
英名:Morning glory
開花期:7~9月
花色:赤、ピンク、白、青、紫、複色
発芽適温:20~25℃
生育適温:20~25℃
アサガオを種から育てるなら、5月の連休明けから6月いっぱいくらいまでが適期です。5月以降はポット苗も出回り始めます。夏の遮光に、緑のカーテンを作りたい場合は、早めに植えつけましょう。
アサガオにとっての、土の役割とは…
アサガオは土中に根を張り巡らせることで、自分自身の体を支えています。同時に、土中の根で呼吸を行ったり、水で溶け出した土中の栄養分を根から吸い上げたりしています。つまりアサガオの根は、人間でいうと体を支えるための足であり、呼吸をするための肺であり、また栄養補給をするための口(胃)であるといえるでしょう。
土は、その大切な根を、夏の強い日差しや高温、乾燥、風といった、急激な環境変化から守る役割も担っています。これは人間にたとえると、「住まい」にあたる役割になります。
元気に育てるための、アサガオの土作り
用土とは、園芸で使われる土のこと。さまざまな種類があります(※後述)。培養土とは、数種類の用土がブレンドされ、そのまま使用できる土のことです。
アサガオを鉢に植え替えるときに使用する用土は、一般的な市販の草花用培養土で問題ありません。しかし、製品によって水はけや水もちは多少異なります。各々の水やりのクセ、温度や風通しなどの環境によって、土の乾き具合が変わることを覚えておきましょう。
使用した培養土の水もちが悪いと感じる場合には堆肥や腐葉土を、水はけが悪いと感じる場合には川砂を足すことで改善できます。
自分で用土(※後述)をブレンドして作る場合には、赤玉土と腐葉土を6:4の割合で混ぜるか、赤玉土、堆肥、腐葉土を6:2:2の割合で混ぜます。
アサガオは酸性土を嫌うため、中和のために苦土石灰を施したり、用土に籾殻くん炭を混ぜたりすることも有効です。
いずれの場合も、あらかじめ元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。
なお、アサガオの植え替えには、清潔で新しい培養土を使用してください。古い土には病原菌が潜んでいることがあります。そのまま使い回すと、アサガオでは「蔓割れ病」や「立ち枯れ病」などの病害が発生する恐れがあります。
よい土は、水はけ、水もちに優れています
アサガオの栽培には、栄養分に富み、水はけ(排水性)、水もち(保水性)、通気性、保肥性に優れた「よい土」が必要です。
「よい土」とは、園芸用語でいう「団粒構造をもつ土」のことです。団粒構造とは、砂や粘土など、さまざまな土の粒子(単粒)がくっつきあって、小さな固まり(団粒)を形成して重なっている状態を指します。団粒のなかには小さい隙間が、団粒と団粒の間には大きな隙間があります。それらの隙間が、それぞれ排水、通気、保水、保肥に役立ち、植物が根を張りやすい環境を作っているのです。このようなよい土は、フカフカとしていて、よい匂いがします。
ホームセンターや園芸店には、たくさんの土が販売されています。あらかじめメーカーでブレンドされ、袋詰めされた培養土のほかに、「赤玉土」とか「黒土」などの用土も販売されているので、特に園芸ビギナーの方はどれを買ってよいのか迷うかもしれません。次の項で紹介する用土の特性を参考に、育てる環境や選んだ商品に合わせて、混ぜる用土を見極め、「よい土」に仕立ててください。
補足として、赤玉土7~6:腐葉土3~4のブレンドは、ベースとしてほとんどの植物に使えるので、覚えておくとよいでしょう。
種類を知ることが、適した土作りへの近道
土の種類について知ることは、植物栽培に必要な「よい土」作りに役立ちます。ここでは、ひととおり、土の種類とその特徴を見てみましょう。
黒土
畑土などにみられる、黒い土。粒子が細かく、多用すると水はけが悪くなるため、コンテナなどの容器栽培には不向きとされています。
赤玉土
関東ローム層の赤土をふるって粒子を揃えたもので、水はけ、水もちがよいのが特徴。小粒・中粒・大粒と選別されて袋詰めになっています。他の用土とブレンドして使うときは、中~小粒のものを選びます。
鹿沼土
栃木県鹿沼地方で産出される粒状の軽い土。水はけ、水もちがよく、性質は赤玉土に似ています。酸性なのでツツジやサツキ、山野草などの栽培向き。
腐葉土
広葉樹の落ち葉を腐熟させたもので、水はけ、水もち、通気性に優れています。肥料分はそれほどありませんが、土中の微生物を増やして土を活性化する働きがあります。袋を開けたとき、カビや嫌な匂いのするものは使用を避け、しっかり完熟したものを使いましょう。
堆肥
藁、落葉、野菜くずなどを腐熟させたもので、土中の微生物を増やし、水はけや通気性をよくする働きがあります。腐葉土よりは、有機質の肥料分が含まれます。 腐葉土同様に、しっかり完熟したものを使います。
ピートモス
水ゴケ、シダなどが堆積し泥炭化したもので、軽くて水もち、通気性がよいのが特徴。 酸性が強いので、一般的な草花には「酸度調整済み」のもの、酸性の土を好む植物には「酸度未調整」と表記されたもの、と使い分けてください。
バーミキュライト
蛭石を高熱処理して膨張させた人工用土で、軽いのが特徴。水はけ、通気性、保肥力に優れています。
パーライト
真珠岩を高熱処理して膨張させた、白い粒状の軽い人工用土。 配合することで、水はけ、通気性がよくなります。
砂
水はけや通気性をよくするために用いられます。川砂が一般的ですが、 群馬県桐生地方で産出される「桐生砂」や、富士山周辺から産出される「富士砂」は火山砂礫で、主に山野草の栽培などに使われます。
水ゴケ
湿原のコケ類を乾燥させたもの。軽くて通気性がよく、保水性に優れています。
籾殻くん炭
籾殻を燻して炭化させたもの。水もち、通気性に優れ、根腐れ防止の効果があります。アルカリ性なので、酸性土の中和にも使われます。
たとえば、いつも水やりしすぎて過湿で植物を枯らしてしまう方なら、ベースに砂やパーライトを加えることで、水はけをよくすることができます。用土の種類と特性を知っていれば、このように、自身で調整し、より「よい土」を作ることができるのです。
※市販の「○○用」などと銘打った培養土は、これら用土の特性を生かして、配合割合を各社で研究してブレンドしたものになります。
アサガオの、植え替えの時期と頻度
種を鉢で育てる場合や、市販の苗から育て始めるときは、植え替え作業(定植)が必要になります。
植え替えのタイミングは、本葉が3~4枚くらい展開した頃が適期です。アサガオは1年草ですから、ひとつの鉢での植え替えは1回になります。
また、花つきの鉢植えを入手したときなどで、鉢底から根がはみ出してしまったら、そのままでは根詰まりを起こす可能性があります(すでに根詰まり状態のときも)。このような場合には、「鉢増し」といって、ひと回り大きい鉢に植え替える作業を行うことで、根詰まりを回避します。
種を地植えで育てる場合は、5月の連休明けから6月いっぱいくらいまでに植えつけを行います。このとき、植え替えの必要はありません。
土のほか、植え替え時に準備したいもの
用土について理解を深めたら、実際の植え替えを紹介しましょう。アサガオの苗を鉢に植え替えるときは、以下のものを用意します。
準備するもの(鉢植え、地植え共通)
・適した土(前述のとおり)
・植え替えするアサガオの苗
・支柱またはネット
・土入れ、またはスコップ
・ジョウロ
*鉢植えの場合は、下記のものも用意
・6号以上の鉢、または横長プランター
・鉢底石
・鉢底ネット
アサガオの植え替え用の鉢は、6号(直径18㎝程度)以上のものが望ましいです。緑のカーテンを作る場合は、幅60~70㎝の横長プランターを準備すれば、2~3株植えられます。
アサガオは、自分の体を支える“蔓”を絡ませて上へ上へと成長していくので、支柱や緑のカーテン用のネットを準備しておきます。あらかじめ、行灯仕立てにできるように組まれた支柱を使う場合は、鉢の大きさに合ったものを用意してください。
また、アサガオは、日向を好みます。植え場所や鉢の置き場所も考慮しておきましょう。
アサガオの植え替え方法が知りたい
必要なものを準備したら、次は実際の植え替えに。手順は以下のとおりです。
鉢植えの場合の手順
①植え替え用の鉢に、鉢底ネットと鉢底石を敷き、あらかじめ培養土を入れておきます。
②元のポットから根鉢(根と土がひとまとまりになったもの)を崩さないように注意して、苗を抜き取ります。
③苗の根鉢の大きさに合わせて、①の培養土に穴を掘ります。②のアサガオの苗を配置し、苗の根鉢と鉢の培養土に隙間ができないように土を寄せて、誘引用の支柱を立てます。
アサガオで、グリーンカーテンを作る場合も同様に、鉢底ネット、鉢底石、培養土を入れ、ネットを張ったプランターを用意。株間を20㎝程度あけて、穴を掘って苗を配置し、土を寄せて植え替え完了です。
地植えの場合の手順
①鉢植えの手順の②同様、、元のポットから根鉢を崩さないように注意して、苗を抜き取ります。
②苗の根鉢の大きさに合わせて、花壇に穴を掘ります。①のアサガオの苗を配置し、苗の根鉢と土に隙間ができないように土を寄せて、誘引用の支柱を立てます。
どちらも植え替え後は、たっぷりと(鉢植えの場合は鉢底から水が流れ出てくるくらい)、水やりをしておきましょう。
植え替えをするときの注意点はこちらです
アサガオを植え替える際は、根を傷つけてしまうと、その後の生育が芳しくありません。発芽から苗までは順調に育ったものを、植え替えでダメにしてしまわないよう、扱いに注意しましょう。
支柱立ては、アサガオの本葉が増えて蔓が伸びだしてから慌てて立てるよりも、植え替えのときに苗に沿うよう、なおかつ根を傷つけない位置に、支柱を立てておくことをおすすめします。立てた支柱とアサガオの苗は、麻紐やビニールタイで8の字を描くように結んでおきましょう。このようにしておくことで、風が吹いても苗が安定し、植え替え後の根が張りやすくなります。
また苗の周囲に土を寄せる際は、ギュウギュウと力を入れて押しつけると、土中の空気が抜けてしまいます。苗が安定する程度に、土はやさしく押さえるようにします。
なお、緑のカーテンを作る場合、植え替え時の苗がネットに届かないときには支柱を添えて、その後に伸びた蔓がネットに絡みやすいようにしておきましょう。
伸びてくるアサガオの蔓は左巻きなので、蔓は「左へ」を意識して支柱に誘引していきます。
Credit
監修/畠山潤子
ガーデンライフアドバイザー
花好きの母のもと、幼少より花と緑に親しむ。1997年より本格的にガーデニングをはじめ、その奥深さや素晴らしさを、多くの人に知ってもらいたいと、ガーデンライフアドバイザーとして活動を開始する。ウェブ、情報誌、各種会報誌、新聞などで記事執筆や監修を行うほか、地元・岩手県の「花と緑のガーデン都市づくり」事業に協力。公共用花飾りの制作や講習会講師などの活動も行っている。
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