全国各地の寺や神社で市が立ったり、お盆には枝ものが仏花として飾られるなど、日本の夏の風物詩となっているホオズキ。鈴なりについた可愛らしい朱色の袋に目を奪われますが、実は元気いっぱいで、ぐんぐん育つ様子を見るのも楽しい植物です。初心者にも簡単なホオズキの育て方や日々のお手入れのコツを紹介します。監修・矢澤秀成(園芸研究家)
目次
ホオズキを育てる前に知っておきたいこと
ホオズキは落葉性の多年草です。分類上はヨウシュホオズキ(セイヨウホオズキ)の変種に位置付けられ、詳しい原産地はわかっておらず、一般的には東アジアとされています。
「古事記」にも登場するほど歴史は古く、平安時代から薬用として珍重されました。江戸時代になると、実を笛のように鳴らして遊ぶおもちゃとしても楽しまれるようになりました。
ホオズキの基本データ
学名:Physalis alkekengi var. franchetii
科名:ナス科
属名:ホオズキ属
原産地:東アジア
和名:ホオズキ、ヌカヅキ、カガチ
英名:Chinese lantern plant
開花期:6~7月
観賞期:8〜9月
花色:白、薄黄
萼(がく)色:緑→オレンジ→赤
発芽適温:25℃
切り花、鉢ものの出回り時期:6〜8月
春に種まきをして、翌年からたくさん実がつきます。実を包み込んだ、提灯のように膨らんだガク(萼)が色づきはじめるのは8月下旬ごろで、これよりも早い時期に赤く色づいた状態で出回るものは、ほとんどが植物成長調整剤を使って着色促進されたものです。
同じ土で繰り返し栽培すると生育不良などの症状が出るので(連作障害)、1〜3年ごとに植え替える必要がありますが、暑さにも寒さにも強く、ほとんど手間もかからないので、初心者でも簡単に育てられます。
種類を知ると、選び方がわかります
ホオズキは観賞用のほかに食用もあります。根や実が薬用に使われてきたのは観賞用です。
観賞用
ガクが緑から赤へと変化していくのが特徴です。実は苦くて食べられません。一般的には、草丈が1mほどで切り花向きのタンバホオズキが多く栽培されています。他に、草丈が15〜20cmで鉢植え向きのサンズンホオズキ、唐辛子形のガクがユニークなヨウラクホオズキなども人気があります。
食用
ガクは赤くならず、食用の実をつけます。8〜10月が収穫のピークです。品種としてはオオブドウホオズキ、ショクヨウホオズキなどがあリますが、産地や生産者によって付けられた“ストロベリートマト”“オレンジチェリー”などの別名や商品名のほうが浸透しています。実の味は、爽やかな酸味のあるタイプと、酸味が少なく非常に糖度が高いタイプがあります。
近年、日本でも人気が高まっている食用ホオズキは、北米〜熱帯アメリカが原産地の一年草で、観賞用とは種が異なります。日本で育てられる品種にも草丈が2mにもなるものがありますが、栽培の方法は観賞用とほぼ同じです。
ここでは、観賞用ホオズキの育て方を説明します。
ホオズキを育てるときに必要な準備は?
ホオズキ栽培には特別な道具は必要ありません。以下のものを用意しましょう。
準備するもの
・ホオズキの種
・平鉢、育苗箱、受け皿付きのピート板など
・ふるい
・鉢またはプランター(6号以上) *鉢植えの場合
・鉢底網
・土
・肥料
・支柱、ひも、ネット
・ラベル(品種記載用)
平鉢は、種を発芽させて小苗にするまでの間使用します。底面の広い浅い箱や容器で構いません。種を鉢やプランターに直まきする場合は不要です。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
ホオズキの栽培にはよく肥えた少し湿り気のある土が適しています。
鉢植えの場合は、赤玉土(小~中粒)5:腐葉土3:川砂2の割合で混ぜたものや、市販の草花用培養土を使用します。
地植えの場合は、連作障害が発生しないよう、ナス、ピーマン、トマトなどのナス科の植物を育て終えてから3年以内の場所は避けましょう。
土は極端な酸性やアルカリ性でなければ問題ありませんが、人の手が加えられていない露地の土は酸性濃度が高くなっているので、苦土石灰を混ぜ込んで中性〜弱酸性になるよう調節しておきます。その後1〜2週間あけてから、植えつけの1週間前までに堆肥や腐葉土を深くすき込んでおきます。
ホオズキの育て方にはポイントがあります
観賞用ホオズキの栽培用の苗は、4〜5月ごろに園芸店で売り出されたり、生産者がネット販売していることもありますが、あまり多くは出回っていないようです。種の発芽率は高く、まけば3週間ほどで発芽するので、初めて育てる場合も種から育てましょう。ただしヨウラクホオズキは種ができないので、親株から切り離した根から始めます。
生育には、日当たりと風通しのよい環境が適しています。暑さにもよく耐えますが、夏の日射しで土が乾きすぎると衰弱してしまいます。生育が旺盛で半日陰でもよく育ち、冬になると地上部は枯れて、地下茎で越冬します。
自然に落ちた種が冬を乗り越えて、いつの間にか株が増えていた!ということも珍しくありません。
ホオズキの育て方~種から始める~
種まき時期
発芽適温は25℃で、約20〜30℃で芽ぐみます。地域によって異なりますが、八重桜が咲く頃(4月中旬から5月上旬)に種まきを行いましょう。
種まき方法
種を鉢や庭に直まきすることもできますが、より管理がしやすいので、種が小苗になるまでは別の容器で育てることをおすすめします。種まきと育苗の手順は以下のとおりです。
①平鉢などの容器に鉢底網を入れ、次に小粒の赤玉土を入れる
② ピート板(土の板)を使う場合は、板が膨張して柔らかくなるまで水を吸収させる
③ 5cm間隔で2〜3粒ずつ種を点まきする(種が重ならないようにばらまきしてもよい)
④ ふるいを使ってごく薄く土をかぶせる
⑤ ラベルに播種日、品種名を記載して挿す。
⑥ 風通しの良い明るい日陰に置き、土が乾かないように水やりを続ける
⑦ 20日ほど経って発芽したら、混み合っている芽を間引く
⑧ 本葉が4~5枚になったら鉢や庭に植え替える
発芽するまで、できるだけ動かさないようにしましょう。
鉢や庭に直まきする場合もまき方は同じです。露地の場合、激しい風雨で種が流されるなど気象の影響を受けやすくなるので注意しましょう。
苗の植えつけ時期と方法
苗の本葉が4〜5枚になったら鉢や庭に定植します。できれば鉢は10号(直径30cm)くらいの大きなもの、地植えなら株間を50cmは取りたいところですが、目安として、6号鉢なら苗は最大5〜6本、地植えの株間は少なくとも15〜20cmとしてください。
水はけの悪い場所に地植えする時は、土を少し盛るようにして植えつけます。
ホオズキと仲よくなる日々のお手入れ
ホオズキの水やりのタイミング
ホオズキは乾燥が苦手です。鉢植えは、土の表面が乾いたら水をたっぷりと与えましょう。地植えは、夏場に乾燥した日が続くようなら水やりを行います。
ホオズキの肥料の施し方
元肥入りの土に植えつけた場合は、追肥は必ずしも必要ではありませんが、生育期(4〜7月)から開花までの時期に肥料を施すと、つける実の数がより多くなります。月に1〜3回ほど緩行性化成肥料を施します。
鉢植えは、生育初期に肥料が多すぎると、株が鉢と不釣り合いなほど大きく生長してしまいます。最初の花が咲いてから追肥を施すとよいでしょう。
鉢植えでも地植えでも大きく育てたい場合は、生育初期から肥料を切らさないようにします。
ホオズキの倒伏防止
5〜7月ごろに草丈が伸びてきたら茎が倒れやすくなります。丈が20〜30cmほどになったら支柱を立てて保護しましょう。
鉢植えでは、草丈が低いうちは直立式の柱でも十分支えられますが、丸型の鉢で栽培しているならあんどん仕立てがおすすめです。縁寄りに等間隔に3〜4本の棒を立て、紐などで丸く囲う方法で、支える強度がアップします。
地植えで何株も育てる場合は、植え地の四隅に支柱を立ててフラワーネットを水平に張りましょう。丈が1mほどになる大型品種は、ネットを高さ30〜40cmと60〜70cmの2層に張ると茎が安定しやすいです。
立派に育てるための植え替え時期と方法
ホオズキは生育が盛んなため、鉢植えでは根詰まりを起こしやすくなります。鉢植えは1年に一度、地植えは2〜3年に一度、植え替えを行いましょう。新しい土に替えることで連作障害の発生も抑えられます。
植え替えの適期は3〜4月、方法や使う道具も苗の植えつけとほとんど同じです。他に根を詰めるためのハサミも用意します。鉢から鉢への植え替えなら、ひと回り大きい鉢を用意しましょう。植え替えの手順は次のとおりです。
①鉢(地面)から株を抜き取る
②根についた土を手や棒でほぐして落とす
③黒く変色した根や先端の傷んだ部分をハサミで切り落とす
④鉢や地面に植え付ける(目安は6号鉢で最大4〜5本、地植えの株間は20cm以上)
⑤支柱を立てて保護する
最初の植え付け時より空間にゆとりができるよう、植える株の数や間隔を調整してください。もし、前と同じ広さで同じ株数を育てたいなら、③の工程で根の量を半分程度に減らしましょう。植え替えた直後は根が土に定着していないので、支柱を立てて根の負担を軽くしてあげましょう。
地植えで、土壌の水はけが悪い場合は、土を少し盛るようにして植え付けます。また、
もし、地下茎が他の植物のエリアまで侵入したり、必要以上に広がるのを防ぎたいなら、植え穴を掘るついでに土中に仕切り壁を立てましょう。コンクリートブロックやアクリル板などを地表から深さ20cmのところまで縦に埋めれば完成です。
また、植え替え作業は、株分けを兼ねて行うと効率的です。この場合も適期は3〜4月、地下茎から芽を伸ばし始める時期です。方法や手順は、このあとの「9.知りたい! ホオズキの増やし方」の「株分けの時期と方法」の項を参照してください。
剪定=わき芽かきと摘心の時期と方法
わき芽が多く、枝分かれする性質が強いので、そのままにしておくと側枝がどんどん増えて横に広がっていきます。見た目がよくないだけでなく、養分を浪費して実(花)がつきにくくなるので、特に鉢植えではしっかり整枝を行いましょう。
剪定を始める時期は一番花が咲いてから。作業は晴れた日に行います。枝として伸ばしたくないわき芽を、芽が若いうちは指で摘み取り、少し伸びたものは良く切れるハサミで切り落とします。実(1年目は花芽)がつくまで週に1〜2回ほど行いましょう。
茂りすぎた葉も適度に摘み取り、風通しをよくします。6月下旬ごろに花芽が10個ほどついたら、主枝の頂部を切って幹の生長を抑制しましょう。
秋から地上の葉や茎が枯れはじめますが、そのまま放置して大丈夫です。冬になって地上部が完全に枯れたら、地ぎわ(土の表面に接しているあたり)で地上部分を刈り取り、地下茎だけで冬を越させるようにします。
知りたい! ホオズキの増やし方
ホオズキの種の採取の時期と方法
株の数は種まきで増やすことができます。9月ごろにガクが赤く色づき、実が熟したら、実の中の種を取り出します。水洗いしてタネの周りのヌルヌルを取り除きます。その後、乾燥させ、翌春まで保管します。
ホオズキの株分けの時期と方法
ホオズキは株分けでも増やすことができます。株分けの適期は3〜4月です。手順は次のとおりです。
①地下茎を掘り上げる(鉢植えの場合は鉢から取り出す)
②地下茎を3〜4節(20〜30cm前後)で切り分ける
③切り分けた茎を、鉢植えなら6号鉢に4〜5本を目安に、地植えなら15〜20cm間隔で浅めに植えつける
④鉢植えは、発芽したら大きな芽だけ4~5芽残し、他は地ぎわ(土の表面近く)で切り取る
掘り上げたばかりの地下茎から既に白い芽が伸びていることもあります。②で茎を切り分ける際、しっかりした芽が1つ以上付いていれば1本の長さは20〜30cmより短くなっても問題ありません。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
病気に強く、ほとんど見られませんが、高温多湿の環境で多くの植物がかかる伝染病には気をつけましょう。
白絹病
6〜9月ごろ、気温が25℃以上で湿度が高い環境で発生しやすくなります。カビ(菌)による伝染病で、感染すると株元や土の表面が白い糸のようなもので覆われます。菌は地表から深さ5cmのところまでに繁殖しやすいです。
治すことができないので、見つけたらすぐに症状が出ている株を抜き取って破棄します。土は薬剤を散布して消毒するか、地表近くの土と地中深くの土を入れ替える天地返しをして殺菌します。
育てるときに注意したい害虫
4〜10月は害虫がつきやすくなります。葉の裏などをよく観察し、見つけたらすぐに駆除します。風通しを良くし、株に日光がまんべんなく当たるようにして予防に努めましょう。
カメムシ
産卵時期の春(4〜5月)と越冬前の秋(9〜10月)に多く発生します。青臭いニオイを放ちます。葉や茎について養分を吸い取るので、見つけたらピンセットでつまんで駆除しましょう。どこからともなく飛んでくるので根本的な駆除はほぼ不可能です。周囲の雑草を除去したり、吊り下げタイプの忌避剤を利用したり、春から秋ごろまで殺虫剤を定期的に散布するとよいでしょう。
アブラムシ
4〜8月に、特に新芽について養分を吸い取ります。葉で合成されたアミノ酸を好むので、窒素分の多い肥料を与えすぎていると発生しやすくなります。見つけたら手袋をして潰すか、大量発生の場合は薬剤を散布します。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・橋真奈美
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