精霊が宿る木として知られるガジュマルは、風水においてもリラックス効果があるとされている観葉植物です。特徴的な幹や丸い葉が、日差しを浴びてすくすくと育つ姿に、癒やされる人も多いのではないでしょうか。栽培に慣れてきたら、株を増やすことに挑戦してみましょう。ガジュマルの増やし方や注意点などについて、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました
目次
ガジュマルを育てる前に知っておきたいこと
ガジュマルを元気に育てるには、いくつか知っておきたいことがあります。まずは、基本的なデータを確認しましょう。
ガジュマルの基本データ
学名:Ficus microcarpa
科名:クワ科
属名:フィカス属
原産地:東南アジア、台湾、日本、インド、オーストラリア
和名: ガジュマル
英名:Chinese Banyan、Malayan Banyan
開花期:4月中旬~5月下旬
発芽適温:20~30℃
生育適温:5℃以上
常緑性のガジュマルは、自然界では20m近い高さにまで生長します。熱帯や亜熱帯地域が原産なので、耐寒性は低めです。日光を大変好むため、屋外、室内ともによく日の当たる場所で管理することで、しっかりとした株に育てることができます。
環境が整っていれば生長は早く、鉢植えの場合には根詰まり防止のための、定期的な植え替えが必要です。
植物を増やすには、いくつかの方法があります
ガジュマルの増やし方を説明する前に、植物を増やす方法について知っておきましょう。植物を増やすのには、次のような方法があります。
挿し木
母株となる植物の一部(挿し穂)を切り取り、土(挿し床)に挿して発根させることで増やしていく方法です。切り取る部分により、「葉挿し」「茎挿し」「茎伏せ」「根伏せ」などの呼び名がついています。
取り木
主に、木の枝を対象とした増やし方です。枝や茎など親となる植物の一部に傷をつけて、そこから発根させたあとに切り離して、新たな株を得ます。たとえば、枝の一部の樹皮をひと回り切り、その部分に水ゴケなどを巻いて発根させるといった具合です。母株につけたまま発根させるので、失敗が少ない反面、いちどにたくさん増やすことには向いていません。
接ぎ木
植物同士を人工的につないで、ひとつの植物として育てる増やし方です。土台となる木(台木)に切れ目を入れ、増やしたい植物(穂木)を挿し込み、接ぎ木用のテープなどで固定して完全に接ぐのを待ちます。果樹や野菜、バラなどによく用いられる方法です。
株分け
母株の一部を、根をつけたまま分けて増やす方法で、宿根草や観葉植物などで用いられます。簡単で確実ですが、挿し木や接ぎ木のように多くの苗を作ることはできません。
分球
一般的な球根の増やし方です。親球が子孫として作った子球を切り分けて、個体を増やします。
種
植物の花を咲かせ、その後にできる種子を採取して増やす、一般的な方法です。
このほかに、ユリに見られる木子(きご)や、ヤマイモの仲間に見られるムカゴなどで増える植物もあります。
ガジュマルを増やす、最適な方法と時期
ガジュマルを増やす場合は、前述の方法のうち、「挿し木」の方法を使います。適した時期を逃すと根が育たない場合があるので、しっかりと確認してください。
なお、ある程度の大きさに育ったガジュマルでは、春に苞と呼ばれる花が入った実をつけることがあります。これが結実すれば、種を取り出して増やすこともできますが、結実のためには、イチジクコバチという虫の力が不可欠です。
しかし、イチジクコバチは、自生地の沖縄地域や東南アジアにしかいないため、沖縄以外の日本国内で種から増やす方法は、現実的ではありません。
挿し木の適期
ガジュマルを挿し木で増やす場合は、5~7月の間に行います。この時期のガジュマルは生育期間に入っているので、挿し穂から発根しやすく、母株へのダメージが最小限に抑えられます。秋以降には休眠期に入るため、挿し木をしても根は発生しません。
また、この時期は、ガジュマルの剪定適期とも重なるため、剪定した枝を挿し穂にするとよいでしょう
種まきの適期
前述のとおり、自生地以外でガジュマルを種で増やすことはできません。しかし、5月ごろになるとまれにインターネットで種が販売されることがあります。
ガジュマルの発芽適温は20~30℃です。その温度が保てるようであれば、購入後すぐに種をまいてください。種まきの方法については、このあとの項で詳しく説明します。
知りたい!ガジュマルの増やし方「挿し木」
準備するもの
ガジュマルの挿し木をスムーズに行うために、必要なものを準備しましょう。
・母株のガジュマル
・挿し木用の鉢(ポリポットなど)
・挿し木用の土(挿し木用として販売されているものやバーミキュライトなど、肥料分の入っていない新しいもの)
・鉢底ネット
・ラベル
・コップなど水を入れられるもの
・割りばしなどの細い棒
・ハサミ
・発根促進剤(なくても可)
肥料分が含まれた培養土を使うと、肥料が挿し穂の切り口を腐らせて発根できない恐れがあります。必ず、肥料が入っていない土を用いるようにしましょう。
発根促進剤は挿し穂の切り口に塗る薬剤で、根が生えやすくなる効果があります。ガジュマルは生命力が強いので、必ず必要なわけではありませんが、使用すれば挿し木成功率がアップします。
挿し木の手順
挿し木によるガジュマルの増やし方は、以下のとおりです。
①剪定などで母株から切った枝を、切り口が斜めになるようにカットします。このとき、葉は先端の2~3枚を残してすべて落とします。
②切り口から出る樹液を流水で洗い流し、水を入れたコップに1~2数時間浸けておきます。
③鉢に鉢底ネットを敷き、8分目の高さくらいまで土を入れ、あらかじめ水で湿らせておきましょう。
④鉢の中心の土に、割りばしなどで穴をあけ、挿し穂の半分くらいを挿します。
いちど根が生えだしたら生長が早いので、挿し穂はひと鉢に1本ずつにしましょう。挿し終えた鉢は、直射日光があたらない明るい場所で管理し、水やりは土が乾かない程度に与えます。新芽が出てくれば根の張りが十分なので、新しい鉢に苗として植え替えます。
コツと注意点
挿し穂に使うガジュマルの枝は、元気があるものを選びましょう。剪定した際に出た枝を使う場合には、くれぐれも枯れかかった枝は使用しないようにしてください。また、挿し穂に葉がたくさんついている場合は、半分程度、葉を切り落とすとよいでしょう。
発根までにかかる時間は1週間~1か月とバラつきがあります。完全に根づくには2か月程度かかります。
挿し木で増やした株は直射日光に慣れていないため、いきなり日向に移すと、葉焼けを起こして枯れる恐れがあります。段階を踏んで、少しずつ日向に慣らしていくようにしましょう。
知りたい!ガジュマルの増やし方「種まき」
準備するもの
ここでは、ガジュマルを種から育てたい方向けに、種まきについて説明していきます。次のものを準備しましょう。
・購入したガジュマルの実(種の状態では保存がきかないため、インターネット等では実の状態で販売されています)
・バケツなどの容器
・浅めの植木鉢
・ラベル
・バーミキュライト
ガジュマルの実は非常に小さいので、バーミキュライトはなるべく粒の小さいものを用意しましょう。
種まきの手順
ガジュマルの実は、生と乾燥したものの2種類があり、手順はどちらも同じです。乾燥した実の場合には、あらかじめ半日ほど水でふやかしておくと、その後の作業が楽に進みます。
①バケツに張った水の中で、ガジュマルの実を潰したり砕いたりしながら細かくし、そのまま1日浸けておきましょう。
②水に浮かんだゴミなどを捨て、底に沈んだ種を再びすり潰すように揉みます。浮いたゴミと上澄みを捨てて、新しい水を入れます。この作業を、ゴミが出なくなるまで繰り返してください。
③鉢底ネットを敷いた植木鉢に、バーミキュライトを7~8分目の高さまで入れ、水で湿らせておきます。
④きれいになった種を、バーミキュライトの上にまきます。このとき、バケツの底に沈んだ種を水と一緒にスポイトで吸い上げ、そのまま鉢にまくようにすれば種が取りやすいです。
⑤種に土はかぶせず、25℃以上を目標に、日向で水を切らさないように管理します。
実を潰して何度も水洗いをするのは、種の周りに付着する発芽抑制物質を取り除くためです。これが残っていると発芽がかなり遅れるので、しっかりと洗うようにしましょう。
また、実の中にイチジクコバチがいることがありますが、気にせず洗って取り除いてください。
コツと注意点
種まきの際の注意点は、種を土にまくとき、覆土はしないことです。ガジュマルは、発芽に光を必要とする好光性種子です。土をかぶせてしまうと、光不足で発芽しないので注意しましょう。
そのため、水やりをするとき、鉢の上から勢いよく水をかけると、微細な種が流れたり、土壌中に潜ってしまったりします。こうなると、種子に光が当たらず発芽がしなくなります。これを防止するには、本葉が出るあたりまで腰水(※1)をするのがコツです。スプレーによる水やりでも構いません。
適温で管理することで、早ければ2週間程度で発芽してきます。25℃前後の気温が確保できない場合には、鉢にビニール袋やラップをかぶせて保温するのも手です。その際は蒸れすぎないように注意してください。
※「腰水」水を張ったバケツなどの中に水を張り、鉢をその中において鉢底から給水させる水やり方法です。
Credit
監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
文・ランサーズ
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