生の葉や茎に独特の香りがあるパクチー。香菜(シャンツァイ・コウサイ)、コリアンダーの名でも知られていますね。タイやベトナム、中国などでは料理に欠かせないハーブで、葉や茎だけでなく、花や種、根も利用されます。乾燥させた種はオレンジのような香りのあるスパイスで、カレーなどの煮込み料理に使われます。最近ではパクチー専門店ができるほど、好きな人にはたまらないハーブです。そんなパクチーもプランターや家庭菜園で手軽に育てることができます。ぜひ挑戦してみましょう。
目次
パクチー(コリアンダー)を育てる前に知っておきたいこと
パクチーは暑い国のハーブという印象がありますが、じつは地中海沿岸、中東が原産。エジプトや中国、インドでは数千年前から利用されていたといわれます。栽培する前のヒントとして、まずはパクチーの基本的な情報を知っておきましょう。
パクチーの基本データ
学名:Coriandrum sativum L.
科名:セリ科
属名:コエンドロ属
原産地:地中海沿岸、中東
和名:コエンドロ
英名:Coriander
開花期:5~11月
花色:白
発芽温度:20℃前後
生育適温:20~25℃
パクチーはセリ科の一年草。20~25℃でよく育ち、日当たりのよい場所と水はけのよい土を好み、真夏の暑さを嫌います。ニンジンやパセリと同じセリ科なので、日本でも栽培を始める農家も増えています。初夏に種をまけば、およそ3~4か月かけて種をつけます。
生育中は株の中心から葉が次々と出て株が大きくなります。ある程度の大きさになったら花を付けるための茎が伸びて、先端に白色の小さな花をたくさん咲かせます。花の近くの葉は生育初期と違い、切れ込みの深いニンジンの葉のよう。違いを比べてみるのも楽しいでしょう。
パクチー(コリアンダー)を育てるために必要な準備と道具
プランターで育てる準備
植物の生育はプランターの大きさで決まります。栽培する株が少ないほどプランターは小さくなり、株が多ければプランターは大きくなります。2~4株育てるなら容量5L以上、たくさん育てるなら10L以上のものを選びましょう。プランターには、最も安価で軽く使いやすいプラスチック製、見た目と古びていくよさのある素焼き、形や色のバリエーションに富んだグラスファイバー製などがあります。作業性を重視するのか見た目の雰囲気を大切にするのか、好みに合わせて選びましょう。
家庭菜園で育てる準備
家庭菜園ではパクチーが好む日当たりと水はけのよい場所を確保しておきます。パクチーは利用部位によって栽培期間が異なり、葉だけを利用するならおよそ1か月半、種を利用するなら3~4か月育てます。栽培する部位によって、菜園を使う期間をあらかじめ計画しておきます。
パクチー(コリアンダー)にはどんな種類があるの?選び方は?
日本のパクチーはほぼひとつ
パクチーの種の多くは「パクチー」または「コリアンダー」として販売され、ホームセンターやネット通販で購入できます。出回っている品種の多くは葉が丸いものですが、最近では葉が細い品種も並びます。ネット通販では輸入された品種の種が販売されています。葉がチコリのようなものもあり、日本でどのように育つのか試してみても面白いでしょう。
種・苗の選び方
パクチーは基本的に種から育てますが、少ない数を育てる場合は苗でもよいでしょう。よい種の選び方は信頼のおける種苗会社のものを選びます。また、種まき後に種が余ってしまった場合は、冷蔵庫に保存して早めにまきましょう。種は年々発芽率が悪くなっていくので、前年に使用した種は多めにまいたり、新たに購入したりするとよいでしょう。苗を購入する場合は、葉が青々として緑が濃く、株元がぐらつかないものを選びます。葉の色が薄く、弱々しいものは避けましょう。
パクチー(コリアンダー)の育て方のポイントやコツ
種まきの注意点とコツ
種は茶色の2つの半球が合わさっているため、通常1粒の種から2つの芽が出てきます。種は殻の中に入っているため、庭やプランターに直接まいてもなかなか発芽しません。ですから、種を多めにまいた後にたっぷりと水やりをします。板などで軽くこすって種を取り出してまけば、さらに発芽しやすくなります。手間をかけるなら種まきの前に一晩水に浸けてから種を手で2つに分けてまけば発芽率もよくなります。
気をつけたい病気や害虫は?
独特の香りのせいか虫はあまりつきませんが、まれにカメムシがつくことも。パクチーはやや密に育てるため、病気(うどんこ病など)になることもあります。その場合、病気の葉を摘み取り、株間を広くして風通しをよくします。薬剤を散布する場合は適用のあるものを選び、使用上の注意をよく読んで正しく使用しましょう。
適した土作りがパクチー(コリアンダー)を育てる第一歩
プランターではよい培養土を選ぶ
パクチーの栽培は土作りから始まりますが、プランターで育てるなら土作りの必要はありません。野菜やハーブ用の培養土を準備して、種まきの直前にプランターに土を入れるだけでOK。ただし、培養土ならどれも同じとは限りません。用土の割合や質、肥料分の量などそれぞれ異なるため、生育に差が出ることもあります。そんなときは袋の表示を見て、原料やpH などを確認して良質なものを選びます。一般に用土の値段と生育のよさは比例しています。プランターの底がメッシュ状のものは必要ありませんが、穴が少ないものは鉢底ネットを敷いて鉢底石を底が見えなくなるくらい入れて水はけよくします。
プランター用に土をブレンドする
用土にこだわりたい人は、自分でブレンドする方法もおすすめです。水はけのよい土にするため、赤玉土5、腐葉土3、堆肥1、バーミキュライト1の割合でよく混ぜて使用します。腐葉土と堆肥は完熟したものを選びましょう。
家庭菜園での土作りは?
家庭菜園では種まきや植え付けの2週間前までにpH6.0~6.5になるように苦土石灰をまいて調整します(通常は、100g/㎡程度散布)。さらに1週間前までに腐葉土や堆肥を2~3kg/㎡、化成肥料を100g/㎡まいて土をよく耕しておきます。苦土石灰を堆肥などと同じ時期にまくと、種まき・植え付けまでに酸性を矯正する時間が足りなくなることがあるので注意しましょう。
種まきの時期と植え付けの方法
種まきの時期
栽培は種の袋に書かれた時期を必ず守りましょう。開始時期が早すぎたり遅すぎたりして生育に適さない温度になると、その後の生育が悪くなります。もしも種の袋に開始時期が書いていなかった場合は、栽培適温の20~25℃に合わせることが必要です。あらかじめ栽培する地域の気象データをもとに栽培適温になる時期を調べておきましょう。気象データは気象庁のホームページから調べることができます。その年の気温が不安定なこともあるので、栽培を始める前に天気予報もチェックしておきましょう。
種を土に直接まく
種まきは菜園やプランターに直接まく方法とポリポット(以下ポット)に一旦まき、育苗した苗を植え付ける方法があります。直接まく場合は株と株の間、またはほかの植物との距離が20~30cmになるようにあらかじめ育てる場所を決めておきます。株は密に育てたほうが元気に育つので、1か所につき3~4つの穴を1~2cm間隔にあけて種をまきます。穴の深さは種の大きさの2~3倍程度なので、1cmほどの深さにします。種まき後は、土をかけ、手のひらで土を押さえて、たっぷりと水やりをしましょう。
ポットにまいて育苗する
ポットやセルトレイもまき方はほとんど同じです。どちらも種まき用の肥料分の少ない培養土を容器に入れ、ポットでは3~4粒、セルトレイでは1粒種をまきます。ポットの大きさは3号程度、セルトレイは作りたい苗の数によって選択しましょう。
育苗中の管理方法
ポットやセルトレイの種まき後の管理は1日に1回霧吹きなどで土を湿らせ、乾燥しないように新聞紙をかぶせます。パクチーの発芽温度15℃前後になるように、昼は室内の窓際、夜は窓から離れた場所におきましょう。およそ1週間で発芽し、順調に育てば2週間後に本葉が出てきます。発芽したタイミングで種まきと同じように土作りをしておくとスムーズです。
植え付けのタイミング
セルトレイの苗は本葉が3~5枚になったら、ポットの苗は本葉5~7枚になったら植え付けの適期です。どちらも苗を容器から取り出し、根がきれいに回っていればOK。株が育ちすぎると根が回りすぎてガチガチになり、通気性や水はけが悪くなるので注意しましょう。
植え付けの方法
苗はどちらも風のない晴れた日の午前中を選び、株間20~30cmにして植え付けます。セルトレイは株元をつまんで引き抜き、ポットは苗をひっくり返し、どちらも根と土が一緒になった状態の「根鉢」を崩さないように取り出します。根鉢と同じ深さに穴を掘り、苗を入れて根鉢の上部に土を軽くかぶせます。軽く株元を押さえて地面と高さをそろえます。最後に根と土が密着するようにたっぷりと水やりをします。
パクチー(コリアンダー)の水やりの方法とタイミング
水やりの基本は「たっぷり」
水やりはハス口の付いたジョウロで与えます。土のはね返りが植物に付くと病気の原因になるため、ハス口を下に向けてできるだけ土がはねないように「たっぷり」が基本です。植物の根は葉の広がりとほぼ同じ幅に広がっているので、その内側に水やりをします。ここで注意したいのは、土の表面だけが濡れた状態だと根まで水が届かないこと。心配な人は、何も育てていない場所の土に水やりをして土を掘り、どのくらいの深さまで水が届くのか調べてみると安心です。
プランターでは鉢底から出るまで
プランターは土の量が限られているので、土の表面が乾燥していたら、午前中に1回たっぷりと水やりをします。気温の高い時期には朝と昼過ぎの2回行います。プランターでの水やりの基本は底から水が流れ出るくらいまで行います。
家庭菜園では基本的に必要なし
家庭菜園は土の量が多く、地中に水分がたくさん蓄えられているため、基本的に水やりの必要ありません。1~2週間雨がない場合など極端に乾燥しているようならジョウロでたっぷりと水やりをします。
収穫するまでの手入れの時期や方法は?
株が混み合っているなら間引きを
パクチーはセリ科の仲間と同様にはじめは密に育てるとよく育ちます。ただし、葉が混み合って風通しが悪くなるようなら、1か所1~2株に間引いても構いません。間引いた株はサラダや香味野菜として利用できます。風通しが悪くなると病気の原因になるので注意しましょう。
葉と実の収穫方法の違い
パクチーは順調に育てば3~4か月で種を付け、葉物野菜として育てるなら1か月半で収穫できます。葉を長期間利用する場合は、外側から摘み取るか株ごと引き抜いて収穫します。しばらくすると花を付ける茎が出てくるので、葉だけを利用する場合は茎を摘み取ってしまいます。実を収穫するなら、花を付ける茎は残します。また、株が小さいうちに収穫し、次々と種をまいたり苗を植えたりすれば、長期間収穫することも可能です。
パクチー(コリアンダー)に肥料は必要なの?
プランターではこまめに追肥する
プランターは水やりの回数が多く、用土に含まれる肥料分が流れ出てしまいます。このため、プランターで栽培する場合は、固形肥料を鉢の縁に置くか、水やり代わりに液体肥料を与えます。液体肥料はラベルをよく読んで用法用量をきちんと守りましょう。肥料の与え過ぎは株が弱る原因となります。
家庭菜園では長期間育てる場合のみ追肥
パクチーを葉物野菜として育てるなら1か月半で収穫できます。このため、土作りのときに入れた肥料(元肥)だけで追加の肥料は必要ありません。
花や種まで楽しみたい場合は株の様子を見て、生育が悪いようなら肥料を与えましょう。化成肥料なら1株あたり2g程度の肥料を葉の広がりに合わせてドーナツ状にまきます。有機質肥料なら発酵油かすなど、すぐに効果が現れるものを選び、肥料の袋を見て適量まきます。肥料は1か月に1回程度で構いません。与えた肥料は減らすことができないので、少量をまいて様子を見て、足りないようなら追加で与えるとよいでしょう。
知りたい! パクチー(コリアンダー)の増やし方
刈り取って種を乾燥させる
パクチーは一年草なので、種を保存して増やします。種を収穫する場合は、種が茶色くなってから株ごと刈り取ります。刈り取った株は新聞紙などに包み、風通しのよい日陰に置いて全体が茶色くなるまでよく乾燥させます。種は刈り取った株の先端についているので、摘み取って集めたら、ふるいなどでゴミを取り除きます。
種の保存の方法と注意点
翌年用の種として保存する場合は紙袋に入れて冷蔵庫に保管します。種を入れた袋には種を取った年月日を書き入れます。
Credit
記事協力
監修/北条雅章
1976年千葉大学園芸学部卒。千葉大学環境健康フィールド科学センター特任研究員。蔬菜園芸学が専門。研究では葉菜類の無農薬栽培やイチゴの養液栽培技術開発などをテーマとしている。監修書に『野菜の上手な育て方大事典』(成美堂出版)、『NHK 趣味の園芸ビギナーズ 育てておいしいヘルシー植物』(NHK出版)、『タネのとり方もわかる! おいしい野菜づくり』(池田書店)などがある。
撮影・田中つとむ 構成と文・童夢
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