民間薬草として有名なキダチアロエや、食用とされるアロエ・ベラなど、古くから人々の生活に根づいてきたアロエ。クレオパトラは絞り汁を化粧水として使い、コロンブスは航海中、乗組員の健康のためにアロエを船に積んでいたといいます。形や葉柄もバラエティに富み、はっとするような美しい花を咲かせる種類もあります。万能薬とも称されるアロエの育て方やちょっとしたコツを、NHK『趣味の園芸』などの講師としても活躍する、園芸研究家の矢澤秀成さんにお聞きしました。
目次
アロエを育てる前に知っておきたいこと
アロエは、アフリカ南部からマダガスカルを原産とする多肉植物です。トゲのある肉厚の葉をつけます。名前は、アラビア語の「Alloch(アロッホ)」に由来。エジプトやギリシアでは紀元前から栽培され、当時は下剤の効能が利用されていました。やがて中国に伝来し、漢方薬として活用されます。
日本へは鎌倉時代に伝来し、当時からキダチアロエ、アロエ・ベラなどの品種が栽培されてきました。キダチアロエは胃腸病や喘息への効果や、切り傷、火傷、ひび割れに薬効があるとされ、その効能の高さから、「医者いらず」といわれ、親しまれたそうです。
アロエの基本データ
学名:Aloe
科名:ススキノキ科
属名:アロエ属
原産地: アフリカ南部から地中海沿岸、マダガスカル、カナリア諸島
和名:――
英名: Aloe
開花期:12~2月※種類により異なる
花色:赤、黄、オレンジ、複色
発芽温度:20℃前後
生育適温:20℃前後
アロエは気温の高い時期に生長する、夏型の多肉植物です。温帯地域や標高が高い比較的涼しい地域を好んで生息します。年間降水量が500㎜以下の少雨地域や、やせ地にも自生するのが特徴です。
種類を知ると、選び方がわかります
アロエはアフリカ大陸に約250種、マダガスカルに約50種が生息し、世界全体で約500種類もの原種があります。
直径3㎝ほどの小型種から、高さ10m以上の大木に育つ種類まであります。一般的に園芸用の多肉植物として流通しているのは、夏型の小型~中型種です。
ここでは、主な園芸種を紹介します。
キダチアロエ
木の幹から枝が伸びているかのように茎から葉が広がっていることから、漢字で「木立アロエ」と表されます。古くから栽培されている丈夫な品種です。
葉の幅は大きいもので5㎝、厚さは1~2㎝ほどあり、葉は薬用食用に活用されています。また、観賞用としても美しく、真冬に一斉に花を咲かせます。
アロエ・ベラ
化粧品の成分として、また健康食品としても広く利用されています。暑さ寒さに強く、育ちも早いことから、栽培しやすい品種です。キダチアロエに比べると葉が大きく、肉厚なのが特徴です。
千代田錦
葉の表面に白い斑点模様が入っていて、「タイガーアロエ」とも呼ばれます。育てやすく、自然に群生株を形成します。花茎は15㎝程度と短かく、美しいオレンジ色の花をつけます。
アロエ・プリカティリス
扇が広がったような葉が特徴で、日本では約20年で2mの大きさに育つ、大型の「ツリーアロエ」です。
アロエ・ポリフィラ
高山性で暑さが苦手なことから、日本では育てるのが難しいとされていた原種ですが、近年は栽培技術が進み、観葉植物として出回るようになりました。大きくなると、葉が美しいらせん状を形成します。
アロエを育てるときに必要な準備は?
アロエは鉢植えで育てるのが、一般的です。夏型の種類が多く、小・中型の鉢植え植物としてホームセンターや園芸店などに流通します。幹立ちする大型種は、ツリーアロエと呼ばれ、大鉢の観葉植物として手に入ります。
まずは、育てる前に、以下のものを用意しておきましょう。
準備するもの(鉢植え)
・アロエの苗
・土
・肥料
・鉢、または横長プランター
・鉢底ネット
・鉢底石
・土入れ、またはスコップ
・ラベル
・ジョウロ
鉢は吸水性、通気性に優れたものを用意します。それぞれ、園芸店やホームセンター、インターネットショップなどで購入ができます。
アロエは葉が渦巻き状になるポリフィラ(スパイラルアロエ)、ハイマンテフォリアなどの栽培困難種を除けば、栽培しやすい多肉植物です。日当たりが悪いと成長に影響が出るので、よく日に当てて育てるようにしましょう。
適した土作りが、育てるコツの第一歩
アロエを育てるうえで、土は非常に重要です。アロエに適した土は、以下の3点がポインです。
・しっかりと水が流れる、水はけのよいもの
・保水性、保肥性の高いもの
・pHがやや酸性のもの
土は、市販のサボテン用、多肉植物用の培養土が適しています。
自分で作る場合は、赤玉土(小)6:腐葉土3:川砂1の割合、または、鹿沼土(小)2:赤玉土(小)2:ピートモス2:川砂2:くん炭2の割合で混ぜたものを使用します。
アロエの育て方にはポイントがあります
アロエは一般的に苗から育てますが、種から育てる方法もあります。以下で、ぞれぞれの育て方を詳しく紹介します。
アロエの育て方~苗から始める~
苗の選び方
茎が太くて硬い、全体的にがっしりとした苗を選びましょう。選ぶときのチェック項目は、以下のとおりです。
・葉が短くて硬いもの
・葉が肉厚なもの
・葉に傷がないもの
・葉色の濃いもの
・トゲがしっかりしてるもの
植えつけ時期と方法
苗を購入したら、できるだけ早く植えつけを行います。ポットのままで、長く放置しないよう注意します。手順は以下のとおりです。
① ビニールポットよりひと回り以上大きな鉢、またはプランターを用意します。鉢穴をふさぐための鉢底ネット、鉢底石を入れておきます。
②赤玉土(小)6:腐葉土3:川砂1の割合で混ぜ込んだ新しい土、または市販の培養土を鉢、またはプランターの1/4ほど入れます。
③ 土を崩さないようにビニールポットからそっと苗を抜き、土を入れた鉢に置きます。
④ 鉢と苗との隙間を埋めるように少しずつ土を加え、苗を安定させます。
⑤ 鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと水やりをします。
アロエの育て方~種から始める~
種まき時期
アロエは一般的に春から秋の間に生長します。そのため、種まきは生長期よりも少し早い、4月上旬~5月下旬頃までに行うのが理想的です。
発芽のコツ
アロエは、おおむね温帯地域を好んで生息する植物です。生育適温は20℃前後とされ、気温が上がると発芽します。発芽には、とにかく日当たりのよい場所で育てることが大切です。日光が少ないと、そのぶん生育が悪くなってしまいます。
種まき方法
アロエの種はポットにまくか、直まきをします。鉢やプランターで育てるなら、「ポットまき(セルトレーまき)」、または「ばらまき」をします。種まきのときの土は、赤玉土(小)または赤玉土(小):鹿沼土(小)=1:1の用土を準備します。
ポットまき(セルトレーまき)の手順
①ポットまたはセルトレーに、湿った土をすりきり一杯入れておきます。
②土に指で穴を開け、種を入れます。穴は指の第一関節程度が目安です。
③種を入れ、上から軽く土をかぶせます。
ばらまきの手順
①あらかじめ十分に土を湿らせたうえで、種が重ならないように均等にばらまきます。
②まいた後は、土をかぶせないか、あるいは、ふるいで軽くかぶせる程度にします。
種まきを終えたら、水をたっぷりと与えましょう。発芽して本葉が4、5枚になった時点で、生長のよさそうな強い個体を選んで間引きを行います。
アロエと仲よくなる、日々のお手入れ
水やりのタイミング
アロエは、ほかの植物に比べ乾燥に強く、水が少々不足しても枯れる心配はありません。アロエが多肉植物で、葉に水分を蓄えておくことができるからです。逆に気をつけなければいけないことが、水のやりすぎです。生育に失敗する最大の原因は、水のやりすぎによる根腐れが多いので、注意してください。
アロエの生長期である春~秋は、土の表面が乾いたら、鉢全体に水が行きわたるようにたっぷりと水を与えます。毎日必ず与える必要はありません。
一方、冬はほとんど水を与える必要がなく、むしろ水を与えないことで冬眠状態になり、寒さに耐えることができます。春に新芽が動き始めたら、徐々に水やりを再開します。
肥料の施し方
アロエは一般的に、肥料は必要ないといわれています。栄養が多すぎることで、逆にアロエを弱らせてしまうことが理由です。しかし、適量の肥料はアロエの生長にとって効果的であり、強くて丈夫なアロエを育てるために必要です。
具体的には、春~秋の生育期に、2週間に1回くらいの割合で規定量の半分に希釈した液体肥料を与えます。液体肥料の代わりに、緩効性肥料を置き肥にして、2か月に1回、株元に与えても構いません。
アロエを食用にしたり、薬として使用したりすることを考えた場合、化学肥料に抵抗を感じる人がいるかもしれません。その場合は、代わりに発酵油粕や発酵鶏糞などの有機肥料を使用します。
立派に育てるための、植え替え時期と方法
土が古くなったり、株の生育が鈍りはじめたりしたら植え替えを行います。また、株元から子株がたくさん出てきたら、植え替えのサインです。少なくとも2年に1回は、植え替えが必要です。
植え替えは、5~9月の生育期ならいつでも可能です。特に5月に植え替えておくと、秋までに株が充実して丈夫に育ちます。温度が上がってきた頃に植え替えを行うといいでしょう。
手順としては、古い土と根を半分ほど落とし、水はけのいい新しい土に植え替えます。子株がたくさん出ているときは、株をいくつかに分けて植えつけてください。
アロエには、剪定は必要ありません
アロエは特に、剪定の必要がありません。ただし、伸びすぎて高さを抑えたいときは、葉がある節で切り取っておきましょう。
知りたい! アロエの増やし方
アロエは、「株分け」と「挿し木」のふたつの方法で増やすことができます。
株分けの時期と方法
株分けは植え替えのときに、同時に行います。適期は5~9月です。手順は以下のとおりです。
①株を土ごと鉢から抜き取ります。
②親株の周りにできた子株を手ではずします。このとき、根を切らないように注意してください。
③子株についた古い土を軽く落とします。元の株も、根を傷めないよう注意しながら、軽く土を落とします。
④根が乾かないうちに植えつけます。
⑤植えつけから1週間後に、水やりします。
挿し木の時期と方法
挿し木の場合は、仕立て直し(※下記参照)のときに切り取った茎を使います。適期は、5~9月。切り取った茎は、切り口から水分が出るので、日陰で2~3日乾かします。切り口が乾いたら、土を入れた鉢にしっかりと挿します。切り口を充分に乾かしておかないと、雑菌が入って腐敗することがあるので、しっかりと乾かしましょう。
挿し木の直後は、根が出ていない状態なので、非常に不安定です。支柱を立てて、倒れないように支えてください。
アロエの仕立て直しとは?
アロエは草丈が高くなり、下の方の葉が落ちてバランスが悪くなったら、「仕立て直し」の作業を行う必要があります。
方法は、株の上部を30㎝ほどの長さで切り取ります。切り取ったほうを、挿し木に使用しましょう。上部を切り取った下の株は、生長とともに脇から新芽が伸び、葉を出します。
毎日の観察が、病気や害虫を防ぐコツです
育てるときに注意したい病気
比較的病気にかかりにくい多肉植物ですが、害虫などを媒介し、ウイルスやカビ菌などに感染することがあります。病気を防ぐには、日当たりと風通しのよい環境を作ることが重要です。
ウイルス菌
休眠期に注意したいのが、ウイルスによる感染症です。感染すると、葉に斑点のようなまだら模様が表れます。いちど、ウイルスに感染してしまうと、治すことができません。ほかの株への感染を防ぐためにも、早めに処分しましょう。
ボトリチス菌
枯れた下葉につく菌で、春先のまだ寒い時期に発生します。発見したら、菌の付着した枯れ葉や茎を取り除き、殺虫剤を散布します。枯れ葉をまめに摘み取ることで、防ぐことができます。
育てるときに注意したい害虫
春~秋の生育期間にかけて、アブラムシ、カイガラムシに注意してください。害虫は室内で育てているときに発生します。発見したら、すぐに対処するようにしましょう。
アブラムシ
春先に新芽を狙って発生し、非常に繁殖力が強いのが特徴です。アブラムシは葉の裏に付くので、葉の裏をこまめにチェックします。見つけたら、専用の殺虫剤などを使って駆除しましょう。また、水で軽く湿らせた綿棒で、1匹ずつ取り除くという方法もあります。
カイガラムシ
名前のとおり、貝殻のような風体をした害虫です。成虫になると、貝殻のような水をはじく殻に覆われ、殺虫剤などが効きにくくなります。カイガラムシは初夏が繁殖期なので、その時期に注意を怠らないことが大事です。
一方、カイガラムシを駆除するのに便利なのが、歯ブラシです。見つけたら歯ブラシを使って、葉や茎からそぎ落としましょう。
アロエと相性のよい寄せ植えの植物
多肉植物であるアロエは、ほかの多肉植物との寄せ植えが楽しめます。アロエと同じ夏型のカランコエ、セダム、サボテン、ユーフォルビア、クラッスラ、チランジアなどがおすすめです。
小型種の小さな鉢をトレイに並べたり、おしゃれな鉢植えや陶器、ガラス容器などを使ったり、好みの寄せ植えを作ってみましょう。
Credit

監修/矢澤秀成
園芸研究家、やざわ花育種株式会社・代表取締役社長
種苗会社にて、野菜と花の研究をしたのち独立。育種家として活躍するほか、いくとぴあ食花(新潟)、秩父宮記念植物園(御殿場)、茶臼山自然植物園(長野)など多くの植物園のヘッドガーデナーや監修を行っている。全国の小学生を対象にした授業「育種寺子屋」を行う一方、「人は花を育てる 花は人を育てる」を掲げ、「花のマイスター養成制度」を立ち上げる。NHK総合TV「あさイチ」、NHK-ETV「趣味の園芸」をはじめとした園芸番組の講師としても活躍中。
構成と文・角山奈保子
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