観葉植物や草花など、植物を育てる際に必須の要素「日当たり」。なぜ、植物が育つ時に光が必要なのか? これまで何で枯れたのだろう? と悩んでいた人に、ガーデニングを楽しむために知っておきたい基礎知識「光」をご紹介。ここでは、植物の構造や仕組みから光の必要性について触れながら、見た目で判断するためのポイントを説明します。
目次
葉の構造と植物の姿
植物にとって光は必要不可欠です。これがなくてはすべての活動ができません。ですから基本的に植物はより強い光、より明るい光を求めて育ちます。植物の体のつくりや性質がそのようになっています。
とはいえ、燦々と降りしきる太陽の光をじかに受け取れるのは、競争に打ち勝ち大きな体を作りえた一部の植物だけです。ですからほとんどの植物はある程度は日陰に耐える性質を持つか、さもなければ日陰で十分に生きられるように進化しました。つまり強い光の下では生きられなくなってしまった種類も多いのです。ここに「種類によって適切な光の強さは違う」という原因があります。
すべての植物について細かく説明することは一生かけても不可能ですから、ここでは簡単に、大まかな傾向を述べておきます。
葉の構造と光への反応
高校までに生物を学んだ人なら植物の内部構造について学んでいると思いますが、復習を兼ねて簡単に説明します。
葉の構造
植物の葉は普通薄い平面の器官で、多くの場合は表と裏があります。形は種類によってさまざまで、それぞれの植物が生きる環境で最も合理的な形をしています。中にはなくなってしまったり、痕跡程度しか残っていない種類もありますが。
葉は【表皮】【葉肉】【維管束】という3つの組織から構成されています。
【表皮】は葉の表面をつくる皮膚のような組織です。一番上には「クチクラ層」、その次に「表皮」の本体部分があり、所々に「気孔」という空気を出し入れするための穴が空いています。種類によっては表皮組織から毛が伸びています。
- クチクラ層
ワックス状の物質の層で、水の蒸散を防ぎ、病原菌の侵入を物理的に阻止します。葉がツヤツヤしている植物はこの層が分厚いので、あまり葉を冒すような病気にかかりません。 - 表皮
細胞が数層に重なった組織で、細胞壁という保護組織が特に厚くできており、物理的に頑丈にできています。内と外を区分して体を護っています。
しばしば毛を生やしたりきれいな色を帯びたりしており、強い光や乾燥を防いだり、毒を含んで動物から身を守ったり、ネバネバする物質を出して昆虫を防いだり、中には消化酵素を分泌して虫を消化する毛を生やすモウセンゴケのようなものまであります。 - 気孔
植物が生きるために必要な空気を出し入れするための穴です。ただの穴ではなくて、周囲の気温や湿度などに合わせて植物の体内が光合成をするのに最適になるように開閉する優れものです。表には少なく、裏側に多い傾向があります。
【葉肉】はいうならば葉の存在意義そのものといってよい組織で、ここで光合成の大部分が行われます。表側の「柵状組織」と裏側の「海綿状組織」に分かれています。
- 柵状組織
光合成をするために細胞が綺麗に縦方向に整然と並んでいる組織です。ここの細胞は光合成が行われる場である葉緑体の数が多くて、濃い緑色をしています。数も多いのでなおさら濃い色に見えるのです。 - 海綿状組織
一方、裏側にある海綿状組織はその名の通りスカスカで、隙間の多い構造になっています。この隙間は気孔に繋がっているので、取り込まれた二酸化炭素が葉の隅々に行き渡るようにできています。柵状組織と比べると葉緑体の数がやや少なめで、細胞の数も少ないので色が薄く見えます。
【維管束】は水を運ぶ水道管の役割をする「導管」と養分やミネラルの受け渡しをする「篩管(しかん)」からなっています。多くの場合は裏側に出っ張っていて、葉を支える構造としても役立っています。もちろんこの維管束は葉の中だけでなく、茎を通じて根まで続いています。
- 導管
水を通す管状の組織です。死んだ細胞からできていて、文字通り水が通るだけになっています。種類によっては葉の縁や先端まで続いて「水孔(すいこう)」という穴になっているものもあります。吸収した水が多すぎる場合はそこから出すわけです。雨上がりの日の朝露には、こうした水孔から排出された水も含まれているでしょう。 - 篩管
篩管の篩はふるいの意味です。栄養素とミネラルをバケツリレーの要領で運んでいると考えられています。導管と違って篩管の細胞は生きています。需要と供給に応じて植物の体内に栄養素とミネラルを配分するのは生きている細胞でないと無理だからです。そのやりとりを円滑にするために隣の細胞との壁にたくさんの穴が開いていて、それがふるいのように見えるので篩管というわけです。
その他に、種類によっては表皮組織と柵状組織の間に隙間を開け、光を乱反射させて弱める組織があることも。これは何のためにあるのかまだよく分かっていないのですが、日陰の植物に多い傾向があることから「たまに入ってくる強い日差しから身を守るためのものではないか」という推測がなされています。
需要と供給のジレンマ
植物は光合成のために葉で水と二酸化炭素を消費します。ですから理屈の上では大きい葉であればあるほど、光合成の効率はよくなるはずです。しかし実際には葉の大きさや形はさまざまです。目的が同じなら同じ形になってよいはずなのに、どうして違っているのでしょうか?
葉の形については現在でも研究が続いている分野なのですが、種類ごとの葉の形を決めている大きな要素に『水の供給』があります。
極めて単純なことですが、効率よく光合成をするには光の強さもさることながら水が絶えず供給される必要があります。しかしながら、土の中の水分には限りがあり、さらに水を運ぶ導管の能力にも限界があり、そもそも根が一度に吸収できる水の量にも限りがあるわけです。
つまり需要に供給が追いつかないことがあるのです。暑い季節になると、元気よく育っている植物で土には水があるのにお昼頃に葉が萎れているのを見ることがあります。そして夕方近くになると元に戻ってしゃんとしている。これはそうした現象で、水が足りないわけではないのです。
植物は空気に含まれる二酸化炭素も光合成で消費します。現代の地球の大気は植物の要求からすると二酸化炭素が薄いので、彼らからするとちょっと厳しい時代です。
二酸化炭素を周辺から吸えば当然周囲からは少なくなりますから、空気が緩やかに流れて交換される必要があります。一枚の大きい葉ならば効率はよいのですが、自分自身で風を遮ってしまうので効率が低下してしまいます。さりとて風が強いと、大きな葉では煽られて折れてしまい効率低下どころの話ではありません。
そのため風の圧力をうまく流し、周辺の空気の交換がされやすい形になっているのです。例えばヤシの木の葉が細かなパーツに分かれているのもそのためです。大きな葉が風に煽られても問題ないようにあのような形になっています。実際に同じヤシの仲間でも風の弱い森の中に生える種類には切れ目のない大きな葉を広げる種が存在します。
風が弱い場所というのは、しばしば日陰で暗い場所です。熱帯のジャングルの中などはまさにそういう場所で、暗くて、湿度が高くて、風のあまりない環境に適応した植物がたくさんあります。
こういう場所では風が吹いて空気が交換されないので二酸化炭素の吸収がしやすいように表皮が薄く、クチクラ層もあまり無い植物がしばしば見られます。乾燥から身を守る術が必要ないので、そのような葉でも大丈夫なのです。また厚い柵状組織も不要なので葉がより薄くなります。
見た目で必要な光の強さを推測する
長々と説明してきましたが、これは「植物の見た目は、要求する生存条件と密接に関連している」のを理解していただくためです。
例えば白い毛の生えた葉が一年中きれいなジャコバエア・マリチマ(シロタエギク) Jacobaea maritima は、もともと地中海地方の海岸近くに生える植物です。強い光・乾燥・強い風・塩分、そういったものから身を守るために白い毛を全身に生やしてやり過ごしているわけです。
葉に白っぽい模様が入るサトイモ科のアグラオネマやディフェンバキアの仲間は熱帯雨林の中が故郷です。そのような場所で効率よく生きるために葉が薄く、しかしたまに入ってくる強い光から身を守るために光を反射する組織を持っているので、そこが白や銀色に見える模様になっています。
例外はありますが、植物の姿や葉の形などを確かめながら植物図鑑を参照してみてください。より理解が深まります。
私の経験上は次のようになります。
葉が厚く、白くなるほど白粉を帯びて、葉が硬く(曲げられない)、葉の幅が細い植物があれば、だいたい日当たりを好むと思ってよいでしょう。
逆に葉が薄く、緑色で、毛はなく、質も柔らかく、葉の幅が広い植物があれば日陰を好む可能性が高いといえます。
もちろん例外や相反する形質が同居するような場合もありますが、総合的に見てどちらが多いかと考えてください。話が複雑になるので詳しく書きませんでしたが、一般論として斑入りの植物は普通のものより強い日差しに弱いと考えてください。
Credit
文 / 辻 幸治 - 園芸家 -
つじ・こうじ/1976年、大阪生まれ。江戸の園芸文化から海外のワイルドフラワーまで幅広く精通する。NHK「趣味の園芸」にも講師として出演。書籍や雑誌の執筆・監修でも活躍。著書に『色別 身近な野の花山の花 ポケット図鑑―花色別777種』(栃の葉書房)など。
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