世界各地では、それぞれの歴史とともに花壇づくりのデザインにもさまざまな違いがあります。これまで世界各地の庭を巡りながら、自身も日本やイギリス、ニュージーランドなどで庭づくりを実践する造園芸家の二宮孝嗣さんによる花壇づくりのデザインとコツをご紹介します。
日本庭園における花の存在

連載記事【世界のガーデンを探る】では、フランス式やイギリス式など、歴史的な見地から花の植え方を見てきました。それでは、日本の庭はどうでしょうか? 歴史的な庭の中でも、花がきれいな庭はどこでしょうか?


日本庭園の最高傑作といわれる桂離宮や修学院離宮の庭では、花は主役ではないようです。

とはいえ、最近の京都は、やはり花のある風景が必要なようで、龍安寺でも庭の外側に枝垂れ桜が植えられて、京都の観光ポスターにもなっています。本来、お寺の庭には季節感あふれる花々はそぐわない存在なのでした。
心を落ち着かせて自分と向き合う場所である庭に、心浮き立つ花々が咲き乱れていては、心も乱れてしまうのでしょう。しかし、本来お釈迦様がいらっしゃる場所にはさまざまな花が咲き乱れているはずで、エデンの園もしかり、洋の東西を問わず、やはり天国は花でいっぱいなのでしょう。
植栽の基本は「自然であること」



僕の植栽の基本は、あくまでも「自然であること」です。この写真のように人為的ではない美しい水芭蕉のメドウがお手本です。

ここからは、僕が手がけた花壇のいくつかを見ながら、心がけたことやコツをご紹介しましょう。まずは、葉牡丹を使った早春の花壇植栽です。シロタエギクや斑入りのブルーデージーなどを混植しています。葉牡丹は夏の終わりにタネを播けば、春になっても花が立ち上がらず、葉物として春花壇に使うことができます。
自己主張が強い黄花や赤花の使い方

気をつけなくてはいけない色が黄色です。黄色はなかなか他の色と馴染まずに、自己主張が強いので、場合によっては花壇の中で浮いてしまうことがあります。写真は、スイセンの黄色が周りの色を圧倒してしまった植栽例です。さらには、赤いキンギョソウが周囲を囲み、せっかく植えてある紫色のルピナスが沈んでしまっています。

球根ベゴニアの中に鮮やかなゼラニウムの花が混じり合っています。このような時も、手前から淡い色を使い、一番奥に赤を入れると、色のグラデーションが、うまく視線を中に誘い込んで実際よりも奥行きを感じさせてくれます。そして、あくまでも自己主張の強い黄色は控えめに入れましょう。

写真は、梅雨から初夏の花壇です。桃色の花はアジサイ‘コンペイトウ’、赤やオレンジはハゲイトウ、その中に白いネコノヒゲの花穂が混じって、花壇に厚みを持たせています。アジサイは花市場にはほぼ周年出回っている植物になってしまいましたが、やはり本来の時期である梅雨から初夏に使うようにしたいものです。

赤はあまり多く入れすぎると他の花がかすんでしまいますので、必要最小限にしたほうがより効果的です。赤やオレンジでも、特に色素的に光り輝くペラルゴニジン系(オレンジ色の植物性色素)の赤は、花壇の中でも他の色を押しのけて前に出てきてしまうので、多く使いすぎないように注意しています。
色のアクセントを上手に使う

少し高い位置に真っ白なアジサイのアナベルが手毬状に花を咲かせ、すぐ下で、ヒペリカムのオレンジ色の丸い実が手前の紫のアンゲロニカと上手く調和しています。

花壇を少し引いて見てみましょう。手前のベアグラスの後ろには渋い色のハゲイトウを入れ、奥に真っ赤なハゲイトウを数株入れることにより、目線を花壇の最深部まで引き込んでいます。ここで、手前に赤を入れてしまうと視線がそこで止まってしまい、奥行きを感じさせなくなりますので気をつけましょう。

淡いピンクを基調にしたアジサイの混植花壇です。高い位置、低い位置とひな壇状になった花壇を、上はブルーのアジサイを中心に、下はピンクのアジサイが点々と植わって隠し味的な存在になっています。さらに、赤から白までカラフルにクレオメを混ぜて植えてあります。クレオメを使うときは、できるだけ日当たりのよいところに植えましょう。

この庭は僕が設計・施工してつくったものですが、残念ながら今はありません。場所は名古屋のテレビ塔のすぐ下で、商店街の発展のためにつくられたアダプトガーデンの植栽です。市民ボランティアの人たちと年5回花の植え替えをしました。ここは予算が限られていましたので、このように葉物や低木を多く使い庭園風につくると、毎回の花などの材料代が少なくて済みます。縁取りのベアグラスは、春に思い切って丸坊主に刈り込めば、一年中きれいな葉を鑑賞することができます。

神戸にある230戸ほどの集合住宅の中庭につくったフォーマルなサンクンガーデン(沈床式庭園)です。僕がつくってから約15年経っていますが、年に5回、ここにお住まいのガーデニングクラブの方たちと一緒に花の植え替え管理を行っています。この時は、花壇の中に入れた赤のキンギョソウが全体のアクセントになりました。

観葉植物を使ったトロピカルな庭です。観葉植物を使うときは日差しを和らげないと、すぐに葉が焼けてしまいますので、屋外での栽培に使うことは難しいものです。ご紹介の写真は、温室内での植栽例になります。

トロピカルな植栽のアイキャッチには、斑入りのドラセナを高い位置に。赤葉のコルディリネの尖った葉がアクセントとなって、植栽に迫力を出しています。さらに下草には、桃色のブーゲンビレアの花を組み合わせ、チラチラと優しい色が混ざりあって、重くならないようにしています。

カフェコーナーの窓スペースに設けた植栽です。ここでは、淡い春色をテーマにまとめました。一重のストック、サクラソウ、ワスレナグサ、ノースポールなどに、葉ものの斑入りブルーデージー、ラムズイヤー、レースラベンダーなどが混植してあります。

植物の組み合わせは、色合わせだけでなく、季節や環境にも配慮して行います。テクニックもいりますが、主張の強い色と優しく混ざり合う色を意識して選ぶと失敗が防げますので、ご紹介の事例が花壇づくりの参考になればと思います。
併せて読みたい
・失敗しない花壇づくりの仕切り方とデザイン例6つ
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・ガーデニング初心者さん必見! 初めての本格的な「バラの花壇」づくり[完全保存版]
Credit
文 / 二宮孝嗣 - 造園芸家 -

にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
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