家庭菜園に興味があるけれど、庭がないから…と諦めてはいませんか? それならクラインガルテンという選択肢があります。畑に泊まりながら、家庭菜園が楽しめる滞在型の市民農園で、じつは日本には全国に68のクラインガルテンがあります。新しい週末プチバカンスのスタイルとして、今、注目を集めるクラインガルテン。その暮らしをガルテナー歴24年の岡崎英生さんに伺います。
目次
畑1区画に1軒ずつ宿泊小屋があるクラインガルテン

家庭菜園をしたいと思っても、都市部ではマンション住まいの人も多く、戸建てでもなかなか広い庭を持つ余裕がない場合がほとんどです。そうした都市生活者も、自然の中で土に触れて過ごすことができるようにと、地方の広い土地を有効活用して生まれたのがクラインガルテンです。クラインガルテンは家庭菜園が楽しめる市民農園ですが、通常の市民農園との大きな違いは、畑1区画ごとに宿泊できる小屋が1棟ずつ建っていること。そのため自宅から離れた場所にあっても、宿泊しながら畑づくりが楽しめます。
長野県と兵庫県に多いクラインガルテン

日本には2019年現在、全国に68のクラインガルテンがあり、最も多いのは長野県、次いで兵庫県です。どちらも1993年に日本で最初にクラインガルテンをスタートさせた県で、私は長野県の坊主山クラインガルテンに1996年に入居しました。坊主山クラインガルテンは当時、四賀村(現松本市)という村の村長であった中島学さんがリーダーとなって進めたプロジェクトでした。当時、四賀村は村全体で無農薬有機農業に取り組む「エコ・ビレッジ四賀」計画をスタートさせており、クラインガルテン事業もその一環として始められ、畑づくりの条件も無農薬有機栽培でした。四賀村は後に松本市と統合され、クラインガルテン事業の管轄も松本市へ移りましたが、無農薬有機栽培という理念は今も変わっていません。
利用料は1区画、平均年間40万円

クラインガルテンの利用条件は様々ですが、小屋付きの畑は1区画約250㎡で、利用料金は全国平均で年間40万円。坊主山クラインガルテンの場合、小屋はキッチンとユニットバス、ロフト付きで、36万円。電気・ガス・水道の光熱費は個別に支払いますが、住民ではないので、ゴミは持ち帰って居住地域で捨てなければなりません。契約するといつでも好きな時に通えますが、あまり来なくて畑が雑草で荒れ放題だったりすると、ペナルティーが課せられ、1年毎の契約更新時に更新できなくなるなど、それぞれにルールがあります。

世界中にあるクラインガルテン

クラインガルテンというのは、ドイツ語で「小さな庭」という意味です。貧しい労働者階級の人々の健康回復と自給自足のために、19世紀後半のドイツで生まれたシステムで、同様の市民農園は世界各国にあります。ダーチャ(ロシア)、アロットメントガーデン(イギリス)、コロニーヘーブ(デンマーク)など、呼び名はさまざまですが、いずれも小屋付きの市民農園です。海外では小屋を自分で建てたり、宿泊まではできないような休憩小屋のことも多いようですが、日本の場合は最初から小屋は用意されており、インフラも整っています。
畑づくりを手ほどきしてくれます

さて、クラインガルテンを借りて家庭菜園を始める際、何をどうすればよいか初心者には分からないものです。けれども、ご安心を。畑づくりの講習会があったり、管理人さんが教えてくれたり、どのクラインガルテンでも畑づくりの手ほどきを受ける機会が用意されているはずです。坊主山クラインガルテンは無農薬有機栽培が条件なので、入園者のための講習会が開かれ、そこでは土づくりから堆肥づくり、害虫対策までさまざまなことを教えてもらえます。雑草や枯れ葉も無駄にせず、自然のサイクルの中で循環させていく栽培方法を教えていただいたことは、大切な財産です。私は今も24年前に教わったことを忠実に守りながら畑づくりをしています。

楽しい収穫祭や交流会なども

普段は個々の畑で、野菜づくりや花の庭づくりに精を出していますが、年に数回、ガルテナー(利用者をこう呼びます)同士が交流する機会があります。坊主山クラインガルテンでは毎年、春には新人ガルテナーの歓迎会を兼ねた開園祭、秋には地元の野菜や果物、はちみつなどの販売や食べ物の屋台が並ぶ収穫祭が開催され、ガルテナー同士や地元の人たちと楽しい時間を過ごします。このほかにも地元の人が企画してくれた山菜採りツアーやキノコ狩りなど、豊かな自然の中でのレジャーがこれまでたくさんありました。また、ガルテナーの中には楽器演奏が得意な方がいたり、そば打ちが得意な方がいたりして、ガーデンパーティーなどでそれぞれの特技を生かして楽しく交流しています。職業も年齢も住まいも異なるガルテナー同士のこうした交流も、クラインガルテンの大きな魅力です。
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Credit
文/岡崎英生(文筆家・園芸家)
早稲田大学文学部フランス文学科卒業。編集者から漫画の原作者、文筆家へ。1996年より長野県松本市内四賀地区にあるクラインガルテン(滞在型市民農園)に通い、この地域に古くから伝わる有機栽培法を学びながら畑づくりを楽しむ。ラベンダーにも造詣が深く、著書に『芳香の大地 ラベンダーと北海道』(ラベンダークラブ刊)、訳書に『ラベンダーとラバンジン』(クリスティアヌ・ムニエ著、フレグランスジャーナル社刊)など。
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