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イングリッシュガーデン旅案内【英国】ベス・チャトー・ガーデン(2)癒しの水の庭と森の庭

イングリッシュガーデン旅案内【英国】ベス・チャトー・ガーデン(2)癒しの水の庭と森の庭

庭好き、花好きが憧れる、海外ガーデンの旅先をご案内する現地取材シリーズ。今回旅したのは、イギリス南東部のエセックス州にある世界的名園、ベス・チャトー・ガーデンです。2018年5月に世を去ったベス・チャトーは、20世紀を代表する英国のガーデンデザイナーであり、「世界一のプランツウーマン」でした。彼女が1960年代から生涯をかけて自宅につくった庭は、園内の異なる環境に、約2,000種の植物が適材適所で植えられていることで有名です。周囲と美しく調和する、ナチュラルでのびやかな庭。ここでは、水の庭と森の庭を巡ります。

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乾燥の地につくられたウォーター・ガーデン

ベス・チャトー・ガーデンのウォーターガーデン

花好きさんの旅案内【英国】 ベス・チャトー・ガーデン(1)乾燥に強い庭を実現』では、乾燥に耐えられる植物を集めたグラベル・ガーデン(砂利の庭)をご紹介しましたが、そのグラベル・ガーデン脇の庭園入り口を抜けていくと、今度は、たっぷりと水をたたえ、青々と茂る水辺の植物に縁どられた池が現れます。

ヤグルマソウ(ロージャーシア)
シェードガーデンや湿地を好むヤグルマソウ(ロージャーシア)。

予期せぬダイナミックな水辺の景色に、思わず見とれてしまいます。じつは、この池は、泉から水を引いた水路をせき止めてつくった、人工の池です。エセックス州のこの辺りは、年間降雨量が少ないことで知られますが、ベスは、乾燥したこの地では育てるのが難しい、プリムラやホスタといった湿り気を好む植物を育ててみたいと思い、池をつくって、湿度を保った環境を整えることに挑んだのでした。

3つの池
芝生のエリアに3つの池が並んでいる。

ウォーター・ガーデンには、ベスが厳選した、水辺を好む植物や、湿り気を好む植物が植えられています。彼女の庭づくりの合言葉は‘Right Plant, Right Place’(ふさわしい植物を、ふさわしい場所に)というものですが、グンネラやススキの仲間など、適切な環境に植えられた植物はよく茂って、夏には涼やかな空間をつくります。暑い夏場、水辺の気温は、庭園内の他の場所に比べて数度低くなるそうです。乾燥した土地にあって、この水の庭の豊かな景色は驚くべきものです。

コウヤワラビとカンデラブラ・プリムラ
コウヤワラビの仲間の葉の間から黄花を咲かせるカンデラブラ・プリムラ。
スクリー・ガーデンからの景色
少し高台のスクリー・ガーデンから水の庭を望む。

ウォーター・ガーデンから緑の芝生を少し上っていくと、そこはもう、スクリー・ガーデン(がれ場の庭)です。ベス・チャトー・ガーデン(1)編でご紹介しましたが、こちらは水の庭とは対照的に、乾燥に強い植物を集めた庭。ベスが、正反対の性質を持つ植物をひとところで観賞できるガーデンをつくりだしたというのはすごいことだなぁと、歩きながら感心しました。

ふかふか芝生の小径

ロング・シェイディ・ウォーク
芝生が広々と続くロング・シェイディ・ウォーク。

ウォーター・ガーデンの先には、ふかふかの芝生が続く、ロング・シェイディ・ウォーク(長い日陰の小径)があります。大きなオークの木々が葉を広げる下に、シダやホスタ、ティアレラ・コルディフォリア、ヴィオラ・リヴィニアナ‘プルプレア’など、日陰を好む植物が植えられています。

弾力のある芝生の小径は幅が広くゆったりしていて、庭を独り占めしているような感覚で散策を満喫できます。もし時間が許すなら、来た道を戻りながら違う角度から眺めるのもよいでしょう。新鮮な発見ができそうと感じました。

多彩な緑を楽しむウッドランド・ガーデン

ウッドランド・ガーデン

ウッドランド・ガーデンは、森の中の散策を楽しむ庭です。大きなオークの木々が葉を広げてつくる天蓋の下には、森の下草としてふさわしい、日陰を好む球根花や宿根草、灌木、シダなど、ベスが厳選した植物が植えられています。

ウッドランドガーデン
深い緑を背景に、ユリが映える。
森を背景に樹木につるが絡む
木の幹に絡み、白いアジサイに似た花を咲かせているのはツルアジサイ。

森の中は、静けさに満ちた、安らぎのある空間です。他の庭に比べると、当然ながら花より葉の緑が多く、色彩はおとなしめですが、緑を背景に花々の清楚な姿が浮かび上がって、心引かれます。

ゲラニウム
林床には、ゲラニウムが広がる。
白花のゲラニウムと様々な葉
白花のゲラニウムとさまざまな葉色が混ざり広がる。

足元に茂る植物に目をやると、さまざまな葉が美しいコンビネーションを見せています。緑色の濃淡の対比や、葉の形や模様の豊かさは、見ごたえ十分。フラワーアレンジメントに精通した、フローリストの目を持つベスならではの、繊細な植栽です。ここに派手な植物はありませんが、彼女らしい植栽の魔法が発揮されているように思いました。

手入れ中のガーデナー
若いガーデナーが手入れをしているところに遭遇。

受け継がれるチャレンジ精神

植物に縁取られた小道

こちらは、オープンな日向のエリアが広がる、新しいリザーバー・ガーデン。デザインが一新されて、2017年に公開されました。ここには、あまり環境を選ばない植物が植えられていて、その一角は、ニュー・プランティングと呼ばれる、新しい品種の植物を試験的に育てる場所となっています。風に揺れる白花と低く茂る紫の花穂

2014年から2年近くかけて、ベスのチームはこの辺りの粘土質の土を改良しました。使われたのは、無農薬(オーガニック)のスペント(使用済み)・マッシュルーム・コンポストです。

英国では、商業的なマッシュルーム栽培で菌床として使われた、麦わらや馬ふんなどからなる堆肥(マッシュルーム・コンポスト)を、ガーデニングに再利用する動きがあります。ベス・チャトー・ガーデンによれば、使用済みのマッシュルーム・コンポストは、窒素の量は少ないものの、他の栄養素が多く含まれ、粘土質の土壌の改良や、栄養不足の土に使う腐葉土に加えるのに最適だそう(ここでは、蒸気殺菌された使用済みマッシュルーム・コンポストが使われています。コンポストはアルカリ性なので、酸性を好むツツジ科の植物には与えないことや、土のpHが偏りすぎないように使用に注意が必要です)。

コンポストを土に十分にすき込むためには、一度に薄くしか撒けません。ベスのチームは何度も何度も根気強く、大量のコンポストをすき込み、改良を続けました。

ネペタ・グランディフローラ‘サマー・マジック’
ネペタ・グランディフローラ‘サマー・マジック’。

ニュー・プランティングのエリアでは、ベス・チャトー・ガーデンにとっても挑戦となる、新しい品種の植物を育てています。

1950年代後半からフラワーアレンジメントの活動に携わったベスは、海外から取り寄せた植物の種子を発芽させて、当時はまだ珍しかった、ナチュラルなテイストの植物を育て、紹介し続けていました。1977年から1987年にかけては、英国王立園芸協会のチェルシーフラワーショーで「珍しい植物」の展示を行い、連続で合計10個のゴールドメダルを受賞しています。

たしかに、ここで日本ではまだ耳にしたことのない、最新の植物に出合うことができました。みんなが喜ぶ新しい植物を紹介し続けた、ベスの精神が受け継がれているように感じました。

庭と連動したナーセリー

ベス・チャトー・ガーデンのストックベッド
ベス・チャトー・ガーデンの奥に設けられているストックベッド。

ウォーター・ガーデンの脇と、ウッドランド・ガーデンの脇には、広いストックベッドがあります。ここは、ナーセリーで販売するための苗を育てる場所。毎年6万株を育てているそうで、庭に生えている植物と同レベルの、しっかりとした健やかな苗が育っています。

ずらりと並ぶカート
ナーセリーの入り口付近には大きなカートが。たくさんの苗を買うことができる。
ナーセリー
苗がずらりと並ぶナーセリーの様子。

ナーセリーで売っている品種の数は、2,000を超えます。苗の多くは、この庭に生える植物から増やしたものなので、庭はいってみれば「商品カタログ」の役割を果たしています。例えば、樹木の下の日陰で育てるのによい植物は何かなど、実際の庭を見ながら目的にふさわしい植物を探し出して、その苗を持ち帰ることができるというわけです。

苗は生育環境ごとに並ぶ
自庭の条件に合った植物を探しやすいように工夫されたナーセリーの一角。

ナーセリーは、乾燥に強い植物、水を好む植物、日陰を好む植物など、植物の性質ごとに売り場の区画が分かれていて、どんな庭に植えるべき植物なのか、一目でわかります。庭園に植わっている植物には一つずつ名札がついているので、その品種名を頼りに苗を探すこともできますし、また、気になった植物の写真を撮ってナーセリーにいる園芸スタッフに見せれば、名前を教えてくれます。地元の人達にとっては、心強い味方に違いありません。とても活用されているガーデンなのだなぁと感じました。

カフェレストラン
ナーセリーの入り口付近にあるカフェレストランの建物。
テーブルアレンジ
カフェレストランの各テーブルには庭の花が飾られて、いい雰囲気。

庭園にはショップと小さなカフェレストランが併設され、窓の外に広がる庭を眺めながら、昼食を楽しむことができます。テーブルには庭の花が生けられていて、ほっこりした気持ちになります。

ベス・チャトー・ガーデンのショップディスプレイ

庭の植物が無農薬で育てられていると聞いたからか、庭の空気もなおさら気持ちよく感じられました。ベスは無農薬栽培を熱心に提唱した人でしたが、これだけの規模のガーデンを無農薬で管理するのは本当に志が高くないと継続できません。きっと彼女は芯が強くて、カリスマ性のある人物だったのだろうと、その庭に触れて実感しました。

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