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植物の葉色や花色が変化する仕組み【植物学基本講座】

植物の葉色や花色が変化する仕組み【植物学基本講座】

秋が深まるにつれ、楽しみになってくるのが紅葉。イチョウやモミジなどの植物の葉は、今までの爽やかな緑色から、目にも鮮やかな赤や黄色へと変化します。また、植物の種類によっては、咲き進むにつれて花色が移ろうものもあります。このような美しい自然ならではの変化を不思議に思ったことはありませんか? 今回は、植物の色の変化について解説します。

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紅葉の仕組み

紅葉

はっきりとした四季のある日本では、季節ごとにそれぞれ美しい光景を目にすることができます。そんな季節のなかで、秋らしい光景といえば、紅葉。毎年楽しむことができる身近な現象ですが、その仕組みをご存じでしょうか?

紅葉は、植物の葉にアントシアニンが蓄積し、クロロフィルが減少することによって引きこされる現象で、主に落葉樹において見られ、紅葉や黄葉の色調は、アントシアニン、クロロフィル、カロテノイドの3種の色素によって決定されます。

紅葉
Photo/LilKar/Shutterstock.com

アントシアニンとは多くの植物に含まれている色素で、植物の花や果実などの赤や青、紫など幅広い色を呈色します。クロロフィルは葉緑素のこと。光エネルギーを吸収してエネルギーをつくる植物にとって非常に重要な化学物質で、緑色をつくる色素成分でもあります。カロテノイドは黄色の色素で、紅葉する前の多くの葉に含まれていますが、通常はクロロフィルのほうが多く含まれているために緑色や黄緑色に見えています。

紅葉

秋が深まるにつれ、日照時間が減少し、気温も下がってくると、光合成の効率も低下し、落葉樹は休眠の準備として不要な葉を落とす落葉を始めます。そのプロセスの一つとして起こるのが紅葉です。気温が下がると葉に含まれるクロロフィルが分解され始め、同時に葉と茎や枝をつなぐ葉柄の付け根に離層と呼ばれるコルク質の層がつくられてきます。離層により、葉と植物全体の間での水や栄養など物質の移動が妨げられ、分解されずに残っているクロロフィルが行う光合成により生成されるグルコースが葉に蓄積されるようになります。

紅葉した葉
Photo/Sergey Chayko/Shutterstock.com

この余剰なグルコースからアントシアニンが合成されます。この時、カロテノイドの分解はクロロフィルの分解よりも遅れて行われるため、クロロフィルが分解されるにつれて次第に黄色が目立つようになります。分解過程にある緑色のクロロフィル、葉に残る黄色のカロテノイド、合成される赤色のアントシアニンの3種の色素の量などによって、紅葉の色調が決定されます。イチョウやポプラなどの黄葉する葉の場合は、アントシアニンが合成されにくいために赤色にはなりません。ちなみに、花などでは青色や紫色を発色することもあるアントシアニンですが、紅葉が起こる葉の細胞は酸性状態になっているため、アントシアニンは赤色系に発色します。

より美しい紅葉の条件

紅葉

紅葉が美しくなるためには、多くの糖分が葉に蓄えられること、クロロフィルが素早く分解されることが大切だといわれます。そこで、以下のような条件が揃うときに美しい紅葉が見られるといわれています。

  • 晴れた日が続き、葉が日光を十分に受けていること
  • 最低気温が8℃以下の日が続くこと
  • 昼夜の気温の差が大きいこと
  • 適度な湿度があること

など。

紅葉は、日中の気温が8℃を下回る日が続くとスタートし、5~6℃以下になると急激に進むといわれます。上の条件が揃うことにより、糖の蓄積やクロロフィルの分解などが促進され、美しい紅葉が見られるのだとか。これらに加え、夏の気温が高いことや、雨量が多かったことも紅葉の発色に影響することがあるそうです。

紅葉の仕組みや目的、美しく発色するための条件などについては、まだ分かっていないことも多くありますが、美しい紅葉の色合いは、その年ごとに異なるもの。秋のつかの間だけ繰り広げられる自然界の芸術を、今年も楽しんでみてはいかがでしょうか。

紅葉

花色の変化の仕組み

植物に訪れる色の変化は、紅葉だけではありません。植物の種類によっては、花色や葉色が次第に変化していくものもあります。時間の経過につれて移り変わる色合いは、儚くも美しいもの。今回は、花色が変化する代表的な植物3種について、その仕組みを探ってみましょう。

一日のうちで花色が移り変わるスイフヨウ

スイフヨウ
赤みが差してきたスイフヨウ。Photo/plew koonyosying/Shutterstock.com

花色が変化する植物として知られる代表的な花が、スイフヨウ。スイフヨウはアオイ科の植物で、夏に咲く一日花は、咲き始めの朝は純白ですが、時間が経つにつれて次第にピンク色が差し、夕方しぼむ頃には紅色になっています。この色の変化を、お酒に酔って、顔が赤らむ様子に見立て、酔芙蓉と名付けられました。花色の変化を引き起こすのは、色素のアントシアニン。

朝のスイフヨウは白い花。Photo/stamptam/Shutterstock.com

スイフヨウの花色の変化は、花弁の中でアントシアニンの合成が進むために起こります。朝、花開いたばかりの段階では花弁にアントシアニンは含まれていませんが、午後になると細胞内でアントシアニンを生合成する酵素が活性化して花弁にアントシアニンが蓄積され、次第に赤みを増してくるのです。ちなみに、実は白い花には、基本的にヒトの目に色づいて見える色素は含まれておらず、細胞内の隙間で起こる乱反射などにより白く見えています。

青紫色と白色の二色咲きになるニオイバンマツリ

ニオイバンマツリ
Photo/sarintra chimphoolsuk/Shutterstock.com

ニオイバンマツリの花は、咲き始めの濃い紫色から淡い紫色になり、2日ほどの間に真っ白な花へと変化します。この花色の変化から、英語では「yesterday-today-and-tomorrow」や「morning-noon-and-night」などという名でも呼ばれています。白と紫の色違いの花が株を覆うように咲く姿は見事で、ガーデニングでも人気のある植物です。このニオイバンマツリの花色の変化は、スイフヨウとは反対に、花弁に含まれるアントシアニンが、酸化酵素によって徐々に分解されることから起こると考えられており、開花後はアントシアニンの分解が進むにつれて次第に花色が淡くなっていくとされています。

アジサイの色の七変化

アジサイ

移ろいやすいものの代表として知られ、花言葉にも「移り気」という意味があるアジサイ。基本的に、酸性の土壌では青い花を、アルカリ性の土壌ではピンクの花を咲かせます。アジサイの花色の変化の理由は、これまた色素アントシアニンにあります。その仕組みの概要は以下の通りです。酸性の土壌ではアルミニウムが溶け出して根から吸収されやすくなり、吸収されたアルミニウムはアジサイの花弁、正確には萼片にあるアントシアニンと結びついて青色を発色。一方、アルカリ性の土壌ではアルミニウムが溶け出しにくいため、アントシアニンは赤色を示すとされています。

アジサイ
Photo/parasolia/Shutterstock.com

もっとも、アジサイの花の色調は、土壌の酸性度だけでなく、アジサイの細胞のpHや、アジサイに含まれる助色素類、そしてアルミニウムの量などが遺伝や環境的な要因によって変化することで決定されることが、近年の研究で明らかになっています。また、アジサイの品種によっては、土壌の酸性度に関係なく花色を保つものもありますし、もともとの花色の性質と合わさって紫色の花を咲かせる場合もあります。ちなみに、日本の土壌は弱酸性を示す場合が多く、日本で自生するアジサイは青系のものが一般的です。

ランタナ
Photo/Koy_Hipster/Shutterstock.com

ここでご紹介した花のほかにも、咲き進むにつれて花色が移ろうバラや、七変化という和名を持つランタナなど、花色が変化する植物はたくさんあります。身近でありながら案外知らない植物の変化について、気になるものを調べてみてはいかがでしょうか。

【植物学基本講座】紅葉、植物の葉色が変化する仕組

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