人間にとって身近な存在である自然には、人の自己治癒力を高めたり、病気にかかりにくい心身に導く効果が期待されています。そんな自然との触れ合いを通して、健康な暮らしと健康寿命の増進を目指すのが“ガーデンセラピー”。ここでは、病院や老人施設でガーデンセラピーの活動をしているガーデンライフアドバイザーの有島薫さんに、現場での活動の様子を伝えていただきます。今回は、介護老人保健施設での活動レポートです。
目次
都市型老人保健施設屋上の花壇づくりの依頼を受けて…

ここは東京都大田区にある「医療法人社団 松英会介護老人保健施設シルバーライフ馬込」の屋上です。この施設は都内第一号の都市型老人保健施設として認可され、入所者ファーストの運営方針で今日まで運営されてきました。
知人を通してこちらの施設から、「屋上に入所者の皆さまの憩いの場として花壇をつくりたい」という依頼を受けました。私は、過去に公園のリニューアルや、公共の花壇づくりなどで、車いすの方にも楽しんでいただける花壇づくりのお手伝いをしたこともあるので、喜んで協力させていただくことにしたのです。
入所者の皆さんと一緒に行った屋上花壇づくり

屋上に花壇をつくりたいという相談を受けたのが、2017年の暮れ。そこから、まずは屋上の強度の計算、さらに防水工事を行い、その間に庭づくりのコンセプトについて施工業者と話し合いを進めました。

植え付けまでこぎつけたのが、およそ3カ月後の3月4日。この日は、施設のスタッフの皆さんからなる「ローズガーデンチーム」総動員で作業しました。

植栽は、手の届かない上段にトゲのあるバラや宿根草を、下段には触れると香るローズマリーやラベンダー、タイムなどのハーブを植え、草花はバーベナ、ロベリア、カラミンサ、ヒューケラ、セージ、スティパなどローメンテナンスのものを選びました。花壇全体をオーガニック栽培にしています。
花壇の完成が間近になると、入所者さんの中で園芸に興味をお持ちの方たちが、待ちきれずに屋上にいらっしゃるように…。そこで、いっそのこと、入所者さんも可能な範囲で参加できるようにしたらどうだろう、と思いついたのです。そこからは、花苗などの植え付けを、私もお手伝いしながら、入所者さんにもやっていただくようにしました。
実際に花壇で作業をする入所者の皆さんの生き生きとした表情は、私にとっても、施設のスタッフの方々にとっても、とても喜ばしい光景でした。
普段は、施設の「ローズガーデンチーム」が花壇を管理していますが、負担を軽減するために、自動灌水装置を設置。このおかげで、日照が強い屋上でも、夏の猛暑を乗り切ることができました。また、週1回は、オーガニック栽培のプロがメンテナンスに訪れています。
思い出話に花を咲かせる憩いの場に

この屋上花壇のコンセプトは、「要介護の方でも利用できる車いすファーストなガーデン」。ですから、花壇の高さも、車いすに乗ったまま草花を楽しんだり、植え付けなどの作業ができるようにしました。
草花も、入所者の方々が庭いじりをしていた頃に親しんでいた種類を選んで植えたので、皆さん「懐かしい」と思い出話に花を咲かせています。

こちらの写真は、一時的につくった日陰の懇談場所。ここから花壇を眺めることができます。上を覆うのは、ブドウのピオーネ。2018年はすでに収穫し、入所者の皆さんと一緒にいただきました。
右側の木はキンモクセイで、秋には甘い香りを放ちながら咲き誇ります。

皆さん、レモン、イチジク、ブドウ、ブルーベリーなど実がなるものにとても興味を示してくださるので、これからさらに増やしていく予定です。


屋上をオアシスにする構想でスタートし、完成した花壇ですが、今後も手直しを加えながら、さらに皆さんの憩いの場となるよう運営をしていきたいと思います。皆さんの喜ぶ顔が楽しみです。
Special thanks:
医療法人社団 松英会介護老人保健施設シルバーライフ馬込 施設長 寺門運雄氏、同事務長 市川浩徳氏、同スタッフ 坂井由美子氏、医療法人社団 松英会理事長 寺門節雄氏、オーガニック栽培のプロ 梶浦道成氏
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Credit

写真&文/有島 薫
ガーデンライフアドバイザー。祖母の影響を受け、幼い頃からバラに親しむ。バラの楽しさを広めるため、「もっと気軽に、もっと手軽に」をモットーに栽培方法などを指導。実践にもとづきながらも、既成概念にとらわれないアドバイスが好評。クリスマスローズ、クレマチスの鉢栽培にも長け、現在はマンション専用庭で小さな庭作りを実践。その傍ら、大学病院入院患者を対象に病院内花壇で園芸療法の一環としての園芸指導、公共の公園・花壇の植栽指導、老人ホームの入所者へのガーデンセラピーなどを実施。近著に『もっと咲かせるバラづくり』(廣済堂出版)など。
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