土の表面を覆い、フカフカと緑を広げるコケ。盆栽の表土に張ったり、苔玉づくりなどでも使われていますが、最近は小さなガラス容器の中でコケを育てる「コケテラリウム」が静かなブームです。このブームの先導役で、コケ専門ブランド「道草michikusa」のクリエーター・石河英作さんにコケの魅力と栽培法を教えていただきます。
本が読める程度の明るさがある室内で、密封できるガラスの容器の中で育てることができるコケ。ベルベットのように圴一の葉が広がるものや、海藻を思わせるフォルム、細長く光を求めて伸びるものなど、近づいてよーく見ると、コケがつくるミニチュア空間に引き込まれていきます。
ランの種苗メーカーで育種や企画営業に従事した後、コケ専門ブランド「道草michikusa」を立ち上げた石河さんは、「小さくても力強く生きるコケの魅力に取りつかれて、コケの販売と並行してコケの魅力を伝える活動をしています。コケに興味を持ってもらい、栽培する楽しさを知り、やがては植物を広く楽しめるきっかけになれば」と話します。
部屋の片隅で手軽に栽培をスタートできるコケですが、育てる以前にまず興味を深めてほしいと、マスキングテープやコケ入りのガチャガチャ(イベント限定)など、コケを使ったいま話題のアイテムを用意。手のひらサイズの小瓶に収めて、ネックレスやストラップなどのアクセサリーとして身につけられるという意外なグッズにまで展開!
ルーペを手に、街中や森の中でコケを観察するイベントを行うなど、コケには楽しみ方がいろいろあることをアクティブに実践中です。石河さんの活動から最近、コケを愛でる「コケ女子」も急増中。イベント会場ではコケネックレス(生きたコケが小瓶に入ったネックスレス 2,700円)を買おうかどうか、真剣に悩む女子の姿が見られました。石河さんいわく「やっぱ、好きな植物って身につけたいじゃん」とのことで誕生したコケアクセサリーです。石河さんの熱いコケ愛のおかげで、これまで和風庭園や盆栽から連想する“ちょっと渋い”イメージだったコケが、ずいぶん若返ったことを確信しました。
目次
コケも種類が豊富
街中では日陰や日向、石の上、木の幹、プランターの中など、いろいろな場所で遭遇するコケ。日本に自生しているコケは、約1,700種類といわれ、好む環境は種類によって違います。その中でも密封できるテラリウムの中で育てやすいコケは20種ほど。
なかでもコケテラリウムの初心者向けの育てやすい品種は、写真左から、ホソバオキナゴケ、ヒノキゴケ、ホウオウゴケです。この3種の違いを見るだけでも、コケってこんな姿をしてるんだ! と新鮮な驚きがあります。
「コケテラリウム」づくりに挑戦!
「道草michikusa」では、コケテラリウムの完成品から、栽培に適したコケの品種とガラス瓶、専用土、溶岩などが一式セットになった作製キットや各資材の単品なども販売しています。まずは1種類育ててみて、栽培に慣れたら、他の品種をプラスしたり、好みの容器を用意してオリジナルのコケが育つ風景をつくったりと、少しずつ楽しみを広げていけるのも、コケテラリウムの面白いところです。
テラリウム作製の一例をご紹介。まず、コケ2〜3種(パック入りで販売されています)と専用用土「苔テラリウム用Soil」(粒が細かい焼赤玉土・富士砂・くん炭をブレンド)、ガラスの容器、ハサミやピンセット、スプレーなどを用意。
ガラスの容器に用土を入れて一度湿らせ、コケをひとつまみずつ用土にピンセットで植え込みます。長い場合は根元付近を切って短くしてから植え付けます。
植え込んだら直射日光が当たらない、日中文字が読める程度の薄明かりの場所に置いて育てます。窓がない場所では、照明などの光が8〜10時間当たれば栽培が可能です。インテリア用のLED照明でも十分に育つので、「我が家は日当たりが悪くて植物を育てるのを諦めていた」という人も、ぜひチャレンジを。
日頃の手入れは、2〜3週間に一度、霧吹きでコケの表面を湿らせるように水を与えます。葉から水を吸収するので、全体にまんべんなくかかるようにしましょう。また、用土が湿った状態を保つことも大切です。でも、湿りすぎには注意。ときどき、観察がてら1日5分程度を目安に、蓋をあけて換気するのも順調な生育に効果的です。
コケが伸びすぎて容器に収まりにくくなったら、ハサミで先端を切り取ったり、茶色くなった部分も切り取っておきましょう。カビ発生の予防にもなります。もしカビが生えてしまったら、コケを取り出して水洗いしたり、用土を新しくして植え替えましょう。植え替えは2年に1回がオススメです。カビの予防には、青森ヒバの精油を500㏄の水に1滴垂らして、よく混ぜたものを霧吹きするのも効果的です。
まだまだありますコケ話題
驚きのコケ食にチャレンジ
都内某所で「コケを食べる」という、ちょっと耳を疑うけれど何だかワクワクするイベントも密かに行われています。コケ食の主役は、ジャゴケ。平たいワカメのような緑が伸びて広がるコケ類に属するコケで、表面を指でこするとマツタケに似た香りが立ちます。このマツタケに似た香りを食してみよう! と、石河さんと仲間たちにより、ジャゴケを食す研究が近年、真剣に進められています。
表面に蛇を思わせるうろこ状の模様が浮き立つのがジャゴケの特徴です。沢沿いの湿った場所などに自生しています。東京なら、等々力渓谷で自生する様子が観察できるとか。今回のジャゴケ食のために用意されたのは、島根県の天然産と、山梨県産の食用として温室栽培されたもの。石河さんによれば、ジャゴケを土からはがして一枚一枚土を洗い流す過程で、「俺は何をしているんだろう」という思いを若干抱かなくもないとのことですが、未知の食材に対する探究心によって、「コケを食す会」は今回で4回目を重ねました。ちなみにジャゴケは、密封型の容器よりも上部があいた容器のほうが育てやすいそうです。
メニューは、細かくしたジャゴケをパン生地に練りこんだバンズに、軽く焼いたジャゴケをトッピングした、その名も「mossバーガー」。サイドメニューには、フライドジャゴケ&ポテト。デザートにジャゴ白玉&ジャゴ寒天の和スイーツまで。そのお味はいかに?! 確かめたい方は、ぜひ栽培してチャレンジを。石河さんのジャゴケの風味を生かした料理研究も、まだまだ始まったばかり。次はどんな驚きのコケ話題が飛び出るか、コケの楽しみを探求する「道草michikusa」石河さんの活動に今後も注目です。
取材・写真協力/道草 http://www.y-michikusa.com
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Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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