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無農薬有機栽培で野菜を丈夫に美味しく育てるための土づくり

無農薬有機栽培で野菜を丈夫に美味しく育てるための土づくり

長野県松本市郊外の山里で野菜づくりを始めて23年──。そこは最初は重い粘土質の土壌で、耕すのにひどく苦労する場所でした。
ところが、やがてフカフカ、サラサラの土に。いったい、何が土を変えたのか? 園芸家の岡崎英生さんが毎年行っているオーガニックガーデニングによる土づくりをご紹介します。

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一本の草も、一枚の枯れ葉も

春、畑に生え始めた雑草を抜いていくと、すぐに一輪車1杯くらいになる。春の雑草は、まだ根張りもそこそこで抜きやすいので、幼い孫娘も喜んで手伝ってくれた。

「みなさんは、一本の草も、一枚の枯れ葉も無駄にしてはいけません」

1996年4月、信州四賀坊主山クラインガルテンに入園し、無農薬有機栽培の講習会に初めて出席したときのことだ。講師は坊主山クラインガルテン支配人、橋本和加一さんだった。

畑で抜き取った雑草や、収穫後の野菜の残渣、咲き終わった庭の草花類、枯れ葉などは決して捨ててはいけない。どこか場所を決めて積み上げておけば、1〜2年後には良質の有機堆肥になるので、畑に戻せる。

「そうやって、まずはしっかりと畑の土づくりをしてください」

と橋本さんは言った。

有機堆肥を使った土づくりをすることによって、畑の地力が上がり、病虫害に強い土壌ができる。従って、農薬や化学肥料に頼らなくてもいいようになる。しかも、味の濃い、うまい野菜が採れる、というのだった。

安心・安全な野菜をつくりたい

信州四賀には坊主山57区画、緑ケ丘73区画、計130区画のクラインガルテンがあり、野菜づくりに精を出すもよし、また花だけをつくってもいいが、いずれにしても無農薬有機栽培がルールで、農薬や化学肥料を使うことは認められていない。

かつて私が野菜づくりをしていた埼玉の自宅近くの市民農園は、農薬派が大半だった。いくら使いたくない、安心して食べられる安全な野菜をつくりたいと思っていても、農薬派が大量に薬剤を散布するので、風に乗ってこちらの区画まで流れてくる。それでもキュウリなどは生育途中で必ずウドン粉病になってしまい、ろくな収穫がないのだった。

で、そんなときに知ったのが、信州四賀坊主山クラインガルテンの開設。早速応募したものの、当時は入園希望の倍率が二十数倍と高率だったので、2年続けて落選。3年目の96年にようやく入園を許されたのだった。

自家製堆肥づくりを始める

タンポポやホトケノザなど、およそ20種類ほどの雑草が生えてくる。

そんなわけで私は、橋本さんが教えてくれた自家製有機堆肥づくりの方法を、すぐに実践することにした。

何しろ、坊主山206号園、つまり私に与えられた区画は、芝生が張ってある部分を除けば、どこもかしこも雑草だらけだった。ハコベ、カタバミ、オオイヌノフグリ、オオバコ、スベリヒユ、ホトケノザ、タンポポ、ヨモギ、ヤエムグラ……。

広さ100㎡ほどの区画に生えている草は、およそ20種類ぐらいはあっただろう。それをみんな取ってしまわないことには、野菜づくりは始められない。

それに、四賀坊主山は標高約650m。4月いっぱいは遅霜が降りる恐れがあるので、野菜づくりができるようになるのは5月の連休明け。要するに、入園はしたけれど、当分の間は草取りに明け暮れるしかないのだった。

 

ヨモギは若芽の柔らかいところを摘んで草餅にする。香りと爽やかな味わいが美味しい。

遅霜に要注意

とはいえ、陽射しはすでにポカポカと暖かいし、小鳥たちは楽しげに歌っている。いろんな蝶もひらひらと舞っている。

にもかかわらず、野菜づくりが始められないというのは、かなり切ない。早くタネを播いたり、苗を定植したりしたくてウズウズしてしまう。

けれども、その気持ちに負けて焦ってタネ播きや苗の定植をすると、四賀坊主山では必ず失敗する。トマトやキュウリの苗も、ジャガイモの新芽も、遅霜にあたると一夜にして萎れてしまうからだ。

いま読み返してもびっくりするのだが、私のクラインガルテン日記には「5月23日」に坊主山で遅霜が降りたという記録が残っている。私がせっかく自宅で種から育てたゴーヤやナスの苗を駄目にしたのは、その年だったかもしれない。

だから、やはり坊主山では4月中はじっと我慢の子。せいぜい寒さに強いレタスのタネを播くぐらいにとどめて、後はもっぱら草取りに専念するしかないのだ。

草取りは楽しい

ところで、私は草取りの作業がかなり好きだ。

なぜかというと、草取りという地味で根気のいる作業にひたすら没頭していると、いつのまにか頭の中が空っぽになっている。その空っぽの状態、面倒なことも、不埒なことも、いやらしいことも、何ひとつ考えていないというその状態が、何とも心地よく、ほとんど至福に近いのだ。

私はその状態を、マラソン走者が経験するというランナーズハイにちなんで、「草取りハイ」と呼んでいるのだが、もちろん草取りは実際にはなかなか大変。地べたにしゃがみこんでハコベやカタバミやタンポポなどと闘っていると、腰は痛くなるし、太ももやふくらはぎは筋肉痛になるしで、まさに重労働だといってよい。

ただし、足腰はかなり鍛えられる。坊主山クラインガルテンに入園した年の夏、私は友人2人と穂高連峰縦走に出かけたが、2泊3日の山行中、一番タフだったのは私だった。多分、それは坊主山での農作業のおおかげだったのだろうと思う。

堆肥ができた!

落ち葉に米ぬかや油粕を混ぜて水を少し入れ、よく混ぜ合わせておく。ときどきかき混ぜながら約1年、良質の自家製堆肥ができ上がる。

坊主山で自家製有機堆肥づくりを始めて数カ月──。

畑の東側の朝日が一番早く当たる場所に杭を4本打ち、板で囲い、そこに抜き取った草や野菜の残渣、咲き終わった草花類などを積み上げていくと、まもなくそれは1m以上の高さになった。

ときどき水をかけるとよい。さらに油粕や米ぬか、市販の有機堆肥などを少し混ぜてやると、発酵が進んで堆肥化が速くなる、とも橋本さんは言っていたので、私はそれも定期的に励行した。

そして、翌春──。

かさが半分ほどに減った草や野菜の残渣などの山を崩してみると、最下部の20㎝ほどが黒々とした柔らかい堆肥になっていた。草の繊維も、野菜の葉や茎も完全に分解されて、ほぼ粉末状になっている。嫌な臭いはまったくしない。

私はそれを畑に戻し、坊主山での2年目の野菜づくりを始めたのだった。

積んでおいた雑草の山を下から天地返しする。下20㎝は黒々とした堆肥に変わっているので、それを畑に戻して野菜づくりをする。無農薬栽培は自然の循環を利用した、昔ながらの農業の方法。
だんだん発酵して堆肥化していく草の残渣。いずれ全て分解されて、サラサラの土状になる。
自家製堆肥で土づくりをし、イチゴの苗を定植。もみ殻でマルチングする。もみ殻には納豆菌がついており、病虫害防除や地温のコントロールなどさまざまな効果がある。

今年も野菜づくりが始まる

四賀坊主山クラインガルテンのガルテナーになって2018年で23年目だが、私はいまも自家製有機堆肥づくりと、それによる畑の土づくりを続けている。

坊主山は以前は桑畑があった場所で、土は水分を多く含んだ重い粘土質の山土。耕しにくいことこの上なく、こんなところで野菜が育つのだろうかとさえ思ったほどだった。

それがフカフカ、サラサラの土に変わったのは、自家製堆肥による土づくりを始めて5年くらい経った頃だったろう。

ここでは、農薬も化学肥料も使わないが、毎年、美味しい野菜ができる。トマトもキュウリもこの二十数年、病気になったことは一度もない。

今年もまもなく野菜づくりが始まる。まずやるのは、例年と同じく自家製堆肥を畑に戻して土に混ぜ込む作業だ。さて、今年はいったいどれぐらいの量の堆肥ができているだろうか?

前年の夏にタネを播いて育てた玉ねぎ。非常に甘い。

四賀クラインガルテン
http://www.kleingarten.jp/facilities.html

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Credit

文&写真/岡崎英生(文筆家、園芸家)

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