早春、ほかの花に先駆けて庭を彩る球根花。春の訪れを教えてくれる球根花の植え時は、秋。そろそろ来春のガーデンに向けて準備を始めましょう。今回は、球根花と早春に咲く草花を組み合わせた、花が咲き継ぐ春の開花リレープランをご紹介します。プラン設計を教えてくれるのは、ローズアドバイザーの経歴を持ち、数々の文献に触れてきた田中敏夫さん。3月、4月、5月に咲く、丈夫で育てやすいおすすめの花をセレクトして解説します。
目次
春を飾る球根たちで作る開花リレー
まだ寒さが残る早春。この季節、庭は枯れ姿ばかりが目につきますが、よく観察すると多くの植物たちはすでに小さな芽をつくり、春の日差しを待ちかねています。
球根の中には、ペチコート・スイセン(Narcissus bulbocodium/ナルキッスス・ブルボコディウム:ヒガンバナ科スイセン属)や寒咲き日本スイセン(N. tazetta var. chinensis/ナルキッスス var. キネンシス)のように、所によっては12月に開花するような早咲きの球根もあります。
冬枯れの庭のなかに花色が見えると心和みますが、本格的な春を迎えると、これらの花を追いかけるかのように多くの球根類が次々に開花していきます。品種それぞれの開花時期をよく見極め、早春から始まる“花”のリレーを計画し楽しむことは、園芸の醍醐味でもあります。
ここでは、3月から始まる球根類の開花のリレーを計画し、華やぐ春庭のプラン(千葉北西部の例)を作成してみました。球根とともに咲く小さな草花たちについても、少し触れてみたいと思います。
3月から咲く球根
ハナニラ
Ipheion uniflorum:ネギ亜科ハナニラ属
ハナニラ(Ipheion uniflorum/イフェイオン・ウニフロルム)は、野菜のニラの近縁種。ニラに似た独特のニオイがします。南アメリカ原産で25種ほどの原種が知られています。
出回っている主な品種は、星形で藤色に近いライトブルーの花を咲かせるウニフロルム属を元にした園芸種です。花色がピンク花に変化したものもあります。その他、少し早めに開花することが多い近縁種の黄花ハナニラ(Nothoscordum sellowianum)や、晩秋から初冬に白い花を咲かせるパルビフローラ(I.parviflora /Tristagma recurvifolium)も、近年、入手可能となりました。
一度植え込むと分球、またこぼれ種でも増えるので、植えっぱなしのまま楽しむことができます。
ハナニラの栽培の際に注意したいのが、ハナニラは有毒なので食用にはならないこと。
野菜として広く流通しているニラ(Allium tuberosum)の中には、つぼみを含めて食用にする“花ニラ”(‘テンダ―ポール’、’ニラむすめ‘など)があり、収穫を控えていると秋に花冠状の白花を咲かせます。毒性の“ハナニラ”と“食用花ニラ”は違います。お間違えないようくれぐれもご注意ください。
グラウンドカバーとしてのハナニラと一緒に咲くコンパニオンたち
ハナニラは晩春になると地上部が枯れて休眠します。しかし、晩秋から初冬にかけて新芽を伸ばして地上に現れロゼッタ状になります。植え込んで数年を経過しよく分球すると、枯れこみが目立つ庭に緑の絨毯のように広がり、よいグラウンドカバーとなります。
ハナニラは、千葉北西部の場合3月中旬から4月初旬に開花しますが、早咲き球根のスノードロップ(Galanthus nivalis/ガランスス・ニヴァリス:ヒガンバナ科ガランサス属)、クロッカス(Crocus:アヤメ科クロッカス属)、ミニアイリス(Iris reticulata/イリス・レティクラータ:アヤメ科アヤメ属)などは、ハナニラよりも少し早く開花します。これらの早咲き球根をハナニラと同じ場所に混栽しておくと、ハナニラの緑葉を分けて、クロッカスなどの花だけが顔を出すという庭演出をすることができます。
宿根草であるプリムラ・ヴルガリス(Primula vulgaris:サクラソウ科サクラソウ属)、プリムラ・ヴェリス(Primula veris:サクラソウ科サクラソウ属)、ベロニカ ‘オックスフォードブルー/ジョージアブルー’(Veronica peduncularis ‘Oxford Blue’/’Georgia Blue’:オオバコ科クワガタソウ属)、ビオラ ‘ラブラドリカ’(Viola labradorica:スミレ科スミレ属)なども、球根類と競い合うように花咲きます。ハナニラのベッドにスノードロップ、クロッカス、ミニアイリスを合わせ、それを囲むようにプリムラ、‘オックスフォードブルー’、‘ラブラドリカ’を植栽すると、早春を彩る“花の小島”を作ることができるでしょう。
ムスカリ
Muscari:キジカクシ科ムスカリ属
ムスカリは、ハナニラと同様、初冬から葉を伸ばし、3月中旬から4月初旬に開花します。丈夫で特に手入れをしなくても毎年開花し、環境によく適応すると群生することもあります。
ブドウの房のような花序となることからブドウムスカリと呼ばれることもあるアルメニアカム種(M. armeniacum)と、その交配種が主に流通しています。冬越しする葉姿はハナニラのように地表を覆う形ではなく、立ち上がり気味となります。そのため、スノードロップ、クロッカス、ミニアイリスなどとの混植にはあまり向いていないと感じています。
なお、あまり流通量は多くありませんが、ムスカリ・ラティフォリウム (M. latifolium)は幅広の包葉の間から花茎を伸ばす愛らしい花姿をしています。ブドウムスカリに比べて繁殖力が劣るようですが、もっと利用されてもいい種類です。
アネモネ
Anemone coronaria:キンポウゲ科イチリンソウ属アネモネ種
アネモネについては、ヨーロッパ南部(地中海沿岸地域)を中心に100種ほどの原種が知られています。
現在市場に多く出回っているのは、アネモネ・コロナリア(A. coronaria)を交配親とした、大輪・多弁となるものです。
原種として一般的なのは、アネモネ・ホルテンシス(Anemone hortensis)、アネモネ・パボニナ(A. pavonina)、これらの交雑によりできたとされるアネモネ・フルゲンス(A.×fulgens)、さらにフルゲンスの交雑により生まれたアネモネ・コロナリア(A. coronaria)などです。
アネモネというと、市場に出回っているものは大輪・多弁のものがほとんどでしたが、最近、パボニナ系やフルゲンス系のシングル咲きのものも出回るようになりました。高温多湿にもよく耐える丈夫さが魅力です。草丈も30cmに満たないことが多く、控えめで清楚な印象を受けます。
フルゲンスには白の他、ピンク、ラベンダー、パープル、赤など多くの花色があるのですが、個人的に青いしべとのコントラストが美しい白花が気に入っています。
また、フルゲンスと同様に、堀り上げて過湿を避けるなど夏越しに注意すれば毎年開花する、青花・菊咲きのブランダ種(A. blanda)‘ブルーシェイド/Blue Shade’を取り入れてみるのも、変化が出て楽しいかもしれません。
スイセン
Narcissus:ヒガンバナ科スイセン属
スイセンは、チューリップとともに春咲き球根の代表格。原種は30種ほどですが、園芸種は優に一万を超えるという一大グループです。
原種の系列から分類されたり、また八重咲き、ラッパ形、トリアンドロス(下向き)形などの花形で分類されたりします。多くの園芸種は4月頃に開花しますが、ここでは3月頃から開花する早咲き品種を3種だけ写真でご紹介しましょう。
ペチコート・スイセン(Narcissus bulbocodium)
寒咲き日本スイセン(Narcissus tazetta var. chinensis)
黄房スイセン(Narcissus jonquilla)
4月から咲く球根
スノーフレーク
Leucojum aestivum:ヒガンバナ科スノーフレーク属
スノーフレークはスイセンと同じヒガンバナ科に属し、スズランに似た白花をつけることから鈴蘭スイセンと呼ばれることもあります。丈夫で、適切な場所に庭植えするとよく分球して数年後には群生します。
黄房スイセンなどを追いかけるように開花し、次にご紹介するスパニッシュ・ブルーベルを合わせた3種を並べるように植え込むと、黄・白・青と鮮やかなコントラストを作ることができます。
スパニッシュ・ブルーベル
Hyacinthoides hispanica:キジカクシ科ヒアシンソイデス属
スパニッシュ・ブルーベルが属しているヒアシンソイデス属は、ヒアシンス(Hyacinthus)やシラー(Scilla)に近い仲間で、原種としては7種があります。
7種の原種のうち、ヒアシンソイデス・ヒスパニカ(H. hispanica)とヒアシンソイデス・ノンスクリプタ(H. non-scripta)の2種が主に栽培されています。いずれもいくつかの園芸品種があり、両者の交配によって育成されたものもあります。ヒスパニカ種は、シラー・カンパニュラータの名前で流通することもあります。
ノンスクリプタ種は「イングリッシュ・ブルーベル」とも呼ばれ、樹木の株元などに群生し、イギリスの春の田園を青く彩る風景として知られています。花穂は細身で、花茎の上部が曲がって枝垂れるように咲き、花は片方向に寄っています。イギリスでは両種が混在するようになってしまい、次第にヒスパニカが優勢になっているようで、自生地の減少が懸念されています。
5月から咲く球根
ダッチアイリス
Iris x hollandica:アヤメ科アヤメ属
ダッチアイリスは、スペイン原産のアイリスを交配親とした園芸種の総称です。主にオランダで育種され市場へ投入されたことから、“ダッチ(オランダ)”と呼称されています。
アイリスには日本由来のアヤメ(綾目模様が入る)、カキツバタ(白筋が入る)、ハナショウブ(黄筋が入る)などに加え、ジャーマンアイリスなど数多くの品種があります。しかし、日本古来のものには栽培に多少注意を払う必要があり、またジャーマンアイリスの場合は深植えを嫌いアルカリ土壌が好ましいなど、やはり地植えの他の植物とは幾分か異なる管理をしなければなりません。
その点、ダッチアイリスは青、黄、青黄の複色などに花色が限定されますが、一度庭に植栽してしまえば、後は放置しても毎年開花することが多く、管理がとても楽です。
開花は5月頃。ブルーのスパニッシュ・ブルーベルの花の後を追いかけるようにブルーやイエローの花が開くのは、春の楽しみでもあります。
アリウム
Allium:ヒガンバナ科ネギ属
アリウムはネギ属の学名です。野菜の長ネギ、玉ネギ、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、アサツキ(浅葱)なども同じ属に含まれています。園芸向きに植栽されるのは、主にギガンテウム (A. giganteum)、‘スター・オブ・ペルシャ’という美しい別名でも知られるクリストフィ (A. cristophii)、園芸種の‘サマードラマー’(A. ‘Summer Drummer’)などの大株になるタイプと、中型で青花が美しいカエルレウム(A. caeruleum)、ハーブとして利用されることが多いチャイブ(A. schoenoprasum)です。料理の薬味として使われるアサツキはチャイブの変種です。
大輪のアリウムは多くの庭でフォーカル・ポイントとなり、春の庭の華やかに飾ってくれます。よく植栽されるギガンテウムは宿根しますが、植えっぱなしでは夏に球根が腐ってしまいがちなので、堀り上げて保管する必要があるでしょう。
スノーフレーク、スパニッシュ・ブルーベル、あるいはハナニラのように毎年開花するといった持続性には欠けると感じています。しかし、近年は夏咲きの園芸種のなかに、耐暑性が強いものが市場へ出回るようになりました。
アリウムの品種バリエーション
ガーデニングでよく使われるアリウムの種類を一部ご紹介しましょう。
アリウム・ギガンテウム(Allium giganteum)
直径10〜18cmほどの丸いボール状の花序になります。花色は主にパープル。大型種の代表的な存在です。
アリウム・クリストフィ (Allium cristophii ‘Star of Persia’)
ギガンテウムと同様、大玉の花序となりますが、少しだけ小さめとなることが多いように思います。スター・オブ・ペルシャという別名のとおり、花序は少し散形気味となり、とても優雅です。
アリウム・ホランディカム(Allium hollandicum ‘Purple Sensation’)
パープルの花色の園芸種’パープル・センセーション’はギガンテウムとともに庭植えによく用いられる大型種です。
アリウム・カエルレウム(Allium caeruleum)
シルバー―ブルーの中型種。
アリウム・丹頂(Allium sphaerocephalon)
花茎だけが60cm高さほどに伸び、先端にうずらの卵サイズの花序を付けます。花色は上がパープル、開花始めには下部に緑色が残ります。日本名の‘丹頂’もいい名前だと思っていますが、英語圏などではドラムスティックという別名で呼ぶことが多いようです。あまりにドンピシャなのでおかしいくらいです。
ギガンテウムやクリストフィよりも強健です。夏越しして毎年開花することが期待できます。
アリウム・モーリー(Allium moly)
高さ50cmから70cmの中型のアリウムです。パープルの花色が多いアリウムの中にあって、数少ない黄色花品種です。この品種もアリウム‘丹頂’と同じように宿根化が期待できます。
夏咲き種
近年、シベリア地方を原生地とする夏咲きアリウム、A. ヌタンス(A. nutans)を交配親としたと思われる、7月から9月に開花する夏咲きアリウムが出回るようになりました。
主に見かける品種は、
‘サマービューティー’(A. ‘Summer Beauty’):チャイブに似た淡い藤色の花。草丈30cmほど
‘ミレニアム’(A. ‘Millenium’):サマービューティーより濃色の藤色の花。草丈20cmほど
‘サマードラマー’(A. ‘Summer Drummer’):白花/淡い藤色の大輪花。草丈150~200cmの高性種
などです。
いずれも貴重な夏咲き球根ですし、植えっぱなしでも越冬することが多いと報告されています。園芸愛好家には嬉しいニュースです。
チャイブ(Allium schoenoprasum var. schoenoprasum)と食用花ニラ(Allium tuberosum)
ハーブとして利用されるチャイブやその変種であるアサツキ(Allium schoenoprasum var. foliosum)、また中華料理などの欠かせない野菜として利用される食用花ニラは、植えっぱなしで毎年繰り返し開花するという優れた特性があります。
チャイブは藤色気味のピンク、食用花ニラは白、と花色に違いもあるので、庭で混植してみると面白いかもしれません。
チューリップ
Tulipa:ユリ科チューリップ属
魅惑の花チューリップについては、興味深い長い歴史があり、流通しているだけでも数千に及ぶという多くの品種があります。それ故、整理するのは簡単ではありません。今回は一般的なシングル咲きのトライアンフ系とユリ咲き系の品種をいくつかご紹介するにとどめます。
トライアンフ系は4月中旬に咲き、草丈30~50㎝。早咲きシングルと遅咲きシングルの交配により生み出されたよく整ったシングル咲きの花形が特徴的で、園芸種チューリップの中でもっとも多くの品種があります。また、ユリ咲き系はトライアンフより少し高性で、4月下旬咲きとなるものが多いです。
庭の4月中旬は、多くの宿根草や耐寒性の一年草が芽を伸ばし始める頃です。そうした芽出しの季節にあまり突出しない高さで開花をするチューリップとしてトライアンフ系を使い、他の植物が高さを競う下旬頃には少し高性で、花茎がカーブするなど優雅なユリ咲き系を用いるという考え方です。
トライアンフ系の品種例
ユリ咲き系品種例
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 田中敏夫 - ローズ・アドバイザー -
たなか・としお/2001年、バラ苗通販ショップ「
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