過酷な夏を迎え、日々の水やりに苦労していたり、植物が健やかに育つのか心配を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで今回は、土の保水性を高め、水やりの労力を軽減しくれる素材「吸水ポリマー」を活用した水やりの新情報をご紹介。解説者は、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さん。植物と人にもやさしく、サステナブルな水やりについて教えていただきます。
目次
温暖化する酷暑の水やりを軽減させる救世主「吸水ポリマー」
温暖化と熱帯化が年々深刻な問題となっている近年、今年も夏がやってきました。この時期、私たち植物に関わる者にとって日々の心配事に上がるのが“水やり”。そこで今回は、土の保水性を高め、特に真夏のガーデニングにおける健やかな植物の育成と水やりの労力を軽減しくれるソリューション素材! 吸水ポリマーの特性や使い方などについて解説します。
地球規模の気候変動や温暖化が進み、日本でも尋常ではない酷暑が続いていますね。
また、夏に限らず、関東地方の冬など季節によっては全く雨が降らない時期が長く続くこともあり、庭の土壌も乾きやすく、園芸植物がかつてよりも生きにくい環境になってきているのを、園芸家・植栽家である私も近年強く感じています。
特に酷暑期の庭の水やりは重労働でもあり、園芸家のみなさんも庭の植物を枯らさないように、夏場のお出かけが制限されたり、以前にも増して水やりの頻度や水量が増えているのではないでしょうか。
水やりが少なくてもよい植物選びとして、アガベやユッカなどの乾燥地系素材を多く植えるというのも一つの解決策ですが、その場合、植物の選択肢が狭まって、植栽にオリジナリティを出すのが難しくなったり、自分が育てたい植物を植えていないというデザイン的に消極的な状況に陥りやすいものです。
自分では工夫したつもりでも、どこかで見たような「ドライガーデン的」な庭になってしまった、なんてことはありませんか?
そうした庭が好きならもちろんいいのですが、もっと自由で幅広い選択肢の中から植物を選んで、楽しく創造的に、そして植物にも環境にもやさしいガーデニングライフを謳歌したいものですよね。
そこで、今回は、私の店「ACID NATURE 乙庭」でもポット苗の用土や植栽工事などで実際に活用している吸水ポリマーについてご紹介します。
私が植栽設計を担当させていただいた現場などでも、長く雨が降らない期間には、普通なら枯れるとは考えにくい性質の強い庭木などでさえも渇水で枯れたり弱ることもあります。そうした経験から試行錯誤した末のソリューションとして、生分解性の有機吸水ポリマーに辿り着きました。
上写真は、私が2024年に植栽設計を担当した、西部池袋線 石神井公園~大泉学園駅間の鉄道高架下に開園した「PLAY! 高架下広場」の植栽です(建築設計:武田清明建築設計事務所)。
雨の降らない鉄道高架下という植栽難度の高い場所の土壌保水改善策として、吸水ポリマーを使用しました。暑さも厳しくなってきた6月の施工時に播いたダイコンドラの種子なども、小さい芽からスクスクと成長してグラウンドカバーになっています。
吸水ポリマーは、気候変動下の日本のガーデニングや植栽にとても有益な素材だなと手応えを実感しています。ガーデニング好きな方々の夏の庭づくりの参考になれば幸いです。
砂漠の緑化や乾燥地の土壌改良にも使われるお助け素材「吸水ポリマー」
吸水ポリマーは、土が乾燥しすぎて植物を植えても定着しにくい砂漠を緑化するためにも使用される、土壌保水力を高める素材です。
主に高分子化合物で構成され、非常に高い吸水性を持つ素材。自重の数十倍から数百倍の水を吸収して溜め込む能力があります。これにより、乾燥した土壌でも水分を長期間保持することができるのです。
農業や園芸苗の生産分野でも使用されており、家庭園芸でも使用できる少量ロットの製品もあります。石油原料の合成ポリマーだけでなく、植物原料由来で生分解されて土に還る有機ポリマー製品もあります。
ネットショップなどでも手に入るので、ぜひ検索してみてください。
吸水ポリマーをガーデニングに使用するメリット
吸水ポリマーを園芸の用土や庭土に適量混ぜ込んで使用します。
土壌の保水力や保肥力が高まり、水やりの量や頻度を軽減することができて、植物が土壌乾燥によって枯れるリスクも低下させるので、生育パフォーマンスも向上します。
吸水ポリマーをガーデニングに用いる利点
1. 吸水ポリマーは水分を大量に吸収して保持する特性があります。ポリマーを土壌に混ぜることで土壌の保水能力が向上し、乾燥を防ぎます。これにより水やりの頻度が減少します。
2. 吸水ポリマーはそれ自体に水分を蓄え、必要に応じてゆっくりと放出します。したがって植物が必要とする水分を、より長い時間にわたって安定的に根に供給できます。
3. 吸水ポリマーは土壌の物理的特性も改善します。保肥力を高めたり、土壌の通気性を保ちつつ水分を保持することができるため、植物の根の成長が促進され、結果として植物の健全な生育をサポートします。
4. 水やりの回数が減ることで水道代や労力の軽減につながります。
5. 限りある水資源を節約しつつ、生分解性のポリマーを用いれば、環境に優しいエシカルで持続可能なガーデニングを楽しむことができます。
吸水ポリマー材のガーデニングでの使い方・注意点
ガーデニングでは吸水ポリマーを園芸用土や庭土に適量混ぜ込んで使用します。おおまかな目安としては、露地よりも乾燥しやすい鉢植えの場合、土の量1リットルに対し、ポリマー材1~2グラム程度(ティースプーン1~2杯程度)とされています。
植える植物の性質(水分を好むか、乾燥ぎみを好むかなど)や混ぜ込む土のもともとの保水力や水はけ具合によって、土に混ぜ込む量を加減するとよいでしょう。ポリマー材がなるべく均等に散るように混ぜ込むのがポイントです。
地植えの植栽では、土壌内部まで完全に乾燥する危険性は鉢植えよりも低いですが、例えばルドベキアやユーパトリウムなど、日向を好み、水をとてもよく吸い上げる植物を植える際に、その根が伸びるエリアにポリマー材を混ぜ込んでおくと根が乾きにくく、植栽を元気に保てます。
植物の苗を植栽するとき、土に吸水ポリマーを適量混ぜ込んでおくと、まだ根が定着しておらず激しい環境変化に耐えにくい小苗の植栽初期においても、安定的に水分が補給されるので、生育の安定性・安全性が増します。
また、水やりをしにくい場所に植栽する際も、ポリマー材を土に混ぜ込むことで、土壌自体の保水力が向上し、土の乾燥によって植物が枯れるリスクを抑制できます。
ポリマー材は製品によって使用量や使用法が異なりますので、使用する前に取り扱い説明書をよく確認しましょう。
ガーデニングにポリマー材を使用する際の注意点は、ポリマー材を多く土にまぜると、水はけが悪くなり、逆に土壌の蒸れによる植物の根腐れにつながる可能性があることです。
ポリマー材の見た目の適量の目安は、鉢植えであれば上から与えた水がサッと土に染み込む程度。地植えであれば水やりをした際、表土に水が溜まらず、すぐに染み込む程度です。最初は少なめに入れて、足りないと感じたら後から足して調整すると失敗しにくいでしょう。
気候変動は恐ろしい問題で、絶対に解決する必要がある。それは大きな優先事項にする価値がある。
ビル・ゲイツ 実業家・慈善家 1955 –
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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