坪庭とは建物や塀などで囲われたごく小さな庭のことで、これまでは伝統的な和のイメージが強くありました。しかし、最近では現代のモダンテイストや洋風の建物にもフィットする坪庭デザインが登場しています。ここでは、現代版坪庭のメリットや施工例をご紹介します。
目次
モダンテイストにもフィット! 坪庭のメリットは?
坪庭とは平安時代の貴族の屋敷で、建物と建物の間をつなぐ廊下に面した空間に、「桐(きり)壺」、「萩(はぎ)壺」、「梅壺」などと称して植栽を配置したことから「壺庭(つぼにわ)」と呼ばれたことが語源のようです。坪庭は四方を建物に囲まれた町屋づくりの家で、室内への採光や風通しの役割を果たしてきました。
それでは、坪庭のメリットを挙げてみましょう。
まず、古くからの役割と同様に、室内への採光と風通しの効果があります。そして、室内から緑の潤いのある庭風景を絵画のようにいつでも眺められるということ。さらに、坪庭はそもそも狭い面積なので、基本的に庭の構成がシンプルで手入れが容易なこともメリットです。和風に合うことはもちろんですが、シンプルな構成なので、洋風にもフィットし、どのような部屋のデザインにも違和感なく調和させることができます。
坪庭は小さくシンプルな構成でありながら、意外なほどその存在は空間に温かみを添えます。
皆さんのご家庭にも、潤いと安らぎをもたらし、四季折々の変化や情緒を味わえる坪庭をつくってみましょう。
坪庭づくりに必要な要素は?
坪庭は構造がシンプルなので、とくに和モダンテイストとの相性がぴったり。和モダン風の坪庭をつくるためには、いろいろな素材や手法がありますが、まずはその基本要素から見てみましょう。
●排水を完璧に仕上げる
坪庭は建物に接しているため、雨が降ったときに排水が不備な場合は、庭だけでなく建物にも水被害が及ぶ恐れがあります。状況によっては配管などの工事が必要になるため、専門業者に相談することが必要です。
●和のテイストは灯籠(とうろう)、石組み、蹲(つくばい)で
灯籠と蹲の周りなどに施す石組み(石を組み合わせて配置すること)は、和風庭園ではよく使われるセットです。本来は茶室の庭での必須アイテムでした。
蹲は、茶室に入る前に、手を清めるために手水鉢(ちょうずばち)に背の低い役石(やくいし)を置いて趣を加えたもので、体を低くしてつくばうことから、この名が生まれました。茶室における役石とは、手水鉢を中心に、前石(まえいし)、手燭石(てしょくいし)、湯桶石(ゆおけいし)の3つの石をいいます。
また、水を使わない例としては、枯山水(かれさんすい)があります。枯山水とは、石組みや築山(つきやま)などの高低差で山を、砂で水の流れを表現するなど、山水の景色に見立ててデザインする庭です。
どちらも伝統的な和の趣(おもむき)を表現でき、モダンな建物の坪庭にも取り入れやすいデザイン要素です。
洋風坪庭のアイデアいろいろ
●テラコッタの壺をアクセントに
テラコッタとはイタリア語で「素焼き」を意味します。そのまま植木鉢として使ってもよいのですが、この素焼きのツボを斜めにして土に半分程度を埋め込み、ハーブなどの草ものを植えると、洋風スタイルのおしゃれな坪庭のアクセントになります。
●レンガをプランターや舗装仕上げに
色むらのあるレンガで高低差のあるプランターを作って中低木を植え込んだり、舗装をレンガ敷きにしても、ステキな洋風坪庭がつくれます。
●水鉢でオシャレに
水鉢のデザイン次第で和洋どちらの演出も可能です。石でできた手水鉢を用いると純和風の雰囲気になりますが、ガラスや陶器など美しいデザインの装飾鉢を選んで水草を植えると、洋風にも似合う演出ができます。
●石組みに植物を合わせロックガーデン風に
大小の石を組み、石と石の隙間に好みの植物を植え込みます。山野草や多肉植物などを使ってロックガーデン風に仕上げるのも面白そうです。
どんな施工が可能? 和モダンな坪庭の施工例をご紹介
それでは、実際の和モダンの坪庭施工例を見て参考にしましょう。
■窓枠を額縁に…和モダンな絵画風坪庭
窓の額縁効果でステキな絵を見ているようです。バックの塀は、和のテイストに合う天然の土壁(ジョリパット爽土)を施しています。昼間は落ち着いた雰囲気を、夜間はライティングをすることでドラマチックな演出ができます。
■料亭の窓越しに和の空間を演出
料亭の窓越しのベランダは、枯竹風の人口竹垣(エコ竹)をバックに、すっと伸びる本物の竹をバランスよく配置した坪庭です。竹垣の下部の半月のデザインもソファを置いた洋風の室内デザインと調和し、和モダンを強調しています。
■玄関脇の目隠しを坪庭でおしゃれに演出
手前のタイル張りのエリアと、奥の和風の庭とを千本格子で仕切り、限られたスペースで上手に空間の雰囲気を分けた施工事例です。
奥の庭は乱形の石張りで小道をつくり、その周辺の石組みで、せせらぎを表現した雑木の庭のイメージです。
■和モダンがいっそう生きる千本格子を配置
白い外壁に合わせて白砂利を配し、苔の築山と庭石で構成したシンプルな坪庭の事例です。植栽のバックに千本格子をアクセントとして入れることで庭が落ち着き、和モダンのイメージがいっそう生かされています。
坪庭は灯籠、石組み、蹲などの和風のみではなく、モノトーン基調でシンプルに構成された中に和風のテイストを入れた和モダンや、タイルやレンガを使って洋風にも仕上げられます。事例写真などで検討し、どんなデザインにしたいのかを決め、エクステリアや造園業の専門家に相談し、建物と調和する素敵な坪庭をつくりましょう。
Credit
文/松下高弘(まつしたたかひろ)
長野県飯田市生まれ。元東京デザイン専門学校講師。株式会社タカショー発行の『エクステリア&ガーデンテキストブック』監修。ガーデンセラピーコーディネーター1級所持。建築・エクステリアの企画事務所「エムデザインファクトリー」を主宰し、手描きパース・イラスト・CG・模型等のプレゼンテーションや大手ハウスメーカー社員研修、エクステリア業の研修講師およびセミナープロデュースを行う。
著書には、『エクステリアの色とデザイン(グリーン情報)』、『住宅エクステリアのパース・スケッチ・プレゼンが上達する本(彰国社)』など。新刊『気持ちをつかむ住宅インテリアパース(彰国社)』、大手書店に続々登場!!
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