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ガーデンの必須アイテム「ベンチ」の効果と庭デザイン

ガーデンの必須アイテム「ベンチ」の効果と庭デザイン

イギリス「キフツゲート・コート・ガーデン」のブルーの椅子。

花が咲き、風が吹く庭で心地よく過ごすために備えたいアイテム、ベンチ。一人掛けの椅子や、数名並んで座れるベンチなど、ガーデンデザインのアクセントとしても活躍します。ガーデニングの本場、ヨーロッパのベンチがある風景とともに、デザインとオススメの置き場所などをご紹介します。

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ガーデンに置くベンチのくつろぎ

フランスの個人邸では、まるでレースのように繊細な模様のアイアンチェアが緑に浮かび上がる。

広大な庭でも、小さな庭でも、ヨーロッパの庭には必ずほどよい場所に椅子が置かれ、植物をすぐ近くに感じる特等席が用意されています。近年は、日本の公園や観光ガーデンでもベンチが備えられ、訪れた人が思い思いにくつろぐシーンを見かけるのも珍しいことではなくなりました。

ベンチの本場イギリスではどのように活用してきたか、造園芸家の二宮孝嗣さんに教えていただきます。

日本庭園と欧米の庭の違い

イギリス「チェニーズ・マナー・ハウス・アンド・ガーデンズ」。

庭のスタイルは、それぞれ国ごとに違いがありますが、ヨーロッパの庭と対極する日本庭園の場合、基本的に庭にベンチを置くことはありません。その理由は、庭は家の中から座して眺めるものだったため。室内や東屋など内から外の眺めを大切につくられたので、庭にベンチを置く習慣はありませんでした。

一方、洋の庭の代表ともいえる英国のガーデンは、建物や周りの景色を背景にして、周辺に調和する草花や木々を植えて庭をつくります。そして、自分も自然の一部になって眺めるためにベンチを置く場合が多いのです。

イギリス「バートン・ハウス・ガーデン」の日だまりの中のベンチ。

このように内から見るか、外から見るかでベンチの必要性に違いがあります。さらには、ヨーロッパは緯度が高いため、太陽が低くて日差しが弱く、日光はとても貴重です。なので、晴天になれば率先して戸外へ出て太陽の下で過ごします。その国民性が外空間の使いこなしとベンチの活用を上手にしたのではと考えます。

大きなコンテナに挟まれたブルーのベンチ。イギリス「ヒドコート」。
庭の奥まった場所に置かれたベンチ。ベンチが見えると、ついそこまで行ってみたくなる効果が。イギリス「ヒドコート」にて。

かつて庭文化を発展させた貴族たちには、ベンチはゲストとの交流の場所。時には密会の場としても不可欠でした。常にお付きの人がそばにいた彼らは、人目を気にせず親密な人と語らいたかったはず。時には、一人になれる場所も欲しいと思ったことでしょう。ですから、ベンチのそばには目隠し代わりになるトピアリーやつる植物などを活用して、座った瞬間から気兼ねなく過ごせるような工夫もしたようです。

イギリス「キフツゲート・コート・ガーデン」のブルーの椅子。

イギリスのガーデンにあるベンチは、デザインもさまざまですが、特徴的なのは、ブルーのペイントです。これは、トルコ石のブルーの象徴で、遠き文化の発祥の地へのノスタルジックな憧れの現れです。

イギリス「チェニーズ・マナー・ハウス・アンド・ガーデンズ」に置かれたラッチェンスチェア。

また、20世紀に活躍したイギリスの建築家、サー・エドウィン・ランドシーア・ラッチェンスがデザインしたベンチは「ラッチェンスチェア」と呼ばれていますが、シノワズリ(東洋趣味)が反映されたものと考えられます。

白い椅子は庭の影色を軽減させる効果

濃い緑の生け垣を背景に、周囲の白花と調和するアイアン製のベンチ。フランスの個人邸。

白や淡いブルーにペイントされたベンチを置くと、草木が生い茂って暗い印象になる場所を明るく見せることができます。また、ベンチがあることで、庭の一番奥まで見に行きたくなる、訪れた人を誘う効果もあります。

レンガ塀をナツヅタが伝い、暗くなりがちな場所にイギリス独特の明るいブルーにペイントされた軽やかなデザインのベンチが引き立つ。イギリス「チェニーズ・マナー・ハウス・アンド・ガーデンズ」にて。

庭主だけが知っている見所を教える椅子

イギリス「ヒドコート」の絶景に向かって置かれた椅子。

高低差があり、遠くの田園風景も庭の一部として見所が多い、イギリスの「ヒドコート」では、石のテラスのカーブに沿って通路の外向きにベンチが置かれていました。次のコーナーへと急ぎ足で庭散策をしていると、見逃してしまう庭の見所ポイントを、ベンチを置くことで「ほら、ここからの景色もすごいから、座ってひと休みしない?」と教えてくれているかのよう。

イギリス「ヒドコート」の木陰の椅子。

葉が茂る緑の木陰にも、ちょこんと一人掛けの椅子が置かれていました。ここも、つい足早に過ぎてしまいそうなシンプルな植栽の通路ですが、「次のコーナーを見る前にちょっと一息、木陰でクールダウンをしようよ」と、置いた人の心づかいを感じます。

ベンチをどの場所に、どの角度で置くか、そしてその周りの風景に馴染む色か、引き立つデザインか。いくつかの選択肢によって、ベンチの座り心地や使い勝手も変わることが分かります。あなたの庭にぴったりのベンチのある空間づくりのヒントを見つけてください。

ご紹介の椅子がある風景は、以下のガーデンのワンシーンです。
花好きさんの旅案内【英国】チェニーズ・マナー・ハウス・アンド・ガーデンズ
花好きさんの旅案内【英国】バートン・ハウス・ガーデン
イギリスで3代にわたって受け継がれる庭園「Kiftsgate Court Gardens」
英国の名園巡り、プランツマンの情熱が生んだ名園「ヒドコート」

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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