「日本フラワー・オブ・ザ・イヤー2023」最優秀賞発表、花と緑がかなえるウェルビーイングなど園芸・ガーデニング業界最新情報をお届け

40年以上の歴史を持つ老舗業界専門雑誌『グリーン情報』最新号から最新トピックスをご紹介! 2024年1月号の特集は、「花と緑がかなえるウェルビーイング〜SDGsをどう捉え直すか」と「東京パークガーデンアワードが求めたロングライフ・ローメンテナンスの庭づくり」。ほかにも、日本フラワー・オブ・ザ・イヤー2023年度最高の花の紹介や、イベントレポート、話題の園芸店や人物紹介、園芸業界で押さえておきたいトピックスなど、注目のテーマが目白押し。業界誌だからこそ発信できる貴重な情報の一部をお見せします。
目次
ピックアップ:「日本フラワー・オブ・ザ・イヤー2023」2023年度最高の花、決まる!
今号のピックアップは、「日本フラワー・オブ・ザ・イヤー2023」。
日本で唯一の花き新品種認定事業であるジャパンフラワーセレクション(JFS)。そのJFSが毎年、「いい花の新基準。」を合言葉に、消費者へ自信をもって推奨できる新品種を公正な立場で審査選定し、JFS受賞品種として発表しているのが「日本フラワー・オブ・ザ・イヤー」です。
2023年度は、61品種をJFS受賞品種に選定。さらに、その中から中央審査委員会での厳正な選考の結果、ガーデニング部門、鉢物部門、切花部門の3部門ごとに2023年の「フラワー・オブ・ザ・イヤー(最優秀賞)」が決定しました。
ここでは、各部門で最優秀賞に選ばれた品種をご紹介します。
ガーデニング部門のフラワー・オブ・ザ・イヤー(最優秀賞)2023
フロックス ‘オープニングアクト ピンクアドット’(株式会社ハクサン)

品目名:フロックス
品種名:オープニングアクト ピンクアドット
受賞者:株式会社ハクサン(愛知県)
育成者:Walters Gardens
育成者権者:株式会社ハクサン
【審査講評】
淡ピンクの花弁と中心に濃いピンクの星形のアイの組み合わせが季節を問わず、誰にでも好まれる。耐暑性が強く分枝性にすぐれ、連続開花性に富む。切り戻し後の草姿が格別に美しく、花数も減らない。うどんこ病に強いことも特筆に値する。
ブッドレア ‘パグスター アメジスト’(株式会社ハクサン)

品目名:ブッドレア
品種名:パグスター アメジスト
受賞者:株式会社ハクサン(愛知県)
育成者:Spring Meadow Nursery
育成者権者:株式会社ハクサン
【審査講評】
樹高、株幅ともに約60cmとコンパクトで、コンテナでも楽しめる。アメジスト色の花穂はボリュームがある。新枝咲きで繰り返し花を楽しめるが、株のまとまりをくずさないのは大きな利点だろう。ステムが強く、枝折れしにくい。
ペチュニア ‘サフィニアプチ さくらもこもこ’(サントリーフラワーズ株式会社)

品目名:ペチュニア
品種名:サフィニアプチ さくらもこもこ
受賞者:サントリーフラワーズ株式会社(東京都)
育成者:松原晋、諏訪理恵子
育成者権者:京成バラ園芸株式会社
【審査講評】
花色、花形、サイズが小さなサクラの花弁のようなペチュニア。名前のごとくモコモコとドーム状にまとまる草姿は新規性がある。メンテナンスの簡単さも評価できる。花が小さくかわいらしいので、近くで観賞するコンテナ植えにおすすめ。
鉢物部門のフラワー・オブ・ザ・イヤー(最優秀賞)2023
シクラメン ‘イリュージア ピンクラテ’(ハクサン株式会社)

品目名:シクラメン
品種名:イリュージア ピンクラテ
受賞者:株式会社ハクサン(愛知県)
育成者:Schoneveld Breeding
育成者権者:株式会社ハクサン
【審査講評】
従来のシクラメンとは一味違う上向きで咲く花は、まるでサクラの花のよう。内側の花弁の突起など独創性にあふれ、豪華で新規性に富んでいる。連続開花性にすぐれ、花もちもよい。コンパクトな草姿だからこそ、上向き咲きが生きているのだろう。気持ちを明るくしてくれるような魅力がある。そろいがよく生産効率が高い。
切花部門のフラワー・オブ・ザ・イヤー(最優秀賞)2023
トルコギキョウ ‘エグゼアンティークピンク’(カネコ種苗株式会社)

品目名:トルコギキョウ
品種名:エグゼアンティークピンク
受賞者:カネコ種苗株式会社(群馬県)
育成者:北爪伸英
育成者権者:カネコ種苗株式会社
【審査講評】
赤みの強いアンティークカラーの中大輪で、花弁数が多く強いフリンジが豪華。人気のベージュ系従来品種「ウェーブクラシカ」よりも赤みが強く、シックでありながら華やかさもあり、時流にマッチした雰囲気が見事。色目に微妙な揺らぎがある点もよい。買参人と市場関係者の人気投票でも第1位となった。
本誌では、各受賞者のコメントや、2024年度開催予定なども掲載しています。
特集:花と緑がかなえるウェルビーイング〜SDGsをどう捉え直すか
昨今では一般的になったSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)という言葉。日本では、細分化されたSDGsの目標の中で、環境に関連する項目が注目されており、特に園芸やガーデン業界ではその傾向が強く見られます。
環境への配慮は業界にとって当然必要ですが、SDGs全体像を捉えるとき、もう一つの言葉として意識したいのが「ウェルビーイング(well-being)」。これは、WHO(世界保健機関)が健康の定義に使った言葉で、個人や社会にとって「良好な状態」「幸福感のある状態」を指します。
花と緑がかなえるウェルビーイングにはどのようなものがあるか。本特集では、生産現場、種苗メーカー、資材メーカー、ガーデンセンターの各業態から代表的な企業の取り組みをご紹介しています。
生産現場の取り組み〜オチャノキプロジェクト

東京都世田谷区の株式会社グリーンディスプレイ・大塚淳一さんの発案で始まった「オチャノキプロジェクト」。生産者の後継者不足などで手がかけられず、休耕地になってしまった茶畑のチャノキを、「プランツスケーピング(室内外の植物を用いた環境演出)」で再生する取り組みです。
大塚さんが休耕地となった茶畑から、使っていない木を地主の許可を得て引き取る交渉をし、造園的な美を感じさせる木を選抜し、溝掘式根回しという手法で2年かけて掘り出します。

再生したチャノキは、京都の建仁寺や東京都心の商業施設、イベントなどを飾っています。チャノキがどういうものなのかを紹介し、日本のお茶の文化を改めて伝える植栽です。
「環境配慮のきっかけは、里山と都市が、互いを尊重しあうこと。都市部の人たちが忘れている里山へのアクションを、新しいかたちで投げかけ続ける必要があると思います。それに呼応してくれる農家さんはいます。オチャノキプロジェクトは、スタートはチャノキであっても、ゴールは、植物の命と文化を守ってきた『農家さんを応援する』ことです」
大塚さんは力を込めてそう話しました。

生産現場の取り組み〜麻野間園芸
生産者を取り巻くあらゆるコストが上昇する中、地の不利を利に変えて持続可能な生産にチャレンジしているのが、愛知県設楽町の麻野間園芸です。
麻野間園芸のある設楽町駒ヶ原は、標高900mの高地にあり、冬場の外気温はマイナス15℃以下にまで下がります。そのため生産に重油を使ったボイラー加温が不可欠で、その燃料代は年間300万円にのぼります。
3代目の麻野間達矢さんは、こうした地域の環境に無理に合わせた加温栽培は、今の時代に即さない、と自身の代になって生産品目と作付の見直しを行いました。
夏の間に秋と翌春に出荷する植物を生産しておき、冬場は夏に生産した植物を養生する最低限の暖房で済む方法に変えたのです。

また、2023年1月からテスト導入しているのが、井戸水の熱を利用するハウス栽培用の熱交換器および空調システム「ナチュラルエコ371」(販売:兼弥産業)。銅管で吸い上げた井戸水に風を当ててハウスに送風することで、井戸水の温度と外気温の差によって冷房にも暖房にもなる空調システムです。

麻野間さんの井戸水は浅井戸で、水温は10℃ほど。この井戸水を吸い上げた銅管に風を当てて送風することで、ハウス内の温度を5〜6℃にキープできるといいます。
「ナチュラルエコを稼働させることで、春の植物が早く芽吹いて出荷でき、余分な肥料や生産コストを節約できました」と麻野間さん。
麻野間園芸では、2022年に子どもやペットを連れて気軽に遊びに行けるカフェ&ショップ「遊べる花屋」をオープンしました。また、2024年春には、隣接地に、生産植物によるモデルガーデンと、ガーデンに植栽されている植物が買えるガーデンショップをオープン予定。
「設楽町駒ヶ原地区は、住民22人の小さな集落。それでもここで働きたい、お店に遊びに来たいと思ってくれる人が少しずつ増えてきています。花を起点に、関わる人みんなが笑顔になれるウェルビーイングにつながれば嬉しいですね」

種苗メーカーの取り組み〜デュメンオレンジジャパン
花き育種の世界的なリーダーであるデュメンオレンジ社(本社オランダ)は、ITデータを活用し、植物の力を最大限に生かした育種プログラムを開発しました。
世界最大の花き育種研究所である、オランダ本社の育種テクノロジーセンターでは、科学者や育種家、専門家たちが集い、最新のデータを用いた予測型育種の研究が行われています。
ここで開発した品種の商標を「INTRINSA®️(イントリンサ)」とし、世界中の花き生産者に供給しています。
「花き生産では、天候の影響や病害虫の被害により圃場内のすべての花を廃棄せざるを得ない状況に追い込まれるケースは珍しくありません。私たちは、耐病性のあるイントリンサ品種の栽培が、廃棄リスクを最小限に抑えることができ、また生産過程で利用される農薬の削減へつながると考えています」とマーケティングマネジャーの水戸真由子さん。
イントリンサの育種プログラムは、生産者にとってコスト削減になり、環境面にも配慮した、持続可能な植物栽培をもたらすと言います。

日本では現在、TMV(タバコモザイクウイルス)耐性ペチュニアと、白さび病耐性マムの2品目を発表しています。
植物の特性に関するビッグデータと最先端のITインフラ・育種技術を用いたテクノロジー主導型の育種は、今後も先駆的なブリーダーとして、花き産業をより持続可能なものへと発展させていくでしょう。
種苗メーカーの取り組み〜横浜植木
横浜植木は、「植える」「育てる」「はぐくむ」をテーマに、SDGs・CSRの活動を続けてきました。社員の自宅で使われていない日用品や食べきれない食料品を集めて社会福祉協議会に寄付したり、地域の清掃に参加したり、その活動は多岐にわたリます。
2021年5月には「夢を植える。未来を育む。Well future together」をビジョンに、SDGsプロジェクトチームを発足。
- エネルギー問題へのチャレンジ(社内設備等の省エネルギーに取り組む)
- みどり豊かなまちづくり(まちのみどりを増やす)
- 新しい品種の育成による農業への貢献(気候変動に合わせた取り組み)
- みんなとつながる・未来へつなげる(共同開発や教室開催)
- みんなが生き生きと働ける環境づくり(社員の働きやすさに着目)
の5つを柱としました。
また、2023年には、「④みんなとつながる・未来へつなげる」の一つとして、花育をスタート。生産現場で発生してしまう予備の苗を、花やみどりの学びのための「花育教材」と考え、CSR活動の中でつながりのあった施設や、社員の子どもが通う学校など、約10施設に横浜植木オリジナルビオラ「神戸ビオラ」を提供しました。

「SDGs活動をボランティアにしてしまうのではなく、会社としての成長とリンクさせていかなければいけません」とSDGsプロジェクトチームメンバーの平佐美寧さん。
花育の体験の中で花を好きになってもらえれば、将来的に商品が普及し、社員が豊かになり、世の中も緑でいっぱいになり、さらなるSDGsにつながっていくと考えています。
横浜植木は、まずは国際園芸博覧会が開催される2027年を目標に、「花とみどりで人々を幸せにする」取り組みの実現を目指していきます。
資材メーカーの取り組み〜住友化学園芸
住友化学園芸は、花と緑を通じて子どもたちの豊かな経験と学びの機会をつくるため、創立40周年記念事業として2009年から「学校花壇&菜園応援プロジェクト」をスタート。毎年春に開催し、2023年で15年目となりました。また、「病気とたたかう子どもたちのための自然体験施設」を実現する(公財)そらぷちキッズキャンプへの活動支援や、国内外の遺児を支援する(一財)あしなが育英会、農業を通じた国づくりを目指す(公財)オイスカへの寄付など、住友化学園芸の取り組みは多岐にわたります。楽天イーグルスのサステナブルサポーターとして、植樹活動にも参加しています。

一方で商品開発では、原料やパッケージにも気を配ります。住友化学グループでは、「世の中に、天然のPOWERを。」のスローガンのもと、グループの知見に基づき、農業・家庭の衛生管理・家庭園芸分野の商品において、天然物由来成分のポテンシャルを生かした商品開発や普及活動に積極的に取り組んでいます。
「私どもは多くの方々に弊社の商品を通じて家庭園芸をもっと楽しく、より身近に感じていただけるような魅力的な商品づくりに努めています。魅力的な商品を提供し、園芸ファンを増やすことで緑が増え、やがて健全な地球環境の維持につながる。弊社商品を通じて緑を増やすお手伝いができればと思います」とマーケティング部広告宣伝チームの上田史さん。今後もさまざまな媒体を通じた認知活動と普及に努めていきます。

資材メーカーの取り組み〜スリークロス
アース製薬およびハイポネックスジャパン、プロトリーフで構成されるスリークロスでは、3社協働で販売している「ボタナイスシリーズ」でプラスチック量を削減したボトルを積極採用するなど、SDGsにつながる活動を強化しています。

さらには、新たにBotaNice植物シリーズとして観葉・サボテン・多肉植物の「BotaNice Sleep」も2024年に発売予定です。これは、特定の植物が持つ「夜間にCO2を吸収する能力」により、寝室内によどむCO2の降下が期待できるもの。
また、3社共通の「#サステナぶる園芸」のキャッチコピーとマークも設定し、ボタナイスパッケージや販促で活用していく予定です。
ガーデンセンターの取り組み〜園芸専門店アカツカFFCパビリオン(赤塚植物園)
三重県津市内の小学校・支援学校・児童養護施設にチューリップの球根を寄贈する「レインボープレゼント」や、「レッドヒル ヒーサーの森」をはじめとする観光ガーデンの整備など、持続可能な社会の実現に向けて長年取り組んでいる赤塚植物園グループ。園芸専門店アカツカFFCパビリオンでも、店舗独自で園芸教室・講習会を年30回以上開催しています。
園芸教室や講習会は定員を超える応募があるほど人気で、常連の参加者や県外から来る人もいるといいます。

「園芸に興味を持ってもらうだけでなく、正しい知識を身につけてもらうことが目的です」と店長の坂下徹さん。
「正しく育てられれば、家庭での廃棄が減ります。小さなことですが、積み重ねが大切だと思います」と語ります。
本誌では、各社のより細かい取り組みや、(一財)公園財団・町田誠さんに聞く「花と緑がかなえるウェルビーイング」のインタビューも掲載されています。
特集:東京パークガーデンアワードが求めたロングライフ・ローメンテナンスの庭づくり

ガーデンストーリーでも、季節ごとの植栽の様子から審査結果までをレポートしてきた「東京パークガーデンアワード(TPGA)」。代々木公園にて、2022年8月の募集から始まり、12月に植栽、2023年4月、7月、11月と3回の審査を経て1年。ついに第1回東京パークガーデンアワードのグランプリが「Garden Sensuous」に決まりました。
評価が高かったのは、公園の中の風景との一体感や緻密な計画、安定したパフォーマンスなど。

本誌では、グランプリに輝いた「Garden Sensuous」の高橋三和子さん(Green Place)と山越健造さん(山越健造デザインスタジオ)のお二人への取材内容や、授賞式と審査員講評の紹介、受賞者のガーデンの1年の移り変わりの様子を写真でご紹介。さらに、TPGAを企画した東京都公園協会公園事業部長・久間亜紀さんと、企画から携わり審査員としても1年間を見てきた正木覚さんとの対談を掲載しています。


第2回東京パークガーデンアワード神代植物公園(東京都調布市)も始まり、2023年12月4〜8日には、入賞者が第1回の植栽に入りました。
ガーデンストーリーの記事とあわせて、ぜひ本誌をチェックしてみてください。

ガーデンストーリーの記事はこちら↓
https://gardenstory.jp/tag/東京パークガーデンアワード
業界の最新情報が盛りだくさんの『グリーン情報』
このほか、『グリーン情報』2024年1月号には、園芸店や生産地紹介、エクステリアガーデンの現場で働く専門家によるハウツー・事例紹介、業界最新ニュース、学べるクイズコーナーなど、園芸・ガーデニング業界の幅広く深い情報が満載。ぜひお手にとってご覧ください。

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