暮らしに緑を積極的に取り入れ、健やかに生きることを提唱している日本ガーデンセラピー協会。同協会が主催する「みんなが笑顔で元気になる!花・緑・庭コンテスト」一般部門でグランプリを受賞された佐々木由紀子さんに、ご自身のガーデンセラピー体験を伺いました。
目次
植物の癒やし効果は科学的に解明
緑があるとホッとしたり、花の香りをかいで気分がリフレッシュしたりという経験は、誰しも覚えがあるものでしょう。これまで主観的な感覚として語られてきた緑による癒しの経験は、近年の研究によって科学的に裏付けされ始めています。例えば、バラの花の香りをかいだ際には、オキシトシン(通称幸せホルモン)というホルモンが分泌されることや、柑橘系の香りをかぐと脳の前頭葉への血流が刺激され、認知機能が上がることなどが分かっています。もちろん、植物の作用は香りばかりでなく、単に植物がそばに置いてあるだけでストレス値を下げることも明らかになっています。
健やかに生きるための新提言「ガーデンセラピー」
こうした科学的な裏付けに基づいて、緑を暮らしの中に積極的に取り入れて、健やかに生きようというのが「ガーデンセラピー」です。日本ガーデンセラピー協会は、こうした学術的な研究の最新情報を発信したり、暮らしのさまざまなシーンで効果的に植物を取り入れるすべを講習会などを通じて広く普及しています。2020年夏、同協会ではガーデンセラピーの実体験を募集した「みんなが笑顔で元気になる!花・緑・庭コンテスト」を開催。一般部門では佐々木由紀子さんがグランプリを受賞しました。幼い頃から自然や植物に親しみ、まさにガーデンセラピー的ライフスタイルを送っている佐々木さん。その昔と今の暮らしについて、編集部が伺いました。
子ども時代の樹上のティータイム
編集部:佐々木さんは幼い頃から草花や昆虫と触れ合うのが大好きで、ご結婚されてからも、またお子さんが独立された今も、ずっと植物に親しんで暮らしていらっしゃるのですよね。ご自身の子ども時代は、どんなふうに自然に触れていらっしゃったのですか?
佐々木さん:当時住んでいた家には広い庭があって、池もありましてね。花を育てるというより、ザリガニをとったり、昆虫をとったり、おてんばな子ども時代だったかもしれません。庭にはたくさんの大きな木が生えていたんですが、木にもよく登っていました。何の本だったか、外国の子どもの本を読んでいたら、木の上でお茶をするシーンが出てきたんです。それにとっても憧れましてね(笑)。あるとき、それを真似してみたんです! 母もよく許してくれたと思うんですが、私が木に登って、母が下からお茶セットを受け渡してくれて。梢を渡る風の音を聞きながら、木の上でお茶を飲んで、高いところからあたりを見回して…今思い出しても楽しい思い出です。よく考えたら、なかなかない経験ですよね(笑)。でも、自然の中に身を置くことが気持ちいい、楽しいっていう感覚は、こういう面白い経験も交えて、小さい頃から育っていったんでしょうね。
編集部:木の上でお茶なんて、ワクワクしますね! 子ども時代の佐々木さんにとっては、眺めて美しいということももちろんあったでしょうが、木も遊び場だったんですね。
パリで出会った美しい草花のある暮らし
佐々木さん:ええ、そうですね。植物を眺めて美しいなぁ、素敵だなぁということを強く意識したのは、結婚して主人の仕事の関係でパリに3年間暮らしていたときかもしれません。パリのアパルトマンはコの字形になっていて、真ん中に住民共同の中庭があったんです。この中庭には専属のガーデナーの方がいて、季節ごとにいつもきれいな花を育ててくださっていました。その作業を眺めるのが大好きでした。最初にたくさんの球根を植えて、その上から花苗を植えていくのを見て、「ああ、ああいう順番で植えるのか!」とか、ガーデニングの勉強にもなりました。うちのアパルトマンだけでなく、友達のところへ遊びに行っても、どこも中庭が美しかったですね。
編集部:フランスには名園もたくさんありますよね。
佐々木さん:ええ、バラで有名なバガテル公園とか、モネのジヴェルニーの庭とか、週末になると素敵なお庭をたくさん訪ねて歩きました。ヴァカンスの期間にはちょっと足を延ばして南仏のグラースやニースへ行って、一面のラベンダー畑に感動したり。グラースは香水の都としても有名ですが、花の香りは素晴らしかったですね。それから、ヨーロッパは地続きですからドイツやオランダへ行って、キューケンホフ公園を訪ねたり。でも、ことさらそういう特別なところへ行かなくても、ヨーロッパはどこも街の中に美しく花で彩られた公園があって、子どもを連れて遊びに行くちょっとした時間でも癒やされましたね。考えてみれば、慣れない海外暮らしで、子どもも小さくて、大変だったとは思うんです。ヨーロッパはお客様を招いてパーティーってよくあるんですが、ホストを務めるなんて経験はそれまでないですから、戸惑うことはありましたけど、辛いと思ったことはないですね。何しろ街や建物や花の美しさに感動しっぱなしで暮らしていたので(笑)。
編集部:感動するって、究極の癒やしなのかもしれませんね。
日々、発見や感動に満ちた植物との暮らし
佐々木さん:そうかもしれませんね。フランスでのそうした経験があって、日本に戻ってからも、花のない暮らしなんて考えられませんでした。主人の転勤についていろいろなところで暮らしましたが、どこでも花を育てていましたし、土地土地の美しい風景は、今も覚えていますよ。沖縄に暮らしたときは、本州の植生と全然違うので、すごく面白かったです。ブーゲンビリアをいっぱい咲かせて、庭で島バナナを収穫したりして。
編集部:庭でバナナが収穫できるんですか?!
佐々木さん:そうなんです。でも、バナナなんか収穫するのも初めてじゃないですか。だから一度、大失敗しちゃったんです。プラスチックのバケツをひっくり返して、その上に私が乗ってバナナを木から切り離した瞬間、バナナの重さが加わって乗っていたバケツの底がドンって抜けちゃって(笑)。売っているバナナは小房に分けられていますけど、木になっているバナナってすごくいっぱいで重いんですよ! 驚くやら、可笑しいやら、足は痛いやらでした(笑)。
編集部:貴重な経験ですね(笑)。
佐々木さん:そうですね(笑)。フランスや沖縄での経験は、そんなふうにちょっとユニークなことがたくさんありましたけど、でも今の日々の暮らしの中にも発見や驚きや感動ってありますね。私は今はマンションで暮らしていますが、季節が巡る喜びはすごく感じます。落葉樹の葉の色にときめいたり、木々の芽吹きに感動したり、マンションの生け垣も美しいなって思います。そういう瞬間って、やっぱり気持ちが穏やかで、自分でも心地いいですよね。だから私の暮らしには植物が欠かせません。私にも人生でいろいろなことがありましたけれど、大変なことや悲しいことが何一つ起こらない人なんていないと思うんです。年齢に応じて自分の体調だっていつでも万全なわけではないですし、家族にだって介護や入院などいろいろなことが起こります。でも、そんなときでも、例えば窓辺に置いたランがツボミを開いたら、パッとうれしい気持ちになるんです。何か考えごとをしていたとしても、それを忘れて「わぁ、なんてきれいな色なんだろう!」って思っちゃう(笑)。草花がそばにあると、そういう瞬間が季節ごとにたくさんあるんです。
編集部:植物は気持ちを明るい方へ動かしてくれる、スイッチみたいな役割をしてくれるのかもしれないですね。
庭がなくてもガーデンセラピーは実践できる
佐々木さん:ええ。今の若い方は子育てしながら働いて、帰ってきて食事を作ってって、すごく頑張らなきゃいけないと思うんですけど、だからこそ、ちょっと自分の時間を作るためにも植物をそばにおいてみてほしいなと思いますよね。自分自身を癒やすための手段として、植物は本当におすすめです。これ以上、植物の世話までやってられない! と思うかもしれませんけれど、今は手のかからない多肉植物とかたくさんありますからね。ハーブも丈夫ですし、料理にも使えますからおすすめですよ。触れると香りが立って癒やしになりますし、何しろ料理が簡単に美味しくなります。サーモンにローズマリーをのせてオリーブオイルを回し掛けて焼くだけで、美味しいしおしゃれな一皿ができますよ。そうやって今の自分のライフスタイルのなかで無理なくできる植物を選んで、自分自身を癒やす時間を持ってほしいですね。
編集部:マンションでもガーデニングを楽しまれているんですね。
佐々木さん:ええ。私にとっては、今はベランダで草花を育てるのが生活のハリになっています。春はラナンキュラス、夏はサフィニア、秋はコスモス、冬はガーデンシクラメンというように、季節の花をベランダで育てたり、室内にも先ほどお話ししたハーブや多肉植物、観葉植物が育っています。つい水やりを忘れてしまったりすることもありますけど、そんなときは「ごめん、ごめん」なんて話しかけながら水やりをしていると「大丈夫! 私は元気ですよ」と言うかのように葉がピンとなってくれて。そういう植物との会話が私にとって本当に癒やし、まさにガーデンセラピーですね。
編集部:庭がなくてもガーデンセラピーは体験できるんですね。
佐々木さん:もちろんです。どんな人でも気軽に実践できるからこそ、ガーデンセラピーはこれからの時代に大事だと思うんです。私も自分の経験を通して、ガーデンセラピーの考えをたくさんの人に伝えていきたいと思っています。
Information
一般社団法人日本ガーデンセラピー協会
https://www.garden-therapy.org/
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