「冬の貴婦人」クリスマスローズ。原種やナーセリー自慢の新品種が一堂に揃う国内最大級の展覧会が、開花シーズン真っ盛りの2月、例年、池袋サンシャインシティで開催されます。18回目となる2020年は2月21日(金)から23日(日)の3日間で開催されました。300点を超える展示数を誇る展覧会の様子をお伝えします。
目次
平成のガーデニングブームとともに、日本に普及したクリスマスローズ

いまや、冬の庭の主役的な存在ともいえるクリスマスローズですが、日本で園芸植物として普及したのは、1990年代後半のこと。すでに欧州では品種改良が進んでいたクリスマスローズを日本にも紹介すべく、故・野口一也氏(東京都府中市・花郷園)はじめ日本クリスマスローズ協会(1998年発足)による普及活動をきっかけに、一大ブームを引き起こしました。
歴代最多となる21のナーセリーが参加

春の訪れを一足早く教えてくれるクリスマスローズ。耐寒性があり、丈夫で育てやすいだけでなく、花を観賞できる時期も数カ月と長いことから、いまや冬枯れの庭を彩るのに欠かせない存在に。花の色や模様、花形、草丈、花の咲き方に、さまざまな違いがあることも、愛好者を増やす理由になっています。近年ではホームセンターや園芸店でも入手しやすくなりましたが、多種多様な品種を一度に見られるのは展覧会ならでは。18回目となる2020年は、歴代最多となる21のナーセリーが参加しました。


会場内に進むと、プロの育種家が手がけるクリスマスローズを展示するコーナーです。北は岩手県から南は島根県まで、クリスマスローズを専門に手掛けるナーセリーの展示ブースが並びます。各ブースには、ナーセリーの所在地や力を入れている品種などを紹介するプロフィールボードが掲げられていて、その下に展示されている花々と照らし合わせて見ることができます。

色も形もさまざま。流行のダブル咲きや八重咲きの品種も多数出品
クリスマスローズといえば、日本では茶花として親しまれてきた、控えめな花色のイメージがありましたが、1990年以降にイギリスから最新の交配種が導入されるようになると、日本国内でも一気に育種が進み、花色や花形のバリエーションが豊富になりました。これらの交配種は、無茎種の原種を交配して作られたもので、ガーデンハイブリッドと呼ばれています。ガーデンハイブリッドは、丈夫で生育旺盛なものが多く、原種のクリスマスローズが苦手とする高温多湿な日本の環境でも、庭植え・鉢植え問わず簡単に育てることができます。
各ナーセリーが、自家で作出した自慢の品種を、この3日間に合わせた最高のコンディションで披露しています。



寄せ植えやリースなど、装飾的な展示にも注目

品種を紹介するだけでなく、寄せ植えや盆栽仕立てなどにして、クリスマスローズの楽しみ方を提案しているブースもありました。ビオラや葉ボタン、グリーンなどとの組み合わせは、この季節ならではの装飾のヒントに。クリスマスローズには、銀葉や、赤や白・黄色・ピンクの斑入りなど、カラーリーフとして楽しめる品種も増えているので、ガーデニング素材としての幅も広がりそうです。

原種が並ぶ、基礎知識をまとめた「なるほど!クリスマスローズ」のコーナー

クリスマスローズの原種は、ヨーロッパ全域から地中海沿岸、バルカン半島、黒海沿岸、中国に、およそ20種類があります。会場にはそんな原種のクリスマスローズを展示するコーナーも。華やかな交雑種に比べると、小さく、地味な花色が多い原種ですが、現地の生育環境を思い描かせる野生の姿には、園芸品種とは違った味わいがあります。

無茎種のクロアチカス(左)と、有茎種のヴェシカリウス(右)。
根の様子も分かるアート作品。押し花で愛でる原種の美しさ

ギャラリーのような一角は、原種のクリスマスローズの押し花の展示です。老舗ナーセリー花郷園が育成した8種類の原種を、押し花作家の稲葉桂子さん(押し花サロンスイートアリッサム主幹)がアート作品に。普段は地下に埋まっている根も生かした押し花は、図鑑に載っている植物画のようです。
日本クリスマスローズ協会のコーナーでは、会員自慢の逸品がずらり

クリスマスローズの普及と育て方の研究を目的にした愛好家団体「日本クリスマスローズ協会」の展示コーナーには、会員による〝渾身作”が並びます。タネがとりやすいクリスマスローズは、手持ちの株を交配して、〝自分だけのオリジナル品種”を生み出す楽しみもあります。その反面、実生株には交配した親の形質だけでなく、何代も前の親の形質が現れるため、〝2つとして同じ花がない”といわれるほどに個体差が生じます。ここでは、そんなクリスマスローズの魅力を知り尽くした愛好家たちが手塩にかけて育てた花々が、美しさを競い合っていました。

日本クリスマスローズ協会主催による「新花コンテスト」、はたして受賞品種は?

愛好家や専門家の交配で生まれた新しい花たちをどこよりも早く展示するのは、日本クリスマスローズ協会主催「新花コンテスト」のコーナーです。展覧会を後援する団体や種苗会社などの名前を冠した賞に輝いた品種だけに、斬新な美しさには目を見張るものが。来場者による人気投票も行われているので、そちらの結果も楽しみです。

アジアに唯一自生する原種「チベタヌス」。”幻のクリスマスローズ”の姿に迫る

クリスマスローズの原種のほとんどは、東欧を中心としたヨーロッパに分布していますが、アジアに唯一自生しているのがチベタヌス(H. thibetanus)です。その自生地は、中国の四川省、陕西省、甘粛省などの標高1,800~3,500mにあたる高山地帯。湿り気を帯びた谷筋に群生して、雪解けとともに下向きの淡いピンク色の花をつけます。
この原種が発見されたのは1869年。フランスの宣教師アルマン・ダビット神父により、中国四川省で株が採取されました。しかし、それ以降は確認された記録がなく、1989年に日本人ナチュラリストの荻巣樹徳さんが再発見するまで、その存在の有無も不明で、専門家や趣味家の間では〝幻のクリスマスローズ”と呼ばれていました。
ヨーロッパ種とは異なる性質や質感を持つチベタヌスは、今後の品種改良に可能性を開くと期待されています。さらに、その清楚な佇まいは、まさに日本人好み。高山植物の性質を持ち、日本では育てにくいにもかかわらず、栽培に挑戦する愛好家も少なくありません。
アジア原産のチベタヌスを守ろうと、自生地環境の調査・保全を目的に2014年に発足されたのが「日本チベタヌス協会」です。その展示ブースでは、チベタヌスの分布や多様性、生育環境、実生での栽培方法などを紹介。高山地帯の林床という特殊な環境で進化してきたアジア原産のクリスマスローズについて学ぶことができます。

栽培のヒントや、原生地の様子、品種改良の歴史まで。専門家による講演会も開催

TV「NHK 趣味の園芸」出演者によるトークショーや、日本クリスマスローズ協会会員や育種家を講師に迎えての講演会も連日開催。育て方やアレンジ方法はもとより、原産国を回る〝現地ツアー”のレポートや、品種改良のノウハウなど、愛好家にとっては、どれもが興味深い内容でした。
見たら絶対欲しくなる! 販売ブースでお目当ての品種の苗を探す

会場内を進路に従って進めば、最後に位置しますが、来場者のなかには真っ先にこちらを目指す人も多いコーナーです。品種名が登録されているものでも、株ごとに花色や花形などが微妙に異なるクリスマスローズ。やはり咲いている花を見て「これぞ」と思えるお気に入りを選びたいものです。お目当てのナーセリーの苗を見つめる人の表情は真剣そのもの。最終日(2020年は2月23日)の閉会後には、会場に展示されていた鉢が出品される「銘品オークション」が行われるのも恒例で、初日のオープン、オークションと、2度来場する愛好家もいます。

毎年2月に開催される「クリスマスローズの世界展」。時代を先取りした品種が紹介される国内有数の展覧会とあって、3日間の来場者が例年1万人に上る人気というのも納得できます。なによりクリスマスローズ好きにとっては、ガーデンショップや園芸店では入手が困難な最新品種や原種の苗を入手できるチャンス! 一度、訪れてみてはいかがでしょう。
Information
クリスマスローズの世界展(2020年開催・第18回の概要)
開催期間:2020年2月21日(金)~23日(日・祝)※会期は終了しました
開場時間:10:00~18:00(最終日は17:00まで)
会場:サンシャインシティ ワールドポートマートビル4階 展示ホールA
入場料:大人700円、小学生以下無料
取材協力/日本チベタヌス協会
住所:長野県長野市若穂川田874-6(Zoony Garden内)
電話番号:026-282-7225 FAX:026-282-7226
E-mail:zoony@grn.janis.or.jp
Credit
写真&文/神山真由美(かみやま まゆみ)
フリーライター。千葉大学園芸学部園芸学科卒業後、園芸専門学校
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