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滋賀県
咲き乱れる花々に癒やされる滋賀県「English Garden ローザンベリー多和田」
日本とは思えない美しい花々が咲く庭 僕が初めて「ローザンベリー多和田」の名前を聞いたのは、2015年の春のことでした。知り合いのガーデナーさんから「ローザンベリー多和田が綺麗らしいけれど、知ってる?」と聞かれたり、バラのシーズンになるとSNSでは関西の友人たちが入れ替わり立ち替わり毎日のように綺麗な庭の写真を投稿していました。 それらを見ていて、1枚の写真に引き込まれました。それは立派なレンガの柱と重厚なアイアンのゲートが写っている写真です。本当にイギリスで見たガーデンのようで、僕もこのゲートの前に立ってカメラを構えてみたいという思いが湧き上がってきました。そしてすぐにFacebookで既に友達になっていたこの庭のガーデナーである西居秀明さん、通称「ヒデさん」に連絡をして、「来年は一番きれいなときに必ず伺います」と約束をしました。 写真家としての一面もあるヒデさんとの出会い その日からちょうど1年が経った2016年6月3日。岐阜県可児市の「花フェスタ記念公園」での早朝のバラの撮影を終えたあと、滋賀県米原市の「ローザンベリー多和田」に向かいました。撮影は夕方からと決めていたので、高速道路は使わずにゆっくりと下道で、雲一つない爽やかな空気の中、美しい景色を眺めながら2時間弱のドライブを楽しみ、「ローザンベリー多和田」の駐車場に到着。 すぐにヒデさんに電話すると「お待ちしておりました。すぐに伺いますから少しお待ちください」とイメージ通りの明るい関西の訛り声が聞こえて、1分もしないうちに、ハンチングに革のベストをバシッときめたヒデさんが登場しました。 まだヒデさんを知る前でしたが、フォトコンテストの審査もさせていただいたことがあります。その中で、アマチュアの中に一人だけプロのカメラマンがいると思うほど際立っていた写真があったのを記憶しています。もちろん、優秀賞に選ばせていただきました。それがヒデさんでした。写真関係のお仕事をしていたというだけあって、とても印象的な写真でした。 さらにその数年後、雑誌『花ぐらし』の誌面づくりの時のことです。バラとクレマチスを取り上げる企画で京都のナーセリー「松尾園芸」に伺った際、「どこかバラとクレマチスをうまく使ったお庭があったら紹介してください」とお願いしたところ、滋賀県の米原にある庭をご紹介いただきました。バラもクレマチスも完璧で、さらに写真もうまい人がいますとのこと。 その方が投稿するブログを見せていただくと、僕から見ても完璧すぎるというのが第一印象でした。普段は自分と似たような年齢の女性と気楽な仕事ばかりをしていたものですから、こんな“完璧な男性”に会うのは気が引けたというのが正直なところでしょうか。こうしてヒデさんとの初対面の機会を逃してしまったのでした。あのとき思い切ってヒデさんと会っていれば、その後「バラとクレマチス」の企画で何回もご一緒に仕事をさせていただいていたかもしれないと思うと、ちょっと残念な気がします。 イギリスの田舎道を思わせる初感覚の庭 そのヒデさんに案内をお願いして園内に入ると、いきなり目の前に、会いたかった古いレンガの門柱が現れました。そしてゲートを潜るとナチュラルに野草を思わせる植物が集まる植栽エリアがあり、奥には古いレンガの大きなパーゴラにバラが満開! その奥の階段を降りると、カシワバアジサイの群落に遭遇したり、レンガの塀を過ぎると時代を経たように見える板塀に野バラが絡んでいたり……。 こんなにイギリスの田舎道を歩いているような気分にさせてくれるガーデンは初めてだなぁと思いながら、夕方の光になるのを待ちました。撮影後は、ガーデンのオーナーである大澤惠理子さんにもお会いして、正にイギリス風な美味しいお茶とお菓子をご馳走になりながらガーデンの話に花が咲きました。「きっとここには、何度もカメラを担いで伺うことになるだろうな~」という予感がするほど充実した時を過ごしました。 2016年以降は、毎年のように、春にはパンジー&ビオラフェアーやクリスマスローズの撮影を、バラの最盛期には撮影だけでなく写真講座もさせていただいたりしています。 ガーデンストーリーで紹介したいと撮影 今年2022年の撮影は5月28日。「ローザンベリー多和田」のガーデナーたちの愛情がこもった、素晴らしく綺麗なこのローズガーデンをガーデンストーリーに紹介したいと思い、去年からしっかりと撮影してきました。最高の写真を撮影するために、5月に入ってから何度も連絡をしてベストなタイミングを探りました。 そのお陰で、バラのコンディションも素晴らしく、天気も予報通り晴天に恵まれ、気分も上々! 足しげく通った“勝手知ったるローザンベリー”で、これ以上ない夕方の光に浮かび上がるガーデンを思う存分楽しんで撮影ができました。それぞれの写真に添えたコメントも併せて、ガーデン写真を堪能していただけたら嬉しいです。
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滋賀県
カメラマンが訪ねた感動の花の庭。滋賀県のコミュニティーガーデン「Rose Branch」
2018年にオープンした「ローズブランチ」 5月18日早朝のこと。今回ご紹介する「Rose Branch(ローズブランチ)」のガーデナー、上田政子さん、愛称「まーちゃん」の車に先導してもらい彦根の町を抜けて街道を右折すると、すぐに朝陽に輝くガーデン、「ローズブランチ」が目に飛び込んできました。 この庭は、隣接する会社「ベースワン」のバラ園で、2017年に「ベースワン」の社長に「この土地にバラ園をつくってほしい」と頼まれたのがきっかけでした。最初、まーちゃんは、大した経験もない自分にできるのか悩んだそうですが、これは人生の転機だと思って決断、まずはベースワンに就職して、この庭のガーデナーになったのです。 はじめのうちは、水はけの悪い粘土質の土との戦いに疲れ果て、自分には無理と諦めかけたこともあったようですが、「最初が肝心」と社長さんに相談。事情を聞いた社長が必要なものをすべて用意してくれて、さらに、バラに詳しい友人たちの助けもあって、翌2018年に「ローズブランチ」はオープンしました。 小屋を背景に咲くバラと宿根草 それから4年。まーちゃんのバラ愛と頑張りで、バラがモリモリ咲くようになったのです。始めはバラ以外には興味のなかったまーちゃんですが、今ではすっかり宿根草好きに。最近は「バラも植物の一つ」と考えが変わって、フェンスや小屋にはあふれるようにつるバラが、そして、庭の随所に宿根草が咲く素敵なガーデンになっています。 この庭は、西側と隣地のベースワンとの境の北側に高いフェンスが設けられていて、そこにはモダンローズやイングリッシュローズ、いろいろなつるバラが誘引されています。しかし、残念ながら訪問した時期の彦根では、まだ2割くらいしか咲いていませんでした。 東側には、野菜栽培用のビニールハウス、南側は隣に民家があります。これらを隠すためにモルタル製の小屋が立ち並んで、さながら小さな町並みのような景観を作っています。モルタル製の小屋には、いかにもまーちゃんの好みそうなオールドローズや小輪のつるバラが可愛らしく誘引されていましたが、こちらもまだほとんどがつぼみでした。 自由なアイデアあふれる植栽術 目を中央に向けると、ちょっと大きめのアイランドの白花と、シルバーやグリーンの葉のテクスチャーでデザインされた花壇の宿根草が朝日を浴びてキラキラ輝いているではないですか! 何年か前の3月、クリスマスローズを見に来た時に、無国籍な雰囲気の自由なアイデアあふれる植栽がなされたこの庭を見て、「いつかしっかり撮影してみたい」と思ったことが、今まさに実現することになったのです。 東側のハウスの上から斜めに差し込んでくる朝陽を浴びて、白いサポナリアの花や隣のバラモンジ、そして麦の穂などが、まるで「きれいでしょう」「早く撮りなさい」と言っているようで、僕も「きれいだね~」と呟きながらアングルを探して歩いてはシャッターを切りました。また数歩進んではシャッターを切って…30分もしないうちに陽が高くなったので、このエリアの撮影を終了。まだ日陰になっているセリンセやクレマチスを撮って、この日は次の撮影地である神戸に向かいました。 19日は早朝から神戸のお庭の撮影を終えて、再び車を東に向け、一路滋賀県へ。夕方の「ローザンベリー多和田」と、さらに間に合えば「ローズブランチ」のあの宿根草をもう一度、夕方の反対方向から差す光で撮影してみたいと思い「よい天気でありますように」と願いながら車を走らせました。 途中「ローザンベリー多和田」に連絡してみると「まだバラは3割程度で、ベストは来週くらいです」とのこと。一応自分の目で庭の状況を確認させてもらおうと思い、16時過ぎに「ローザンベリー多和田」に入り、撮影できるバラは押さえさせてもらって、再び「ローズブランチ」へ向かいました。 「行きます」と連絡していなかったので、突然来た僕を見て、まーちゃんはびっくりしてましたが、夕陽の中の宿根草のアイランドは、やっぱりきれい! 太陽の沈み具合を見ながら18時過ぎまで撮影して、次回のバラの撮影を約束して帰路につきました。 シーズン3度目の訪問は絶好の撮影日和 宿根草がいい感じで撮れたので、後はバラが咲くいいタイミングに行って撮影すれば完璧だなと考えながら、5月27日に3度目となる「ローズブランチ」に向かいました。16時過ぎに到着。すると予想通り、フェンスのバラも小屋に絡むつるバラも素晴らしく可愛く咲いていました。またまた、まるで植物たちが「待ってましたよ」「さあ早く撮ってください」と言っているようで、まーちゃんに向かって「最高~」と思わず叫びながら撮影開始です。 小屋に絡む“まーちゃん好み”のバラは、じつは僕も大好きなバラばかり。そのうえ、バラたちがタイミングもぴったりに可愛く咲いているのだから、もう嬉しくて楽しくて。本当にまーちゃんのセンスに感謝しながら、日暮れまで「ローズブランチ」の中を歩き回っていました。 まーちゃんに今後の目標を聞いてみたら、「バラとコラボして可愛い植物や、バラの後に咲き出す植物、真夏に元気な植物、秋に枯れ姿の素敵な植物……どれも好きな植物たちを集めて、ローズブランチを一年中楽しめるお庭にしたい」と夢を描きながら、日々奮闘中だそうです。 やっぱり植物が三度の飯より好きで、暑い日も寒い日も、雨の日も植物を見ていたいというくらいのガーデナーさんが僕は好きだなぁ、と改めて思う撮影となりました。
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滋賀県
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪37 滋賀「グリーンロフトザパーク」
河川跡を有効活用した 瑞々しいショップが誕生 旧草津川の廃川に伴い生まれた空間、草津駅まで続く全7kmの有効活用として、5年ほど前にオープンした「ai彩ひろば」。スポーツ・農業などアウトドア活動の拠点として整備され、バーベキュー&DAYキャンプ、サイクリングロード、ジョギングが楽しめるスポットです。その1区画に、緑のある暮らしを提案する園芸店「グリーンロフトザパーク」がオープン。広々として子どもから大人まで楽しめるショップです。 ‘すべての人が楽しめる、身近な自然との接点になる場所’をコンセプトに、心癒やされる自然空間を提供している「グリーンロフトザパーク」。300㎡もの売り場には、インドアグリーンや花苗、コンテナ、雑貨など、ガーデニングライフを応援するアイテムがずらりと並び、最近人気のパルダリウム関連商品も充実しています。 店内は、木製とステンレスの什器を巧みに取り合わせ、有機質と無機質の絶妙なバランスを見せています。欧米のインテリアショップのようなトーンを落とした照明が、心地よい空間を演出しています。 観葉植物は沖縄や鹿児島まで買い付けに出向いているそうですが、「特別に変わった種類や樹形などにはこだわっていません。それよりも樹木本来の姿を生かした扱いやすいものを仕入れて、素敵に見せることに力を入れています」と、マネージャーの佐藤真昭さん。 ホームセンターのバイヤーとして約20年、ガーデニングの流行の移り変わりを眺めてきた佐藤さん。このあたりは、住宅開発で移住してきた感度の高い若者が集まるエリアで、昔ながらの見慣れたアイテムでも見せ方に工夫をすれば、新鮮なものとして受け入れてくれるそう。「若い人は違うスタイルやジャンルのものでも先入観なく、いろいろなことに結びつけたり、はめ込んでいったりすることができるんですよね。単に珍しいものを追い求めるのではなく、一般的なものでも魅力的な見せ方をすることで、植物を好きになるきっかけづくりに繋げることが大切。今までの園芸の枠を脱して、園芸を楽しむ人の裾野を広げたいですね」。 テーマパークのような ディスプレイを拝見 来る人を飽きさせない努力を惜しまない、グリーンロフトザパークのスタッフたち。「こまめに模様替えをしていますよ。大がかりなチェンジもしょっちゅうです。室内のディスプレイやパワープレイ、どんな仕事もスタッフそれぞれが協力しあってお店をきれいにしています」と、アシスタントマネージャーの東晧平さん。モデルルームやショップの装飾も依頼されることが多いそう。 洋書とドライフラワー、ガラス商品を組み合わせたディスプレイには、エレガントさも漂います。「欧米の知的な雰囲気を香らせたり、古きアメリカを感じさせたり…異なる雰囲気を共存させています」と佐藤さん。チープにならないように、意識を注いでいるのが伝わってきます。 アウトドアのガーデニングコーナーも 魅力的なしつらいに 外の売り場も清潔感あふれ、落ち着いたブルーの建物を背景におしゃれな雰囲気。植物は季節の草花に加え、カラーリーフも充実。あらゆるシーンに対応できるラインナップです。 大きめなコンテナは屋外の軒下コーナーで販売。インテリアになじみやすいグレーやアイボリーのマットなデザインのものが多く並んでいます。それと向かい合わせになるように、樹木類も陳列。オリーブやユーカリなど、リーフが美しい人気樹種は、品種も豊富に揃っています。 もし希望の樹木がなければ、お取り寄せも可能。また、配達や庭への植え付けも可能な範囲でやってもらえます。「植え付けをする場合は用土代を頂くだけで、いわゆる手間代は不要です。その浮いた分で、ほかのアイテムを試していただきたいですからね」と東さん。 ところ狭しと並ぶ 暮らしまわりの雑貨コーナー ガーデンパーティーやキャンプでも活躍してくれそうな食器やキッチンツール、ファブリックも充実。丈夫でカジュアルな価格なので、庭でも惜しみなく使えるものばかりです。 テーマパークのデコレーションのような楽しさあふれるコーディネートも必見。眺めているだけで、ワクワクする空間です。 佐藤真昭さんイチオシの 日本製の小さな鉢 輸入鉢が多い中、最近佐藤さんが注目しているのが、メイドインジャパンのもの。「日本の伝統工芸品にはどこか雅な雰囲気が残っていて、観葉植物に合わせにくいところがあるのですが、地元の信楽や岐阜県の美濃焼など、とくに若い作家さんの作る鉢で合わせやすいものを見つけたんです。これからほかの産地のものを含めて、どんどんアイテムを増やしていきたいですね」。 植物をいかに美しく暮らしに取り入れるかを追求し続ける「グリーンロフトザパーク」。お客様を飽きさせない、最旬の提案でいっぱいです。『café KaimanaLio(カフェ・カイマナリオ)』も併設しているので、地場野菜を使ったフードやドリンクを頂きながらショッピングできます。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、JR琵琶湖線「草津」・バス「陽の丘団地口」下車より徒歩約8分。名神高速道路「栗東」ICから車で約15分。
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大阪府
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪36 大阪「L’lsle-sur-la-Ring(リルシュルラリング)」
異空間にワープできる シャビ―で愛らしい空間 湾岸に通じる幹線道路(府道40号)に面した、緑に覆われるフェンス…その中に小さなショップ「リルシュルラリング」があります。店に一歩足を踏み入れると一気に独特な世界観に引き込まれ、外の喧噪を忘れてしまいます。 ショップは、フランス・プロヴァンス地方にある『L'lsle-sur-la-Sorgue(リルシュルラソルグ)』という骨董市で有名な街をイメージしてつくられました。「骨董市では、アンティークから日用品まで、さまざまなものを扱う店が並びます。骨董市に来た時のようなワクワクを感じていただきたいですね」とオーナーの伊丹雅典さん。 2004年にオープンし、18年目を迎える「リルシュルラリング」。ショップは伊丹さんがフランスのことをよく調べた上で自らデザインを起こし、工務店の力を借りながらつくり上げたもの。本格的な資材を使用し 、控えめなカラーで雰囲気を高めながら植物をうまくレイアウトしています。店のこの雰囲気を我が家で再現してほしい! と、庭づくりも依頼されることが多く、火・木曜日は、伊丹さんの庭づくり(デザイン・施工)の日となっています。 建物からせり出す軒下の構造物は、ヨーロッパ風の構造物や庭を手掛けるユメミファクトリー(京都府・亀岡市)と一緒にしつらえたもの。甘さを抑えつつ、どこかメルヘンな感じもある独特な空間です。吊り下げたアイアンのライトが、ほんのりうす暗い空間の雰囲気をぐっと高めています。 ていねいにしつらえられた コーディネートも見応え抜群 花苗売り場はアンティークレンガを多用したナチュラルな雰囲気の空間です。高さに変化をつけたり、視線をあちこちに振るような仕掛けを盛り込んだりして、小さな空間ながらも見せ場がたくさん。 伊丹さん以外、スタッフ5名は全員女性で、コーディネートは繊細でエレガント。買い物カゴは店の雰囲気と調和するバスケットを使用するなど、細やかな配慮が感じられます。 空間に変化を生むため細長いテーブルをあえて斜めに置き、立体的にコーディネート、パーティーを思わせるにぎやかなシーンに。「こまめにマイナーチェンジを重ねていますが、飽きがこないように年2回ほど大きくレイアウトを変えています」。 「L'lsle-sur-la-Ring(リルシュルラリング)」が提案する 寄せ植えアイデア集 店内のあちらこちらで見られる、小花が愛らしい寄せ植えをご紹介します。いずれも軽やかで透明感にあふれる花合わせが魅力的。 【バスケットに】 【ラウンドの鉢に】 【オーバル・長方形など幅広のコンテナに】 【ハンギングタイプ】 温かみあふれる屋内売り場 ぬくもりあふれる建物内は、コンテナや雑貨売り場。「おうちっぽく落ち着いた雰囲気にしています」と伊丹さん。 小さなコンテナや観葉植物、多肉植物、オーナメント、香りのアイテムなど多様な品々が、物語を紡ぐようなディスプレイで提案されています。 木製の階段を上がった2階は大鉢の観葉植物が並び、インテリア的要素の強い空間。さほど広くはありませんが、3つのシーンで構成されています。 グレイッシュに塗られた8畳ほどの小部屋では、シャビーシックなアイテムを集めた新たな異空間を展開。マントルピースやアンティークベンチを使い、フランスの本に出てくるようなシーンをつくっています。 シックなコーナーの反対側はがらりと趣が変わり、白いノーブルなシーンが広がります。ここにはレース小物やカーテンが多数並び、ソフトな雰囲気が漂います。 異なる趣のシーンを狭い空間の中に展開していくコーディネート術はさすが。ここでは、アンティークの階段の手すりを使って、シーンを切り替えています。 伊丹さんのイチオシ ショップオリジナル鉢 ショップでペイントしている素焼き鉢は、どんな植物にもしっくり合うおすすめのアイテムです。カラーやロゴは季節によって変わります。色や文字などは、要望に応じてフレキシブルに対応してくれるそう。 フランスの片田舎を訪れたような趣と愛らしさをぎゅっと詰め込んだショップ「リルシュルラリング」。小旅行をしているような非日常的な時間を楽しませてくれます。ぜひ訪れてみてください。「アクセスは、阪神高速4号湾岸線岸和田北ICより車で約10分。JR阪和線久米田駅より徒歩約15分。 【GARDEN DATA】 L'lsle-sur-la-Ring(リルシュルラリング) 大阪府岸和田市箕土路町2-256-1 TEL: 072-440-2887 営業時間10:00~17:00 定休日:毎週火曜(祝日の場合は営業) https://www.llsle-sur-la-ring.com/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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京都府
京都・奈良 西行ゆかりの桜【松本路子の桜旅便り】
桜を愛した歌人・西行 奈良・吉野山の桜を訪ねてから、桜を多く詠んだ平安末期の歌人・西行のことが気になっていた。 「吉野山 こずゑの花を 見し日より 心は身にも 添はずなりにき」 桜の花が咲き始めると、心が浮き立ち、花とともに宙に舞う、そんな心情だろうか。 またよく知られた歌に、次のようなものがある。 「ねがはくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」 その歌の通りに、満開の桜の下で往生を遂げている。狂おしいほどの桜への想いを、三十一文字に託した西行の生涯。その一端に触れたくて、足跡をたどる旅に出た。 武士から漂泊の歌人に 西行の出家前の名前は佐藤義清(さとうのりきよ 1118-1190年)。鳥羽上皇の御所の北面を詰所として警護に当たる北面武士だった。23歳の若さで出家したが、その動機には諸説ある。「保元の乱などの政治の混乱に嫌気がさした」「高貴な女性に憧れ、失恋した」「親友の死に世の無常を悟った」などだ。 女性への恋慕の情が溢れる歌を読むと、失恋説をとりたい気持ちにもなるが、若くして妻子を捨て仏門に入るのには、これらの出来事が重なったからではないだろうか。また、歌の道に生涯をかけるという覚悟があったのかも知れない。 勝持寺の‘西行桜’ 京都の西南郊外、大原野に西行が出家した天台宗の寺・勝持寺がある。西行が植えた桜が残っていると知り、ぜひ花を見たいと訪ねた。境内の鐘楼堂脇の枝垂れ桜が満開の枝を広げている。桜は西行が手植えの木から3代目にあたり、代々‘西行桜’として親しまれてきた。西行はこの桜の近くに庵を結んでいたという。 ‘西行桜’のほかに境内には約100本の桜が植えられ、「花の寺」と称される。勝持寺は、京の西山連峰のひとつ小汐山(小塩山)の山麓に位置しているので、‘小汐山’と名づけられた桜も、西行ゆかりの桜といえるかもしれない、 勝持寺の庭には西行が剃髪した際に、鏡代わりに使った鏡石が残され、姿を映したとされる瀬和井の泉がある。宝物館の瑠璃光殿には、室町時代に作られた、寄木造りで朱塗りの西行法師像が納められている。 西行がこの地で詠んだ歌から、世阿弥の作とされる能の演目「西行桜」が生まれた。 「花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の 科(とが)には有りける」 隠遁生活を送るつもりの寺に花見客が押し寄せ、それを桜のせいだと嘆いている。能では西行の夢の中に老木の桜の精が現れ、「それは桜の罪ではない」と告げる。やがて西行と桜の精の魂は同化し、花の精は洛中の桜の名所を謡いながら、行く春を惜しみ舞う、という優美な物語だ。 庵を結んだ二尊院(にそんいん) 出家後しばらくして、西行は京都・嵯峨にある二尊院に庵を結んだ。二尊院は和歌の歌枕として知られる小倉山の麓に位置する。紅葉の名所でもあり、参道にはもみじと桜が交互に植えられ、四季それぞれ趣のある情景が広がる。 「牡鹿鳴く 小倉の山の すそ近み ただひとりすむ 我心かな」 境内には西行庵跡を示す石碑が立ち、寺の近くにある西行井戸の傍らには、この歌の石碑がある。出家後に、孤高の歌人として生きる覚悟のようなものが感じられる歌だ。 吉野山の桜に焦がれて 京都周辺の山寺に住んだ後、西行は高野山に庵を構え、およそ30年にわたりそこを拠点として、諸国行脚の旅に出た。高野山は吉野山に近く、たびたび吉野を訪れ多くの歌を残している。 「なんとなく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山」 「吉野山 こぞの枝折(しをり)の 道かへて まだ見ぬかたの 花を尋ねん」 桜の季節が近づくと心は吉野山に飛び、年ごとに訪れては、まだ見ぬ桜を求めて山の奥に足を踏み入れる。桜への想いが溢れる歌だ。 「あくがるる 心はさても 山桜 散りなんのちや 身に帰るべき」 吉野の桜を見ているうちに心が身体から抜け出し桜のもとにある。花が散ってから心は身体に戻ってくるだろうかと、詠う。こうした歌は、単に花を愛でているだけでなく、桜が象徴する何か、また何者かへの哀惜の念が籠められているのではないだろうか。それが読む人の心にさまざまに響き、西行の桜は後の世まで語り継がれている。 奥千本の庵 花の季節に訪れるだけでなく、西行は吉野山の奥深い地に庵を結び、3年ほど暮らしている。 「花を見し 昔の心 あらためて 吉野の里に 住まんとぞ思ふ」 「吉野山 桜が枝に 雪ちりて 花おそげなる 年にも有るかな」 私が訪れた時も、山の麓では桜が咲いていたが、庵に向かう山道には冷気が漂っていた。3畳ほどの広さの庵の、訪れる人もない暮らしの中で春を待つ気分はいかばかりか、と思う。 「とふ人も 思ひ絶えたる 山里の さびしさなくば すみ憂からまし」 寂しさが山里でひとり住む身の慰めである、という境地は驚きだ。その寂寥感と無常観が、奥千本の庵の前に立つとより迫ってくる。 庵の近くには、西行が水を汲んだといわれる苔清水が今も湧き出ている。傍らには江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉がここで詠んだ「春雨の こしたにつたふ 清水哉」の句碑があった。芭蕉は西行に憧れて、奥州や諸国を旅し、『奥の細道』などの紀行作品を生み出した。吉野にも2度ほど訪れた記録が残っている。 終焉の地、弘川寺(ひろかわでら) 西行は奥州、四国、伊勢などの地を経て、文治5年(1189年)に、河内国(現大阪府河内郡)の弘川寺に居を構えた。その翌年、病のため73年の生涯を終えている。 「ねがはくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」 彼がかつて詠んだ歌の通り、亡くなったのは、旧暦2月16日(西暦3月23日)の桜の季節、満月の頃だった。 西行没後550年を経て、江戸時代の歌僧・似雲(じうん)が西行墳を発見。似雲は境内に西行堂を建立し、西行座像を祀った。さらに西行墳の傍らに「花の庵」を建て、生涯そこで暮らしたという。 私が訪ねた日、西行墳にはなぜか一輪の赤いバラが手向けられていた。墓近くには、「ねがはくは…」の歌碑が立つ。頭上の大木の‘ヤマザクラ’が、あたり一面に花びらを散らしていた。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 勝持寺 住所:京都市西京区大原野南春日町1223-1 電話:075-331-0601 HP:http://www.shoujiji.jp 二尊院 住所:京都市右京区嵯峨二尊院門前長神町27 電話:075-861-0687 HP:http://nisonin.jp 吉野山観光協会 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2430 電話:0746-32-1007 HP:http://www.yoshinoyama-sakura.jp 弘川寺 住所:大阪府南河内郡河南町弘川43 電話:0721-93-2814 HP:http://www.town.kanan.osaka.jp(河南町HP)
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奈良県
奈良・吉野山の桜【松本路子の桜旅便り】
祈りの桜 数年前、桜の季節に吉野山へ出かけた。山陵一面に咲く花の映像に惹かれ、ぜひ訪ねてみたいと思ったのだ。吉野山は奈良県の中央部に位置し、‘ヤマザクラ’を中心に、約3万本の桜がその尾根や谷を埋め尽くす。山岳仏教と結びついた信仰の場として知られ、「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録されている。 吉野山の桜の由来は、今から約1,300年前に遡る。飛鳥時代に活躍した修験道の開祖である役小角(えんのおづの)が、吉野山に金峯山寺(きんぷせんじ)を開き、本堂に桜の木を彫った蔵王権現を祀った。以来、桜が御神木とされ、信者たちが祈願の折に苗木を寄進するようになった。平安時代以降、献木する人も増え、約8kmの山稜が桜で覆われるようになった。吉野の桜は、人々の祈りの象徴ともいえる。 一目千本 吉野山の桜は、標高の低い場所から高いところへと、順に開花するので、約1カ月間にわたり花見の季節が続く。尾根は下千本、中千本、上千本、奥千本と名づけられ、4月初旬から、桜の開花が駆け上っていく。 花見に格好の場所はいくつかあるが、中でも中千本近くの吉水神社の境内からの展望は見事で、古来より「一目千本(ひとめせんぼん)」と称せられてきた。 吉水神社を訪ねた日はあいにくの小雨模様だったが、山脈に霧がかかり、それはまた幻想的で悪くない情景だった。 上千本の花矢倉の展望台からは、金峯山寺を望むことができる。吉野の町や桜の尾根が見渡せ、吉野山に来たことが実感できる場所だ。義経の忠臣が追っ手に矢を放ったことから、この名前で呼ばれるようになった。 義経千本桜 吉野山は祈りの場所であると同時に、数々の歴史の舞台となり、物語をのちの世に伝えている。文治元年(1185年)平家討伐の後、兄である源頼朝に追われた源義経一行が奥州へ逃れる途中に立ち寄り、身を潜めたのが吉野山の吉水院(現吉水神社)だった。 神社の書院には「義経潜居の間」「弁慶思案の間」など、義経伝説にちなんだ部屋が残されている。追手が迫り、吉水院からさらに奥の大峰山に向かった義経だが、大峰山は女人禁制のため、同行していた愛妾の白拍子・静御前は吉野に残らざるを得なかった。それが二人の今生の別れとなった。 静御前は捕らえられ、鎌倉に送られたが、頼朝の前で「吉野山 峰の白雪ふみわけて 入りにし人の跡ぞ恋しき」と義経を慕う今様を唄い、舞ったという。義経と吉野の物語は人形浄瑠璃や歌舞伎の演目『義経千本桜』で知られ、今に語り継がれている。吉野山の奥には義経が潜んでいたといわれる「義経隠れ塔」が残されている。 後醍醐天皇の南朝 延元元年(1336年)、時の権力者・足利尊氏に追われた後醍醐天皇は、吉野山に朝廷を開いた。京都では尊氏が光明天皇を擁立していたので、2カ所に朝廷が存在することとなった。京都を北朝、吉野を南朝とする、南北朝時代の始まりである。 後醍醐天皇は吉水院に滞在した後、金峯山寺蔵王堂の西にあった実城寺を御所とし、寺号を金輪王寺と改めた。3年後に後醍醐天皇はこの地で生涯を終えたが、吉野山の南朝は4代、56年にわたり続いた。 豊臣秀吉の花見 太閤秀吉は、文禄3年(1594年)に総勢5,000人を引き連れて、吉野で花見の宴を開いている。徳川家康、前田利家、伊達政宗などの武将をはじめとして、文人、茶人を伴っての花見は、吉野の桜を一躍有名にする出来事だった。5日にわたり「歌会」「能会」「茶会」「仮装行列」が繰り広げられ、その様子は「豊公吉野花見図屏風」(細野美術館蔵)と題した屏風絵に描かれている。 西行庵 「なんとなく 春になりぬと 聞く日より 心にかかる み吉野の山」 (『山家集』) 『新古今和歌集』の代表的詠み人のひとりで、『山家集』など多くの歌集を残した平安時代の歌人・西行は、吉野を愛し、たびたび訪れている。さらに奥千本の山あいに庵を結び、3年ほど暮らしていた。 武士であった西行は23歳で出家し、諸国を行脚、73歳でこの世を去るまで2,000首を超える歌を残した。花を詠んだ歌はおよそ230首で、吉野の桜も数多い。 奥千本からさらに奥地へ、険しい道を下って、たどり着いた場所には、これが住まいかと驚くほど小さな庵・西行庵が建っていた。奥千本の桜の時期には早すぎたので、訪れる人も少ない寂しい場所の、霧に浮かぶ庵は別世界のように思えた。西行と桜については、改めて綴ってみたい。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 吉野山観光協会 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山2430 電話:0746-34-1007 HP:http://www.yoshinoyama-sakura.jp 吉水神社 住所:奈良県吉野郡吉野町吉野山579 電話:0746-32-3024 HP:http://www.yoshimizu-shrine.com Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
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京都府
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪35 京都「京都・洛西 まつおえんげい」
“わかりやすく”に徹し ガーデニングライフを応援 京都の西部・洛西ニュータウンの山側にある「まつおえんげい」。明治時代から続く老舗の園芸店で、シーズンにはたくさんのバラや草花が来訪者を出迎えます。 このショップは、バラのエキスパートの一人として知られる松尾正晃さんが営むバラとクレマチス+園芸用品全般を扱う総合園芸店。マネージャーである息子の祐樹さんとともに、販売をしながら全国の花のイベントに積極的に参加し、主にバラの魅力を発信しています。 店内はバラとクレマチスの苗でいっぱい。ピーク時には、バラは400~500品種7,000~8,000株、クレマチスは150品種1,500~2,000株の苗が並んでいます。 バラはイギリスやフランス、日本、オランダ、ドイツ、イタリアなど各国のメーカーのものを網羅。自社ブランド品種や古い品種も揃っています。バラは特にお国柄のような特色が表情に出るので、それを見比べながらショッピングするのも楽しい時間です。 品種が多く、育てるのも難しいと思われがちなバラ。そういった不安を払拭すべく、「まつおえんげい」ではコミュニケーションを大事にしています。「皆さん恵まれた環境で育てていらっしゃるとは限らないので、まず環境をお聞きして、対話しながら問題や疑問を一緒に解決していきます。それぞれに合った育て方をご提案できるように心がけています」と祐樹さん。 看板やポップは、「とにかく分かりやすく、より有益な情報や知識を提供」することに力を注ぐ「まつおえんげい」。「どんな些細なことでも困ったことがあれば気軽に相談してください。皆さまのお手元に植物を届けることだけが園芸店の仕事ではないんです。その後もしっかりと育ってくれるようにサポートすることが、なにより大切だと考えております」と祐樹さん。 ロマンチックな庭づくりに欠かせないつるバラ。店内にはつるを伸ばすシュラブやクライミングのバラが100株以上あり、スタッフ皆で剪定・誘引などの管理をしています。ショップの突き当たりの花壇では、つるバラとカラーリーフとの美しい競演が見られるので、ぜひチェックを。 ショップを彩る つるを伸ばすバラたち フェンスやオベリスクに誘引された、丈夫で育てやすいバラをご紹介します。取材時の秋バラは、特に深みのある魅力的な花色でした。秋は春より苗の販売数はだいぶ少ないものの、実際に咲いている花を見て、返り咲き性が強く丈夫な品種を確認できます。 左/‘ダフネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.5×W1.2m、花径6~7cm、中香 右/‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’:四季咲き、シュラブ半横張H1.3×W1.5m、花径8~10cm、強香 左/‘パットオースチン’:返り咲き、シュラブ横張H1.2×W1.0m、花径10~12cm、強香 右/‘エドゥアール・マネ’:四季咲き、シュラブ半横張H1.8×W1.2m、花径8~12cm、強香 左/ルイーズ・オジェ:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8cm、強香 中/‘マルク・アントン・シャンポルティエ’:四季咲き、シュラブ横張H1.5×W1.2m、花径6~8cm、中香 右/‘ポール・ボギューズ’:返り咲き、シュラブ横張H1.5×W1.0m、花径8~10cm、強香 左/‘ナエマ’:返り咲き、シュラブ半直立H2.0×W1.5m、花径8~10cm、強香 中/‘エリアーヌ・ジレ’:四季咲き、シュラブ横張H1.0×W0.8m、花径8cm、微香 右/‘パレード’:返り咲き、つる横張H2.5m~、花径10cm、中香 コンパクトなクレマチスは 奥の専用ハウスで販売 バラと併せて育てたい植物ナンバーワンのクレマチス。互いの花の少ない時期を補い合うように咲く、バラとベストコンビの植物で、広い敷地の奥にある専用ハウスにずらりと並んでいます。国内のさまざまな生産者から仕入れているので、品種は多種多様。たくさんありすぎて分からないときは、ぜひスタッフに声をかけてみて。 バラと一緒にクレマチスもサンプルで植わっています。さすが専門店、仕立ての美しさは見事です。 先代からの精神を受け継ぎ 上質な植物を販売 ショップがオープンしたのは今から約40年前ですが、店の前身として、戦後に先代の祖父がキクやシクラメン、クレマチスの原種を焼き物の鉢に植え、魚屋からもらった木のトロ箱に入れてリヤカーに載せて街に売りに行っていたそう。そんな時代を経て、息子の正晃さんは園芸店をスタート。その後、バラの魅力にいち早く気づいて、約20年前に、バラとクレマチスに力を入れたショップへと進化させました。 広い店舗ではバラやクレマチスのほか草花の品種にもこだわり、徹底した管理の下で販売。お店でピークを迎えるのではなく、お客様の手元に届いてからピークを迎えるように苗を扱っています。「仕入れ先の農家さんの思いのバトンをきちんと渡したいですね」と祐樹さん。 また、思い切ったサービスとして、苗に1カ月枯れ保障をつけているということにも驚き。「私には園芸は向いていない…で終わるのではなく、チャレンジして育てることの楽しさを感じていただきたいんです」。とことんお客様に寄り添う、真摯な姿勢がうかがえます。 ハウス内の資材売り場にも こだわりが凝縮 ハウス内は、寒さに弱い植物や資材売り場。バラやクレマチス栽培におすすめのアイアンフェンスやコンテナも多数揃っています。 松尾祐樹さんのイチオシ 「まつおえんげい」オリジナル培養土&肥料「プロスタイルシリーズ」+α プロスタイルシリーズは、「まつおえんげい」が長年の生産経験から自信を持っておすすめするガーデニンググッズや用土。とくに培養土は、こだわりがぎっしり詰まった最高品質です。 ◆「プロスタイルシリーズ バラの専用培養土」:排水性・保水性・通気性・保肥性・pHなど、すべてにおいてバラ栽培に最適な配合になっている。過剰になった肥料分を吸収する働きを持つゼオライトも配合され、根の傷みを防いでくれる。 材料にこだわった、「まつおえんげい」の肥料。販売されている苗や地植えしている植物にもふんだんに使われています。 ◆「プロスタイルシリーズ 花の元肥」:花だけでなく野菜や観葉植物にも使える元肥。植物のスムーズな成長を促す高品質の肥料で、効果は120日。 ◆「ALA配合肥料」:根張りをよくする特殊なアミノ酸配合の肥料。株が弱ったときや根が弱りやすい夏などにおすすめ。 ◆「プロスタイルシリーズ バラ専用肥料」:一年を通して使える追肥。1回の使用で30~40日持続する。バラをはじめ、クレマチスや樹木にも使用できる。 地元に愛される店を目指して設けられた 手づくりの喫茶店 「まつおえんげい」では喫茶‘ログハウス’も併設。「奥さんだけがお花を楽しむような場所ではなく,ご主人も一緒に来てゆっくり過ごしてもらえる、地域に愛されるお店にしたい」という思いで、今から36年前に正晃さんの奥様が始めました。ぬくもりを感じる建物は、北山杉の間伐材を使用。椅子やオブジェは倒木が用いられ、一刀彫で造られています。 松尾祐樹さんのイチオシ 丈夫で育てやすいバラ 【四季咲き・木立ち性】 ‘夜来香’ パープル系の中でも育てやすく頼もしい強健種。ブルーローズ独特の爽やかな香りも楽しめる。※1 ‘縁(ゆかり)’ 中輪多花性で、春以外のシーズンにもよく咲く良花。枝は太くなりすぎず、比較的コンパクトに維持しやすい。※2 ‘ピンク・アバンダンス’ 「アバンダンス(=たくさんの)」という名の通り、見応えのある中~大輪花をたくさん咲かせる。大まかな剪定でも花つきがよいので、剪定が苦手な方にもおすすめ。※2 【返り咲き・つる性】 ‘アミ・ロマンティカ’ 花弁のグラデーションが美しい半つる性品種で、秋によく咲く。花弁がしっかりとしているので雨でも傷みにくく、長く美しい状態を楽しめる。※3 ‘ベル・ロマンティカ’ 爽やかなクリアイエローと明るいグリーンの葉色のコントラストが美しい。直立気味のスリムな姿に育ってくれるので、スペースを取りすぎず、行儀よく楽しみやすい。※3 ‘マリー・ヘンリエッテ’ これぞバラといった豪華な大輪花で、香り・花もちともに優秀。病気にも強く、強健で見ごたえのある姿に育ってくれる。※3 ‘パブロワ’ 新品種で、バラの中でも意外と少ない白花大輪のつる性品種。耐病性に優れた育てやすい性質と、グレイッシュな落ち着きのあるホワイトの花が大変魅力的。※4 ‘リパブリック・ドゥ・モンマルトル’ 赤バラの中でも特筆すべき育てやすさを持つ、半つる品種。年に3~4回繰り返しよく咲き、深紅の美しい花を何度も楽しませてくれる。※5 明治から続く園芸店の老舗「まつおえんげい」。優雅なバラとクレマチスに加えて、四季折々の草花が豊富に並びます。また、知識豊富んsスタッフが丁寧にガーデニングライフを支えてくれます。ぜひ訪れてください。アクセスは、京都縦貫自動車道「大原野IC」「沓掛IC」より車で約5分。JR桂川駅・阪急洛西口駅よりバスで約20分「新林センター前」下車から徒歩約5分。 【GARDEN DATA】 京都・洛西まつおえんげい 京都府京都市西京区大枝西長町3-70 TEL :075-331-0358 営業時間:平日10:00~17:00/9:00~17:00(土日祝) 定休日:木曜日(祝日は営業)/正月・盆休み(※詳細はブログ等で掲載) https://matsuoengei.co.jp/ Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』、近著に『簡単で素敵な寄せ植えづくり』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。 【写真協力】 ※1:河本バラ園、※2:タキイ種苗株式会社、※3京成バラ園芸株式会社、※4:株式会社花ごころ、※5:まつおえんげい
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京都府
京都・平安京の桜 その③【松本路子の桜旅便り】
古都の桜を訪ねる旅 早咲きの桜便りが届き始めると、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 京都に原木のある桜や、ゆかりの桜を訪ねる旅の第3弾。古の都の佇まいと桜はよく似合う。今回は仁和寺と、桜守で知られる佐野藤右衛門さんの桜園を訪ねた旅の記憶を綴ってみたい。 仁和寺(にんなじ) 遅咲きの桜‘御室有明’(おむろありあけ、通称‘御室桜’) に会いたくて、桜の季節に仁和寺を訪ねた。仁和寺は仁和2年(886年)、平安時代創建という歴史ある寺院。宇多天皇が譲位後に出家して移り住んだことから、別名「御室御所」と称されるようになった。 仁王門をくぐり、直進した先に国宝の金堂が建っている。中間地点に中門が位置し、その北西に広がるのが‘御室桜’だけを集めた桜苑だ。桜木の数は200本といわれ、花の最盛期には白い雲が一面に舞うような光景が出現する。 ‘御室有明’(通称‘御室桜’) ‘御室桜’は江戸時代から庶民の桜として親しまれ、数多くの和歌に詠まれている。また儒学者・貝原益軒の『京城勝覧』では、吉野の桜に比べても劣らないとし、「花見る人多くして、日々群衆せり」と、その賑わいを伝えている。 ‘御室桜’の特徴としては、見頃が4月中旬の遅咲きであるとともに、樹高が2~3mで、枝が横張り性であることが際立っている。それゆえ、ちょうど人の目線の位置に満開の花が広がって見える。背丈が伸びないのは、この土地の土質から根が張れないのが要因とされるが、詳しいことはいまだ調査中だという。花(鼻)の位置が低いことから、親しみを込めて「お多福桜」とも呼ばれる。 仁和寺には‘御室桜’以外の桜も多く、中でも‘胡蝶’は、古くから寺にあったとされる桜だ。満開時には蝶が舞うような趣があり、この名前がつけられた。開花は‘御室桜’とほぼ同時期なので、併せて晩春の京都を彩る花を楽しむことができる。 桜守・佐野藤右衛門 京都の桜旅で、忘れられない場所がある。それは佐野藤右衛門の私邸にある桜園だ。代々その名前を受け継ぎ、現在16代目の佐野藤右衛門は、祖父である14代、父の15代と、3代にわたる「桜守」として知られる。家業の造園業の傍ら、全国の桜の調査、苗木の保存・増殖に努めてきたことから、敬愛の念を込めて「桜守」と呼ばれるようになった。 『東京 桜100花』という本を私が出版した時、125種類の桜について調べたが、その中の多くが、佐野藤右衛門が発見、もしくは増殖した、とされていた。絶滅寸前の木の後継木として、佐野が育てた苗木が提供された例は数知れない。‘染井吉野’が全国の桜の8割を占めるといわれる今日にあって、これほど多彩な桜に出会うことができるのは、ひとえに「桜守」たちの尽力に他ならない。 佐野家は天保3年(1832年)創業、代々植木職人として御室御所(仁和寺)に仕えてきた。明治期より造園業を営んでおり、桂離宮や修学院離宮などの庭の整備にたずさわっている。16代佐野藤右衛門は、京都迎賓館やイサム・ノグチが設計したパリのユネスコ本部にある日本庭園の作庭などで知られる。2021年には、93歳にして‘オオシマザクラ’の大木の移植作業の陣頭指揮を現場で執り行うなど、いまだ現役だ。2022年4月には94歳になるという。 ‘佐野桜’ 私が佐野藤右衛門の桜園を訪ねたいと思ったきっかけは、桜守の名前を冠した桜があると知ったから。その‘佐野桜’をぜひ、桜守の庭で見たいと思った。‘佐野桜’は京都市右京区の広沢池畔にあった‘ヤマザクラ’の種子を1万個播いた中から選抜して育成された、という。自然交配の結果生まれた新しい種類の桜で、1930年に植物学者の牧野富太郎によって命名された。 半八重の花は、‘ヤマザクラ’より薄い紅色がかかり、ふっくらとしたつぼみや花弁が、優しげな風情を見せる。花径は3~4cmで、成長すると樹高は10mを超える。 桜守の桜園 佐野家の私邸のある敷地内に広がる桜園には、200の栽培品種約500本の桜が植えられている。入り口付近の京都円山公園にある「祇園の枝垂桜」の兄弟木をはじめとして、園内の散策路には、それぞれの桜の名前が分かるように、木の名札が立てられてあり、珍しい種類の桜に出会うことができる。 佐野藤右衛門によって保護、増殖された桜には、‘御室有明’、‘胡蝶’、‘祇王寺祇女桜’、‘大沢桜’、‘平野妹背’など、京都ゆかりの種類のほか、石川県金沢市の兼六園に原木があった‘兼六園菊桜’、宮城県で発見された‘簪桜(かんざしざくら)’などがある。 また、国内では途絶えていた‘太白’は、イギリスの園芸家の庭園で栽培されているのが分かり、接ぎ木用の枝を輸送して、1932年に里帰りさせた。当時の長い船旅から、枝は何度か枯れたが、最終的にジャガイモに枝を挿して輸送に成功したという。その話を聞いて庭の‘太白’の花を見上げると、感慨もひとしおだ。 『桜のいのち 庭のこころ』『桜守の話』など、16代佐野藤右衛門の著書を読むと、彼の桜や自然との付き合い方を知ることができる。同時に、そこには人が生きていくうえでの、たくさんの指針が籠められている。‘佐野桜’が咲く季節に桜園を訪れ、佐野氏の桜に寄せる思いの一端に触れることができたのは、何よりも得難い体験だった。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 仁和寺 住所:京都市右京区御室大内33 電話:075-461-1155 HP:https://ninnaji.jp 植藤造園 (佐野藤右衛門の桜園) 住所:京都市右京区山越中町13番地 電話:075-871-4202 FAX:075-861-7280 HP:www.uetoh.co.jp *桜の季節のみ桜園を一般公開。私邸内の庭ですので、見学のマナーには十分ご留意ください。 *2022年は、コロナ禍のため桜園の公開は中止となっております。 Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
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京都府
京都・平安京の桜 その②【松本路子の桜旅便り】
桜の名前にゆかりの地を訪ねる 早咲きの桜便りが届くと、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 今回は、京都に原木のある桜や、ゆかりの桜を訪ねる旅の第2弾。古の都の風情と桜はよく似合う。 ●第1弾はこちら。 京都御所 平安京遷都から明治維新まで、天皇の住まいであった京都御所。その一部は一般公開されている。御所の正殿である紫宸殿(ししんでん)は、即位礼などの儀式を執り行う格式ある場所だが、前面に広がる白砂の庭越しに「左近の桜」と「右近の橘」が植えられているのを望むことができる。 「左近の桜」は、かつて桜ではなく梅だった。中国文化の影響で、それまで花といえば梅だったのが、平安時代になってから、日本各地で見られる桜に代わった。わが国独自の文化が成熟しつつあった時代の証が、紫宸殿の植樹にも表れているのは興味深い。「左近の桜」は、古くから日本に分布する野生の桜‘ヤマザクラ’で、平安時代から今日に至るまで、代々植え継がれている。 御所ゆかりの桜は‘御所御車返(ごしょみくるまがえし)’。慶長16年(1611年)に即位した第108代後水尾天皇(ごみずのおてんのう)が、桜を見かけその美しさに御車を引き返させたところから、名前が授けられたと伝わる。原木は宜秋門前で見ることができる。 昭和初期に御所にあった原木から増殖されたといわれるのが、‘八重左近桜’。‘ヤマザクラ’の花に似るが、白色の花弁に紅色の筋が入る、気品のある花だ。 京都御苑 江戸時代には、御所を囲むように200もの宮家や公家の邸宅が建ち並んでいた。明治維新を迎え、都が東京に移ると、公家たちは天皇とともに京都の地を離れた。その後、屋敷跡地は公園として整備され、敷地は御所を含み約100万㎡に及ぶ。 苑内には約1,000本の桜があり、中でも摂政や関白を多く輩出した五摂家のひとつ近衛家の邸宅跡の約60本の‘枝垂桜’‘八重紅枝垂’は、見事な景観を作り出している。そのほか‘ヤマザクラ’、御所の南にある‘奈良の八重桜’、出水の小川付近の‘御衣黄(ぎょいこう)’ ‘市原虎の尾’ ‘平野妹背’など、京都ゆかりの桜が並ぶ。御苑の門は24時間開放されているので、早朝の花見も可能だ。 平安神宮 平安神宮は平安遷都1,100年を記念して1895年に創建された神社で、神苑は明治の造園家7代目小川治兵衛らの手により造園された。総面積約3万3,000㎡で、平安京千年の技法を結集した日本庭園とされる。池泉回遊式庭園の池を囲むそこかしこに植えられた‘枝垂桜’は、野生の‘エドヒガン’が突然変異して生まれたもので、花色が紅色のものを‘紅枝垂’、その八重の種類を‘八重紅枝垂’と呼ぶ。 平安神宮の‘八重紅枝垂’は、明治時代に仙台市長が苗木を献上したもので、市長の名前から「遠藤桜」という別名がある。もともとは京都御苑にあった苗木を増殖したものなので、「里帰り桜」とも呼ばれている。 小説家の谷崎潤一郎は、その著書『細雪』の中で、平安神宮の桜の情景を「夕空にひろがっている紅の雲」と描写している。まさに満開の桜が空一面に広がる様が、目に浮かぶようだ。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 京都御所 京都府京都市上京区京都御苑 https://sankan.kunaicho.go.jp/multilingual/kyoto/index.html 京都御苑 京都府京都市上京区京都御苑3 https://www.fng.or.jp/kyoto/ 平安神宮 京都府京都市左京区岡崎西天王町97 http://www.heianjingu.or.jp/shrine/heianjingu.html 桜の開花情報 日本気象協会:https://tenki.jp ウェザーニュース:https://weathernews.jp Credit 写真&文/松本路子 写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-22年現在、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。 『秘密のバルコニーガーデン 12カ月の愉しみ方・育て方』(KADOKAWA刊)好評発売中。www.matsumotomichiko.com/news.html
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京都府
京都・平安京の桜 その① 【松本路子の花旅便り】
桜の名前にゆかりの地を訪ねる 早咲きの桜便りが届くと、各地の桜のことが気になってくる。桜といえば‘染井吉野’を思い浮かべることも多いが、桜にはさまざまな名前が冠せられていることを知ってから、名前にゆかりの地をめぐる、そんな旅に興味を抱いた。 ‘染井吉野’は全国の桜の約8割を占める。だがこの桜が登場したのは江戸末期で、全国的に広まったのは明治になってからだ。古来日本には‘ヤマザクラ’をはじめとする野生の桜が、人々の暮らしとともにあった、その数は10種といわれている。人々は野山に出かけ満開の花の下で、妖気に酔い、散る風情に世の無常を儚む。そうした桜をめぐる豊かな文化が息づいていた。 平安時代になると、公家の手によって宮中や寺社に桜が移植され、栽培・観賞の習慣が生まれた。やがて自然界での変異や異種間での交雑、さらに人工交配によって、さまざまな栽培品種が誕生するようになった。‘奈良の八重桜’や‘枝垂桜’は、平安時代の早い時期に宮中や公家の邸宅に植えられていた。 百人一首で知られる「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな」は、平安中期に女性歌人伊勢大輔(いせのたいふ)によって詠まれた歌で、奈良時代からこの花があったことを教えてくれる。 桜の栽培品種は生まれた地、花色、花の形などから名前が付けられ、今やその数は300とも400ともいわれている。 特に京都に原木のある桜は、名前も雅で、ルーツをたどるだけでも楽しい。京都に花の名所は数々あるが、そうした名前にゆかりの地を訪ねてみた。 平野神社 平野神社は794年、平安遷都と同時に奈良から遷座された歴史ある神社。現在、60種類400本の桜が見られる。平安時代に花山天皇が桜を手植えしたことをきっかけに、氏子の公家たちが珍しい品種の桜を競って神社に奉納するようになった。桜は「生命力を高める象徴」とみなされ、家の繁栄を願ってのことだ。江戸時代になると、庶民にも夜桜が解放され「平野の夜桜」として広く知られるようになった。 平野神社に原木があり、またゆかりのある桜は‘魁(さきがけ)’、‘平野寝覚(ひらのねざめ)’‘平野妹背(ひらのいもせ)’‘手弱女(たおやめ)’など。また‘楊貴妃(ようきひ)’という名の艶やかな桜花も見ごたえがある。種類によって開花時期が異なるので、3月から4月にかけて約1カ月半にわたり花を愛でることができる。 祇王寺 ‘祇王寺祇女桜(ぎおうじぎじょざくら)’という桜と出会い、その名前の由来が『平家物語』にあると知って興味を覚えた。平清盛の寵愛を受けた白拍子(歌や舞を披露する格式高い遊女)の祇王が、清盛の心変わりによって都を追われ、母と妹の祇女とともに出家をするという、悲恋の物語だ。出家後に住まいとした奥嵯峨の尼寺が、今に残る祇王寺だという。桜は19歳の若さで出家した妹の白拍子、祇女に捧げられたものだ。 嵯峨野は都の西方の郊外にあることから、別名西郊と呼ばれ、平安時代から公家や文人に愛され、離宮や山荘が建てられた。嵐山から足をのばした「竹林の小径」がよく知られている。奥嵯峨はさらに北へ行ったあたりで、『平家物語』の時代には草深い里であったのではと思われる。祇王、祇女の姉妹とその母はこの地で生涯を終え、寺の敷地内にその墓が残されている。 私が祇王寺を訪ねた数年前には‘祇王寺祇女桜’の木は見当たらず、樹齢150年を経た切り株のみだった。近年、新しく植樹されたというので、桜の季節に再訪してみたい。一時期廃寺となり、今ある草庵も明治時代に他から移築されたものだが、そのひなびた様子がゆかしい。さらに苔むした庭が静寂の中に凛とした佇まいを見せ、そこに身を置けただけでも、訪れた甲斐があったと思えた。 京都府立植物園 京都市街北部にある植物園は1924年開園の京都市民憩いの場所で、170種500本の桜が植えられている。園内では桜林の‘紅枝垂’ほか、北山門近くの桜品種見本園で、京都に原木のある桜の品種を数多く見ることができる。‘駒繋(こまつなぎ)’ ‘朱雀(すざく)’など京都らしい名前に加え、‘鬱金(うこん)’ ‘御衣黄(ぎょいこう)’など、黄緑色の花弁の桜も京都にゆかりがあるとされる。 半木の道 植物園の西側には大きな河が流れている。鴨川の上流となる賀茂川だ。川沿いをさらに上流に向かう散策路は、‘八重紅枝垂’のトンネルが幾重にも連なる「半木(なからぎ)の道」。京都の桜守、16代佐野藤右衛門により増殖された桜が約800mにわたり続いている。花のスクリーン越しに、夕刻の水面のきらめきを眺め、その日の桜めぐりを終えた。 *植物学の慣例に従い、野生の桜をカタカナ、栽培品種の桜を漢字で表記しています。 Information 平野神社 住所:京都市北区平野宮本町1 電話:075-461-4450 Mail :info@hiranojinja.com HP:www.hiranojinja.com 祇王寺 京都市右京区嵯峨鳥居本小坂町32 電話:075-861-3574(9:00~16:30) Mail:giou@giouji.or.jp HP:www.giouji.or.jp 京都府立植物園 京都市左京区下鴨半木町 電話:075-701-0141 HP:www.pref.kyoto.jp 桜の開花情報 日本気象協会: https://tenki.jp ウェザーニュース:https://weathernews.jp
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兵庫県
花の庭巡りならここ! 世界水準の熱帯植物コレクションを誇る「兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリー…
日本最大級の温室植物園へ出かけて 世界のユニークな植物たちと出会おう! 「兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリーン館」は、2000年に世界的建築家・安藤忠雄氏の設計によって造られた温室植物園です。元は関西空港などの建設のために大規模な土砂採掘が行われた跡地でしたが、「人と自然が共生する場」を目指し、緑豊かな植物公園に整備。温室植物園は、長らく憩いの場として人々に愛されてきました。 それから20年が経過したのを機に館内をリニューアルし、2021年9月に再オープンしました。新たにプロデュース・リーダーとして迎えられたのは、現館長の稲田純一氏。世界文化遺産の「シンガポール植物園」を手がけたことでも知られています。新たなシンボルとして設けた、ダイナミックなガーデンキャッスルなど、世界水準の展示を見ることができますよ! 施設内は、展示室を一つずつ楽しみながら散策できる回遊式の造りで、「みどりのちょうこく」「しきさいのにわ」「くらしのみどり」「しんかのにわ」「にぎわいのにわ」の5つのシーンに分けられ、それぞれのテーマに沿った植栽展示が展開されます。 ほかにも「ひかげのにわ」「アトリウム」「特別展示室」もあり、施設内は多様な植物で彩られています。館内を見学するのに、大人の足でゆっくり歩いて40分くらいの規模です。また、これまでになかった「ベビールーム」や、子どもが遊べるプレイエリアの「キッズスペース」も新たに設置、子どもと一緒に楽しめるのもいいですね。 夏休み、ハロウィン、クリスマスなどのイベント期間に合わせ、ディスプレイも変化していきます。また、お正月飾りの苔玉づくりや多肉植物の寄せ植え、アロマセラピー、プリザーブドフラワーアレンジなどの教室も開催。今後は、館内のガイドツアーも定期的に行う予定です。 施設内には「温室カフェ」があるので、「少し歩き疲れたな」と思ったら休憩もできますよ! またオリジナルグッズを販売するショップで、お買い物を楽しむのもいいですね。人気商品は、オリジナルキャラクターがプリントされたトートバッグ(1,000円)です。 ここまで、「兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリーン館」の概要についてご紹介してきました。次項からは、主な展示室や施設について、写真とともに詳しくガイドしていきます! 息を呑むようなフォルムの美しさ! 展示室1「みどりのちょうこく」 写真一番奥のアロエ・ディコトマは樹齢320年で、その圧倒的な生命力を目の前に感動を覚えることでしょう。そして左右に従えるのは、左が手前からフルクラエア・ギガンティア、ディオーン・スピヌロスム、アガベ・サルミアナ。右が手前からアロエ・ディコトマ、プヤ・チレンシス、エキノカクタス・ゲルソニイ。いずれも造形の美しい植物ばかりで、人の心を捉える強い引力を持っています。 展示室1「みどりのちょうこく」では、サボテンやユーフォルビアなどの多肉植物を152種類も植栽。原産地の気候によってこれほど姿形を変えるのかと驚かされる、生命保存の戦略も見どころの一つです。写真のエキノカクタスは、ボールのような姿が愛らしいですね! 熱帯から亜熱帯の植物が見られる展示室2「しきさいのにわ」 展示室2「しきさいのにわ」は、熱帯〜亜熱帯に自生している植物を集めています。天井に届くほどに枝葉を伸ばしているヒカゲヘゴは、シダ植物の一種。約1億年前から生息してきたとされ、恐竜たちが闊歩していた時代に思いを馳せることができます。 ここは「しきさいのにわ」と名付けられているように、熱帯〜亜熱帯原産の多彩な花を咲かせる植物をコレクションしています。主にラン科の植物が多く、写真の紫の花はバンダ。一年を通して開花するように室温が調整されており、いつ訪れてもトロピカルな美しい花々を愛でることができます。亜熱帯の植物らしく緑の濃い大きな葉を繰り広げる植物群と、カラフルな花々との色のコントラストも見どころです。 身近な植物で構成する、展示室3「くらしのみどり」 展示室3「くらしのみどり」は、日本の庭文化を表現するエリア。新緑・開花・結実・紅葉と四季によって表情を変えていく雑木や、その足元を彩る下草などを緑量たっぷりに植栽しています。江戸時代に花開いた園芸文化によって、日本では斑入りの植物への人気が高まり、多様な品種が生まれました。この展示の下草には古くから愛されてきたツワブキやハラン、ギボウシなど斑入りの植物が多数選ばれ、どこか懐かしい雰囲気が漂っています。写真のテラス席でくつろぐことも可能です。庭づくりのヒントが見つかりそうですね。 植物たちの進化の過程をたどる展示室4「しんかのにわ」 展示室4「しんかのにわ」では、名前の通り「生きた化石」といわれる植物たちを見ることができます。古生代後半、シルル紀に登場していた古生マツバラン(現生のマツバラン類と系統は異なるとみられる)、石炭紀には登場していたと推定されている植物・リュウビンタイやトクサ、三畳紀~ジュラ紀に現れたソテツなどを植栽。また、兵庫県・吉川で産出された珪化木(けいかぼく)も展示しています。生物の進化は恐竜や人類に目が向けられがちですが、植物も同様に長い年月をかけて進化してきたことが分かります。 ガーデンキャッスルやアーチに注目! 展示室5「にぎわいのにわ」 展示室5「にぎわいのにわ」のシンボルは、写真中央に見える高さ約8mのガーデンキャッスル。黄色い花のオンシジウムが満開となり、見応えのあるシーンをつくっています。ガーデンキャッスルの花は季節によって模様替えされるので、何度でも訪れたいですね。 ガーデンキャッスルの骨組みは淡路島産の真竹を使用。1本の竹に3本の柳を添えて作られており、柳の葉が茂るにつれて印象が変化します。竹の自然なしなやかさを利用した、キャッスルの美しいカーブにもぜひ注目してください。 「にぎわいのにわ」は4つの園路で構成されています。オンシジウムが仕立てられた6個のアーチが連なる約30mの小道をはじめ、ゴクラクチョウカ、プルメリア、アンスリウムと、歩みを進めるごとに異なる景色を楽しめます。 冬には、館内各展示室でライトアップが行われます(2021〜2022年は11/20~1/16)。開館と同時に点灯され、特に曇りや雨の日など、屋外が暗いときにはよく映えます。一番のおすすめは、日没のタイミング。少しずつ日が暮れるにつれ、ライトアップに展示物が浮かび上がっていく様子を楽しめます。2021年は、12月3~26日の金・土・日のみ、夜21時まで開館時間が延長されますよ!(最終入館は閉館の30分前) 休憩スペースやスタンドカフェがあるので、ひと休みもOK! 写真は中2階にある休憩スペース。奥の特等席からは晴天の日に大阪湾が望めますよ! 図書コーナーもあり、子ども向けの図鑑など植物に関する書籍が置かれています。大人向けには多肉植物のアレンジを提案した本やレイ作りの本、庭づくりのアイデア本、海外のガーデニング本なども。ちょっと歩き疲れたら、休憩をかねての読書もいいですね。 温室内にはカフェスタンドもありますよ! 営業時間は11~17時(ラストオーダー16時)。主な価格帯は250~450円くらい。メニューのラインナップはアイス/ホットコーヒー、紅茶、ハーブティー、オレンジジュースなど。 カフェスタンドで人気が高いのは、写真左の淡路島牛乳ソフトクリーム(350円)や、写真右の淡路島牛乳レモンラッシー(420円)、瀬戸内レモンスカッシュ(420円)など。防カビ剤不使用で、無農薬・ワックス不使用の平岡農園産レモンを使用しています。 Information 兵庫県立淡路夢舞台公苑温室 あわじグリーン館 所在地:〒656-2306 淡路市夢舞台4 電話番号:0799-74-1200 https://awaji-botanicalgarden.com アクセス: ・JR三ノ宮駅、JR神戸駅下車、東浦BT行き高速バス ⇒ 淡路夢舞台前(片道950円) ・JR舞子駅、山陽電鉄舞子公園駅下車、東浦BT行き高速バス ⇒ 淡路夢舞台前(片道520円) 営業時間:10:00~18:00(最終入館17:30) 入園料:大人750円、70歳以上370円(要証明)、高校生以下無料 ※特別展開催時は入館料が変更となります。 駐車場:グランドニッコー淡路地下駐車場1日/600円(1回) 【当館より来場のみなさんへ、新型コロナウイルス感染症対策のお願いごと】 ◆ ご来場の際には、マスクの着用をお願いします。着用されていないお客様は受付にて販売しております。(1枚50円) ◆ ご来場の際には、入口に設置しております、消毒液にて手指の消毒をお願いします。 咳エチケット、こまめな手洗いの徹底にご協力ください。 ◆ スペースのあるエリアで人との距離が十分に保てる場合は、マスクを外すなど熱中症等にお気を付けください。 ◆ 体調のすぐれない方は、ご来場をお控えいただいています。 ◆ できる限り少人数にわかれてご来場ください。 ◆ できる限り混雑する時間帯を避けてご来場ください。混雑時は入場制限を行う場合がございます。 ◆ 館内は定期的に換気を行っておりますが、他のお客様と密着しないよう、一定の距離を保つようにお願いします。 ◆ エスカレーターやエレベーターをご利用の際は、適切な距離を保ってくださいますようお願いします。 ◆ゴミなどについては、所定のゴミ箱をご利用ください。 ◆ご来館時、入口に掲示しております「兵庫県新型コロナ追跡システム」への登録及びQRコード読み込みにご協力お願いします。
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滋賀県
「ローザンベリー多和田」の開園物語と庭づくり 〜お客さまが憧れる庭をかたちに
専業主婦が8年かけて採石場跡を開発 JR琵琶湖線「米原駅」から琵琶湖の北側に広がるのどかな田園風景の中、車で15分。四方を山々に囲まれたイングリッシュガーデン「ローザンベリー多和田」があります。 園内は、バラと宿根草の庭や英国建築の建物、羊の牧場、レストラン、バーベキュー場などがあり、四季を楽しみながら1日中過ごせます。開園から10周年を迎えた現在、メディアでも多く取り上げられる人気のガーデンに成長しました。 しかし、ここまで至るには何度も自然の脅威にさらされ、その都度庭づくりを見直し、風土にあった植栽にし直したり、来園者が楽しめる仕掛けを行ったりと、努力を積み重ねてきました。 「ここは元採石場で、見渡す限り雑草に覆われた場所でした。硬い岩盤だったので、ブルドーザーを使ったり、大型重機で土木工事をしたり、庭づくりというより“開拓”からのスタートだったんです」と、オーナーの大澤惠理子さんは当時を振り返ります。 「昔から子育てが一段落したら何かしたいと考えていました。家族に相談したら『今まで家のことをしてきてくれたから、これからは好きなことをしたらいいよ』と言ってくれました。何をしようと考えたときに、子どものころから父親の庭を手伝い、自然に囲まれた環境にいたので、土や花と触れ合いたいと思ったんです」 そして、専業主婦だった大澤さんが挑んだのは、東京ドーム2.5個分の荒れ果てた採石場跡を開発し、観光庭園を建設するという、もはや「子育て後の余暇」をはるかに超えた大プロジェクトでした。この大事業を成し遂げるまでに、どれほど起伏にみちたストーリーが展開されたかは想像に難くありませんが、「取材でよく苦労話を聞かせてくださいと言われますが、大変なことはたくさんあっても、苦労と思ったことはないです。花と土が相手じゃないですか。だから最高に幸せでしたね」と大澤さんは穏やかに微笑みます。 自分好みの庭から、徐々に憧れの庭へ 周りを囲む山々や広大な調整池、昔からある立派なヒマラヤスギやサクラ。庭づくりの見直しは何度も行ってきましたが、その土地の景色に調和した庭をつくりたいという思いは開発当初から変わっていません。 「日本の田舎にどんなに美しいイングリッシュガーデンをつくっても、城やイギリスの建築物があってのイングリッシュガーデンですから、本場には勝てません。イギリスと同じ庭をつくるのではなく、この土地に昔からあるヒマラヤスギやサクラ、雑木を生かして、日本の田舎の風景に合う山野草や宿根草を入れたガーデンをつくろうと思いました」 開園当時は、子ども会や地域の団体が参加できるような体験型観光農園からスタート。 「私はタンポポやホトケノザ、スミレなど、世間でいう雑草が好きで、オープン1年目はそれにプラスして山野草や宿根草を植えていました。シャクヤクも山シャクヤクのみで、とにかく地味な庭でした」 オープンは9月。山野草や宿根草ではほとんど花が咲いておらず、来園者から「お金を払って来ているのに、花がないとはどういうことなの」という声を受けました。「実からタネまで花の一生を見ることができる庭にしたかったけれど、当時は誰にも受け入れてもらえませんでしたね」と大澤さんは振り返ります。 2年目からは来園者の好みを反映し、とにかく華やかな雰囲気の園芸品種を植えて花を増やします。3年目はバラやクレマチス、西洋オダマキ、アナベルなど華やかな雰囲気の花に加え、素朴でかわいらしい小花が咲く山野草も植栽しました。 バラが好きな来園者も、山野草の庭を見て「こういうお花も素敵ね」と新鮮味を感じているようです。こうしてそれぞれの花の魅力が際立つ庭になり、その後も試行錯誤を重ね、コニファーガーデンやキッチンガーデン、果樹園、山野草と宿根草の庭、シャガの庭など徐々にガーデンの特徴が明確になり、それぞれにファンができる庭に発展しました。 台風による倒木が植栽を変えるきっかけに 庭の方向性も決まり、順調に思われた2018年秋。大型台風で、園内の13本の巨大なヒマラヤスギが根っこからごっそり倒れてしまいます。幸い建物の間に木が倒れて、建物やパーゴラ、ガゼボなどに被害は出ませんでした。 「古くからある大木のヒマラヤスギに魅せられてこの場所を決めたようなものなので、庭づくりの原点でもあった大木が倒れたことに衝撃はかなりありました」 ところが、これが転機となります。今までは大木で日陰だった場所に日が当たり、四季咲きのバラを植えられるようになったのです。イングリッシュガーデンに華やかさが加わり、バラの植栽が広がっていきました。 庭づくりの工夫を潜ませ、ヒントを見つけてもらう 現在ガーデンには、四季折々の花が植えられた、たくさんの巨大な鉢が置かれています。鉢の8割は英国製のウィッチフォードを使い、風景にはイギリス本場のロートアイアンのゲートと、アンティークレンガを使用。これら英国の資材は日本の植物にもよく似合い、しっとり落ち着いた雰囲気を演出してくれています。 「資材も植栽も妥協せずお客さまが憧れる庭をつくらないと、せっかくお金を払って見に来てくれているのですから」と大澤さん。 資材までこだわった庭ですが、実はあえて完璧にはつくっていません。例えばクレマチスを誘引する柵は庭木を剪定した時に出る枝を使うなど、一般家庭の庭にも取り入れやすいアイデアを各所に潜ませているのです。憧れをかき立てる演出の一方で、身近な物も使っているから、真似がしたくなる。それが、来園者が何度も訪れたくなる理由の一つになっています。 感性を磨く環境は、庭づくりに影響する 花はもちろん、おしゃれなベンチやオブジェ、「ひつじのショーン」に登場する牧場主の家を再現した『ひつじのショーンファームガーデン』などの数多くのフォトスポットが用意されていたり、意外な場所に寄せ植えが現れたりなど、広大なガーデンは歩くといくつもの発見があります。 「お客さまに感動し喜んでもらうには、庭のシーンづくりの工夫は必要だと思っています」と大澤さん。花を育てるための専門的な知識があるのと、そうした美しい風景づくりは別のスキル。そのため大澤さんは、美術館などを巡り、庭以外の美しいものや芸術に触れるようにしています。 「私が子どもの頃、半世紀以上前には、この辺りでバラを植える人はいませんでした。ところが、いわゆる『ハイカラ』であった父は、バラを植えたり、芝生の庭に出て家族でごはんを食べたり、抱えるほどの笹ユリを採ってきて玄関や書斎に生けて香りを楽しんだりしていたので、季節を身近に感じる暮らしが日常でした」 こうした古い物と新しい物をバランスよく取り入れる暮らしで感性が磨かれ、庭のデザインに生かされているようです。 スタッフ一丸で考える、ローザンベリーらしい植栽 ガーデン部門のスタッフは主に社員3人、パート10人の合計13人。バラの咲く時期は、ほぼ水やりと草取り、花がら摘みの繰り返しです。1年で一番忙しいのは実は冬で、パンジーやビオラの花がら詰みといった日常的なメンテナンスに加え、菜園や花壇の土壌改良、株分けや植え替え、バラは剪定や誘引、寒肥など12月~2月にかけて済ませなければいけない作業が満載です。 植栽計画やデザインは大澤さんが一人で決定しています。デザインを考えるときは、現場に立って風景や空気を感じながら、図面ではなくイラストを描きます。イラストで色などのイメージをスタッフに相談し、それに合う花苗をスタッフが探してきてくれます。 「庭のイメージは私が決めていますが、ありがたいことにスタッフの皆が『この花は社長喜んでくれるかな』『これは好きやろ』『これは嫌いやから仕入れたらあかん』と考えてくれるようになり、少しずつ私の個性が表れ、それが植栽イメージの基準となってきました」と大澤さん。 植物のセレクトは庭のイメージを大きく左右し、簡単にやり直しもできないため慎重になる場面ですが、スタッフとの信頼関係で、「ローザンベリー多和田」らしさが築き上げられています。「今後は、私がいつか引退したときのために、しっかりと引き継がないといけないと思います」と大澤さんは未来を見据えます。 植物の一生を風情として楽しむのが人気 10年前はガーデンに華やかさが求められていましたが、ここ5年ほどで来園者の興味が変化しているようです。タカサゴユリの咲いた後の花柄だけの姿や、花のない時期にバラの誘引を見に来る人や、ドライフラワーのように茶色くなるノリウツギやアナベルを見て「花が付いているのを最後まで見ることができて素敵」と感じる人など、花の移り変わりを楽しむ人が圧倒的に増えたといいます。 「園芸の雑誌などでは花が終わったら切るように説明していて、書いているとおりに育てると葉っぱだけが残り、タネを見る機会がありませんよね。だから、タネが翁の髭のようになるから『翁草』と呼ばれることや、サルスベリは冬になったら落葉してタネが弾けて、殻がついている姿がきれいだと説明すると喜ばれます」と大澤さんは嬉しそうに話します。 求められるシーンを想定する 2018年の年間来園者数は約8万人。2019年3月に『ひつじのショーン ファームガーデン』をオープンして、約24万人に急増しました 「どうしたらお客さまが喜んでくれるか考えるのは、観光庭園にとって不可欠です。庭が主役の観光庭園だからといって、植物やデザインにこだわるだけでは不十分です。『ひつじのショーン ファームガーデン』を始めたことで客層が広がり、子どもから家族連れ、カップル、若い女性グループなど今まで来なかった人たちが増えました。このエリアは庭や植物に興味がない方にも喜んでいただけるものをとつくった庭で、写真撮影したりベンチに座っておしゃべりをして楽しそうに過ごす様子を見ると本当に嬉しいですね」 さまざまな客層にフィットするよう庭のあり方や楽しみ方のバリエーションを柔軟に広げてきた成果が、来園者数に反映されています。 2020年はコロナ禍で4月~GWに閉園したにもかかわらず、来園者数が約20万人を超えました。「閉園中はパンジーやビオラが一番きれいな時期でした。再開した時にさびれた雰囲気にならないように、良い状態をキープしようとガーデンスタッフは全員出勤して、花がら摘みや植え替えなど、毎日花の世話をしていました」とコロナ禍を振り返ります。こうした人目に触れない地道な努力の積み重ねが、愛される所以ではないでしょうか。 お客さまが喜ぶ美しい庭を目指す ローザンベリー多和田といえば、シックな緑やグレーを基調にデザインされた大人の庭のイメージがあります。しかし10年目の今年は、イギリスのガーデンショーの雰囲気を意識してショッキングピンクの看板にしたり、水色のミニクーパーに花を植えたり、ポップな色使いで来園者を楽しませています。 「花を植えた場所だけではなく、丘に自生するヤマツバキも美しく姿が見えるように手入れします。自然に溶け込んで成長してくものを植えたいですね。段取り良くすみずみまで気配りできる施設にしたいです。お客さまに、『こんなところまで花が植えられている』という発見をして、喜んでもらえる美しい庭にするのが目標です」と力をこめる大澤さん。 風土に合わせ、上質なエンターテイメントにこだわりつくられたイングリッシュガーデン。来園者の憧れの庭がどう進化していくのか、今後の展開が楽しみです。 ●花の庭巡りならここ! 自然の恵みを五感で楽しめる、充実の観光ガーデン「English Garden ローザンベリー多和田」の記事もご覧ください。 協力 ローザンベリー多和田(オーナー 大澤惠理子さん) URL https://www.rb-tawada.com Credit 執筆/株式会社グリーン情報 「グリーン情報」は、花・緑・庭に関わるトレンドを取り入れた業界の最新情報をお届けする、業界唯一の専門雑誌です。 https://green-information.jp/products/list 季節の花や人気のグリーンはもちろん、植物と人、植物と社会の繋がりを深掘りした記事で、昭和55年創刊以来の長きにわたり、多くの方にご購読いただいています。最新のWEBサイトでは、無料会員登録により過去の記事を閲覧できたり、グリーンマップに登録することで情報発信の拠点を構築できたりと、IT時代における業界の情報プラットフォームとして、その役割を担っています。 https://green-information.jp
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京都府
素敵な発見がたくさん! 園芸ショップ探訪21 京都「cotoha」
京都の路地裏にある 隠れ家的存在の観葉植物専門店 専門コーヒーの香りと独特な雰囲気が漂う袋小路。インドアグリーンをメインに扱う植物の専門店「cotoha」はその一角、ツタに覆われた古びた建物の2階にあります。1階はカフェと雑貨店で、ゆっくり楽しめるショップが集まっています。 期待に胸を膨らませ急勾配の木の階段を上ると、まるで植物園の温室のような瑞々しい空間が。想像以上のグリーンの量に圧倒されます。 のびのびと枝葉を広げる観葉植物はみな、オーナーの谷奥俊男さんが自ら沖縄や鹿児島の生産農家に赴いて選んできたもの。現地で生産者に会い、育った環境、樹形の魅力などを一株ずつ自身の目で確かめながら仕入れています。珍しい品種はもちろん、曲がりくねった自然樹形のものも積極的に仕入れているので、空間をデザインするのにぴったりのグリーンが揃っています。 京都らしいこの古い建物は、もとは燃料倉庫で、その後は写真のスタジオとして使われていたもの。当時の高い天井と、大きく取られた半円形の窓をそのまま生かした店内には、どこかクラシックな趣が漂っています。それぞれの時代の名残が、空間に深みを与えて。 アンティークアイテムと合わせて 植物の生命力が感じられる空間を提案 オープンして約6年の「cotoha」。それまでは西陣の実家の生花店で切り花の販売をしていた谷奥さん。「生きている植物をもののように扱い、売れ残ったら廃棄という流れに疑問を持ちながらやっていたんだよね」。そんな思いを抱えながら販売していた観葉植物を自宅で育ててみると、次第に成長するその姿に繊細さやたくましさ、おもしろみを感じ、愛おしく思うようになりました。そして「育てる植物を販売しよう」と方向性が明確に定まり、実家の生花店から独立して観葉植物の専門店「cotoha」をオープンさせたのです。 店内では観葉植物と併せてアンティークの家具や雑貨も販売。什器や飾りにも巧みに使い、空間に雰囲気と立体感をもたらしています。どこを切り取っても絵になるそのあしらいは、おしゃれ感度の高い人たちの間でもインテリアのお手本として話題です。 あちこちのガーデニングショーやイベントで空間提案をすることも多い「cotoha」。最近は、東京ドームで開かれた世界らん展に、「ランとグリーンのある暮らし」をアンティークのアイテムと併せて展示提案し、好評を博しました。店舗でもワークショップやセミナーを開催し、「植物があることの重要性と楽しさ」を常に発信しています。 店名の「cotoha」は「古と葉」という意味。「古いものと植物で、暮らしに潤いを」という思いが込められています。 充実した植物ライフのために アフターフォローに注力 こんなにも多くの人に支持されている「cotoha」ですが、最初の年は失敗も多く、お客様に教えていただくことも多かったと谷奥さん。「実践することが何よりですね。自信を持って説明して販売できるよう、必死に研究しました」と振り返ります。その真摯な姿勢とインテリアセンスが評判を呼び、話題の人気店に成長しました。 お店が軌道に乗り3年ほど経った頃、新規の客数の伸びに対して、リピーターが減っていることに気づきました。その原因を探るべくいろいろリサーチしたところ、「購入後しばらくすると枯れてしまった。我が家には無理」という声が多く、さらにその枯れた原因を確認してみると「部屋は常に締めきっている」「部屋に日が入らず暗い」といったパターンでした。多くの人が本来あるべき状況からは大きくかけ離れた環境で植物を育てていることを知った谷奥さん。「これでは店も園芸業界も衰退してしまう」と危機感を募らせ、販売時の説明に加え、購入後のフォローにも力を注ぐようになりました。 観葉植物を育てながらベストな生育環境を分析して、きちんとデータ化している谷奥さん。お客様が育てようとしている環境を聞いて、どういった種類が合い、どういう管理が必要かということを分かりやすく、的確にカウンセリングしています。最近評判なのが、LINEを使っての個別アドバイス。植物は育てる環境が変わると葉を落としたり元気がなくなったりしますが、それが生理的なものなのか、不調なのか、初心者には見極めが難しいもの。お客様が写真をLINEでお店に送ることで、原因や今の状況を判断してもらえます。「初期に判断ができれば、枯らすことはありません」と谷奥さん。細やかなフォローで、お客様のストレスが軽減し、ショップのリピート率アップにつがっています 「今の園芸店は、店頭でもお客様が購入した後も、‘育てる’でなく‘延命している’感じがします。仕入れたときが最高にいい状態というのでは、お客様にストレスを与えますし、結果園芸から離れてしまいます。だから、僕は植物を仕入れる際に、生育環境を目で確認してます。そしてこの空間に徐々に慣らし、お客様にお届けた後もフォローすることを心掛けています。それは、この店の客数を増やすということだけでなく、園芸離れに歯止めをかけることにつながり、結果、園芸界に活気が戻ると思うからです」 最近では、ハウスメーカーやインテリアコーディネーターから講習会を頼まれることもしばしば。大学の教授と観葉植物がもたらす効果や最適な土などの研究を重ね、オリジナルの用土も開発・販売をしています。 谷奥さんのイチオシアイテム 「cotoha」のオリジナル用土・セラミックソイル 「cotoha」では、オリジナルの用土を開発・販売しています。室内で育てる観葉植物は、特に保水性、排水性が高く衛生的であることが重要。「cotoha」のオリジナル用土は、セラミックで作り、これらをクリアした安心の室内用用土です。最近は、個人や店舗のインテリア用としてだけでなく、病院での採用も増え、多方面からの信頼を得ているとか。 この用土は、一般的な鉢植えはもちろん、テラリウムなどにもおすすめです。乾燥してくると白く、湿っている状態だと茶色くなるので、水やりの目安が分かりやすいのもポイント。肥料は液肥を施してください。 落ち着いた路地裏で、京都を満喫しながら観葉植物を選べるショップ「cotoha」。植物の楽しみ方のみならず、ベストな栽培法や植物が人にもたらす効果、お客様へのサポートなど、とことん追求し、形にしている谷奥さんの熱意が満ちたショップです。ぜひ訪れてみてください。アクセスは、JR二条駅より徒歩約5分、地下鉄東西線二条城前駅より徒歩約7分。 【GARDEN DATA】 cotoha 京都府京都市中京区西ノ京職司町67-38 TEL:075-802-9108 営業時間:11:00~18:00 定休日:水曜日 http://www.cotoha.me Credit 写真&文/井上園子 ガーデニングを専門としたライター、エディター。一級造園施工管理技士。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒。造園会社、園芸店を経て園芸雑誌・書籍の編集者に。おもな担当書に『リーフハンドブック(監修:荻原範雄)』『刺激的ガーデンプランツブック(著:太田敦雄)』『GARDEN SOILの庭づくり&植物図鑑(著:田口勇・片岡邦子)』など。自身もガーデニングを楽しみながら、美術鑑賞や旅行を趣味にする。植物を知っていると、美術も旅も楽しみの幅が広がりますね。
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三重県
花の庭巡りならここ! 200品種以上のシャクナゲが咲き誇る「赤塚シャクナゲガーデン」
品種改良の歩みが見て取れるシャクナゲの見本庭園 「赤塚シャクナゲガーデン」は、1972年に赤塚植物園社長(現会長)の赤塚充良氏がアメリカの公園や庭園に咲く見事なシャクナゲに衝撃を受けたことから始まります。子どもの頭ほどのシャクナゲの花が色とりどりに咲いている姿は、まさに「花木の女王」と呼ばれるにふさわしいものでした。 この花を日本中に普及させて、多くの方に楽しんでもらいたいと考え、約40万本の苗を輸入。しかしアメリカからの輸入苗は、夏の暑さが厳しい日本の気候に合わず、苦労の連続だったといいます。日本の気候に合うシャクナゲは、日本でつくるしかないと、1981年から自社でオリジナル交配を開始。耐暑性に優れ、育てやすく、数多くの優良個体の作出に成功しました。 シャクナゲが咲き誇る園内。手前から‘ワダズイエロー’、‘紅衣’、‘さきがけ’、‘ハイドンハンター’、‘筑紫シャクナゲ’、‘太陽’。 多くの方にシャクナゲの魅力を伝えるには、シャクナゲは弱くてすぐ枯れるというイメージを完全に覆す必要があります。そこで高山性のシャクナゲの栽培には適さない低地、しかも多くの車が通る県道沿いの自社農場に、あえてシャクナゲを植え付けることに。育種した品種の栽培試験を行いながら、将来の見本庭園を想い描き、20年の歳月をかけて育んできたそうです。 そしてついに、2013年に「赤塚シャクナゲガーデン」として一般公開を開始しました。海外から導入してきた品種や、オリジナル品種などを含め、200品種以上、約3,000本ものシャクナゲが咲き誇る姿は日本有数の規模です。 サクラとシャクナゲの豪華な共演。 園内の広さは、約10,000㎡で、大人の足でゆっくり散策して40分ほどかかります。3m以上の大きな株が多数植えられており、平地にあるガーデンながら、高さを感じる植栽となっています。また、シャクナゲの開花時期に合わせた花木も植えられており、シャクナゲとの共演も見どころです。 開園期間はシャクナゲが見頃となる4月上旬〜5月上旬の約1カ月という短い期間ですが、例年約1万人が来園して花見を楽しんでいます。「色とりどりの花に圧倒され、心も洗われます」「どの木も嬉しそうに輝いていて、お手入れの愛情が感じられます」「西洋の宮殿を思わせるような美しさ」といった、感動の声が寄せられています。日本におけるシャクナゲの品種改良の歴史が垣間見られる、感動のシャクナゲ庭園に、ぜひ足を運んではいかがでしょうか。 日本の気候にあうように品種改良されたダイナミックに咲くシャクナゲが大集合! 多くの車が行き交う県道10号線に面する「赤塚シャクナゲガーデン」。500mにわたって続くシャクナゲによる垣根の途中に入口があります。写真からも、ガーデンの規模の大きさが伺い知れますね。このシャクナゲが咲く道、地元では「シャクナゲロード」と呼ばれ、親しまれています。 シャクナゲの最盛期は4月中旬頃。ただし園内には開花期の異なるさまざまな品種がバランスよく植えられているため、4月上旬から5月上旬にかけて、順次花が見頃となっていきます。大きく分けると早生(4月上旬)、中生(4月中旬)、晩生(4月下旬)で、開園期間中はお色直しのように園内の様子が変わっていくので、数回の見物もおすすめです。写真のエリアは、ケヤキやカツラ、ヤマボウシの新緑も楽しめる、西洋庭園の雰囲気を演出。やわらかな木漏れ日の中でゆっくりと散策できます。 写真の‘ウェディングブーケ’は一番人気の品種です。光沢感のある淡いピンクで、満開になるとほぼ白になる上品な花。ふんわりと盛り上がり、美しい花束のような花房をつくることから命名されました。見頃は4月中旬頃。光沢のある小判型の葉を持ち、樹形もコンパクトにまとまります。花つきが非常によいうえ、花もちが大変よく観賞期間が長いのも特長です。 シャクナゲと開花期が揃う花木も植栽され、爛漫に咲く シャクナゲと開花が揃う花木も、さまざまに見られます。後ろに大きなボール状の白い花を咲かせているのは、オオデマリ。開花が進むにつれてグリーンから白へと花色が移ろいます。手前の赤いシャクナゲは‘太陽’、後ろの白系の花は‘ウェディングブーケ’です。 写真は、八重咲きの桜‘福禄寿’とシャクナゲ‘太陽’が見せるダイナミックな景色。高さ約6mの大木に育ったシャクナゲ‘太陽’と桜の共演は素晴らしく、園内の見どころの一つです。 シャクナゲと同じ頃に咲く花木の一つ、桃も園内のそこかしこに植栽されています。写真は1本の木に赤と白の花が咲く源平桃。優美ですね。ほかにも菊のような花が咲く、キクモモも一見の価値があります。 園内には、ところどころにベンチが置かれ、シャクナゲを眺めながら休憩できます(ただし飲食の持ち込みは不可)。写真は桜とシャクナゲ、サツキ、チューリップが、豪華に咲き競う様子です。 毎週末のガイドツアーにぜひ参加を100品種以上が揃う苗売り場も見て回ろう! 「赤塚シャクナゲガーデン」では、毎週土曜・日曜にガーデン担当者によるガイドツアーを行っています。時間は10:30~と11:30~の1日2回 で、所要時間は約40分です。予約不要で、入園料以外の別途費用はかかりません。ガイドさんからは、見どころのほか、品種の紹介、育て方のアドバイスなどの解説もありますよ! 園内では、例年シャクナゲを中心に100品種以上の苗が販売されています。主な価格帯としては1,200~1,800円。人気の品種ベスト3は、1番が光沢感のある淡いピンクが美しい‘ウェディングブーケ’。2番が咲き始めは淡いピンクで、後に真珠光沢のあるやわらかい白色になる‘真珠姫’。大変香りがよいのも特徴です。3番がややワイン色を含んだ濃赤紅色の大輪で、フリルのある花が20輪ほど集まって大きなドーム状の花房をつくる‘プロミネンス’。いずれもアカツカオリジナル品種のシャクナゲです。 Information 赤塚シャクナゲガーデン 所在地:三重県津市高野町字西久野1902番地の1 問い合わせ先:アカツカFFCパビリオン059-230-2121(受付時間/10:00〜18:00、火曜定休) 赤塚シャクナゲガーデン 公式 (jp-akatsuka.co.jp) アクセス:公共交通機関/JR・近鉄津駅東口4番乗り場より三重交通バス 系統52椋本行き「新出」バス停より徒歩約1分車/伊勢自動車道芸濃I.Cから車で約3分 オープン期間:令和2年4月3日(金)〜5月6日(水)※開花状況や気象条件により変動あり 休園日:なし 営業時間:9:00〜16:30(最終入園 16:00) 料金:大人 700円(シャクナゲガーデンで使える植物100円引券付)、中高学生350円、小学生以下 無料 駐車場/120台、無料
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兵庫県
花の庭巡りならここ! 平和のモニュメントがランドマーク「荒牧バラ公園」
「毎年のバラの季節が楽しみ!」と 市民に愛される憩いのローズガーデン 1992年にオープンした「荒牧バラ公園」。1983年から始まった区画整理事業により、北部荒牧地区に公園用地が確保され、市民に愛される公園にしたいと、バラ園が整備されました。1.7ヘクタールの広大な敷地で、バラ好きな方がゆっくり歩いて、1時間ほどかかる規模です。 「荒牧バラ公園」は、六甲山系を借景とし、天神川堤の傾斜を生かした露段形式のバラ園で、設計はSEN環境計画室の三宅祥介さんが手がけました。高低差をつけたことで、多くのバラを一度に愛でることができます。またバラの美しさを最大限に表現するために、脇役として多くの建造物や樹木の緑、カナール(水の流れ)をしつらえています。 園内は「平和モニュメント広場」「ハッセルトのバラコーナー」「ふるさとのバラコーナー」「花と流れのアプローチ」「バラの原種コーナー」の5区画にゾーニング。世界のバラ約250種、1万本が南欧風のおしゃれな園内一帯に咲き乱れます。 伊丹生まれで世界的に名高い‘天津乙女(あまつおとめ)’や‘マダム・ヴィオレ’などが見られる「ふるさとのバラコーナー」、姉妹都市のベルギー・ハッセルトにちなんだ「ハッセルトコーナー」は特に見どころです。 アーチやフェンス、パーゴラ、スロープに沿わせるなど、立体資材を使った仕立て方も見応えがあり、自邸の庭のヒントにもなりそう。風が吹くとゆらゆら揺れる花の帯が、ため息がこぼれるほど優美な景色をつくり出します。 2019年4月〜2020年1月の来場者数は約18万人で、市民に愛される憩いの場となっている「荒牧バラ公園」。飲食の持ち込みはOKなので、バラの花見を楽しみながら青空の下でお弁当やおやつを広げ、くつろぎのひとときを過ごしてはいかがでしょうか。 せせらぎが聞こえる「カナール」を巡らせた 南欧風の洗練されたランドスケープが魅力 春のバラの見頃は、5月中旬~6月中旬頃。写真は、正面ゲートから平和モニュメント広場までのアプローチです。スペイン風の円柱とリズミカルに流れる水が、来園者をお出迎え。レイズドベッドが多数設けられており、目線に近い位置で豊かに咲き誇る花々が楽しめます。 こちらはハッセルトのバラコーナー。伊丹市は、ベルギーのハッセルト市と国際姉妹都市を提携しています。壁面のアイキャッチになっているのは、ハッセルト市から贈呈された「小便小僧」のレプリカ。周囲にはベルギーで作出された品種‘アンネ・フランクの思い出’や純白のバラ‘パスカリ’が植えられています。 秋のバラの魅力は気温差による 冴え冴えとした花色の美しさ 秋のバラの見頃は、10月中旬〜11月中旬。春ほどの花数はないものの、花色は気温の低下とともに鮮やかになり、秋らしいしっとりと落ち着いたバラを楽しめます。青空に凛と咲く、バラの健気な姿を愛でましょう。 平和を願って建てられたモニュメントが目印! 企画展や講習会を行う「みどりのプラザ」が隣接 伊丹市が重点施策の一つとして掲げてきたのは、「平和な社会づくり」。市民からの寄付によって、荒牧バラ公園内に「平和モニュメント広場」が建設されました。バラともマッチし、公園のシンボリックな存在となっています。 荒牧バラ公園の隣には、「みどりのプラザ」があります。開館時間は9:00〜17:30、休館日は火曜、祝日の場合は翌日(5〜6月、10〜11月を除く)と年末年始(12月29日〜1月3日)。休憩コーナーとして、テーブルがいくつか置かれているので、歩き疲れたらご利用を。図書室があるほか、展示室では定期的に押し花展やハーバリウム展などが開催され、フラワーアレンジ教室や植物相談会などの講習会も実施しています。