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群馬県
花の庭巡りならここ! 数多のばらコレクションを誇る「敷島公園門倉テクノばら園」
懐かしくもあり、目新しくもある華やかな昭和レトロのばら園 利根川と広瀬川に挟まれたエリアにつくられた、群馬県のシンボリックな存在「敷島公園」。その一角に、「敷島公園門倉テクノばら園」があります。1971年に開園した歴史あるばら園で、2008年春に開催された「第25回全国都市緑化ぐんまフェア」の主会場の1つとして全面的に再整備され、リニューアルオープンしました。その広さは約4.5ヘクタールで、大人がゆっくり歩いて1時間ほどかかる規模です。 このばら園のコンセプトは、「昭和レトロのばら園」。周囲より低く掘り下げて造成されたサンクンガーデン(沈床式庭園)スタイルで、見下ろしたり見上げたりできる高低差を利用したダイナミックな景観を楽しめます。また、植栽は左右対称の整形式花壇を採用しており、こちらも昭和に流行したスタイルで、懐かしさを感じる方もいれば、目新しく感じる方もいるようです。 「敷島公園門倉テクノばら園」では、約600種7,000株のばらが植栽されています。それぞれにテーマを設けた植栽コーナーがあり、「オールドローズ」「フランス・その他欧米のばら」「日本・ドイツのばら」「イギリス・ニュージーランドのばら」「アメリカのばら」「モダンローズ」「イングリッシュローズ」「香りのガーデン」のエリアに分けられています。また、世界バラ会議で選出された「殿堂入りのバラ」を全種(モダンローズ18種、オールドローズ13種)植栽しているのも見どころ。これまで3〜10万以上もの品種が作出されている中から選ばれた、ハイエンドなばらの美しさを堪能しましょう。 「敷島公園門倉テクノばら園」の見頃は、春が5月中旬〜6月上旬、秋が10月中旬〜11月上旬です。それぞれ「春のばら園まつり」、「秋のバラフェスタ」が開催され、ばら苗やグッズの販売、園内のガイドツアー、夜のライトアップほか、さまざまなイベントで楽しく賑わいます。ぜひ足を運んではいかがでしょうか。 全方位から見て美しいシーンの連続約600本のスタンダード仕立ては圧巻 モダンローズコーナーで咲く深紅のばらは、フランス生まれの‘ラ・マルセイエーズ’。半剣弁高芯の端正な佇まいが目を引きます。奥に見えるガゼボは休憩スポットで、園内に3カ所設置されています。外観デザインが美しく、背景に入れると素敵な写真が撮れそうです。 園内には、スタンダード仕立てのばらが約600本列植され、立体感のある演出が楽しめます。要所ごとに、ばらのトンネルやアーチ、ポール仕立て、フェンス仕立てがしつらえてあり、メリハリの効いた景観を楽しめます。手前で咲いている白いばらは、第6回の世界バラ会議で殿堂入りした‘アイスバーグ’です。 ぜひ立ち寄って記念撮影を!写真映えするスポットが盛りだくさん 正面広場の芝生前に設置されているハート形のオブジェには、ピンクのつるばら‘マダム・ピエール・オジェ’を仕立てています。ベビーピンクでコロンとした丸みのある咲き姿が愛らしいばらで、芳醇な香りも魅力です。SNS映えするスポットとして、来園者の多くが記念撮影を楽しみます。 モダンローズコーナーに置かれている彫像は、分部順治氏制作の「ばらの精」。周囲には、アメリカで作出された品種が多数植栽されており、カラフルなばらの競演が見られます。 前橋市のオリジナルローズに注目!春と秋のイベント期間にはライトアップも 「敷島公園門倉テクノばら園」では、前橋市のオリジナル品種‘あかぎの輝き’を見ることができます。平成20年開催の「全国都市緑化ぐんまフェア」を記念して作出され、名称も公募によって決まりました。開花が進むにつれて、黄→オレンジ→赤へと移ろう花色が特徴です。 例年、「春のばら園まつり」と「秋のバラフェスタ」のイベント期間には、日没から20:30までライトアップをしています。黄昏時から夕闇に包まれるまで、刻々と光が変化していく中でのばらの表情も、また美しいもの。ライトアップ時の散策も、感動のひとときとなることでしょう。
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東京都
都立公園を花で彩るコンテスト「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」応募方法 ※締め切りました
開催3回目のコンテストの舞台は都立砧公園 上写真は、「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」のコンテストが開催される以前の様子。オリーブなど既存の樹木はそのままに、芝地が整地されてコンテストの花壇エリア(下写真)が作られました。コンテスト期間中、東京の最新ガーデンが見られるスポットとして多くの人々が訪れました。 2022年にスタートした「東京パークガーデンアワード」は、東京都にある公園の一角を花と緑の彩りがある新しい風景へと変えるガーデンコンテストで、2022年には代々木公園、2023年は神代植物公園を舞台に開催されています。東京都公園協会が主催し、12月の作庭から翌年11月のファイナル審査まで約1年かけて行われているプロジェクトです。 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」で開花した多数の宿根草。ロングライフ・ローメンテナンスをテーマに選ばれた植物は、3月から11月の間、バトンタッチをするように花壇を彩りました。なかには3〜4カ月もの期間咲き続けた種類も。 このコンテストの最大の特徴は、宿根草を活用した「持続可能なガーデン」をテーマにしていること。デザインに加え、植物や土壌に関する確かな知識やノウハウが求められる、今までのものとは一線を画すガーデンコンテストとして注目されています。 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」でグランプリを受賞した「Garden Sensuousガーデン・センシュアス」季節の変化。 審査は9月中旬の書類審査から始まり、審査を通過した5名の入賞者には、それぞれ約40m²のスペースにガーデンを制作していただきます。そして、植物が成長をスタートした4月中旬に「ショーアップ審査(春の見ごろを迎えた鑑賞性を審査)」を、7月中旬には「サステナブル審査(梅雨を経て猛暑に向けた植栽と持久性を審査)」を、11月上旬には「ファイナル審査(秋の見ごろの鑑賞性と年間の管理状況を審査)」という、3回の審査を経てグランプリが決定します。 ガーデン製作費として最大300万円支給 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」2022年12月作庭時の様子。 書類審査を通過した5名の入賞者には、植物代などガーデン制作にかかった材料費として最大300万円が支給されるので、多数の植物を使ったガーデン作成にチャレンジできるのも魅力の一つです。 第3回のコンテストのテーマは「みんなのガーデン」 コンテストの舞台となる東京都世田谷区にある都立砧公園は、昭和32年に開園し、東京23区にある公園の中でも、芝生の広がりが際立っているのが特徴で、もとは都営のゴルフ場として使われていました。現在はその自然の地形を活かし、芝生の広場と樹林で構成されたファミリーパークのほか、運動施設や遊具等が設置された広場が整備され、家族ぐるみで楽しめる公園です。 年間200万人以上が利用する都民の憩いの場に新たに作っていただくガーデンのテーマは「みんなのガーデン」。宿根草をメインとして活用し、五感を刺激して、見ていて楽しいと感じる要素を取り入れたロングライフ・ローメンテナンスなガーデンの制作が求められます。 「第1回 東京パークガーデンアワード 代々木公園」審査の様子。審査委員/福岡孝則さん(東京農業大学地域環境科学部教授)、正木覚さん(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座講師)、吉谷桂子さん(ガーデンデザイナー)、佐々木珠さん(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子さん(公益財団法人東京都公園協会常務理事) 【審査基準】公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 「第3回 東京パークガーデンアワード 砧公園」応募方法 【申込者について】 ・一般市民、企業・団体、学生などを含め、プロ・アマ、国籍を問わず応募できます。・グループでの応募の場合は、必ず代表デザイナー1名を決めてください。・応募は1名(1団体につき)1件までとします。・定められた期間にガーデン制作やメンテナンスを行なっていただきます。 【ガーデン制作について】 ・ガーデン制作エリアは、「みんなのひろば」に隣接した区画です。・エリア内には、ケヤキがあります。・重機の使用はできません。・植物代などガーデン制作にかかった材料費について300万円(税込)を上限に支給されます。・ガーデンの制作は2回。2024年12月中旬と2025年2月下旬です。 【応募に必要な書類】 ・申込書・平面設計図(スケール1/50・A3)・デザイン画(イメージスケッチ/色や形など庭のイメージが分かるもの。写真添付も可) 第2回入賞者による経験談も参考に!【オンライン座談会】 2024年8月6日(火)15:30〜オンラインで開催された「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の入賞者5名による座談会では、自身の応募書類の紹介、植物の調達から造園、メンテナンス、コンテストに参加して得たことなどがたっぷり語られました。アーカイブ動画はYouTubeにて公開中。以下バナーよりご覧いただけます。 第1回&第2回のコンテストガーデンをチェック!
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東京都
早くも猛暑に突入!「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の『サステナブル審査』を迎えた5…
年3回審査を行うガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」 5人のガーデナーが手掛ける日向と日陰の2つのガーデン。最終的な結果が決まるまでに4・7・11月の3回に渡り審査が行われますが、ガーデンの施工から8カ月ほどが経過した今回、第2回目となる『サステナブル審査』が行われました(梅雨を経て猛暑に向けた植栽と耐久性を審査します)。審査期間:2024年7月11日~17日。 審査員は以下の6名。福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授)、正木覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師)、吉谷桂子(ガーデンデザイナー)、佐々木珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事)、松井映樹(神代植物公園園長) 事前に公表されているコンテスト審査基準 公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 今回の評価のポイントは主にガーデンの持久性で、「梅雨を経て、猛暑に向けた植栽がなされ、秋まで庭が維持されるような持久性が考えられているか」。しかし、単に猛暑に耐える庭であることだけが重要ではなく、「植物個々の特性・魅力がしっかり見せられているか」、「葉や花の組み合わせがデザイン的に美しいか」、そして「今回のテーマ=武蔵野の“くさはら”、が表現されているか」などの項目も含めて評価されています。※年によって気象条件が変わるため、開花の時期がずれていても評価に影響しません。※今回行われた審査結果の公表はありません。 7月の審査時期を迎えた5名のガーデンをご紹介 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【作品のテーマ・制作意図】 武蔵野のくさはらを表現するにあたり、オーナメンタルグラスとカラーリーフ、特徴的な葉を持つ植物をメインにしたガーデンをつくってみたいと思いました。「グラスガーデン」は馴染みが薄かったり、地味にとらえられたりすることもあるかと思いますが、宿根草に加え、球根植物も多用し華やかさをプラスすることで、多くの方に楽しんでいただけるガーデンを目指しています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 バーベナ・ボナリエンシス、ミソハギ、ルドベキア‘タカオ’、ヒオウギ'ゴーンウィズザウインド'、ユーパトリウム‘ベイビージョー’、カノコユリ‘ブラックビューティー’ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アジサイ‘アナベル’、ノリウツギ'シルバーダラー'、ノリウツギ'バニラストロベリー'、カンパニュラ・ラプンクロイデス、ホスタ‘ハルシオン’、シュウメイギク‘桃一重’ コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら 【作品のテーマ・制作意図】 ガーデンの美しさは緑量や花の色目や形状だけで測れるものでなく、空や光や風や生きもの全ての関わり合い、生命の尊さを感じることでガーデンがより輝いて見えます。ガーデンに長く根付いて、地域に馴染む風景、生態系の一部になることを想定し、植えっ放しに耐えられる丈夫な品種を中心に、蜜源植物や、風や光の動きを反映しやすい植物を多く取り入れ、地味な在来種でも組合せや配置で奥行ある豊かな草はらの表現を目指します。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ルドベキア‘ゴールドスターム’、ヒオウギ‘ゴーンウィズザウィンド’、オミナエシ、ルドベキア‘ブラックジャック・ゴールド’、コレオプシス‘レッドシフト’、バーベナ・ボナリエンシス、キキョウ、オトコエシ、ガウラ、ノリウツギ、ペニセタム・ビロサム‘ギンギツネ’、ペニセタム・マクロウルム、エラグロスティス・スペクタビリス 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アジサイ‘アナベル’、ツルバキア、アガパンサス‘トルネード’、アガパンサス‘カーボネラ’、ヒヨドリバナ、ディスカンプシア‘ゴールドタウ’ コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 【作品のテーマ・制作意図】 森では、様々な木々が壮絶な生存競争を繰り広げています。しかしそれは草原もまた同じ。草原は生命力に溢れる草花たちの戦いの場です。そしてやがて、草原の中から樹木が芽生え、最終的には森へと遷移していきます。私は、草原から森へと還るこのはじまりの瞬間を、美しくもドラマティックに演出したいと思いました。ここは、森が好きなガーデンデザイナーが解釈し表現したペレニアルガーデンです。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 バーベナ・ボナリエンシス、ノコンギク‘夕映え’、フロックス(オイランソウ)‘フジヤマ’、フロックス‘ブルーパラダイス’、ガイラルディア‘グレープセンセーション’、アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’、ペルシカリア・ブラックフィールド、エキナセア・パープレア、エキナセア‘プレーリーブレイズグリーン’、オミナエシ、バーベナ‘バンプトン’、ゲラニウム‘タイニーモンスター’、アリウム‘ミレニアム’ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 ノリウツギ、アンジェリカ‘エボニー’、アガスターシェ‘ブラックアダー’、エキノプス(ルリタマアザミ)、バーベナ‘バンプトン’、ホスタ、シャスタデージー コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【作品のテーマ・制作意図】 人々の心に残る武蔵野の情景を骨格に、新たな要素を組み足して、これからの愛される武蔵野の風景を植物の魅力や武蔵野の風景を「伝え」「感じる」ことを軸に提案しました。武蔵野の草原を連想させるグラスをベースに、季節の流れの中で、さまざまな色や形の草花がガーデンを彩っていくような配置を心がけました。自然との距離が遠くなった現代で、このガーデンが少しでも自然と人とが寄り添うきっかけになればと思っています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 バーベナ・ボナリエンシス、ヘレニウム‘サヒンズ・アーリー・フラワラー’、ヘリオプシス'ブリーディング・ハーツ’、アガスターシェ‘クレイジーフォーチュン’、アガスターシェ‘ビーリシャスピンク’、オミナエシ、モナルダ、ルドベキア‘ブラックジャックゴールド’、オトコエシ、リアトリス 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 アジサイ‘アナベル’、ペルシカリア‘ファイヤーテール’、オトコエシ、オミナエシ コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 【作品のテーマ・制作意図】 世界的に”Climate Change(気候変動)”が叫ばれ、日本でも夏の猛暑、雨不足による水ストレスが植物を苦しめました。農業技術である完熟した堆肥をはじめ有機資材を使い、微生物に富み団粒構造を持つ土壌を作ることからはじめ、これまで武蔵野の草原風景を担ってきた在来植物を中心にガーデンを構成します。都市の暮らしの中でこぼれ落ちてきた技術、植物でこれからの武蔵野の風景を模索していきます。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 シラヤマギク、フジアザミ、カワミドリ、キキョウ、タムラソウ、シキンカラマツ 【日陰のエリア】 開花期を迎えていた植物 オオバギボウシ、フシグロセンノウ、シキンカラマツ、スカビオサ‘ムーンダンス’ 今回の「サステナブル審査」では審査員の評価が同じ傾向にあった前回の「ショーアップ審査」とは異なり、評価が分かれる結果となりました。これから迎える盛夏を乗り越え、3回目の「最終審査」まであと4カ月。プロたちの技術力と植物の生命力に目が離せません。庭作りスタートから月々見頃の植物と5名のガーデンを紹介する記事もご覧ください。 園内に新たにお目見えした「JINDAIペレニアルガーデン」 『東京パークガーデンアワード』開催の関連事業として、神代植物公園の園内にある「宿根草園」のリニューアルを市民協働で進める計画、「JINDAIペレニアルガーデンプロジェクト」がスタートしています。 新しい宿根草園の基本計画をつくられたのはガーデンデザイナーで「第2回 東京パークガーデンアワード」の審査員も務める吉谷桂子さん。 その計画をベースに市民が話し合い、実際に植栽をするワークショップが2023年9月から6回にわたって、行われました。「人にも環境にも優しいガーデン」というテーマのもと、ワークショップに参加した市民たちが、「どんな人がどんな時間を過ごせたらいいのか」宿根草園のイメージを膨らませるとともに、植物の配置についても検討をしました。 サクラやアジサイの群生と、芝生のエリアに囲まれた「宿根草園」。瑞々しい緑に宿根草の彩りがつややかに映える7月。 グランドデザインは吉谷さんが手がけた都立代々木公園の「the cloud」と同様、メンテナンスがしやすく景観になじみやすいクラウド(雲)型。ここは花壇を設ける面積が代々木公園よりもずっと広いので、一つひとつのエリアもぐっと広くなっています。 花壇が緑で覆われ、花も咲き始めた6月。 植栽は2023年秋と2024年春の2回。秋は、ワークショップの参加者35人が植物の選定、宿根草や球根類を植え付けました。春は、ワークショップの参加者がホスト役となって、一般参加者を迎え入れ、総勢130人で植栽しました。市民協働によるガーデンづくりには、園内に新しいモデルガーデンを作るだけでなく、「宿根草による環境にも人にも優しいガーデニングの普及啓発」や「市民交流の場づくり」に繋げていくという目的もあります。生きもの観察をしたり、宿根草園をバッグにイベントを行ったり、宿根草園に市民が関わることで、多様な魅力が生まれてくることを期待しています。 春の植え付け当日。総勢130人の大所帯にもかかわらず、素晴らしいチームワークで、スムーズに作業が進んだ。 「神代植物公園は花好きの方が多く来るイメージですが、幅広いさまざまな市民の方々が関わる機会があることで、もっと園を身近な存在に感じてもらえるようになればと考えています。市民といかに連携し、市民がいかに活躍していただけるか。その結果、多様な魅力を作り出し、利用者の増加につながればいいなと思います。公園を使い切る感じですね」と、東京都公園協会 公園事業部 公益推進課の服部睦子さん。2024年は宿根草のガーデンのお手入れとその背景を学ぶ講座が開講中で、受講生が環境に配慮したお手入れを実践しています。 実際に見ていこう「人にも環境にも優しいサステナブルなペレニアルガーデン」 ローメンテナンスでありながら、自然な風景が心地よい宿根草ガーデン。たくさんの生き物の棲み処となっているため農薬などを使わずに、多様性を大切にしながらガーデンを管理しています。「この土地にあった植物を選んで植えています。四季の移ろいを通じて植物が持つ美しさを感じていただきたい」と、神代植物公園 管理係長の斎藤亜理沙さん。 ここからは、植え付け後、開花の最盛期を迎えた7月のガーデンのガーデンを紹介します。 幾重にも植物が重なり、美しい風景を描いているガーデン。この時期はブルーがかったピンクの花が多く、やさしい色彩でまとめられています。 7月に見られる植物は、バーベナ・ボナリエンシスやフロックス、エキナセアなど。紫やピンク、黄色の花々が生き生きと咲き誇っています。 季節感あふれるやさしい表情で訪れる人を迎えてくれる「JINDAIペレニアルガーデン」。現在まだ植栽されていないエリアも残っており、今までとは異なる方向性で植栽する予定です。どんどん表情に深みを増していく宿根草園。ぜひ、コンテストガーデンと併せて訪れてみてください。 コンテストガーデン&宿根草園を見に行こう! Information 都立神代植物公園所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30〜17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)入園料:一般=500円、65歳以上=250円、中学生=200円(都内在住・在学の場合は無料)、小学生以下無料アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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関東
【小さな庭実例】庭を輝かせるテクニック満載! バラに包まれる根本邸
コツコツと手づくりしながらつるバラの魅力を引き出した庭 東側の家の側面を活用しながら、南側の駐車スペースを含めた50㎡ほどの場所につくられた根本さんの庭。日陰になる部分以外はすべて白やピンクの淡い色のつるバラが覆い、芳しい香りが辺りを包んでいます。 南側の駐車スペース。ベンチがアイストップになっている。 もっとも目を引くのが、道路側の幅70cmほどの小さなスペースに咲く、ロサ・ムリガニー。庭を本格的につくり始めた9年ほど前に長尺仕立ての苗を植えたもので、今では見事な株に成長し、この庭のシンボル的な存在となっています。以前実店舗があったバラのお店「オークンバケット」の店先を彩っていた風景に憧れて、このバラを選んだそう。 大きなトゲをつけた太いつるは、建物の外壁に取り付けたワイヤーにしっかり結わえながら誘引。理想的なシーンをつくるために、毎年冬にすべてを取り外して誘引し直しています。「作業は脚立を少しずつずらしながら、3~4日かけて行います。昨年は窓の下にも誘引しましたが、今年はピンクのバラ‘ケルナーフローラ’をもっと大きく育てるために、窓の上にだけ誘引しました」と根本さん。ここの見栄えも考えて、今年は網戸も取り外しました。 腰高の花壇には木製フェンスを取り付けて、季節の草花を植えている。キャットミントは猫が好んで株の上に座ってしまうので、トゲトゲしたプラスチック製の猫よけを忍ばせている。 庭スペースは駐車スペースより60~70cmほど地面の高さが上がっており、シーンの切り替えには最適な構造です。駐車スペースの正面突き当たりには手作りのベンチを置き、背面のフェンスにはバラ‘レイニーブルー’をレイアウト。さらに庭への通路には小さな階段+アーチを設けてバラ‘ジャスミーナ’を誘引し、ロマンチックな空間を生み出しています。 バラの見頃は、早咲きと遅咲きの2部構成。前半の5月上旬は早咲きの‘レイニーブルー’の青みがかったピンクの花が群れ咲き、後半には‘ジャスミーナ’とロサ・ムリガニーにバトンタッチします。 ご主人と作ったベンチやフェンスと床面。 庭の骨格をなすバラの誘引や構造物はめぐみさんがデザインし、それをご主人の力を借りて形にしています。「じつは、主人は当初、あまり乗り気ではありませんでした。でも、近所の人に‘棟梁!’なんて言われたりして、徐々に楽しくやってくれるようになりました。DIYとは無縁だったのに、なぜかうまくまとめてくれるんですよ」と笑います。 バラのアーチの奥に隠れた中庭もご紹介!コーナー別にご紹介します 9年前に正社員だったのをパートに切り替え、時間にゆとりができた根本さん。以前は草花だけだった庭にバラを取り入れたことで、庭づくりを本格的に始動させました。 マイナーチェンジを繰り返し、ここまで魅力的に仕上がった根本さんのスモールガーデン。 外からは窺えない中庭エリアも併せ、素敵な場所をクローズアップしてご紹介します。 【アーチ】 見せ場の1つである‘ジャスミーナ’が覆うアーチ。ランプやお手製のステンドグラスのオーナメントを下げて、愛らしさをプラス。駐車スペースから奥へと視線を誘います。 左/ステンドグラスのオーナメントは陽の光を浴びるとキラキラと反射し、バラの魅力をさらに引き立てる。右/ヨークシャーテリアの愛犬カイくんも、豊かな花の香りが楽しめる庭が大好き。庭とともに育ってきた。 【アーチ奥の植栽コーナー】 アーチをくぐると、ナチュラルで繊細な草花が出迎えます。こぼれ種で増えたオルラヤと宿根したジギタリス、根本さんが種まきから育苗したオンファロデスやニゲラが咲き群れ、夢のような風景が広がります。 庭から駐車スペース方向の景色。ロサ・ムリガニーの白花と相まって、ノーブルな雰囲気に。 【勝手口まわり】 アーチをくぐって右手の勝手口まわりをDIYでカバーして、生活感を払拭。段差をなくすためにステップを作り、鉢物をレイアウトしました。さらにフェイクの窓や飾り棚を取り付け、早咲きのバラ‘ボニー’を誘引。淡いピンクやペパーミントグリーンにペイントし、どこか素朴でカントリーな雰囲気を醸し出しています。 扉の右側に設けた道具入れ。お手製のステンドグラスのパネルを取り付け、ハゴロモジャスミンを絡ませて雰囲気をアップ。手前に咲くバラは、コロコロとしたアンティークタッチの‘パシュミナ’。 【庭の板塀】 奥の白い板塀にはクレマチス‘グレイブタイ・ビューティー’や雑貨類をディスプレイして、見応えたっぷりに。手前にはバードバス+バラ‘グリーンアイス’の鉢を配して、立体感と奥行き感を出しています。 処分した衣装ダンスの扉内側についていた鏡を再利用、アンティーク加工を施し板塀に取り付けて。手前の草花が映り込み、奥行き感と透明感をプラスしている。 【ガーデンシェッド】 日当たりの悪い庭の隅は、2人で作った白いシェッドを設置。中庭のフォーカルポイントになっています。バラ‘サマースノー’が屋根部分を程よいボリュームでカバー。 左/‘サマースノー’がまだシェッドの側面までしか伸びていない、一昨年の様子。中/雑貨やドライフラワーが飾られた内部。肥料や薬剤もここに収納している。右/根本さんが作ったステンドグラスのパネルをはめ込んだ窓がアクセントに。 【日陰のエリアのパーゴラ】 南側の隣家との境目は、最も日が当たらない場所。ここにはガゼボ風パーゴラをつくって設置し、隣家を目隠ししています。パーゴラにもステンドグラスや棚を取り付け、雰囲気を高めました。旺盛に上部を覆うのは、秋に咲くクレマチスのセンニンソウ。「小鳥が多いので、毎年ピーナッツのリースを下げています。いつも全部食べてくれるんですよ」と根本さん。 2年前まではモッコウバラを絡ませていた場所。レンガを使った腰高のウォールと窓風ステンドグラスパネルが、光を採り入れつつ程よい目隠しに。 【テーブルまわり】 来客があったときは、中庭で花を眺めながらおもてなしをしています。通りからの視線をつるバラが遮ってくれるので、心おきなくでくつろぐことができ、会話も弾むそう。 脇の花が倒れてこないように、白いフェンスで囲んだり、細い棒で支柱を立てたり。 センスが光る手づくり&小物あしらいにもクローズアップ! ここでは、随所に見られる小技をご紹介。見逃せないシーンがたくさん。 ■ストーンワーク 敷く・並べる スモールガーデンでも、多様な石づかいで、飽きのこない風景を作ることができます。 シェッドの前は細長い石を並べ(左)、塀の前の細い園路にはピンコロ風の石を採用(右)。 以前敷いていた固まる砂を剥がしたときに残った塊がコッツウォルズストーンのような形をしていたので、それを並べて再利用。草花の軽やかさを維持しながらナチュラルな雰囲気に。 ■ディスプレイ あちこちのシーンにアクセントを作り、見応えを出しています。スモールガーデンに合わせて手作りしたアイテムがいっぱい。 左・中/スペースにピッタリのベンチはご主人と一緒に作ったもの。傍らにガーゴイルを配し、さながらイギリスの庭園のワンシーンのよう。 右/スタイロフォームを組み、ダークグレーにペイントして作った、石柱のような花台。 左/レンガをざっくりと積んで、上にコーンのオーナメントを。時間の経過を感じてもらえるように苔をのせています。 中/小さなバードバスで、水のきらめきをプラス。花がたくさんある時期は、摘んで浮かべて楽しみます。 右/ハート形のワイヤーにアイビーを誘引。「丈夫なので数年放ったらかしです」と根本さん。 ■フェンスで仕切る 小さな空間でもシーンの切り替えは必要。立体感を出すのにも有効です。 バラ‘レイニーブルー’が絡むフェンスの隣にアイアンフェンスを設置。透け感を維持するためには、程よく華奢なものが◎。 フェンスは飾ったり、植物を絡ませたりして、表情豊かに。 ■ペンキでエイジング加工 ガーデンの雰囲気に合わないものは「グレーに塗ってダークな色でほんのり汚れをつける」加工を自ら施し、空間に統一感を出しています。 アーチの下のフェンスにもエイジング加工を。根本さんが作ったステンシルのプレートがアクセントに。 板塀のニッチに飾ったキューピッドにもペイント。 左/にぎやかな色のガーデンピックの棒を取り外し、トップの小さな動物にペイントしたオーナメント。 右/セアノサスを植えるコンテナは大きいので、テラコッタなどでは重くなりますが、軽いプラスチック製のものを用いてペイントすることで、問題をクリア。 スモールガーデンを彩るバラ&クレマチス 根本さんの普段のお世話は、冬に寒肥で牛ふんや油粕、カリ有機肥料を施すのみで、お礼肥は様子を見て。消毒は2~3週間に1度行っています。庭を彩る美しいバラとクレマチスを一部ご紹介します。 まずはバラから。 左上から時計回りに、‘レイニーブルー’、‘ジャスミーナ’、 ‘アイスバーグ’、ロサ・ムリガニー。 左上から時計回りに、‘パシュミナ’、‘フランボワーズ・バニーユ’、‘ロマンティック・レース’、‘ブラン・ピエール・ドゥ・ロンサール’。 続いてクレマチスもご紹介。 左上から時計回りに、‘マリア・コーネリア’ 、‘マーガレット・ハント’、‘白万重’、‘ワーレンバーグ’。 左上から時計回りに、‘ロマンティカ’、‘シーボルディー’、 ‘カイウ’、‘篭口’。 種まきで増やした草花 変わった品種やお気に入りの植物は花後に種子を採り、播種してベランダで育苗。これなら絶やすことなく、デザインどおりの場所に咲かせることができます。 左上から時計回りに、ニゲラ‘アフリカンブライド’、ジギタリス・トロヤナ、ゲラニウム‘ビオコボ’、スカビオサ・オクロレウカ。 左上から時計回りに、ギリア・レプタンサ、ゲラニウム‘クラリッジドリュース’、シノグロッサム、シレネ‘ホワイトパンサー’。 とびきりのセンスとアイデアで、小さな空間をロマンチックなローズガーデンに仕上げている根本さん。何より手間を惜しまず丁寧に向き合う姿が、多くの人が憧れる魅力的な空間を生み出しているようです。二人三脚の庭は、これからも思い出を紡ぎながら進化を続けていきます。 2021年フォトコンテストで編集長賞を受賞 この投稿をInstagramで見る meme(@memeblossom)がシェアした投稿 受賞時にガーデンストーリーサイトでもご紹介した受賞写真は、‘ジャスミーナが咲くアーチ’でした。 うつむき加減に咲くつるバラの‘ジャスミーナ’は、少し遅咲きで、ほのかに香る品種のようですね。純白の‘アイスバーグ’や足元の小花たちによるロマンチックな色合いのコラボレーション。画面いっぱいの花々の風景に、吸い込まれるように見入ってしまう写真です。中央の木製ランタンと、その奥にちらりと向こうの風景が覗くことで奥行きが感じられて、他のエリアも拝見してみたいと思いました。副賞として来年春、編集部による取材をお約束させていただきました。ご主人と2人で庭づくりをされているそうです。「何度もくぐり抜けた」という花咲くアーチをくぐる日が楽しみです。 編集部コメントより ガーデンストーリーでは、今年も、フォトコンテストを開催中です。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
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東京都
バラ咲く旧小笠原邸の建物と庭を訪ねて
スパニッシュ様式の瀟洒な洋館 スパニッシュ建築の先駆けとして1927年に竣工した建物と、正面口のクスノキ。 都心とは思えないほど静けさに満ちた建物と庭。東京都新宿区河田町にある旧小笠原邸は現在「スペインレストラン小笠原伯爵邸」として、ゲストを迎え入れている。 かつては伯爵家の客人を迎えた、趣あるエントランス。 邸の正面玄関に立つと、2羽の小鳥のトピアリーが迎えてくれる。エントランスでは、ブドウ棚の模様が描かれたキャノピー(外ひさし)が、光を浴びて、大きく翼を広げる。建物の外観や玄関のたたずまいからも、邸内への期待に胸が高鳴る。 ブドウの蔦や葉、実がデザインされたキャノピー。 エントランスの重厚な扉と照明。 扉の上部、籠の鳥を配した明かり取り。邸内の至る所に小鳥の意匠が見られ、別名「小鳥の館」という愛らしい名前で呼ばれる所以となっている。 エントランス扉の上部、ブドウと小鳥をモチーフにした鉄製の明かり取りが美しい。 館の数奇な歴史 レストランのガーデン席付近から見た庭の風景。オリーブの木とガーデンテントがよく似合う。 建物は、旧小倉藩藩主であった小笠原家の30代当主小笠原長幹伯爵の邸宅として、1927年に建てられた。敷地は江戸時代の小倉藩の下屋敷跡で、竣工当時は2万坪の広さを誇っていたという。今なお千坪の敷地を保ち、建物の周囲には、樹齢500年を超えるオリーブの木や、バラが咲く庭が広がっている。 エントランスからロビーを経て至る回廊。右手がパティオで、左手にはグランドサロン、ラウンジ、シガールームなどが並ぶ。 伯爵家の館として約20年間にわたり家族が暮らしていたが、第2次世界大戦後の1948年に米軍に接収され、GHQの管理下に置かれた。その後1952年に東京都に返還、都福祉局の児童相談所として使用されていたが、1975年以降は老朽化のため放置され、取り壊しも検討されていたという。 庭から見たシガールームの外壁の装飾。太陽と草花と鳥の構図は「生命の賛歌」がモチーフとなっている。 2000年に東京都から民間貸し出しの方針が示され、1年半にわたる全面的な修繕工事の後、レストランとして甦った。外壁のレリーフなどの修復作業は、竣工当時の資料を基に忠実に実施され、内装、家具、照明機器はヨーロッパから取り寄せて、当時の雰囲気そのままを再現している。 邸内をめぐる 現在、レストランのメインダイニングとして使用されているのは、伯爵の書斎や寝室だったところ。かつてのベランダが庭に面したテラス席となっている。 (左)唐草模様の鉄細工が施された、ロビーから回廊へと続く欄間。(右)ヨーロッパから取り寄せた家具や照明器具で、当時の客室が再現されたラウンジ。 メインダイニングに至る回廊わきに並ぶ3つの部屋は、伯爵家の食堂、客室、シガールーム(喫煙室)で、現在、客室はレストラン客のラウンジとして使用されている。 伯爵家のメインダイニングだった部屋。大テーブルのメロンレッグと呼ばれる脚部には、細かな装飾が見られる。 かつて食堂だったグランドサロンにある大テーブルは、イギリス、エリザベス様式のアンティークで、伯爵家で実際に使用されていた唯一の家具。伯爵夫妻と5男6女の家族が晩餐のテーブルを囲んでいた情景が目に浮かぶようだ。 半透明の色ガラスを使った、アメリカンスタイルの当時のステンドグラス。 客室だった部屋の窓には、日本最初期のステンドグラス作家小川三知氏による、小さな花がデザインされたオリジナルのステンドグラスが残されている。 イスラム風のシガールーム。大理石の柱や床はオリジナルのものを磨いて使用し、天井は竣工時の資料をもとに、現代画家によって彩色された。 ヨーロッパのタバコや葉巻はトルコやエジプトから入ったことから、当時の洋館の喫煙室はイスラム風の内装で作られることが多かった。ブルーの天井、漆喰彫刻に彩色を施した壁面、大理石の柱と床が、荘厳な雰囲気を醸し出している。単なる喫煙所ではなく、男性の社交場といった場所だったのだろう。庭に面した半円形の美しい部屋だ。 シガールーム入り口。花籠のレリーフが美しい。(右)イギリスのビクトリア朝で好まれた、イスラム模様の内壁。 パティオのモッコウバラ パティオに咲く黄モッコウバラと白モッコウバラ。別名スダレバラというとおり、見事に壁一面を覆っている(2024年4月16日撮影)。 スペイン建築の特徴のひとつが、パティオ。建物の中心部に位置し、光が差し込む空間だ。パティオでは、植栽されて20年が経つモッコウバラが雄大な姿を見せている。テーブル席が設けられていて、邸内のカフェを訪れた客は、ここでお茶の時間を過ごすことができる。毎年4月のモッコウバラの開花時期には、それを目当てに訪れる人もいるほどで、見事な景色が出現する。 (左)パティオの一角にあるオレンジの木と、バラに囲まれた噴水。噴水の彫刻は館の当主だった小笠原長幹氏作といわれている。(右)カフェの窓。 2階屋上のパーゴラ モッコウバラのほか、鉢植えのバラが配された屋上庭園。 パティオから大理石の階段を上ると、そこは2階の屋上庭園。当時の設計図と写真を基に復元されたパーゴラにも、黄色と白色のモッコウバラが咲き誇る。 庭から見たシガールームの外壁 当時の色タイルの発色を確認しながら、新たに焼き上げ、修復されたシガールームの外壁レリーフ。 庭に回り建物を眺めると、ひときわ目につくのが円筒状のシガールームの壁面装飾。装飾タイルは、古陶器の色使いにおいては日本の第一人者といわれた小森忍氏の作品だ。「生命の讃歌」がモチーフで、太陽、花、鳥の意匠が日差しを浴びて輝いている。1600個のパーツで構成されており、ほとんどが剥がれ落ちていたが、陶芸家夫妻の手によって約3年の歳月をかけて修復された。 庭をめぐる 白色の花で統一された庭の一角。専任のガーデナーが季節折々の花を演出している。 庭では、春を告げるアーモンドや姫リンゴの花、5月には白バラ‘スワニー’が開花し、季節の花々を楽しむことができる。バラは前庭や屋上庭園にも植えられ、17種類を数える。 (左)オリーブの木が銀色の葉を風に揺らす庭では、都会にいることを忘れるほど、ゆったりとした時が流れる。(右)すっくと立つ糸杉の木。 中央に植えられたシンボルツリーは、推定樹齢500年のオリーブ。スペインとの交流400年を記念して、2013年にアンダルシアからやってきた。夏から秋にかけて実を付け、大きな籠いっぱいの収穫があるという。 鳥の巣箱のオブジェ。 ガーデンでの催し 小鳥たちが遊ぶ庭の噴水。 レストランのガーデン席での食事(4月から)、全館を利用したウェディング・パーティー、初夏に催されるスペインナイトなど、いずれも心ゆくまで庭を楽しむことができる。 (左)庭の小道を散策すると、さまざまな草花に出合う。(右)「小鳥の館」にちなんで、邸の修復中に作られた焼き窯。地下にあったボイラーの鉄蓋や、外壁のタイル片が使われた。今は現役引退で、庭のオブジェとなっている。 5月のバラ 庭の中央付近に咲く、1978年メイアン作出の小輪白バラ‘スワニー’。 5月のバラの季節に小笠原邸を再訪した。庭の中央ではバラ‘スワニー’が満開で、白い清楚な姿を見せている。壁沿いには‘フロレンティーナ’という赤いつるバラが。 壁沿いに仕立てられた‘フロレンティーナ’というつるバラ。 屋上に上がると、ピンクと白のバラ‘安曇野’が光を浴びて輝くように咲き誇っている。カフェでくつろいだ後に、バラの庭を散策できるのは嬉しい限りだ(2024年5月21日撮影)。 屋上で満開の一重バラ‘安曇野’。 (左)屋上にはクレマチスの彩りも。(右)シックな色合いのゼラニウムのハンギングが、クラシックな照明とよく似合う。 エントランス付近では‘紅玉’という名前のバラがゲストを出迎える5月。 かつて貴族たちが集った小笠原邸の室内、パティオや庭で過ごす。それは極上のひとときに違いない。 Information スペインレストラン小笠原伯爵邸 住所:162-0054 東京都新宿区河田町10-10電話:03-3359-5830 ランチ 11:30~15:00 ディナー 18:00~22:00 予約制OGA BAR &Café 12:00~20:00 予約不要アクセス:都営大江戸線 若松河田町駅下車、河田口より徒歩1分https://www.ogasawaratei.com *館内、庭園の見学はレストラン、カフェ利用者のみ可能。カフェ利用者の見学時間は15:30~17:00(レストランの貸し切りなどで見学できない日もありますので、事前にお問い合わせください)。
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茨城県
【庭のある暮らし】ハーブを育てて使い、心と身体を整え健やかに暮らす
脳神経を活性化させるローズマリー ローズマリーは常緑の低木で、一年中香りのよい葉を提供してくれます。木立ち性や、這うように育つほふく性、半ほふく性のものがあり、この庭では木立ち性のものをフェンスに沿わせて育てています。非常に丈夫で乾燥や真夏の日差しにも強く、これといった病害虫の心配もないので、育てている人もたくさんいるのではないかと思います。 ローズマリーやセージなど、庭から摘んだハーブを束ねたハーブスワッグ。 よく皆さんに聞かれるのが、モサモサとよく生い茂るローズマリーの使い道です。生育旺盛なローズマリーは収穫を兼ねてこまめに剪定し、利用するのが株姿をきれいに保つ一番の方法です。切らずにいると2mくらいの高さになり、内側が蒸れて枯れてきたりするので、適宜切って使うのがおすすめです。さて、その使い方ですが、一番簡単なのは、枝を束ねて室内に飾るスワッグを作ることです。 ローズマリーは葉に触れると、力強く爽快感のある香りを放ち、元気がないときでも気持ちをリフレッシュさせてくれます。これは単なる私の気の持ちようではなく、近年の研究で、ローズマリーの香りは脳を活性化させ、気持ちを前向きにしたり、集中力や記憶力を高める効果に優れることが分かっています。ですから、例えば勉強部屋や仕事部屋に、ローズマリーの剪定した枝葉をぶら下げておくと、よくはかどるかもしれません。キッチンに吊しておけば、そのままドライになっても料理に使えます。 ローズマリーと相性のいいポテトフライ。Kolpakova Svetlana/Shutterstock.com 我が家では、よく子どもたちや大人のビールのおつまみに、友人から教えてもらった「トスカーナフライドポテト」を作ります。ローズマリーなどのハーブとニンニクで香り付けしたフライドポテトですが、とても簡単に作れてとってもおいしいので、ぜひお試しください。 ローズマリー香るトスカーナフライドポテトの作り方 【材料】 ローズマリー 15cmほどを2枝 タイム 2〜3枝 セージの葉 5〜6枚(ハーブ類は全部揃わなくてもあるものでOK) ニンニク 1〜2片 ジャガイモ 4〜5個 ベーコンお好みの量 小麦粉少々 塩・胡椒適量 揚げ油適量 【作り方】 ① ジャガイモもニンニクも皮付きのままでOK。ジャガイモをくし切りにして小麦粉をまぶします。ニンニクは先端をカットしておきます。切らないと高温の油の中でニンニクが弾けて危険なので、忘れないように! ② 油にハーブとニンニクを入れてから火をつけ、油が170℃に温まったらジャガイモを入れて、こんがりキツネ色になるまで5〜6分揚げます。このとき、ハーブが黒くなっても大丈夫です。 ③ ベーコンを適当な大きさに切って、別のフライパンで炒めます。揚げたジャガイモとベーコンを絡めて、塩・胡椒をふり完成。 女性ホルモンを整え幸福感をもたらすバラ バラは香水の香料に使われる代表的な植物ですが、花屋さんがブーケに使うバラは、じつは香りのあるものが少ないのです。そのわけは、香りの成分は精油に含まれており、精油分の豊富なバラの花びらは傷みやすく、流通に向かないためです。ですから、逆にいえば精油成分をたっぷり含んだ香り高いバラは、庭で育てている人だけの特権です。 さまざまなメゾンの香水に使われるバラの精油。Anuta23/Shutterstock.com バラの精油はアロマテラピーでも使われます。バラの香りには女性ホルモンの乱れを整えたり、ストレスを緩和し幸福感を得られる作用があるとされ、医療の現場で用いられることもあります。ところで、バラの精油がいくらするかご存じですか? 1mlで1万円以上。小さじ1杯が5mlですから、ほんの数滴でもとても価値があるのです。 庭で摘んだバラやハーブを水に浮かべて。 庭でバラを育てていれば、その高貴な香りに包まれて暮らすことができます。朝、つぼみが開き始める頃のバラの香りは格別です。花に顔を近づけ息を深く吸い込むと、思わずうっとりため息がこぼれます。 古くから薬用に用いられるロサ・ガリカ・オフィキナリス。 この庭ではいくつかのバラを育てていますが、その一つがロサ・ガリカ・オフィキナリス。オフィキナリスという学名は「薬用の」という意味で、古くから薬として用いられてきたバラです。オフィキナリスは一季咲きなので、春は存分に香りを堪能した後、花弁を摘んでドライにし、花の季節が過ぎた後もお茶などにして一年中楽しめるように保存しています。 バラの花びらで作るローズペタルティー ローズペタルとはバラの花びらのことです。バラの花びらを煮出してお茶にしますが、飲用する場合には無農薬で育てていることが条件です。香りが揮発しない朝のうちに花を摘み、ガクを外して花びらだけにします。ザルで洗ってから鍋に入れ、沸騰させたら火を止め、色が出てきたら完成です。 ドライのものはティーカップ1杯(約180ml)に対し、ティースプーン1〜1.5杯のローズペタルを用います。フレッシュの場合は、その2〜3倍の量を。レモン汁やはちみつを加えるのもおすすめです。 使い道豊富な日本在来の実力派和ハーブ、ドクダミ 日陰で湿り気の多い場所に群生し、独特の臭気がすることで知られるドクダミ。生育旺盛で庭中にはびこってしまい、除草しようとすると臭いが手につくので嫌われ者になりがちですが、非常に薬効が多く、強い抗菌作用のある和のハーブです。開花期に採取したものを乾燥させ、煎じて服用したり、生葉を揉んで汗疹や水虫などの湿布治療に用いたりと、古くから薬として利用されてきました。 虫刺されなどに重宝するドクダミチンキ 私はこの季節、5月下旬〜7月の開花期に、庭に生えているドクダミを収穫し、チンキを作ります。ドクダミの花や葉っぱで作るドクダミチンキは、虫刺されや汗疹、かぶれなどに重宝します。収穫した花と葉を一度水洗いして乾かした後、広口瓶の1/3ほどドクダミを入れ、ホワイトリカーや焼酎などのアルコールを瓶いっぱいに注いで3週間放置します。その後、フキンなどを使ってこし、スプレー容器に移し替えれば、ドクダミチンキとして利用できます。 500種以上のハーブや草花が育つ鈴木ハーブ研究所の庭 ご紹介したハーブに加え、鈴木ハーブ研究所の庭では、樹木や草花類を含め500種類以上のハーブを育てています。私は小さい頃から畑仕事をする祖母と一緒に暮らしてきたので、植物を育てて、収穫して、食べたり飲んだり、お風呂に入れたり、飾ったり、香りを利用したり、暮らしの中にはいつも植物があり、その移り変わりがカレンダーのように身に染み込んでいました。そのカレンダーの中に、大人になってからハーブが加わり、さらに私の植物の世界は広がりました。 ハーブは植物の中でも丈夫で育てやすい種類が多いので、地植えや鉢で育てておけば、いつでもすぐ手に取ることができます。そういう身近なものを利用して自分で自分をケアする術(すべ)を知っていれば、むやみに不安になったり、不安から体調を崩すのは防ぐことができます。予想外の事態というのは、どんな時代にも誰の人生にも起きると思いますが、そういうときに動揺するだけでなく、じゃあどうしたらいいのか、と次の一歩を考えることが大切。そのヒントを、母親として娘たちにきちんと残しておきたいなと思ったことをきっかけに、私のハーブのある暮らしを、4冊のミニブックにまとめました。 よく使うハーブの育て方、使い方をまとめた「私のハーバル手帳」 例えば、本の中でご紹介したカモミールは、娘たちが小さい頃から眠る前にミルクティーにして飲んでいます。カモミールの安眠作用はよく知られていますが、それだけではなく、喉がちょっと痛いなという、いわゆる風邪の初期症状のときにも有効です。その段階でカモミールティーを飲んでおくと、たいがい本格的な風邪に発展せずに済んでいます。こういうふうに、はっきりと「病気」とまではいかないけれど、ちょっとあれ? っていう違和感を覚えることって、日常的にありますよね。身体の不調もそうですし、なんとなく不安感が強くなったり、眠れなくなったりすることは、誰にでもあるものです。そういうときに、身近な庭や鉢植えの植物を使って対処できる知恵を持っているのは、心強いですよね。 ちょっと話はそれますが、私の地元でもあり、今も暮らす茨城県は水戸黄門で有名ですが、黄門様の命によって水戸藩医がまとめた『救民妙薬集』という書物があります。これは医者に診てもらうことができない貧しい民のために、身近な植物を用いて病を癒やせるようにと書かれたものです。お腹の痛いときはこの草を使ってこうするよ、とか、ケガをして出血したときはこうだよ、というように、自分自身で不調に対処する術が書かれているんです。私はこれを読んで、この知識がどんなにか人々を救ったことだろうし、心強かったことだろうなと思って感動しました。私は西洋からもたらされたハーブを庭で育てて、暮らしに役立ててきましたが、私自身も何度もハーブに救われてきました。自社のスキンケア商品にもそういう経験が生かされています。そして、もっと多くの人に自分がこれまで培ってきたハーブの知識を伝えたいと思い、「本」という形を選択しました。そのヒントを与えてくれたのが、『救民妙薬集』です。 「私のハーバル手帳」も、現代を忙しく生きる人々に、健やかで幸せな暮らしを送るために役立ててもらえたらという気持ちで作りました。育てやすく使いやすいハーブや、道端に生えているような身近な草花をピックアップしました。ハンドバッグに入れて移動中などに眺めてもらえるように、A5版であえて薄い作りにしました。忙しい日常の合間で、ふと本を開いたときに癒やされ、いつも健やかでいられるためのお守りになれたらうれしいです。 【私のハーバル手帳】 Vol1. カモミール、ミント、ラベンダー、セージ Vol2. ローズマリー、タイム、オレガノ、バジル Vol3. バラ、バタフライピー、ラバンジン、オータムベリーズ、コキア、クロモジ Vol4. フキ、ヨモギ、スギナ、カラスノエンドウ、セイヨウタンポポ、ドクダミ、サンショウ、シソ、クスノキ、ビワ 【Information】 鈴木ハーブ研究所 オープンガーデン開催中5月24日(金)〜26日(日)10時〜16時(最終日15時まで)入園無料 ■場所鈴木ハーブ研究所/〒319-1112茨城県那珂郡東海村村松2461 ■内容500種以上を育てるガーデンの無料開放/ワークショップ/出店販売他 https://feelherb.s-herb.com
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栃木県
花の庭巡りならここ! 面で魅せる圧巻の花畑「那須フラワーワールド」
雄大な那須連山を背景にダイナミックな花畑が広がる 栃木県北部、那須岳の南側山麓に広がる那須高原は、温泉郷で知られるほか、牧場やキャンプ場、動物園などのレジャー施設、ゴルフ場やスキー場などのスポーツ施設なども充実し、日本有数のレジャースポットとなっています。「那須フラワーワールド」は、この那須高原に2007年にオープンした観光ガーデン。広さは約5ヘクタール、大人がゆっくり歩いて1時間ほど散策を楽しめます。 「那須フラワーワールド」は標高の高い高原地帯のため、夏は避暑地として利用されるエリアにあります。代表の和知 徹さんは、「夏に少しでも涼しく、また風を感じられるように、観光ガーデンとしてこの地を選んだ」といい、コンセプトは、「シンプルでありながら、力強く美しい庭」としました。広い敷地を生かして、季節ごとに花の種類を絞って群植し、カーペットのように魅せる演出です。雄大な那須連山を背景に広がる花畑は、圧巻のシーンを楽しめるとして、年間に6万5,000人以上の観光客が訪れます。 このダイナミックな花畑は、ストライプ状にシンプルにゾーニングした植栽で、季節によって異なるカラフルな景色が広がります。これは植栽や施肥などの管理のしやすさも考慮し、いつ訪れても手入れの行き届いた花のカーペットが楽しめるようにデザインされたものです。 「那須フラワーワールド」では開花リレーも見事で、庭の景色は少しずつ変化していきます。春はチューリップからスタートし、ネモフィラ→アイスランドポピー→ルピナス→ヘメロカリス→ケイトウ、サルビアへとバトンタッチ。いずれの季節も、昼と夜の温度差が大きい高原地ならではの冴えた花色に目を奪われます。一年を通してリピーターも多い「那須フラワーワールド」に、ぜひ訪れてみてください。 春はチューリップから始まり、ネモフィラ、アイスランドポピーにつながる 那須高原の青い空によく映えるネモフィラの見頃は、5月中旬〜6月中旬。1万5,000㎡に約15万株を植栽しています。園内への飲食の持ち込みは可能なので、この景色を見ながらお弁当やデザートをほおばるのもいいですね。 アイスランドポピーの見頃も同時期の5月中旬〜6月中旬。1万5,000㎡に黄、オレンジ、白のポピーを5万株植栽しています。背景には左から黒尾谷、南月山、茶臼岳、剣が峰、朝日岳の美しい稜線が。 初夏はルピナス、夏はユリそして夏から秋のケイトウへ ルピナスの見頃は5月中旬〜6月中旬。1万㎡に約3万株が植栽されています。長い花穂を立ち上げて、色とりどりのルピナスがダイナミックに咲く光景は必見です。園内ではリードをつけていれば、ペット同伴もOK。花見をしながらの散歩を楽しんではいかがでしょうか。 7月になると、ユリが見頃に。1万㎡に2万株のユリが植栽されています。避暑地ならではの涼やかにわたる風を感じながら、ストライプ状のユリの群植を堪能できます。 ケイトウの見頃は、9〜10月で、3万㎡に約25万株が植栽されています。発色の美しい赤やオレンジの花に整然と埋め尽くされる雄大な景色には、感動のため息がこぼれます。 飲食の持ち込みOK売店のある休憩所でひと休みはいかが 天井の高い休憩所からは、ガーデンの遠景を楽しめます。売店が隣接しており、飲み物やソフトクリーム、ピザなどを販売。飲食の持ち込みも可能です。散策を楽しんで歩き疲れたら、ここでゆっくり軽食やお茶を。 Information 那須フラワーワールド 所在地:栃木県那須郡那須町大字豊原丙5341-1TEL:0287-77-0400ホームページ:http://www.flower-world.netアクセス:公共交通機関/JR那須塩原西口から車で約60分、またはJR黒磯駅西口から車で約50分車/東北自動車道那須I.C.から県道17号線北進、広谷地交差点右折、県道68号線経由約40分、または那須高原S.A.から国道4号線、県道305号線経由約24分オープン期間:4月下旬〜10月下旬(降霜まで)休園日:無休営業時間:9:00〜17:00料金:大人 500〜1,000円(シーズンによって異なる)、中高生300円、小学生200円駐車場/300台、無料
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東京都
本格的な春到来! 「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」の『ショーアップ審査』を迎えた5人…
年3回審査を行うガーデンコンテスト「東京パークガーデンアワード」 神代植物園の正門へ続くコンテストガーデンが、エントランスの景観と一体感をなす4月中旬。 5人のガーデナーが手掛ける日向と日陰の2つのガーデン。最終結果が決まるまでに4・7・11月の3回に渡って審査が行われますが、ガーデンの施工から約5カ月経過した今回、第1回目となる『ショーアップ審査』が行われました(春の見ごろを迎えたガーデンの観賞性を審査します)。審査期間:2024年4月11日~17日。 審査員は以下の6名。福岡孝則(東京農業大学地域環境科学部 教授)、正木覚(環境デザイナー・まちなか緑化士養成講座 講師)、吉谷桂子(ガーデンデザイナー)、佐々木珠(東京都建設局公園緑地部長)、植村敦子(公益財団法人東京都公園協会 常務理事)、松井映樹(神代植物公園園長) 事前に公表されているコンテスト審査基準 公園の景観と調和していること/公園利用者が美しいと感じられること/植物が会場の環境に適応していること/造園技術が高いこと/四季の変化に対応した植物(宿根草など)選びができていること/「持続可能なガーデン」への配慮がなされていること(ロングライフ) /メンテナンスがしやすいこと(ローメンテナンス)/デザイナー独自の提案ができていること/総合評価 ※各審査は別途定める規定に従い、審査委員による採点と協議により行われます。 今回の評価のポイントは主にガーデンの観賞性で、「植物の春の美しさがしっかりと表現されているか」。しかし、単に華やかであることだけが重要ではなく、「植物個々の特性・魅力がしっかり見せられているか」、「葉や花の組み合わせがデザイン的に美しいか」、そして「今回のテーマ=武蔵野の“くさはら”、が表現されているか」などの項目も含めて評価されています。※年によって気象条件が変わるため、開花の時期がずれていても評価に影響しません。※今回行われた審査結果の公表はありません。 4月の審査時期を迎えた5名のガーデンをご紹介 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 【作品のテーマ・制作意図】 武蔵野のくさはらを表現するにあたり、オーナメンタルグラスとカラーリーフ、特徴的な葉を持つ植物をメインにしたガーデンをつくってみたいと思いました。「グラスガーデン」は馴染みが薄かったり、地味にとらえられたりすることもあるかと思いますが、宿根草に加え、球根植物も多用し華やかさをプラスすることで、多くの方に楽しんでいただけるガーデンを目指しています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 カマッシア‘ライヒトリニー’ 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 スイセン‘タリア’、プルモナリア‘トレビファウンテン’、イカリソウ’スルフレウム’、アネモネ・シルベストリスなど コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら 【作品のテーマ・制作意図】 ガーデンの美しさは緑量や花の色目や形状だけで測れるものでなく、空や光や風や生きもの全ての関わり合い、生命の尊さを感じることでガーデンがより輝いて見えます。ガーデンに長く根付いて、地域に馴染む風景、生態系の一部になることを想定し、植えっ放しに耐えられる丈夫な品種を中心に、蜜源植物や、風や光の動きを反映しやすい植物を多く取り入れ、地味な在来種でも組合せや配置で奥行ある豊かな草はらの表現を目指します。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 カッコンセンノウ、シラー・ベルビアーナ カッコンセンノウ、シラー ベルビアーナ、カマッシア レイヒトリニー、スイセン ピピット 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 ミニチューリップ ホンキートンク、ムスカリ アルメニアカムブルー、オルレア ホワイトレース、ビオラ ラブラドリカ、ムラサキサキゴケ、イフェイオン ジェシー、イフェイオン ウィズレーブルー、イフェイオン ホワイトスター コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 【作品のテーマ・制作意図】 森では、様々な木々が壮絶な生存競争を繰り広げています。しかしそれは草原もまた同じ。草原は生命力に溢れる草花たちの戦いの場です。そしてやがて、草原の中から樹木が芽生え、最終的には森へと遷移していきます。私は、草原から森へと還るこのはじまりの瞬間を、美しくもドラマティックに演出したいと思いました。ここは、森が好きなガーデンデザイナーが解釈し表現したペレニアルガーデンです。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 ゲラニウム'サンギネウム・ストラータム'、サポナリア・オキモイデス(ロックソープワート)、シレネ・ユニフローラ‘シェルピンク’、アリウム・ニグラム、アリウム‘カメレオン’、オルラヤ、ベロニカ‘ウォーターペリーブルー’、クランベ・マリティマ、リクニス・フロスククリ(カッコウセンノウ)など 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 イカリソウ、ゲラニウム‘タイニーモンスター’、フリチラリア・ペルシカ、アジュガ‘チョコレートチップ’ コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 【作品のテーマ・制作意図】 人々の心に残る武蔵野の情景を骨格に、新たな要素を組み足して、これからの愛される武蔵野の風景を植物の魅力や武蔵野の風景を「伝え」「感じる」ことを軸に提案しました。武蔵野の草原を連想させるグラスをベースに、季節の流れの中で、さまざまな色や形の草花がガーデンを彩っていくような配置を心がけました。自然との距離が遠くなった現代で、このガーデンが少しでも自然と人とが寄り添うきっかけになればと思っています。 【日向のエリア】 開花期を迎えていた植物 チューリップ‘クイーンオブナイト’、チューリップ‘コンチネンタル’、チューリップ‘ドールズメヌエット’、チューリップ‘ホワイトバレー’、チューリップ‘スワラ’、ラナンキュラス ラックスシリーズ 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 チューリップ‘クイーンオブナイト’、チューリップ‘コンチネンタル’、チューリップ‘ドールズメヌエット’、チューリップ‘ホワイトバレー’、チューリップ‘スワラ’、チューリップ‘ヒルデ’、ラナンキュラス ラックスシリーズ、ムスカリ、アジュガ コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 【作品のテーマ・制作意図】 世界的に”Climate Change(気候変動)”が叫ばれ、日本でも夏の猛暑、雨不足による水ストレスが植物を苦しめました。農業技術である完熟した堆肥をはじめ有機資材を使い、微生物に富み団粒構造を持つ土壌を作ることからはじめ、これまで武蔵野の草原風景を担ってきた在来植物を中心にガーデンを構成します。都市の暮らしの中でこぼれ落ちてきた技術、植物でこれからの武蔵野の風景を模索していきます。 【日向エリア】 開花期を迎えていた植物 ― 【日陰エリア】 開花期を迎えていた植物 スイセン‘トレサンブル’、シラー・シベリカ、スノーフレーク 次回の審査は7月、梅雨を経て猛暑に向けた植栽と耐久性を審査する『サステナブル審査』です。庭作りスタートから月々見頃の植物と5名のガーデンを紹介する記事もご覧ください。 コンテストガーデンを見に行こう! Information 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園」ガーデナー5名の2月の“庭づくり”をレポート!
「第2回 東京パークガーデンアワード」【2月末】第2回作庭 コンテストガーデンの入り口付近には案内板が設置されています。 12月上旬に第1回目の作庭がされたあと、コンテストガーデンのある東京では一度雪が数センチ積もる日があったものの、2月にはこの時期には珍しく25℃に達する暖かな日もありました。年を越し、本格的な春がやってくる前に行われた2月下旬2度目の作庭の様子をご紹介します。 コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 ◆今回の作業①除草 抜いた雑草類は花壇後方に設置したバイオネストに。比較的コンパクトなサイズで、鳥の巣のような形が愛らしい。 ②上部残った枯れた部分を切除 主にグラス類の地上部をカット。これもバイオネストにイン。 ③一部球根類の植え込み 1月に届き、家で保管していたユリの球根を植え込み。「芽が伸びてしまっていて、植え付けが遅すぎではないか心配」と古橋さん。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) マルチング材の杉皮バーク堆肥(ガーデンモス)をたっぷり使い表土が覆われていることで、ガーデン全体が明るくやわらかい印象です。リナリア・プルプレアがこんもりと葉を茂らせ、小球根のピンク色のクロッカス‘ホワイトウェルパープル’やスイセン‘ベビームーン’が彩りを添えるなど、一足早い春を迎えています。 ◆日陰(南側) 日向と同じグランドデザインですが、日陰の花壇の方がレベルの起伏がはっきりと浮かび上がっています。ベースの構造が確認できるのは冬の間だからこそ。まだ寒々しさが残っていますが、明るい黄緑葉のカレックス‘エバリロ’や銅葉のティアレラなどのリーフ類が色彩を添えつつ、シラー・ミスクトスケンコアナや、楚々としたバイモユリの花が愛らしさを放っています。 ◆こだわりのプランツタグ プランツタグといえば、イギリスなど海外の植物園で見かける「黒地に白文字」のイメージがあり、日本語による表記とともに学名も記載しています。神代で開催なので植物園らしさを出しつつ、外国の方にも楽しんでいただけるように設置しました。 コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら ◆今回の作業①不要な分の雑草取り 宿根草の根元で邪魔になる雑草のみを除去。現時点で愛らしいものや彩りが寂しい場所は残し、草原っぽさを演出している。 ②宿根草苗を追加植栽 アガパンサスやホトトギス、カレックスなど寒さに弱い植物を植栽。 ③カットバック グラス類の切り戻しやノリウツギの花がら取り。刈ったグラスの葉は細かく切ってマルチングとして活用。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) グラス類の枯れ葉の合間で、黄花のスイセン ‘イエローセイルボート’と白い房咲きのスイセン‘ペーパーホワイト’が明るい顔をのぞかせて、早春らしい風景が広がっています。また、宿根アイリスやスイセン類、カレックスの葉が描くアールのフォルムで、春の訪れに浮足立つようなリズミカルさが生まれて、素朴でナチュラルな雰囲気が漂っています。 ◆日陰(南側) 常緑のヤブランやツワブキが瑞々しく育ち、日向のガーデンとは全く異なるシーンが広がっています。中央を横断する作業用の通路には剪定枝やカットした枯れ葉が敷かれ、思わず歩きたくなる小道があるような風景に。青々とした風景の中でカレックス‘エヴァリロ’ (左)が、効果的な明るいアクセントになっています。通常鉢植えで楽しまれるオモトも今回植え付けられましたが、今後どのような効果をもたらすのか楽しみ。 ◆こだわりのプランツタグ 自然な草はらの空気感を壊さないように目立たない細長いプレートを選びました。鉄製で重みがあって何度も使用できます。裏には、学名も記載してあります。 コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 ◆今回の作業①雑草取り/溝に資材を投入 抜いた雑草は、小川のように蛇行して設けられた溝に入れる。溝内の腐植にタイムラグをつくるために枯れ枝・炭を溝に足す。 ②苗の追加/微調整 1回目に植えた植物の育ち具合を見ながら、位置を微調整する。 ③カットバック グラス類をメインに枯れた葉を切り戻し。カットした葉は溝に入れる。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) 起伏が大きく、溝となる部分には太い木片が投入され、ワイルドな雰囲気が漂っています。それに対し、溝の傾斜部分に春を告げるクロッカス‘ホワイトウェルパープル’が群れ咲いて、小球根の愛らしさが際立っています。花壇の手前側に植えたチューリップの原種‘アルバコエルレアオクラータ’が。あまり目立つ花ではありませんが、花が少ないこの持期に花を発見する楽しみを提供してくれています。 ◆日陰(南側) 低木はまだ葉を出していませんが、株元では常緑の植物たちが瑞々しく葉を展開。まだ深みのある緑葉が多い中で、ワイルドチャービル(下左)のライムグリーンの葉がひと際明るく存在感を発揮しています。可憐な花を下げるクリスマスローズ(下右)とともに、道行く人の目を引き、ところどころに差す光が林床を思わせています。 ◆こだわりのプランツタグ シンプルで見やすくて主張しすぎない、そして朽ちにくい素材のものとして、黒い金属板のタイプを採用。 コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ ◆今回の作業①雑草取り 除草したものは後方に設置したコンポストの片方に入れる。ある程度積み上がったら、開いている側に切り返し(かき混ぜて空気を取り込む作業)を行い、腐食を促す予定。 ②植物苗追加植栽 年内に入手できなかった植物を追加で植栽(ラナンキュラス・ラックスシリーズ、ユーパトリウム‘ベイビージョー’、ニホンムラサキなど)。福岡のちびっ子も上京して参加(下)。 ③切り戻し(グラス、低木など) アナベルなどの低木類は、生産者のレクチャーの元、花が咲く時期の樹高や花のつき方をイメージして切り戻しの高さを調整しながら剪定。グラス類の中でも、スティパとカレックスは、切り戻さず透かし剪定を行い、ボリュームを調整。剪定くずは雑草同様にコンポストに入れる。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) 細い溝で分けられたいくつかのゾーンに植え込みには、今か今かと待ちわびているさまざまな宿根草が確認できます。ガーデンの手前では、よく道端で見かけるオオイヌノフグリをイメージして、丈が低く華奢なベロニカ‘オックスフォードブルー’を植栽。のどかな風景を連想させています。チューリップがあちこちで芽を出しており、春本番にはぐっとにぎやかになることでしょう。 ◆日陰(南側) まだ枯れ木状態の落葉低木を背景に、一足早く宿根草や球根類が芽を出して成長を始めていいます。その陰陽の対比が、これからの競演を期待させています。また、大きく葉を広げるツワブキやリョウメンシダが、日向のガーデンとはひと味もふた味も異なるダイナミックな野趣を演出しています。 ◆こだわりのプランツタグ 間伐材を加工して作成し、日向・日陰、それぞれの雰囲気に合うように2タイプ用意。日向には木の無垢地に黒文字で、日陰には黒く塗った地に白文字で植物名を表記しています。又どちらもハンギングタイプで高さを出し、植物名が調べられるようQRコードをつけています。 コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 ◆今回の作業①雑草取り/カットバック ススキやフジバカマなど地上に枯れた姿を残していた植物を切り戻し、春の芽吹きを促す。冬季には地上から姿を消す宿根草が大部分を占めており、それぞれの芽吹きを観察できるよう今回は雑草を抜く。 ②苗の補植 12月になかなか思い通りの株が手に入らなかった、クサソテツやフウチソウを植え付け。 ③バイオネスト設置 神代植物公園内で発生した剪定枝を材料にして、日向・日陰それぞれ異なる樹種の枝でガーデン後方に設置。枝のしなり方が違うので、作り方や仕上がりの見え方もやや異なっています。バイオネストの底には、植物ごみの減容、減量を促す自作の基材(モミガラ、落ち葉、コメヌカを発酵管理したもの)を敷き込んでおく。 ④マルチング 昨年末に、完熟バーク堆肥を3cmほどかぶせていましたたが、細かすぎて風で飛んでしまうこと、今後保湿効果が薄いことを懸念して、重みのある腐葉土を追加で2cmほど、全体にかぶせました。 ◆2月下旬のガーデンの様子 ■日向(北側) 選んだ野草類は成長速度が穏やかなものが多く、まだガーデンに大きな動きは見られないですが、土中の見えないところでは、確実に小さな芽は成長しています。部分的に成長が早い植物もあるので、それを見つける楽しい時間です。ガーデンの手前側では、ノアザミ(寺岡アザミ)と原種のチューリップ・トルケスタニカがほかより一足先に成長を進めていました。 ◆日陰(南側) 日陰側も主だった成長はまだまだのようですが、ガーデンの中央高台ではディアネラ‘ブルーストリーム’がオーナメンタルな存在感を放ち、背後ではタマシダがつややかな葉を広げています。また、多くの野草が眠るなか小さなフクジュソウが見頃を迎え、春の到来を告げていました。 ◆こだわりのプランツタグ 木材に植物名と学名をレーザー加工で記したオリジナルのプランツタグです。地域内での資源巡回を目指し、使用した木材は近所のオーダーメイド材木屋『ティンバークルー』で長く使っていなかったサクラ材を用いて製作しました。表記はシンプルに和名と学名のみにして、データを作成し、レーザープリンターで印刷しました。 コンテストガーデンを見に行こう! Information 東京都・神代植物公園を舞台に行われている「第2回 東京パークガーデンアワード」。5人のガーデンデザイナーが日向と日陰のガーデンづくりにチャレンジし、趣の異なる10のガーデンを観賞することができます。いつでも自由に見学可能。日々表情を変えていくプロによる植栽を見に、ぜひ訪れてください。 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶサステナブルな庭づくり⑤ ~ガーデンデザインの指標~
吉谷さんのデザインの原点とは? 代々木公園に向かってユニークに広がる雲形の花壇。‘クラウド(雲)’は、吉谷さんが公園の上に広がる空から発想を得たものだが、この配置は、環境条件やメンテナンスのしやすさを踏まえながら、美しい修景デザインとして成り立たせている。 「私がデザインにこだわるのは、父がバウハウス(*注)の影響を色濃く受けた近代デザインの建築家であったことが大きかったと思います。両親の仲人をつとめてくださったのは、日本大学芸術学部長だった山脇巖教授ですが、彼はドイツのバウハウスに留学し、ミース・ファン・デル・ローエ氏、ワシリー・カンディンスキー氏らに学んだ日本人で唯一の卒業生。バウハウスの造形理論を教育に導入し、日本のデザイン教育の方向に重要な役割を果たした方です。父が教授に影響を受けたことから、今思うと、食卓で交わされるデザインの良し悪しについての会話も、基本となるものはバウハウス的なスタイルで、我が家の家風になっていたように思います」 創設者で建築家のヴァルター・グロピウスによって設計されたバウハウスの校舎。シンプルで直線的な建築と丸みを帯びた「BAUHAUS」のロゴが、その理念を象徴している。Claudio Divizia/Shutterstock.com *注「バウハウス」とは第一次世界大戦後の1919年、ドイツ・ワイマールに設立され、「デザインは、シンプルで合理的・機能的であること」という理念のもと、建築・美術・工芸・写真など、デザインの総合的な教育を行った機関のこと。ナチス侵攻による経済情勢、政治的混乱で、1933年に閉鎖を余儀なくされる。短い期間だったにもかかわらず、バウハウスの美学は現在も色あせることなく、建築家やデザイナーをはじめ、芸術家に大きな影響を与え続けている。 左/実家の台所(1950年代)。右/父が設計した庭の図面(1946年)。 「そんな経緯もあって、子どもの頃からバウハウス関連の本のほか近代デザインに関する資料に囲まれて育ち、高校・大学の美術教育もバウハウスの教義が基本になっていたように思います。ヴァルター・グロピウス(ドイツの建築家でバウハウスの創設者)やヨハネス・イッテン(スイスの芸術家、理論家、教育者)、モホリ・ナギ(ハンガリー出身の画家、写真家、造形作家、デザイン教育者)らが書いた造形教育の基礎本は、50年以上経った今も時々読み返すと、さらに理解を深めることができたりするのに驚きます」 「ティーンエイジャーの頃から学んでいた20世紀のデザイン概論。今見ても役立っています」と吉谷さん。 左/吉谷さんが幼少期に愛用していた三輪車は、お父様からもらった飾りのないミニマルなT型デザインだった。これ以上も、これ以下もないデザインを愛するベースとなっていた。 右/吉谷さんがプロダクトデザイナーとして活動していた頃にデザインした‘無印良品’の三輪車。子ども用でも「シンプルでいながら美しく機能的である」ことを貫いている。 「今の私の作風は多要素なので、意外に思われるかもしれませんが、80年代の初めヨーロッパに3カ月間の美術修行に行くまでは、『Less is more(レス イズ モア)』が若い頃の私のキーワードでした。父のもっとも尊敬する20世紀に活躍したドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残した言葉で、『少ないほうが豊かである』ということを意味しています。建築家としての信念『シンプルなデザインを追求することにより、より美しく豊かな空間が生まれる』が表れています。おそらく、ティーンエイジャーの頃から耳にこびりついているのでしょう」 バウハウスのデザインによるポスターやファニチャー。色が限定されているのが分かる。Martine314/shutterstock.com 「近年、バウハウスの考えるデザイン“余計な装飾を排除した、シンプルで機能的な美しさ”や、モダンデザインベースの美術からインスピレーションをもらうことがさらに増えています。若い時になんとなく分かっていたことが、今になってしっくりときたり…」 ガーデニングへの生かし方 「バウハウスにおける造形教育の基礎理論のひとつである『‘点・線・面’をいかに美しくコンポジションするか』は、建築や絵画に限らず、ガーデンデザインのビジュアル表現にもいえること。この理論は私の中にずっとあったのですが、ガーデンの構造だけでなく、植物の配置、植栽デザインにもいえることだと思います」 ※コンポジションは、もちろん、‘点・線・面’だけではありませんが、平面構成の基礎として、簡潔で分かりやすいので、例にしています。 さまざまな‘点・線・面’のフォルムで構成されている植栽はドラマチックで、見る人を飽きさせない。 「20年近く前、オランダのガーデンデザイナーであるピート・アウドルフ氏の本が出版され、彼も同じような考えでガーデンを構成しているのだと思ったとき、おかしな言い方ですが『それなら知ってる!』と、非常に感銘というか同調したのを覚えています。大いに影響を受けた、彼の植物の組み合わせの基本パターンは、私なりの解釈で今も応用しています」 カラフルで美しいピート・アウドルフ氏の図面。ピート・アウドルフ氏のアトリエ訪問にて。 「20世紀のイングリッシュガーデンでは、イギリスの園芸家、ガートルード・ジーキル氏の影響も大きく、特にカラースキームが注目されていました。ジーキル氏の場合は、造形よりも色彩や光を重んじて植栽を絵画的に表現するため、それまで以上に印象派の絵画的な色づかいを庭づくりに取り入れています。ジーキル氏の仕事は、彼女が尊敬したターナーの絵画もそうですが、『造形よりも色彩や光の表現の美しさ』を重視しています。 私はガーデニングをやり始めた当初、それに大きく影響を受けましたが、正解は1つではありません。デザインをする際に、何を重要視するかによって、生まれる作品は異なってくると思いますが、完成度の高い絵画的な感性や、それを理解しようとする美意識が必要だということです」 イギリスの自宅で庭づくりをしていた1993年頃。植物の形について考えていなかった。 「実は30年ほど前、イギリスで自宅の庭を作っていた頃の私は、衝動買いした植物を先着順に庭に植えたりして、たくさんの失敗をしてきました。日当たりや水はけ、地面の乾湿問題は重要ですが、それだけを優先した植物の配置や、ただ、手に入った植物を先着順に植えても庭は絵になりませんね」 ガートルード・ジーキル氏が手がけ復元された庭の1つ、「ヘスタークーム(Hester Combe Gardens)」(イギリス、サマセット州)。 Tom Meaker/Shutterstock.com 「21世紀の宿根草ガーデンでは、“植物への視点の多様化”が加わったように思います。以前は季節限りの花の色・形自体を愛でていましたが、現在は植物のあらゆる表情や質感も注目するようになりました。例えば、花後のシードヘッド。その造形美や力強さはとても魅力的です。芽出しから枯れるまで季節ごとに異なる植物の魅力が発見できれば、植物の奥深さに触れることもできるはず。常にピークの状態を維持する必要はないので、持続可能ともいえるでしょう。 デザイナーはエコロジストでもあるべき今の時代、花の満開の時だけでなく、植物のあらゆる魅力をガーデナー各自の視点で発見し、それを個性として多様に表現できればいいと思います」 吉谷さんがデザイン時に意識する、植物のフォルム 植物のハーモニーを考えるとき、それぞれが持っている造形と、組み合わせの基本が分かっていないと、似て非なる植物がぶつかりあって景色がゴチャゴチャしたり、散漫に見えてしまいます。それぞれの植物が持つ美しさで互いを引き立て合うために、下記のことを知っておきましょう。必ずしもすべての植物が当てはまるわけではありませんが、ある程度の座標にしてみると分かりやすいでしょう。 植物のフォルムのハーモニーを楽しむためのフォルムパターン ❶ ボウル:球形もっともシンボリックな花の形、その大きさでアクセントになり、花の最盛期は庭の眺めの核になる。 ❷ アンブレラ:傘形花の形としては、もっとも彫刻的な造形。眺めに変化を与える。 ❸ スパイク:尖塔形ボウル型の花に対し、もっとも対照的な引き立て役。庭の景色をシュッとした感じに引き締める。直立し、庭が片付いて見える効果をもたらす。 ❹ ドット:点小さな点の集合は多くの場合脇役となる。大きなボウル型やアンブレラ型の花がアクセントプランツとすれば、ドット型の花はフィリング・間を埋める役目に。切り花でも凡庸だがカスミソウがバラの脇役に使われるようなイメージ。 ❺ デイジー:菊形(花びらが独立して見える)大きなボウル型に準ずるが、大型のエキナセアの花のような存在感を持つ。ガーデンのアクセントプランツになるので、眺めの前方に植える場合が多い。 ❻ プリュム:羽根のようなフワフワした形ドット型とも役割が似て、フィリングプランツになる場合が多い。例えば、フィリペンデュラ・ベヌスタのように背が高くふわふわしているものは、写真でボケの効果があるので後方に植える場合が多い。 この6つだけではありませんが、代表的な形で分けています。これらをバランスよく組み合わせて配置していくことは、『‘点・線・面’のコンポジション』の考え方と同じこと。ボリューム・大きさなど効果的な配分で美しく構成していきます。 計画・イメージ(上)と実際(下)のアートフォルム。実際にまったくその通りにならなくても、設計段階でフォルムのコンポジションを考えて植栽設計をするとよい。 オーナメンタルグラスは、育ち方のフォルム全体のデザインをベースにする(地中の根も同じように広がる想定を)。※バウハウス的平面構成を意識して吉谷さんが描いたオリジナルのイメージ図です。 フォルムの違いを生かした植栽シーンバリエ 背景にスパイク型の高く伸びるカラマグロスティス‘カールフォースター’❸、手前にアンブレラ型のオミナエシ❷を配した、華はないものの野趣あふれるワンシーン。 幻想的に広がるプリュム型のヒヨドリバナ❻とやや形の崩れたアンブレラ型のオミナエシ❷の中に、ルドベキア・マキシマのデイジー型の黒いシードヘッド❺が、ピリリとしたアクセントになっている。 ボウル型のアリウム‘パープルレイン’❶がこの時季の主役。その周りのセントランサス・コキネウス・アルバが、点々と繰り返すドット型❹から、やがて花が咲いてタネができるとふわふわとしたプリュム型❻となり、主役の引き立て役に。 ボリュームたっぷりのヒオウギ❹のドットが、エアリーなプリュム型のディスカンプシア‘ゴールドタウ’❻を手前でどっしり支えつつ、線形の葉が植栽をシャープに引き締めている。 花が咲く位置より下方の枝葉に個性のないエキナセア❺を補うように、手前には、がっちりしたフォルムのハイロテレフィウム(オランダセダム)❹を配置。その背後に奥の景色を透かすようにエアリーなディスカンプシア❻が茂っています。手前にがっつりアクセントを据え、途中に丸い花の彩り、背後にシードヘッドが美しいグラスが風にそよぐという典型的な三段構えの組み合わせ例。 日本のガーデニングは次の時代へ 5回にわたる連載でご紹介してきたモデルガーデン「the cloud」(2023年7月中旬)。 バウハウスの「造形で造るシンプルな美しさ」を幼いころから肌で感じ、10代で理論を学んだ吉谷さん。世界に共通するデザイン理念を日本のガーデニングに取り入れて実践する第一人者といえるでしょう。デザインにおける指標を先人から受け継ぎ、自身のエッセンスを加えながら新たな世代に指標をつなぐという次のステップへ。 第2回でご紹介したメンテナンスフレンドリーのためのガーデンデザイン法と併せて、ぜひ皆さんも実践してみてください。チャレンジすることから、吉谷さんが行うガーデンデザインの意図を知る一歩になるのではないでしょうか。 今年春から「浜名湖花博2024」が開催される「はままつフラワーパーク」では、“足元から頭上まですっぽりと自然の美に包まれる新感覚・没入体験型”の吉谷さんデザインによるガーデンが披露されます。また、4月6日(土)&7日(日)には、吉谷桂子さんのトーク&ガーデン巡りや、SDG’sな寄せ植え教室も開催されます(ご案内サイトはこちら。お申し込み開始は3月15日から定員になり次第終了)。ぜひ、最新のガーデンを見にお出かけください。 詳しくは、「浜名湖花博2024」ホームページをご覧ください。
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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”④ ~ガーデン環境整備につ…
ガーデンづくりは、環境にも自分にも優しいメンテナンスフレンドリーで 園路が入り組んでいる雲形の花壇は、お手入れしやすいことに配慮されたデザイン。 気象変動と自身の体力と向き合いながらガーデンをつくるには、下記の3つを意識して自然といかに仲よくしながら楽しめるかがカギ。 1. メンテンスが楽・容易 2. 生物多様性/脱化成肥料・無農薬 3. 耐久性・永続性・丈夫で長もち・長生の宿根草に注目 西日に輝くミューレンベルギア・カピラリスが存在感を放つガーデン/11月 実際に「the cloud」で行われた最小限のメンテナンス 植え付け後の様子を確認する吉谷さん/12月 植物の生命力を信じて、ここぞというタイミングで最小限で行いました。「目指す所は、彼らのコロニーを作り、植えっぱなしで手を加えずに育っていく環境を作っていくこと。『トライ&エラー』。今までにない気候変動によって起こる予測不能な問題にも、都度あきらめず、自然に寄り添う気持ちでいきましょう」と吉谷さん。 ① 灌水 特に雨が少なく乾燥しやすい冬~春はしっかり行います。植え付け1年目の宿根草は、未成年者のような存在。保護者として、最初のうちは植物から目を離さないことが必要。のちのち、放ったらかしにできるのを目標にしています。 初年度ということもあり、雨量を測るカップを設置。今後の目安データとして役立てる。 丘の頂上には水やりチェッカー「サスティー」を挿して水分量を目視。 ② 剪定・切り戻し(カットバック) 近年は春の急激な気温の上昇で植物の成長が早く、5月を過ぎるとあっという間に株が茂りすぎてしまいます。そのままでは夏に蒸れてしまいそうな植物は、思い切って夏前に伸びた株の枝葉を切り戻す、オーバー・グロウ・カットバックを行います。イギリスでは5月下旬にチェルシー・フラワーショウが始まりますが、そのタイミングで切り戻す作業のことを“チェルシー・カットバック”と呼んでいました。関東地方以西の温暖な地域では、ヨーロッパより気温が高いので、品種にもよりますが、ゴールデンウィーク後にカットバックしてもよいでしょう。 また、前年から冬越しした宿根草の立ち枯れた枝やシードヘッドは、2月中旬までに切り戻します。この作業を、“アーリースプリング・カットバック”といいます。また、3月から出てくる新芽が成長して、生命の再スタートです。 オーバー・グロウ・カットバックが必要だった植物:バーベナ・ボナリエンシス、エキナセア、モナルダ、デスカンプシア‘ゴールドタウ’ アスチルベは1度しか花が咲かないので、花穂は切り取らず、そのまま秋までシードヘッドを楽しむ。 ③ 施肥 基本的に施肥は行いません。その代わり、冬に完熟堆肥で花壇全体を覆うことで、微生物の働きを促します。堆肥は肥料分となりながら表土の温度や湿度をコントロールしてくれるほか、乾燥から防ぐ役割も担ってくれます。 しかし、生育が旺盛なアガパンサスのように、花を咲かせるのにエネルギーと肥料が必要なものには、春先に固形の有機堆肥を施しています(アガパンサスのみ)。 植え付け直後、12月のアガパンサスの様子。黒い完熟堆肥と緑の葉とのコントラストが美しい。 ④ 病害虫対策 化学的な薬品は使用しません。 害虫/どうしてもイモムシ・毛虫はついてしまうもの。吉谷さんはこれも生物多様性だとして許容。「蝶もいれば益虫・害虫もいます。被害の可能性の高いコガネムシなどは捕殺しますが、アゲハの幼虫などは見守り、テントウムシやカマキリの安住の地となるような場所を目指しています」と吉谷さん。 病気/まず病気が出ないように環境を整えることが大切。なんといっても風通しが大切なので、蒸れる恐れがある梅雨や夏前に株間を透かすなどの剪定を行う。 【蜜源植物 ベスト3】 花の蜜で虫たちを呼ぶ蜜源植物を集めました。セリ科の植物はアゲハの幼虫の被害にあいやすいのですが、この眺めを楽しむ気持ちで見守っていました。 左/アンジェリカ‘ビカースミード’(セリ科) 中/ミソハギ(ミソハギ科) 右/バーベナ・ボナリエンシス(クマツヅラ科) エキナセアのシードヘッドの先で休む赤トンボ。「トンボは食害しないうえ、ヤブ蚊を食べてくれているんだと思うと、ちょっと嬉しいかな」と吉谷さん。 ⑤ 雑草対策 花後に早々と地上部が枯れるイフェイオンは、丈夫な上に愛らしい花を咲かせる優秀なグラウンドカバー。ニゲラもこぼれ種で増えているが、増えすぎないのが◎。オルラヤは侵略的すぎるので、避けているのだとか。 実生の雑草は放ったらかしにすると抜けにくくなりますが、双葉が出た頃なら割りばしなどでかき出せば簡単に抜けます。それまでが勝負。宿根草が小さい初年度は、雑草に負けないようにこまめにチェックします。 初年度。11月に植え付けたニゲラが、その他の宿根草などの間を埋めていたが、これでも株間が狭く、翌春は大きくなって間引きが大変だった。 除草になるべく手間をかけないための予防策としては、雑草が生える余地がないように、宿根草の間にニゲラや5,000球のイフェイオンを植えてカバーしています。マルチングしている堆肥は雑草予防にもなっています。 メンテナンスフレンドリーにするにはまずは土壌環境を整えること! 植物が気候変動のストレスを受けにくく、エコフレンドリーで美しく健やかなガーデンに育てるためには、日当たりや風通しなどの『生育環境』を整えることは大前提ですが、それと同様に重要なのは『土壌の状態を整えること』。「育て方が最重要と思われがちですが、考えるべきは『土壌環境、庭の構造(高低差や水はけ・日当たり)、植物選び、その植え方、育て方』の順番です」と吉谷さん。 しかし、最初から思いどおりにはならないので、気分はいつでも『トライ&エラー』。今までにない気候変動により起こる問題に、都度あきらめずに立ち向かうことが必要。 完熟堆肥のふかふかな布団がかけられた花壇。葉の瑞々しいグリーンとのコントラストも楽しめる。 【土壌の状態を整える】 「the cloud」では、水はけなどを改良しつつ、「いかに微生物を育てて土壌環境を豊かにするか」を意識して花壇が作られています。 ◆植え込み前30cmの深さまで掘り起こし、ワラ、炭、剪定枝ほか有機物を基本の土全体に混ぜ込んで酸素の豊富な構造に。 深さ約30cmほど耕し、ワラや剪定枝、炭などを投入。 花壇内に20~30cm間隔で直径約10cm、深さ30cmほどの穴をあけて直径6cmの有孔管を挿し込み、筒の中にはくん炭を入れて、通気・浸透・排水を確保。ゲリラ豪雨や長雨に備える(環境デザイナー・正木覚さんのアドバイスによる)。 棒が立ってるのは空気孔をあけた場所(棒は後で抜いています)、植え升の裏側(日陰側)でジメジメしやすく、正面から見ても、目立たないところに有穴パイプを埋めてあります。土中に酸素が届き、嫌気が溜まらないように。 ベッドに高低差をつけ水捌けや風通しは、植物の乾湿の好みに合わせて植栽デザインをした。 ◆植え込み後完熟堆肥を全体に厚み3cmほどかけてマルチングをする。 ◆様子を見て適宜完熟堆肥を株間にマルチング(11月頃)。こうすることで土壌の乾燥を防ぎながら、土中の団粒構造を保ち、保水性・排水性・保肥性が高まります。また、微生物の多様性が豊かになることで、病気の発生を予防することにもつながります。 「土中の微生物の多様性が保たれている = 病気の発生しにくい健全な土壌」 8月下旬の「the cloud」。酷暑を元気に乗り切った植物たち。 日本の園芸界も次なるステージへ 審査員をしながら「the cloud」を手掛け、自身も思わぬ問題に直面しながらも新たなガーデンの在り方を示してくれた吉谷さん。エコロジカルな植栽システムの構築を目指しつつ、日本の園芸界を次なるステージに牽引する、ガーデンエコロジストでもあります。 「厳しい気候変動の影響もあり、2023年の夏は、その前年に予想していたよりもさらに厳しく、これまでの観測史上最も暑い夏と言われました。地球沸騰の時代が到来。地獄の門を開けたと言う科学者もいます。そんな深刻化する気候下で、ガーデニングは私たちが、自然との共存について考える大切な機会となるはずです。 諦めるのではなく、発見とアイデアで乗り越えていく道は多様性に富んでいるはずです。庭をデザインするうえでは、まず構造デザインが先ですが、次に大切なのが植物選び。今後はそうしたことを共に体験しながら、共に学ぶ「メンテナンスフレンド=メンテナンスフレンドリーに、ガーデン管理に誇りをもって携わる若いガーデナーや、植物に関わることを生きがいに感じられる人を増やしていきたい」と、人材育成プログラムにも意欲を燃やしています。 次回は、ガーデンデザイナーとして吉谷桂子さんが庭づくりをする際に指標としていることをお伝えする最終回です。
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「第2回 東京パークガーデンアワード 神代植物公園 」ガーデナー5名の“庭づくり”をレポート!
彩り豊かな庭をつくるためにガーデナーが踏まえておく条件とは 2023年、画期的な試みとして大注目を浴びた「第1回 東京パークガーデンアワード」。2回目となる今回は、神代植物公園のプロムナード両脇の植栽エリアを活用して、コンテストガーデンが設けられました。以前ここはツツジや笹が列植する緑一色だったという場所だけに、花でどんな彩りがプラスされるのか期待が高まります。 北側に並ぶ日向の花壇(写真左)と、南側に並ぶ日陰の花壇。どちらの背後にもシラカシが列植されている。 コンテストガーデン区画(花壇)は、事務局にて既存地盤の上に盛土(厚さ40cm)を行い、土留め用の木材で囲った状態で引き渡しされました。基礎土壌は(上層20㎝が多孔質人工軽量土壌/下層10cmが黒土)が用いられていますが、ガーデナーは自身が表現したい植栽が健全に育つために、ガーデン制作時に土壌改良・施肥などをすることは可能です。 【ガーデン制作にあたり、デザイナーが踏まえておくこと】 ◼️ガーデンのテーマは「武蔵野の“くさはら”」とし、多年生植物をメインとしたガーデンを制作すること。◼️国内市場で流通している植物のみ使用可能(採取した植物は使用できません)。◼️主たる植物は多年生植物を使用。容易に制御が可能な、草本類に近い木本類は使用可能(全ての植物は高さ2m以内に限る)。◼️構造物やガーデンオーナメント等の設置は不可。植物のみで構成すること。 「第2回 東京パークガーデンアワード」【12月】第1回作庭 各ガーデナーの植え込みの様子をチェック。ガーデナーの経験値が頼りになる5者5様の土壌づくりにも注目を! コンテストガーデンAGrasses and Leaves, sometimes Flowers ~草と葉のガーデン〜 古橋 麻美さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:完熟堆肥(ガーデンプレミアムコンポ)、バーク堆肥排水確保:燻炭(ピノス)マルチング:杉皮バーク堆肥(ガーデンモス)元肥:有機肥料バットグアノ ◆土壌を整える◆ 土壌中の有機物を増やし微生物を活性化するために、バーク堆肥と完熟堆肥(ガーデンプレミアムコンポ)の2種類を混ぜながら耕す。 日向・日陰それぞれの花壇に水抜き穴を15カ所あけ、燻炭を入れる。 デザインに基づいて、溝や起伏を作る。 ◆植え付け◆ 苗を配置確認してから植える。 カマッシアやダッチアイリス、シラー、クロッカス、スイセンなどの球根を植え、グラス類以外の宿根草を植える場所に、有機元肥としてバットグアノを軽く混ぜ込む。 ◆マルチング&その他仕上げ◆ 左/杉皮バーク堆肥で全体にマルチングをする。右/植えつけた場所にそれぞれの植物名を書いたネームプレートを挿す。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 左/日向・日陰とも花壇の後方に剪定枝で形作ったバイオネストを設置。右/雑草や切り戻した植物は、溝部分にも混ぜ込んでいく予定。 切戻しなどで出た病気にかかっていない枝葉は、なるべく細かくしてマルチングとして利用します。もしくは後方にバイオネストを作り、夏の間堆積し発酵を促した後、土壌に漉き込みを行う予定です。雑草も同様で、一年草は後方へ堆積。宿根性の雑草(ヤブガラシ、ドクダミ、ササなど)が出てきた場合、根は処分したいと考えています。 コンテストガーデンB花鳥風月 命巡る草はら メイガーデンズ、柵山 直之さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:腐葉土、もみ殻燻炭、バーミキュライト、ピートモスマルチング材:腐葉土、一部に剪定生チップ溝に入れ込むもの:鉢底石元肥:発酵腐葉土ぼかし、一部に有機肥料バイオゴールド ◆土壌を整える◆ 左/トラックから荷物を降ろして、自身の区画に運ぶ。右/デザインに基づいてラインを引き、位置確認をする。 左/保水性・通気性を高めるための資材(腐葉土:微生物の餌でありミネラルの元となる、もみ殻燻炭:アルカリ性ミネラルで微生物の住処になる、ピートモス:酸性ミネラルを補う、バーミキュライト:保肥力を高める)を投入する。右/水を注いで排水状態を確認。 左/1㎡単位水糸を張り、デザインに基づいて溝や起伏をつける。右/土壌全体に発酵腐葉土ぼかしを混ぜる。 ◆植え付け◆ 左/苗を置いて全体のバランスを確認してから苗を植える。右/水はけのために、溝の端部を深く掘り、鉢底石を敷きこんだ。 植えた苗の間に、スイセン、原種チューリップ、ダッチアイリス、カマッシアなどの球根を植える。 ◆マルチング◆ 花壇全体の表面を腐葉土で覆う。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ・雑草や剪定残渣は粉砕し、マルチング材として花壇に使用する。 ・簡易なインセクトホテルを制作し、今後刈り取ったイネ科の茎を詰め込んだテントウムシの冬越し場所を設けたい。 コンテストガーデンC草原は、やがて森へ還る。 吉野 ひろきさん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:真砂土、バーク堆肥(炭入りコンパ)、竹炭、燻炭、もみがら、パーライト(ネニサンソ、ホワイトローム)マルチング材: バーク堆肥、落ち葉、杉皮樹皮バーク(しらさぎ難燃マルチバーク)溝に入れ込むもの:剪定枝葉竹、落ち葉、竹、稲藁、元肥:牛ふん、汚泥発酵肥料(タテヤマユーキ1号)、バークその他:プランツタグ、草花固定誘引ワイヤー ◆土壌を整える◆ 左/デザイン図に基づいて線を引いてから、起伏をつける。右/パサパサしている土壌の質を変えるため、関西で使われることが多くてやや重みのある真砂土、排水効果を高めるパーライト、団粒構造を作りながら維持するバーク堆肥、保水性や通気性を高めるもみ殻や燻炭を混ぜ込む。 左/溝に、空壁があって微生物が住み着きやすい竹炭を敷いてから樹木の枝を入れ込む。枝はモミジやカナメモチ、マキ、ウメなどで、これらを敷きつめることで空気や水が通りやすくなる。太さ・長さ・落葉性・常緑性にさまざまなタイプを投入することで腐食時間がまちまちになり、さまざまなバクテリアが発生しやすくなる。また、こうすることでこの溝に向かってまわりの植物の根が動き、土中環境を活性化させる。右/植え付ける場所に、肥料分として汚泥発酵肥料(タテヤマユーキ)、牛糞、バーク堆肥を混ぜる。 ◆植え付け◆ 配置図を確認しながら苗を配置し、1ポットずつ順に植え付ける。 原種チューリップやクロッカス、スイセンなどの小球根や大きめのアリウムの球根を、苗の合間に植える。 ◆マルチング◆ バークを敷きならしたのち、落ち葉、杉皮樹皮バーク(しらさぎ難燃マルチバーク)でカバーする。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ・ガーデン内の草花の各群落の間、地形の緩やかな起伏に合わせて、その間を縫うように深さ10~20cm、幅は10cm程度の溝を張り巡らせ、水や空気が通る道を作った。溝や穴には、主に有機物植物の枝葉が絡みつくように寝かせ、そこに落ち葉や竹炭、燻炭、微生物活性汚泥、バーク堆肥などを混ぜておく。こうすることで、ガーデン内の土壌の保水性・通気性・透水性を高め、土壌微生物の増殖をも促すので、植物の根系の成長が活性化されるものと考えている(作庭当初はこの溝が多少目立つが、やがて草花が覆い隠すので、気にならなくなる)。 ・メンテナンス時に発生した花がらや枯草、剪定枝、除草した草などは溝に漉き込むほか、落ち葉などとともにマルチング材としても再利用する。森の地面が落ち葉で深く覆われているように、表層を自然の野山と同じ状態にする。 ・発生有機物をすべてガーデン内で循環利用し、やがて土へ還り植物たちの栄養へと再び還元されるゼロエミッションな計画を考えている。 コンテストガーデンDfeeling garden ~伝え感じる武蔵野の新しい風景づくり~ 藤井宏海さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:腐葉土マルチング材:腐葉土元肥: 食品リサイクル有機質堆肥(ミラクルバイオ肥料FDS)、鶏糞有機発酵堆肥(アミノ有機)その他:樹名板(間伐材を加工した花名板を設置予定) ◆土壌を整える◆ 既存の土が肥性に優れた黒土と透水、通気性に優れた改良土(エコロベースソイルCAプラス)だったため、腐葉土を混ぜ込んで耕運機で耕うんして微生物の働きで団粒構造のあるフカフカな土にする。 黒土はリン酸が欠乏しやすそうなので、鶏糞を発酵させた有機発酵堆肥(アミノ有機)を耕運機でまんべんなく混ぜ込む。 水糸を張ってグリッドを作り、デザインに基づいて溝や盛り上がりを作る。グラス系の植物を植えこむ場所を盛り上げ通気性、排水性をよくする。花を植える部分には食品リサイクル有機質堆肥(ミラクルバイオ肥料FDS)を混ぜ込む。 ◆植え付け◆ 左/グリッドを生かして苗を配置し、植えていく。右/アリウム、チューリップ、オーニソガラムなどの球根を植え込む。 ◆マルチング◆ 武蔵野の黒土の色をイメージして、溝も含めて全体的に腐葉土で覆う。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ガーデン管理で出た剪定くずは、堆肥ヤードで堆肥化しマルチング材として活用し、ガーデン内で資源の循環を図る。微生物がより活発に活動がしやすい環境を作るために、枝や葉をヤード内に混合させる。 コンテストガーデンE武蔵野の“これから”の原風景 清水一史さん率いる作庭メンバーの皆さん。 ◆使用資材◆ 土壌改良材:完熟落ち葉堆肥(五段農園/岐阜県)、鹿沼土(刀川平和農園/栃木県)マルチング材:バーク堆肥(上田林業/滋賀県)、腐葉土(岡部産業/東京都) ◆土壌を整える◆ 左/既存の人工土壌と黒土の層が混ざり合うように、耕運機で念入りに耕してから均す。右/人工土壌がややアルカリ性なので、在来の野草がよく育つ弱酸性に傾けるために鹿沼土を一面に投入し、粒がつぶれないように軽く耕うん。 左/完熟落ち葉堆肥を最後に投入し、軽く攪拌、築山を造成していく。右/完熟した落ち葉堆肥(五段農園)。パッケージは培養土化した商品のもので中身は異なる。 ◆植え付け◆ 水糸を張ってグリットを作り、デザインに基づいて苗を植える。植物1種あたり0.5〜1.5㎡ほどをまとめて植えるブロックプランティングを採用。レイアウトを決めるマーキングにはスプレーなどを使わず、完熟落ち葉堆肥を線上に撒いて行った。 ◆マルチング◆ 目の細かなバーク堆肥を2cm、葉の形がやや残った腐葉土を2cm敷いた。土と植物の本来の姿を見届けるべく施肥は予定していない。 【植え付け完了】 ■日向(北側) ■日陰(南側) 【メンテナンス時の発生材について】 ・植物ゴミ等の現場発生資材を集めて、堆肥とするため“バイオネスト”を設置する。剪定した植物ゴミを投入、巡回時に天地返し。マルチング材として使用する”刈草堆肥”を作成する。 ・バイオネストに資材を投入し、巡回時に天地返しするだけでは“完熟”せずに雑菌や雑草種子、病原菌などの混入が懸念されるため、土壌への鋤きこみには使用せず、マルチングとして活用することを想定している。 ・将来的には、現場発生資材と神代植物公園内で発生する落ち葉を利用し、“完熟”落ち葉堆肥にするコンポストプログラムなども妄想し、ガーデンと公園で資源循環を実現できないかと考えている。 コンテストガーデンを見に行こう! Information 東京都・神代植物公園を舞台に行われている「第2回 東京パークガーデンアワード」。5人のガーデンデザイナーが日向と日陰のガーデンづくりにチャレンジし、趣の異なる10のガーデンを鑑賞することができます。いつでも自由に見学可能。日々表情を変えていくプロによる植栽を見に、ぜひ訪れてください。 都立神代植物公園(正門手前プロムナード[無料区域])所在地:東京都調布市深大寺元町5丁目31-10https://www.tokyo-park.or.jp/jindai/電話: 042-483-2300(神代植物公園サービスセンター)開園時間:9:30~17:00(入園は16:00まで)休園日:月曜日(月曜日が祝日の場合、翌日が休園日、年末年始12/29~翌年1/1)アクセス:京王線調布駅、JR中央線三鷹駅・吉祥寺駅からバス「神代植物公園前」下車すぐ。車の場合は、中央自動車道調布ICから約10分弱。
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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”③ 〜おすすめプランツ〜
適地適草でレイアウトを植物の性質を調べておこう 「the cloud」は西向きの庭で、背後は神宮の森がそびえて朝日がまったく当たらない。夏の太陽がもっとも厳しくなる左側のエリアは西日や乾燥に強い植物で、黄色やオレンジの花が咲くものが多い。高木の北側にあって日照時間が短い右側のエリアは、半日陰を好む日本の在来種で、ピンクや白の花が咲くものが多い。 ロングライフ・メンテナンス・フレンドリーを目標とした、今までにないガーデン制作を行っている吉谷さん。これまでの経験を活かし、高温多湿に耐えられる日本の在来種を取り入れているのもこのガーデンの特徴です。ただ、長生の植物はゆっくりと育つので、見応えと順応性が最終的に分かるのは3年後と考えて、作庭から1〜2年目は、華やかさが出る短命の宿根草や、初年度からたくさん花が咲く一年草も加えています。 上左/ややしっとりとしたエリアを彩る、ヒオウギとカラマグロスティス‘ゴールドタウ’ (7月)。上右/ベンチ+パーゴラ裏で視線が抜けるのをストップ。ルドベキア・マキシアとヒヨドリバナ(7月)。下/シードヘッドになったペンステモン‘ダコタバーガンディ’の銅葉が植栽に深みを与えつつ、引き締め役として活躍(11月)。 また、吉谷さんにとって丈夫で絶対確実な植物だけでなく、ヨーロッパなら大丈夫だけれど、ここではちょっとどうかな? というチャレンジングなものも入れています。 「全体の約2割がチャレンジプランツです。植物の魅力を知るには常にトライ&エラー。環境への順応は試してみないと分からないし、 ガーデニングは自然との共存について学べる大切なチャンスです。 失敗は決して無駄にはならないはず。いろいろと可能性を考えてトライしてみて」。 最大の合い言葉は「適地適草」まずは、植物の性質を調べておこう! 「植物のセレクトとその配置には理由があり、好きな植物をなんとなく植えてはダメ。簡単ではないかもしれないけれど、エコロジーとデザイン両面の適地適草を前提に、美を備えながら気候の変動にも耐えて長生、行儀のよい植物を見極めて」と吉谷さん。 美しい自然な風景を作るには、「植える場所の環境」と「植物の特性」を把握し、『RIGHT PLANT, RIGHT PLACE (適材適所・適地適草)』で花壇に落とし込むことが大切です。 【チェックポイント】 ・丈夫で風土環境に合っているか?(ただし侵略的でないこと)・四季を通して行儀がよいか?(暴れにくい、倒れにくい、花枯れ後の姿が汚くない・シードヘッドも魅力的であること) ① なるべく長期間生きて、その地に順応するか、花が咲くか?(翌年以降も持続して美しい草姿で、花が咲くこと)② 生物多様性、蜜源植物としても役立ち、病害虫に強いか?(命の循環、病害虫に侵されてもまあまあ復活できること。益虫もやってくるとよい) ふわっとして、エアリーなグラスや、蜜源花の代表、バーベナ・ボナリエンシス。その少し下で花後のアガパンサスやエキナセアのフォルムがアクセントに。その下方手前でアガパンサスの葉群やベンケイソウが植物の株元をしっかりガード/9月 ‘the cloud’で重宝した代表的な植物 36選 ガーデンでさまざまな役割を担った、メンバーの一部をご紹介します。ここで取り上げていない植物たちも、それぞれにいい役割を果たしています。 ■細い葉が魅力のグラス類 透け感抜群。軽やかな穂が風に揺れ、植栽の上部分(奥)で、表情豊かなナチュラル感を強めてくれます。 左/ディスカンプシア‘ゴールドタウ’ 中/ミューレンベルギア・カピラリス 右/パニカム‘ヘビーメタル’ 左/ディスカンプシア‘ゴールドタウ’イネ科草丈:約80cm特徴:穂の観賞期は初夏から。たくさん穂を上げ、細かい黄褐色となる。秋には穂が乾いて色が抜け始めるが、冬も楽しめる。ほかのグラスとは異なり多湿を好む。常緑~半常緑性。 中/ミューレンベルギア・カピラリスイネ科草丈:60~90cm特徴:夏~秋にかけて丈のあるピンクの花穂が大人気。初めはつややかだが、冬には色あせる。丈夫で大きく育つので根の張るスペースが必要。日照・風通し、根張りの場所が制限されると倒れやすく、花穂も上がりにくくなることも注意。 右/パニカム‘ヘビーメタル’イネ科草丈:約160cm特徴:葉がまっすぐに直立する姿はオーナメンタルな存在感がある。葉色は、夏まではメタリックなブルーグリーン、秋に上がる繊細な穂と葉は黄金色に変化して直立性も高い。 左/メリニス‘サバンナ’ 中/カラマグロスティス‘カールフォースター’ 右/カラマグロスティス・ブラキトリカ 左/メリニス‘サバンナ’イネ科草丈:約50cm特徴:ブルーグリーンの葉と秋に葉や穂が赤くなるのも魅力的。丈が高くならず、株もコンパクトにまとまるので狭小地でも楽しめるが、こぼれ種で増えるので、コントロールが多少必要なことも。 中/カラマグロスティス‘カールフォースター’イネ科草丈:100~150cm特徴:葉茎、穂が直立する、ナチュラリスティックガーデン代表のグラス。5月頃から上がるすっきりとしてスリムな穂が魅力。穂が出たあと徐々に黄金色に変わり、冬枯れの姿もオーナメンタルな趣がある。 左/カラマグロスティス・ブラキトリカイネ科草丈:約80cm特徴:日本名はノガリヤス。葉はグリーンで柔らかく扇状に弧を描く。羽根のように膨らむ穂は、はじめは明るいグリーンで徐々にシルバー~クリーム色へと移ろう。倒れにくく丈夫。 ■ボールドで頼りになるアガパンサス 巨大花からコンパクトものまで多種あるヒガンバナ科の球根植物。高温化の夏に負けない頼もしい植物で、‘the cloud’では8種類も植えています。美しい花を咲かせることに加え、常緑の葉が低い位置(花壇の手前)をがっしりカバーする役割も。 左/アガパンサス‘クイーンマム’ 中/アガパンサス‘サマーラブ’ 右/アガパンサス‘ポッピンパープル’ 左/アガパンサス‘クイーンマム’草丈:50~70cm花期:初夏特徴:超巨大多花性タイプで、白花を咲かせる花房は約25cmにもなる。ボリュームたっぷりに花をつけるので華やかな印象。 中/アガパンサス‘サマーラブ’ 草丈:約50cm花期:初夏~秋特徴:葉が細く花首がさほど伸びないコンパクトな品種。花色は白と青があり、春から秋まで咲く四季咲き性タイプ。 右/アガパンサス‘ポッピンパープル’草丈:30~60cm花期:初夏~初秋特徴:ほかの品種よりも株はコンパクトで半常緑性。花色は濃紫で花つきがよく、大人っぽい雰囲気が漂う。 ■日陰気味・湿り気味の場所を彩る植物 ほかの場所とは異なる、しっとりとした趣も出してくれます。 左/アネモネ‘アンドレア・アトキンソン’ 中/シュウメイギク‘パミナ’ 右/アスチルベ 左/アネモネ‘アンドレア・アトキンソン’キンポウゲ科草丈:80~120cm花期:夏~秋特徴:アネモネの仲間でシュウメイギク系のハイブリッド品種。純白の花を夏から秋と長期にわたり咲かせる。耐寒性は強く半日陰向き。土壌が肥沃すぎると徒長して倒伏する場合がある。 中/シュウメイギク‘パミナ’キンポウゲ科草丈:約80cm花期:秋特徴:華奢に見えるが花穂は高くならず、株はややコンパクトで倒れにくく丈夫。発色のよい濃いピンクの花は半八重咲き。 右/アスチルベユキノシタ科草丈:90〜120cm花期:初夏特徴:春に白やピンクの細かい花を穂状につける。夏以降に茶色く枯れた花穂をそのまま残しておくと、オーナメンタルな姿が楽しめる。 ■日本在来種、もしくは古くから親しまれてきた植物 日本の風土に合っていて、とにかく丈夫! 左/ミソハギ 中/オミナエシ 右/ヒヨドリバナ 左/ミソハギミソハギ科草丈:50~100cm花期:7~9月特徴:日本各地の湿原や田の畔などに生えている植物で、湿り気のある土地を好む。やや木質化する茎に、鮮やかなマゼンタピンクの花を穂状にたくさんつける。 中/オミナエシオミナエシ科草丈:60~100cm花期:8~9月特徴:秋の七草の一つで、黄色い小花を平らな散房状にたくさん咲かせる。低い場所で葉を広げるので、雑草が広がりにくい。 右/ヒヨドリバナキク科草丈:40~120cm花期:8~10月特徴:茎の上部の散房状花序に、白色または淡紅紫色の頭花を密につける。山地の林縁に多く自生。野趣にあふれる。 ■銅葉が美しいもの ダークな葉色がナチュラルな植栽をぐっと引き締めてくれます。 左/ベルゲニア‘ダークマージン’ 中/ペンステモン‘ハスカーレッド’ 右/ペンステモン‘ダコタバーガンディ’ 左/ベルゲニア‘ダークマージン’ユキノシタ科草丈:約40cm花期:春特徴:革のような質感で光沢のある厚い常緑葉。春~秋は葉縁に赤い縁取りが入り、晩秋以降は葉全体に赤みが濃くなる。花色はピンク。 中/ペンステモン‘ハスカーレッド’オオバコ科草丈:80~100cm花期:初夏特徴:ブロンズ色の葉がカラーリーフとして楽しめ、白花とのコントラストが魅力。春の芽吹きはより濃色で、花後は暗い緑色になる。タネもシックな印象。 右/ペンステモン‘ダコタバーガンディ’オオバコ科草丈:約60cm花期:初夏~秋特徴:光沢のある赤みがかったダークな葉に、濃ピンクがにじむ花をつける。ペンステモン‘ハスカーレッド’よりも葉が赤黒く、コンパクトな品種。 ■彩りが寂しい春先に毎年咲き続ける小球根 一度植えれば、毎年グラウンドカバーとしても活躍しながら、愛らしい花色で春の到来を告げてくれます。 左/イフェイオン‘アルバートキャスティロ’ 左/シラー・シビリカ 右/スイセン‘テタテート’ 左/イフェイオン‘アルバートキャスティロ’ユリ科草丈:10~20cm花期:早春特徴:可憐な白い星形の花をいっぱいに咲かせる。植えっぱなし可能でグラウンドカバーにも最適。細い青々とした葉は初冬から展開して花後に休眠し、地上部は枯れる。 左/シラー・シビリカユリ科草丈:10~15cm花期:早春特徴:ベルのように下垂した花は非常に可憐で房状に咲く。花色は白と青紫。緑の細い葉は開花前に展開する。 右/スイセン‘テタテート’ユリ科草丈:20cm花期:早春特徴:鮮やかな黄色の愛らしい花を咲かせるコンパクトなスイセン。早春の植栽ににぎやかさを与えてくれる。 ■シードヘッドが楽しめるもの ユニークな造形が、秋の風情を深めてくれます。 左/エキナセア‘マグナススーペリア’ 中/ヒオウギ 右/ルドベキア‘リトルヘンリー’ 左/エキナセア‘マグナススーペリア’キク科草丈:60~150cm花期:初夏~初秋特徴:ライラックピンクの花弁×赤い花心の組み合わせが鮮やか。花径が大きく、夏の植栽に元気な存在感を与えてくれる。花心が乾いて残る。 中/ヒオウギアヤメ科草丈:40~100cm特徴: 夏特長:夏の花も扇形に立ち上がる葉姿も、どちらも美しい。また、秋に風船のような種袋ができ、それが割れると中から真っ黒なタネが現れるところも非常に魅力的。万葉の昔はそれを‘ぬばたま’と呼んだ。 右/ルドベキア‘リトルヘンリー’キク科草丈:60~90cm花期:初夏~夏特徴:筒状の細長い花弁がユニークで、茶色い花心とのコントラストが愛らしい。半日陰でも咲く丈夫な小型種。蝶を呼ぶ。 ■オーナメンタルに花が楽しめる球根 細い柄に花房がつき、風に揺れる浮遊感も楽しめます。 左/アリウム‘パープルレイン’ 中/アリウム・シューベルティー 右/トリテレイア‘シルバークイーン’ 左/アリウム‘パープルレイン’ネギ科草丈:約60cm花期:春特徴:鮮やかな赤紫の星形の花を放射状につける、植えっぱなし可能な丈夫なアリウム。早咲き種。 中/アリウム・シューベルティーネギ科草丈:30~50cm花期: 初夏特徴:ネギ坊主が花火のようにパッと広がる巨大輪のピンクのアリウム。放射状に広がる花柄はそのままの形で乾いて残る。 右/トリテレイア‘シルバークイーン’ ユリ科草丈:30~40cm花期:初夏特徴:針金のように細い茎に、ラッパ形の白い花をたくさん咲かせる。掘り上げなくても毎年植えっぱなしでよく開花する。 ■暑さと干ばつにも強いストレスフリーな宿根草 昨今の酷暑を乗り越える性質を備えながら見応えがある頼もしい種類です。 左/アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’ 中/アリウム‘サマービューティー’ 右/セダム(ハイロテレフィニューム)‘オータムジョイ’ 左/アガスターシェ‘ブルーフォーチュン’シソ科草丈:約80cm花期: 夏~秋特徴:シソの穂を細かくしたような花穂をたくさん上げ、淡いブルーの花を長期にわたり咲かせる。花後は花穂がシードヘッドになり、秋から冬の間も見応えたっぷり。 中/アリウム‘サマービューティー’ネギ科草丈:20~40cm花期:夏特徴:小型のアリウムで、球形・ピンク色の花をつける姿はチャイブに似ている。厚めの葉をたくさん展開し、グラスのよう。暑さに強い。 右/セダム(ハイロテレフィニューム)‘オータムジョイ’ ベンケイソウ科草丈:30~60cm花期:晩夏~秋特徴:丈夫な茎が立ち上がり、多肉質な葉を広げながらこんもりと育つ。花はピンクからローズピンクに移ろい美しい。ほぼ水やりは要らず、肥えていない土=貧しい栄養環境だとうまく育つ。また、西日の厳しい場所に植えるのに向いているが、少し湿り気があるところだと巣蛾(すが)でダメージを受ける場合がある。 ■グラウンドカバーで活躍する宿根草 表土を隠し、雑草防止や乾燥予防に役立ちます。 左/セラトスティグマ 中/エリゲロン・カルビンスキアヌス 右/リッピア・カネスケンス 左/セラトスティグマ(ルリマツリモドキ)イソマツ科草丈:30~60cm花期:夏~秋特徴:1~2cmのコバルトブルーの花が次々と長い間咲き続け、茎葉をこんもりと密生させながら、株は横に広がるように成長する。秋には紅葉も楽しめる。 中/エリゲロン・カルビンスキアヌスキク科草丈:10~30cm花期:春~秋特徴:小輪多花性で、長期間咲き続ける。咲き始めは花弁が白く徐々に赤みを帯びていくので、2色咲いているように見える。性質も強い。 右/リッピア・カネスケンスクマツヅラ科草丈:10~30cm花期:春~秋特徴:地面を這うように成長して広がり、各節から根を根付かせながら密に地面を覆う。また、白やピンク色の花を次々に咲かせる。 ■ふわりと間をつないでくれる一年草(一年草扱いの宿根草) 一年草や短命な宿根草は、春の庭に早くから花を咲かせます、成長が早く、しかもこぼれ種で増えるので、侵略的ではないタイプを選んで(オルラヤなどは増えすぎた場合のコントロールが大変なので場所を選ぶとよい)。 左/ニゲラ・ダマスケナ 中/セントランサス・コキネウス アルバ 右/バーベナ・ボナリエンシス 左/ニゲラ・ダマスケナキンポウゲ科(一年草)草丈:40~90cm花期:春特徴:白や青、ピンクなどの花弁のような萼片も、ふわふわとした糸状の葉も花後の風船形のシードヘッドも魅力的。一年草ながら開花前から開花後まで見頃が長い。こぼれ種から出る糸葉の新芽は雑草との見分けがつきやすいので、コントロールがしやすい。 中/セントランサス・コキネウス アルバオミナエシ科(一年草扱いの宿根草)草丈:約60cm花期:春特徴:ベニカノコソウの白花種で小花が集まって咲く。花つきが非常によく、こんもりと茂ると見応えたっぷり。宿根草で、環境に合えば温暖地の場合は常緑で冬越しする。短命だがこぼれ種で増える。 右/バーベナ・ボナリエンシスクマツヅラ科(一年草扱いの宿根草)草丈:70~100cm花期:初夏~秋特徴:強健で自立性が高く細長い茎が分岐した先に、紫の小花を咲かせる。昆虫たちにも人気が高くタネもできやすいので、適度に軽めの剪定をして、花を長く咲かせながら株の状態を保つとよい。日当たりがよく、少し乾き気味な環境を好み、条件が合えばこぼれ種でよく増える。冬越しした株は翌年も開花する。 『ガーデン・メリット』がある植物を選ぶ意味 「“花の美しさや愛らしさ”はガーデンプランツを選ぶ上で重要な選択肢となりますが、それにプラスして、芽出しの時期から枯れるまで、ずっと庭景色に魅力を与えてくれる『ガーデン・メリット』がある植物を選ぶことも大切です。 それを見極めるには、一度やってみる。失敗しながらも発見を楽しむ。“トライ&エラー”の精神で挑んでください。年を追うごとに経験値を積んでいけば、人生はきっと充実するはず。エコロジーにあった、強く美しい植物の存在を知ることは、私たちの心を癒やし、人生を豊かにしてくれる“庭”の可能性を広げてくれますよ」と吉谷さん。 連載4回目となる次回は、「ガーデン環境整備」についてご紹介します。
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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”②〜植栽デザイン〜
役割が決まっていれば配置しやすい! 吉谷式デザインメソッド 雲形の花壇の中に、四季を通して見応えのある『マルチプランティング』がなされている。 ■吉谷式メソッド1 自然な植栽に見せる■ ここの花壇は直線的ではありませんが、縁どりから60~90cmの幅、手前のボーダー(帯状)植栽エリア、それより花壇中央寄りの内側はマス(集合)植栽に分けられており、基本的にボーダーエリアには確実に元気に育つ植物、内側にトライアルな植物を植えています。 実際の植栽前に描いていた卓上のプランから、実際の植物の様子次第で変更も出て、描き足している。 それは、もしトライアルで植えた植物が倒れたり調子が悪くなったりしても、外側の強健な植物が確実に茂ることでカバーしてくれるから。また、花がら摘みが必要なものは手前、不要なものは奥に配してとお手入れを楽にしたのもポイントです。苗は3ポットを基本のトライアングル(三角)で連続的に植え、連鎖性(つながり)を持たせることで、自然に見えながら散らかって見えないように整然とした秩序を保っていることが植栽デザインのポイントになります。 花壇の外側は、常緑性の強健な植物がボーダー状に植えられている/2月 ■吉谷式メソッド2 安定感を生み出す■ 「ガーデンデザインは、劇場の舞台デザインがヒント」と、かつて広告美術などを手掛けていた吉谷さん。舞台では場面場面の展開があり、「床をダークで重い色に、天井は明るく軽い色にすることで軽重のバランスを取る。手前のものを大きく、奥を小さくすることで遠近感を出す」などを意識することで、景色に安定感が生まれます。これらが逆になると、景色が不自然でバランスも不安定に。ガーデンデザインも同様で、この基本を押さえて環境に合った植物を組み立てれば、景色が作りやすくなります。 植栽の下側はアガパンサスでがっしり、上側はカラマグロスティスやバーベナ・ボナリエンシスで軽くふんわりとさせて、安定感のある景色を作り出している。 【Keyword】 ■下(花壇手前):Bold・がっつり・重め 風景の下方となる花壇の手前:丈夫でしっかりとした形・質感をもつ重い印象の植物を植える。 ■上(花壇奥):Transparency・ライト・軽め風景の上方となる花壇の奥:丈のある軽やかな植物を植える。 これは軽重のバランスと遠近感を具体的に表したもので、風景の下となる花壇の手前には、しっかりとした形・質感で重い印象かつ丈夫な植物を植えます。西日や乾燥に強い『がっつり重い印象』の肉厚な葉っぱの常緑植物がおすすめ。それに対し、風景の上側となる花壇の奥には、丈があっても軽やかな植物を植えます。『ふわふわとした印象』のグラス類などがおすすめです。 こうすることで、がっつりプランツがふんわりプランツの株元を西日から守ったり、支えたりするほか、手前がはっきり・後ろがふわふわとすることで視覚的な遠近感や豊かな表情を生み出し、絵画的ともいえるランドスケープが作りやすくなります。 【がっつり・重め代表】アガパンサス、ベルゲニア、オランダセダム(オオベンケイソウ)など比較的、多肉質な葉の宿根草 【ライト・軽め代表】グラス類、シュウメイギク、バーベナ・ボナリエンシスなど比較的、背が高くて風に揺れる細長い宿根草 ■吉谷式メソッド3 植物を建築的、彫刻的に使いこなす■ 植栽は、植物の異なる色・形・質感の組み合わせの連続です。隣り合う植物は似たもの同士にならないように注意し、互いに引き立て合うものを選びます。同じようなものを並べると、ガチャガチャ散らかったように見えてしまいます。 ふわふわしたものとカチッとしたもの、また、点・線・面とさまざまなフォルムの植物を組み合わせたりすることで、「絵画的」な風景が描けます。「Using plants as an architecture(植物を建築のように扱う)」というイギリスのガーデンデザイナーの言葉が大きなヒントです。 青紫~ライトグリーンのグラデーションが幻想的なワンシーン。エリンジウム‘ブルーグリッター’などのトゲトゲとした花や、ルドベキア・マキシマの浮遊感のある細い花茎がシーンの印象を深めて/6月 まずは、フォルム・役割を考える ・アクセントプランツ……目を引いてアクセントになる植物(エキナセア、大型花のルドベキアやアリウムなど) ・フィリングプランツ……細かい花穂や葉群、間をつなぐ植物(アスター、グラスの穂など)ディスカンプシアなどのグラス類、ニゲラなど) *フィリングプランツは、アクセントプランツの間をつなぐだけでなくバックスクリーンにもなるが、背の高いグラス類は、その背景でスクリーンプランツとなる。 ・スパイクプランツ……尖った花穂などが縦の線を描き、シャープな印象を与える植物(リアトリス、アスチルベなど) ・線を描くプランツ……ラインを描き、動きや伸びやかさを与える植物(グラス類など) ・点を描くプランツ……ドットを作りリズムを生む植物(アリウムの花穂、ストケシアなど) ・面を描くプランツ……葉の面積が広く、落ち着きをもたらす植物(ベルゲニアなど) ふわふわと広がるニゲラの奥にアリウム‘パープルレイン’の丸い花穂がプカプカと浮かぶ、愛らしい風景/5月 直線的なヒオウギの葉と曲線を描くディスカンプシア ‘ゴールドタウ’の絵画的競演/9月 ■吉谷式メソッド4 レイヤーで魅せる■ 園路は風通しを確保するため、最低1.2~1.4mの幅が取られています。広すぎないほうが感覚的な親密さを感じられ、さらに目の高さに花があると五感に迫ってきます。植物が出しているエネルギーや香りなどが、見る人の感覚に訴えてくるのです。また、「the cloud」の花壇は雲形で入り組んでいるので、囲まれ感・包まれ感もたっぷり。没入感を楽しみながら落ち着きも感じられます。 ペンステモン‘ハスカーレッド’のシードヘッドの造形が、透明感のあるミューレンベルギア・カピラリスに浮かび上がっている/10月 そこで必要なのが「植栽をレイヤーで魅せる技」。手前とその後ろに来るものをどのように重ねるのか、植物が成長する前からデザインの計算をします。例えば、傘状に咲くアンジェリカや尖塔状のアスチルベの花穂を透かして見せるエアリーなグラスなど、横からの風景にも気を配っています。 植物越しに吉谷さんを撮影したスナップ。アリウム‘パープルレイン’やセントランサス・コキネウスなどの中に、吉谷さんが浮かび上がっているように撮れている。 「記念写真を撮るときに植物を背景にするのもいいけれど、植物越しに人物が写るようにアングルを選ぶと、草花と一体感のある写真が撮れます。あちこちに撮影映えスポットを設けているんですよ」と吉谷さん。 人と植物が重なる風景までも考えられています。 “美しい庭をデザインする”ために 紫がかるアンジェリカ ‘ビカースミード’のシックな花房、手前下はアスチルベ、その背景にグラスのエアリーな穂、紫の反対色となるヒオウギの黄色い花などが、重層的な風景を織り成している/7月 美しいガーデンをつくるには、植物の生態や個性を識った上で、色・形・質感の違いや醸す印象を見極め、それをどう組み合わせて活かせるかを考えることが大切です。吉谷さんは、「the cloud」で使うプランツリストに、それぞれの特徴や役割も書き込み、偏りがないかなどを確認しながらデザインをしています。 「移ろう季節と気候が景色を変えていく。『庭をデザインするということは植物を絵の具にして絵画を描くこと』と、英国の作庭家、ガートルード・ジーキル氏は言っています。100年前のジーキルの時代には想像もできなかった気候変動の中で、この考えは普遍です」。 ぜひ、吉谷さんのメソッドを庭づくりの参考にしてください。次回のテーマは、丈夫で活躍してくれる『おすすめプランツ』です。
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吉谷桂子さんのガーデン「the cloud」から学ぶ“ナチュラリスティックな庭づくり”① 〜1年の移り変わり〜
吉谷さんが牽引する「宿根草を中心に考えた植栽による21世紀のガーデンづくり」大々的にスタート! 「the cloud」が作られたのは、JR山手線「原宿」駅から徒歩3分の「都立代々木公園」の中。原宿門から入ってすぐ右手の「オリンピック記念宿舎前広場」の右側にあります。 「東京パークガーデンアワード」は、「持続可能(サステナブル)なガーデンへの配慮がなされているか」「メンテナンスしやすいか」を考慮することが条件となっている画期的なコンテスト。モデルガーデンである「the cloud」も同様に、宿根草をメインに植栽設計がされました。ハイメンテナンス、ハイインプットになりがちな“花の満開時が見どころ”の観光ガーデンとは大きく趣旨が異なります。 光や風を感じさせる軽やかな植栽/10月 持続可能で新たな宿根草の世界に触れることができる『New Prennial Plants Movement(新宿根草主義)』。植物の植生の仕組みを理解した上で、自然の風景を手本とするこのスタイルは、特にオランダのピート・アウドルフ氏による「ナチュラリスティックガーデン」により近年注目されるようになり、欧米で主流になっています。 そしてこれが今、地球沸騰ともいわれる気候変動などを抱えた私たちを癒やしてくれる新たなソリューションとして大いに期待されています。 「干ばつがひどいイギリスでもサステナブル、エコフレンドリーであることが主流となっていますが、植物は丈夫で長もちであることが核ですね」 広い公園の中でぷかぷかと浮かぶように広がる「the cloud」。 けれど、長もちの植物を集めただけではなく、アートフォルム(デザイン性)もなくてはと吉谷さん。 「ここ代々木が、アウドルフさんが手がけたニューヨークにある高架線路跡をリノベーションした公園『ハイライン』のようになればと思っています。映える場所が好きな若い人たちや洗練された大人、そして子どもたち皆が楽しめる場所を目指しています。レアな植物が植わっていなくてもいいんです。来るのが楽しみになるガーデンになれば」 花も満開だけに注力しない、芽出しから枯れるまでのプロセスが楽しめる植栽となっています。 「the cloud」と名付けられた理由とこの形になった理由 ユニークな形をしている花壇ですが、これは吉谷さんがこの場所に初めて立ったとき、夏空に浮かぶ雲や背景の明治神宮に広がるモクモクとした森を見て、直感的に‘雲’と連想したもの。ガーデンデザインは、背景と庭が調和して一体化することを目標としていることからも、ぴったりだったと言います。 くねくねと入り組んだ形は、植物をいろいろな角度からよく観賞できるほか、手入れもしやすいという利点があります。 花が少なくても、青々と柔らかい葉が美しい植栽/3月 【ナチュラリスティックガーデン「the cloud」の6つのメソッド】 1. 自然な雰囲気、季節ごとの変化を感じられる庭。エコロジカルな機能性にデザインの創造性を感じさせるデザインですが、基本的にローメンテナンスを目指した設計です。 秋に透明感のある彩りを添えるシュウメイギクは、ヨーロッパでも注目されている。吉谷さんが自宅の庭でもずっと育てている丈夫な長生きプランツ/11月 2. 生物多様性に柔軟な植物構成(農薬不使用、チョウの好む品種などを中心にして昆虫も共存)。 チヨウやハチを呼ぶ蜜源植物、バーベナ・ボナリエンシスなどが選ばれている/7月 3. ローインプット(丈夫で長生きな宿根草や球根植物を選び、季節ごとの植え替えをせず、主に植えっぱなしの宿根草で、異なる季節の花の開花があること)を目指しています。 眺めの統一感のため、初夏から秋にかけて、下方では肉厚な葉、上に行くに従って軽やかで透明感のある植物を選んでいる/11月 4. 猛暑・大雨、逆に雨が降らず極度な乾燥の冬にも耐えうる植物の選択。対処し得る花壇の構造を設計し、21世紀の日本における存続可能な草花選び(日本原産や身近な植物にも着目)をしています。同時に装飾性も感じられる庭。庭の一部には写真映えするスポットがあり注目の草花が咲くことにも配慮していますが、それは、桜の頃やゴールデンウィーク、夏休みといった集客時期に合わせた開花品種を選んでいます。冬の枯れ姿も味わいある眺めとしたい。 左:紫と白のアガパンサスが群れ咲く。アガパンサスは、暑さや乾燥にも強く、東京なら冬も常緑で病害虫の心配もない持続可能な宿根草/7月 右:花後の花茎もオーナメンタルに楽しめるように、タネを取り除き茎を残した、夏以降のアガパンサス。 5. 宿根草により完成された根張りの植物コミュニティを形成(雑草が生えにくくなる)するには、通常3年ほどかかりますが、期間が限定されるため、初年度はなるべく土の余白を残さず、雑草の入り込む余地を与えないためと、ある程度の華やかさを補足するため、まめな花がら摘みを必要としない一年草も設計に加えています。 左:雑草防止のグラウンドカバーとして植栽されたニゲラ。雑草との見分けのつきやすい葉の品種を選んでいる/1月 右:低く伸び花後のタネも景色の一部になった/5月 6. モデルガーデン「the cloud」は、地面から10〜30cm上げたレイズドベッド(盛り土花壇)であり、水はけや風通しを確保しながら、草丈の低い植物の見栄えもよい構造です。また、花壇に個性を与えるために雲海のような膨らみの強弱のあるデザインになっていますが、これは一般のボランティアスタッフにとっても、作業・維持管理がしやすいよう配慮されたもの。花壇の幅は浅く、土に踏み込まなくても手入れがしやすい形なのです。 植え付け当初。花壇の縁がくっきりと見えていた/12月 【「the cloud」の植栽プラン】 植えられた植物数 宿根草:100種類、3,615株 球根:9種類、9,350球 東側に明治神宮の森、西側に野原が広がる代々木公園の隅に位置する「the cloud」。約40×15mの敷地の中にモクモクとした雲形の花壇が7つ設けられ、吉谷さん厳選の植物たちが配植されました。アートフォーム(デザイン性)がありつつ公園や明治神宮の森に調和し、四季折々の楽しみを提供するような植栽設計となっています。 モデルガーデン「the cloud」の初年度12カ月 【冬】例年どおりの気温で、積もる降雪はなし 11月 植え付け当日。著名なガーデンデザイナーなどメンバー8人の力を借りて、4日間で施工。土壌改良(連載第4回参照)、アイアンの仕切りを設置した後、数千株の苗を植栽。球根を植えたところに棒を立てて目印をつけている。 2月 植え込みから2カ月経ったが、まだまだ大きな変化は見られない。寒さにあたってアガパンサスの葉が黄色く、ベルゲニアが赤くなっているが、どれも順調に元気に育っている。小さな黄色いスイセン‘テタテート’が咲き始めた。 【春】例年どおりの気温、降雨 3月 まだまだ色彩の寂しい植栽に、黄色いスイセン‘テタテート’とイフェイオン‘アルバートキャスティロ’が愛らしい彩りをプラス。 4月 イフェイオンは、全部でなんと5,000球。丈夫で冬の干ばつにも耐え毎年よく花をつける小球根を植えることで、花の少ない時期の花壇がにぎやかになる。 5月 まぶしい新緑の花壇の中で、アリウム‘パープルレイン’の花穂がファンタジックな風景を描いている。 【夏】梅雨がほとんどなく、かつてない酷暑・干ばつに加え、突発的なゲリラ豪雨が数回あり 6月 ストケシアやモナルダなどが咲き始め、にぎやかさが増してきた。 7月 全体的に緑が深くなってきて、あちこちに植えたアガパンサスが満開に。 8月 干ばつのような暑さのなかでも元気に育つ、生命力あふれるたくましいガーデン。背が高くなる宿根草も少なくないが、頭が重くならず向こうが透けて見えるような品種を選んでいる。 【秋】いつまでも気温が高かったが、10月末に冬日となる日が数日あり。夏からずっと台風の到来はなし 9月 さまざまなグラスの穂が、それまでとは異なる趣を見せ始めた。 10月 秋風に揺れる、暑さを乗り越えたたくましい植物たち。 11月 晩秋はミューレンベルギア・カピラリスがピンク色に。銅葉のペンステモンもアクセントに。 「the cloud」作庭から1年を経て 吉谷さんならではの緻密な計算と抜群のセンスがぎっしりと詰め込まれた「the cloud」。 「春先の気温が高かったため、1年で予想以上に大きく育ち慌てる場面もありましたが、ライトプランツ・ライトプレイス、適地適草を見極めて、来春はもっと安定的に宿根草が楽しめるようにしていきたいです」と吉谷さん。 次回は、この美しい風景づくりに用いられた、吉谷さんによる『植栽デザイン』についてご紹介します。