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フランス
世界の庭に見る、花の植え方の違いと各国の特徴【世界のガーデンを探る20】
各国の特徴が現れるガーデン植栽 前回まではヨーロッパの庭の遍歴を見てきました。メソポタミアからイスラムの庭、イタリアルネッサンスからフランスの貴族の庭、そしてドーバー海峡を渡ってイギリスのブルジョアジーの庭まで、主に庭のスタイルが中心でした。今回は少し視点を変えて、植物の使い方を中心に歴史を探ってみましょう。 イスラムの庭 ・スペイン「アルハンブラ宮殿」【世界のガーデンを探る旅1】 イタリアルネッサンスの庭 ・イタリア「チボリ公園」【世界のガーデンを探る旅2】 ・イタリア「ボッロメオ宮殿」【世界のガーデンを探る旅3】 ・これぞイタリアの色づかい「ヴィラ・ターラント」【世界のガーデンを探る旅4】 ・イタリア式庭園の特徴が凝縮された「ヴィラ・カルロッタ」【世界のガーデンを探る旅5】 フランス貴族の庭 ・フランス「ヴェルサイユ宮殿」デザイン編【世界のガーデンを探る旅6】 ・フランス「ヴェルサイユ宮殿」の花壇編【世界のガーデンを探る旅7】 ・フランス「リュクサンブール宮殿」の花壇【世界のガーデンを探る旅8】 イギリスのブルジョワジーの庭 ・イギリス「ハンプトン・コート宮殿」の庭【世界のガーデンを探る旅11】 ・イギリス「ペンズハースト・プレイス・アンド・ガーデンズ」の庭【世界のガーデンを探る旅12】 ・イギリスに現存する歴史あるイタリア式庭園【世界のガーデンを探る旅13】 ・イギリス発祥の庭デザイン「ノットガーデン」【世界のガーデンを探る旅14】 ・イングリッシュガーデン以前の17世紀の庭デザイン【世界のガーデンを探る旅15】 ・プラントハンターの時代の庭【世界のガーデンを探る旅16】 ・イングランド式庭園の初期の最高傑作「ローシャム・パーク」【世界のガーデンを探る旅17】 ・世界遺産にも登録された時代の中心地「ブレナム宮殿」【世界のガーデンを探る18】 ・現在のイングリッシュガーデンのイメージを作った庭「ヘスタークーム」【世界のガーデンを探る19】 上に挙げた4枚の写真は、現代の各国それぞれの特徴的な庭の写真です。庭がつくられた当時は、地球も今よりはもっと寒かっただろうし、植えられていた植物もこんなに派手ではなかったろうと思います。現在植えられている植物は、品種改良された園芸品種がほとんど。また、それぞれの庭のガーデナーが自分の好みにアレンジしているかもしれません。そのような時代による変遷も考えながら、植栽に注目して庭の歴史を感じ、つくられた当時の庭の植栽に思いをはせてみるのもまた面白いものです。 それでは、各国のガーデンと植栽を見ていきましょう。今回はスペイン、イタリア、そしてフランスの庭に見る、各国の植栽の特徴をご紹介します。 <スペイン> 水を主役に構成されたアラブの庭 アルハンブラ宮殿ができた時代は、もちろんプラントハンターが世界中にいろいろな植物を求めて世界の隅々まで出かけていった時代よりもはるかに前だったので、つくられた当時の庭は、おそらく今よりももっと地味だったのでしょう。もともとアルハンブラ宮殿の庭の主役は、植物よりも水のように感じられます。それは、遠く西アジアの乾燥地帯から乾燥した北アフリカを経由して、この地にやってきたイスラムの人たちの、豊かな水への憧れが強く表れているのではないでしょうか。 右から大きく枝垂れているのはブーゲンビレア、噴水の両側に植えられているのはバラです。 この庭では豊かな緑と水とのコントラストが見事に強調されていますが、植栽面ではこれといった特徴は見受けられません。基本は地中海性の乾燥した気候に合ったコニファーや常緑低木類がいまだに多く使われていて、ある程度は当時の姿をしのばせてくれています。 <イタリア> 世界の富が集まったイタリアルネッサンスの庭 イタリアの庭は、写真でも見られるようにはっきりとした色使いが特徴です。 特にイタリアンレッドとも呼ばれるビビッドな赤が印象的です。サルビアやケイトウ、ゼラニウムの赤が目を引きますが、もちろんこの庭ができた時代には新大陸からの花々はまだヨーロッパには紹介されていませんでした。したがって、つくられた当時にどのような花が植わっていたのかはとても興味深いものの、今はそれを知るすべもありません。 湖と空の青をバックに、ベゴニアとスタンダード仕立ての白バラがセレブな雰囲気を醸し出しています。 個人の住宅のベランダにも、プランターからあふれんばかりのペチュニアが咲き誇っています。これほど立派なハンギングは、他ではなかなか見ることができません。きっと丹精込めて管理されているのだと思います。抜けるような青空を背景にした原色系の色合いは、いかにもイタリア人好みです。 街の中も、とってもオシャレな雰囲気です。 <フランス> いまだにモネの色合いが色濃く残る配色 フランスには今でも印象派、特に植物が大好きだったモネの影響が色濃く残っています。 ヴェルサイユ宮殿の花壇。デルフィニウムのブルーが効果的に全体を引き締めています。その中に小型の赤のダリアを入れて、はっきりした組み合わせになっています。 フランスの花の植え方の特徴は、いくつもの異なる種類の植物を混ぜ合わせることです。いろいろな植物を組み合わせることにより、優しい色合いを作り出しています。 重厚なヴェルサイユ宮殿を背景に、少し高すぎるツゲヘッジ(生け垣)の中には、白のマーガレットやクレオメ、セージ、ルドベキア、ガウラなどが混植されています。 広々としたフランス式毛氈花壇。 イタリアでは見られなかった、優しいパステル調の組み合わせです。 イタリアでも使われていた赤と黄色の組み合わせでも、フランス人の手にかかると落ち着いた色になってしまいます。 このような混植花壇は他の国では見たことがありません。フランス恐るべし! ただただ感心するばかりです。 花壇では混ぜ合わせるのにとても難しい、自己主張の強いマリーゴールドも、オレンジと薄黄色を混ぜ合わせることで優しい色合いになっています。中心に背の高いブルーのサルビアを入れることにより、立体的な植栽にもなっています。そして1ピッチごとに銅葉のヒマ‘ニュージーランドパープル’を入れてボリュームをつくっています。 優しくカーブする園路に合わせ、背丈の低い花壇が両側につくられています。ここではピンクのペチュニアを中心に、オレンジのジニアや濃緋色のコリウス、ヘリオトロープなどを混ぜ合わせることで、浮いてしまいそうなピンクのペチュニアとの素敵なコンビネーションをつくっています。 写真では分かりにくいかもしれませんが、ランダムに混色されているように見える花壇も、数メートルごとのピッチで植えられています。どのようにして植物の組み合わせを決定し、植え方を決めるのかは分かりませんが、そのムダもなく他では見ることのできない混植方法には、ただ驚くばかりです。このようにさまざまな花色やテクスチャーの違う植物を混ぜ合わせることで、独特な印象派の雰囲気をつくっていると感じるのは僕だけではないはずです。 今回は、イスラムからイタリア、そしてフランスと、ヨーロッパ諸国の花や植物の植え方を見てきました。次回はイングリッシュガーデンの本場イギリス。ジーキル女史からチェルシーフラワーショウまでの現代の花の植え方と、僕の植え方について話をしていきたいと思います。
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イタリア
イタリア式庭園の特徴が凝縮された「ヴィラ・カルロッタ」【世界のガーデンを探る旅5】
イタリア式庭園の特徴をすべて備えた「ヴィラ・カルロッタ」 北イタリアの庭園巡りも、いよいよこの庭が最後になります。イタリア式庭園の特徴であるテラス状になった植栽帯や、豊富な水と巧みな高低差を使った噴水、そして大理石彫刻の見事さ。さらには、どこにも負けない鮮やかな花の色。そのすべてが見られるのが「ヴィラ・カルロッタ」の庭です。 コモ湖を望むこのヴィラは、湖畔の入り口から正面を見上げると、フォーマルな佇まいの噴水と花壇の向こうにそびえ立つ白亜の邸宅が、緑の山を背景に威厳をたたえて我々訪問者を見下ろしているかのようです。 カルロッタ邸の歴史に関わった貴族たち ここは元々16世紀に絹貿易で財産を築いたクラリチ一族(Clerici family)のものでした。17世紀にミラノの銀行家ジョルジョー・クラリチ伯爵(Giorgio Clerici)の別荘として今の姿になり、その後19世紀にナポレオンの友人のジャン・バチスタ・ソンマリーヴァ伯爵(Gian Battista Sommariva)の手に渡り、庭を改修したり美術品を蒐集するなどしました。その後、この邸宅の名称になっているカルロッタの母親、マリアンネ公爵夫人の手に渡り、夫人の夫が広大な敷地内に植物園をつくりました。そして、結婚祝いに、このヴィラが娘のカルロッタにプレゼントされ、カルロッタ邸となったのです。この素晴らしいヴィラを贈られたカルロッタは、なんと23歳の若さで亡くなってしまいました。 何代もオーナーが変わりながら、7ヘクタールもの敷地の中には、カルロッタの父が世界中から集めた植物により植物園になったのですが、特に、日本のツツジやシャクナゲ、ツバキのコレクションは有名で、日本を思わせる竹林もあります。また、邸宅の中には数々の美術品も収蔵されていますが、なかでも、「ロミオとジュリエットの最後のキス」と題された18世紀末のロマン主義画家による作品が、近くの窓から見える湖の風景とも調和し、訪れる人にため息をつかせます。現在は、カルロッタ財団により運営、一般公開され、世界中から観光客が訪れています。 カルロッタ邸の敷地内をご案内します 外から見ると敷地内に高低差があることをあまり感じませんが、一歩中に入ると、前庭には十分な奥行きと広がりがあり、知らず知らずのうちに建物の足下までたどり着きます。そこから見上げるヴィラは白くそびえ立ち、その建物と庭の配置のすばらしい演出効果で、気がついた時は庭の中に吸い込まれているのです。 前庭から最上階のテラスまで登る左右対称につくられた階段には、白い大理石に映えるベゴニアとつるバラが咲き、そして上階の手すりにはアイビーゼラニウムが飾られています。植物のセレクトは、すべてイタリアンレッドです。 最上階からの絶景と庭の融合 テラスの最上階ではコモ湖を望み、遠くの山々が見渡せる絶景が待っています。ここにたどり着くまでに設けられている1段目のテラスと2段目のテラスが、最上階で待っている景色への期待感を徐々に高めてくれます。 まず前庭から階段を上り、最初のテラスに出ると、レモンやオレンジなどの柑橘類のトンネルが現れます。ここで一度周囲の眺望を消し去り、2段目のテラスに到着すると、背丈より高い赤いサルスベリで少し視界と明るさを取り戻します。さらに3段目の最上階へ到達すると、この庭の最高の絶景が目を楽しませてくれます。コモ湖の向こうには濃い緑の山々と蒼い空が広がり、手前に配置された1列の赤いハイビスカスの鉢植えが、それらを引き立てる心憎いまでの演出には、ただただ感心するばかりです。 お屋敷には美術品の数々 全体がパステルブルーに塗られた吹き抜けのメインホールに一歩入ると、真っ白な彫像やレリーフに目を奪われます。カノーヴァの彫刻をはじめ、さまざまな芸術品が当時のインテリアとともに鑑賞できるという贅沢なひとときも味わえます。 ヴィラの裏手にはまぶしい緑、そして振り返れば深い群青色のコモ湖と蒼い空が窓の外に広がっています。天井画や美術品に水面の反射光がさして、鑑賞するものすべてが輝いて見えます。 ヴィラの裏側にもかわいらしい花壇がありました。真っ白な大理石の砂利が緑の中に一際存在感を出しています。つげの生け垣のデザインもちょっとユーモラスで、ここでは赤に代わって優しいオレンジ色がアクセントに。園主のおもてなしの心が感じられます。 植物園の中の毛氈花壇では、寒い北風からヤシを守るように、背景にさまざまな高木や針葉樹の森が広がっています。緩やかな斜面には、ピンク、黄色、オレンジ、パープルとパッチワークのように夏の花が咲き、木々の緑と対比する花色の洪水が、不思議な迫力をつくり出しています。写真の右端に写っている人影と比べれば、この庭園のダイナミックなサイズ感がお分かりになると思います。 「ヴィラ カルロッタ」がある街、トレメッツォ 北イタリアの湖水地方の中でも美しいコモ湖を望む観光地、トレメッツォは豪華な邸宅が立ち並ぶことでも有名な場所です。かつて北イタリアはドイツ語圏(ドイツ、スイス、オーストリア)からの観光客が多かったのですが、今はアメリカンイングリッシュが聞かれ、英語がどこでも通じるので、安心して旅行ができます。 トレメッツォから少し離れた郊外の小さな村でも、広場には花に飾られた道標が出迎えてくれます。ルネッサンスから連綿と続いたイタリアの庭の歴史、宮殿からヴィラ、そして町の中へ。着実に、花のある豊かな暮らしの精神は引き継がれているようです。 ヨーロッパの富と文化の中心は、ルネッサンスの後、フランスの王族文化へと移っていきます。ルイ14世の命を受けたル・ノートルがイタリアを訪れ、そこから得たインスピレーションからベルサイユ宮殿の庭をデザインしていくというお話は、また次回にご紹介しましょう。
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イタリア
これぞイタリアの色づかい「ヴィラ・ターラント」【世界のガーデンを探る旅4】
世界中の植物が2,000種集まった 絶景も見逃せない植物園 今回ご紹介する「ヴィラ・ターラントVilla Taranto」は、世界中の植物約2,000種類が集められた植物園(Botanical Garden)として公開されています。一つずつの植物を観賞するばかりでなく、丘の上からは遠くに雪をいただくスイスアルプスが望める絶景や、真っ青で穏やかなマッジョーレ湖を望む丘もあり、一日ゆっくり景色も堪能しながら、贅沢な時間を過ごすことができる場所です。そして何といっても、ここイタリアでしか見ることのできない素晴らしい色づかいの花壇植栽が魅力です。 お気に入りの土地にガーデンをつくったMr.ネイル この庭は、20世紀の初めにスコットランド人のネイル・マックイーチャン(Neil McEacharn)によってつくられました。彼はお気に入りの土地だったマッジョーレ湖のほとりの古いヴィラを1931年に買い取り、世界中から植物を集めたのちに、この地に植物園を兼ねた壮大な庭をつくりました。それがこの庭園です。16ヘクタールの敷地内には、回遊式のイングリッシュガーデンスタイルをベースにした、世界有数の植物のコレクションがあります。フォーマルな庭をはじめ、噴水やさまざまなフラワーベッドなどがちりばめられ、園路の総延長は7㎞にも及びます。1939年、彼には跡取りがいなかったため、完成した植物園の中に自分を埋葬するという条件で、イタリア政府にすべて寄贈し、現在に至ります。彼は今もこの庭の中心にある花壇の中に眠り、庭を見守っています。 この庭をつくったネイル・マックイーチャンの碑を囲むように、ドーム状に花を咲かせているのは、黄色とオレンジのジニア。シンプルな植栽ですが、とても効果的で華やかです。 巨大なコニファーが並ぶエントランスからガーデン観賞スタート 両側に緑のグラデーションをつくるパイネータム(針葉樹園)のエリア「コニファーアレー」から、ガーデン散策がスタートします。ゆるやかな上り坂を進むと、森林浴をしているような清々しい気持ちになります。1930年代に植えられた樹木は、樹齢100年を超え、見上げるばかりの大木です。それぞれの種の持つ自然樹形や性質を比較しながら見ることができます。さまざまなコニファーの緑の株元を彩っているのは、カラフルなインパチェンスのボーダー花壇です。コニファーの緑の補色である赤いインパチェンスだけでなく、白やピンクを混ぜ合わせることにより、必要以上に鮮烈な印象になりがちな色の対比を和らげて、訪れた人を優しく迎えてくれます。 さらに進むと、夏の終わりのボーダー花壇のエリアに到着。手前には燃えるような黄色と赤のケイトウの花穂が眩しく輝き、陽射しの下で光り輝いています。芝の緑と空の青に対比する花色を選ぶのは、イタリアならではの組み合わせです。芝生はしっかり刈り込まれて、花壇のエッジが効いた、とても分かりやすいガーデンデザインです。 この庭で一番の見どころ 丘の上のフォーマルなテラスガーデン 丘の上に到着すると、テラス状になった敷地は、中央に水の流れを配し、左右対称のフラワーベッドになっています。遠くに山を望む素晴らしい借景の中、緑と赤の対比が目に飛び込んできます。ブロンズの少年が眺めているのは、屋敷の向こう、雪をいただくアルプスの山々でしょうか。 ガーデン全体が強烈なイタリアンカラーで、原色を対比させた配色の中に不思議な静寂感があります。イギリスのナチュラルな植物の組み合わせとはまったく違った、面で色構成されるイタリアの庭デザインは、ほかでは見ることのないものです。フラワーベッドの植物の使い方と配色は、日本のように夏が蒸し暑くなく、カラッとした気候の北イタリアならではの花風景。インパチェンスやケイトウが生き生きと育つ様子を見ると、日本でもこの派手な色づかいを試してみたくなります。 園路沿いには草丈2mにも育った赤やピンクのインパチェンスと、株元を引き締めるアゲラタムの紫。とても日本では考えられないボリュームです。 園内のあちこちに見られる花の植え込み。散策の途中でも飽きさせません。 ハス池の周りにも、対比する花色のサフィニアの鉢植えがアクセントに。 湖から8㎞離れた場所ですが、噴水はパイプで汲み上げた自然の水を使っています。 屋敷を引き立てる強烈な花色のバランス 屋敷の横には、赤一色だけのケイトウ花壇と芝生の対比。アクセントにスタンダード仕立てのバラが空中に浮かぶことで、芝の庭との間をつなぎます。これも、この庭独特のデザインの一つです。 今回、この庭を取り上げた理由は、現代のイタリアの庭の多くが、これほどにはイタリアンカラーを強調していないという物足りなさを感じたためです。造園の歴史から考えると、この庭は時代としては比較的新しいほうですが、それぞれのお国柄に合った植栽と配色は、当時も現在も同じ傾向にあると思います。造園の歴史は、イタリアルネッサンスのあと、フランスやイギリスへと移っていきます。次回はもう一つ、イタリアルネッサンスのヴィラをご紹介します。
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イタリア
イタリア「ボッロメオ宮殿」【世界のガーデンを探る旅3】
中世の世界へタイムスリップ イタリア北部の湖水地方の庭 ミラノの北側から東にかけたスイスとの国境近く、ピエモンテ州にはイタリア湖水地方と呼ばれる地域があり、古くからローマ人たちに避暑地として使われていました。そこにはいまだに多くの名園が残っています。湖水地方というとイギリスが有名ですが、イタリア湖水地方は明るく、歴史を感じさせる温暖な場所です。アクセスが不便なので、ミラノからレンタカーで目的地「ボッロメオ宮殿」へ向かいます。ブドウ畑の中を快適なドライブを楽しみながら東へ走ると、絵はがきのような山と湖、中世そのままの町並みが見えてきます。イタリア湖水地方は、昔も今も避暑地としてイタリアの人々に愛され、中世に贅を尽くしてつくられた多くの宮殿(ヴィッラ)と庭が当時のまま残っています。 数々の庭園が残るイタリア湖水地方 蒼い空と遠く雪をいただくアルプスを背景にするマッジョーレ湖には、パッラビッチーニ邸公園、ベッラ島やマードレ島のボッロメオ宮殿やターラント邸庭園があります。またコモ湖にはヴィラ・デステのイタリア式庭園、セルベローニ邸、メルツィ邸、カルロッタ邸などがあり、これら多くの庭が春から秋まで一般公開されています。イタリアの数ある宮殿の中でも有名なマッジョーレ湖に浮かぶイソラ・ベッラ島のボッロメオ宮殿(PALAZZO BORROMEO)もその一つ、とても素晴らしい場所です。ボッロメオ宮殿は、イタリアバロック建築最高峰の宮殿と庭園といわれ、春から秋まで見ることができます。 遊覧船から眺めるベッラ島の南側につくられた10段の庭園 マッジョーレ湖観光の中心地、ストレーザから遊覧船に乗ると、「美しき島」という名がついたイソラ・ベッラ島が近づいてきます。ボッロメオ宮殿は、この島の地形を巧みに利用して、ヨーロッパアルプスから湖面を渡って吹き下ろしてくる北風を防ぐよう北側に建てられ、南斜面に10段の階段状のテラスを巡らせています。まわりの庭園も含めて季節の花が咲き乱れ、ベッラ島全体がひとつの花園となり、訪れた人々をあたかも“エデンの園”に迷い込んだような気分にさせてくれます。イタリアでは花の色の組み合わせがフランスともイギリスとも違い、はっきりした原色系をマッシブ(塊)に配置することにより、大理石の重厚なバロック調のオーナメントとうまく引き立て合っています。 重厚な彫刻と噴水がお出迎え 宮殿から狭い門をくぐる巧みな演出のアプローチが、秘密の園へと誘われる期待感を一足ごとに高めてくれます。 アプローチの階段を上っていくと、ユニコーンを頂点に、バロック様式の重厚な彫刻が北イタリアの真っ青な空に突き刺さるような大迫力で現れてきます。ピラミッドのような左右対称のグロット風の噴水、それとテラスの花が絶妙なコンビネーションとなって、一つの異次元の世界をつくり出しています。訪れた者に何とも不思議な威圧感を醸し出しているように思えました。 フォーマルガーデンを見下ろす 水面から30mも高い最上段には、石が広く敷き詰められ、彫刻で囲まれた劇場広場があります。ここからは、はるか北にはスイスアルプスを望み、南には10段のテラス状の庭を見下ろすことができます。10段のテラスの途中には、四隅に大きなイチイの刈り込みがあるフォーマルガーデンがつくられ、その先にある船着き場まで、花で縁取られた素敵なアプローチが、地中海を思わせる深い青色の湖面まで続きます。 イタリアの庭のシンプルで明瞭な色づかいに注目 寒さに弱いオレンジの木やキョウチクトウは、テラコッタの大きな鉢に植えられて、夏を彩ったあとはオランジェリーに移動されることでしょう。階段を縁取るスタンダード仕立ての白バラ‘アイスバーグ’や真っ赤に花を咲かせるベゴニア・センパフローレンスが、大理石の白、湖と空の青をバックに際立っています。イチイの濃い緑と淡い芝の緑も加わり、そのすべてが競い合うようにイタリアらしさをつくりだしています。 起伏を生かした立体的な庭 遠く雪をいただいたスイスアルプスを背景にこの庭を巡れば、どんなアングルでも絵はがきのような景色になってしまいます。イタリアといえば、本場のピザとパスタ、それに美味しいワイン。どれもとっても日本人好みの味ですから、食の楽しみも存分に味わってください。以前はイタリア語とドイツ語しか通じませんでしたが、今は英語も十分通じます。ミラノからの運転も、治安も問題はありません。ぜひ一度ならず2度、3度と行かれることをオススメします。 併せて読みたい 世界のガーデンを探る旅2 イタリア「チボリ公園」 世界のガーデンを探る旅1 スペイン「アルハンブラ宮殿」 世界のガーデンを探る旅14 イギリス発祥の庭デザイン「ノットガーデン」
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イタリア
イタリア「チボリ公園」【世界のガーデンを探る旅2】
華やかな幾何学式庭園 チボリ公園 イタリア式庭園は華やかな幾何学式庭園で、高低差のある斜面につくられるテラス状(階段状)の棚田のような庭園の中にふんだんに水を使った噴水を配したり、庭の随所には、国宝級の大理石の彫刻が効果的に配置されています。また、園路はタイルなどでモザイク模様が施され、それを引き立たせる糸杉や傘のような丸い形をしたイタリアマツが茂っています。そんなイタリア式庭園の原形ともいえる庭が、このチボリ公園です。デンマークのコペンハーゲンにも、この公園をまねた同じ名の庭園があります。 ルネサンス華やかなりし頃(15~16世紀)、イタリアの貴族たちは、暑い夏のローマを嫌って北イタリアや丘陵地に避暑に出かけました。ローマ平野の東の端、ここチボリの丘も避暑地として古くからローマの富裕層や貴族に利用されてきた場所です。避暑とは、暑さを避ける目的だけではなく、いろいろな病気を運んで来る蚊を避けるためでもありました。今も昔もオリーブとぶどう畑が周辺に広がるこの場所へ、1550年、エステ家がアニエーネ川から水を引いて、500もの噴水を持つ庭園を急斜面につくったのです。 宮殿に入り、壁にかかったフレスコ画や壁や天井の装飾に目を奪われながら歩いて行くと、突然視界が開けます。足下には、イタリア式庭園の特徴である高低差を巧みに利用した、いくつものテラスとさまざまな噴水を持つ壮大な庭園が現れます。そして、そのはるか向こうには、遠くローマ平野を見渡すことができます。 宮殿から庭に下りて行くと、数々の噴水に驚かされます。しぶきを上げて水を噴き上げるものや、滝のように高所から流れ落ちる水、たっぷりと水を貯め絶え間なく波打つ水面など、あちこちから聞こえてくる水音と勢いのある水の姿。これほど贅を尽くした演出がほかにあるでしょうか。 苔むした名所「100の噴水」 今ではすっかり苔むした名所「100の噴水」も、迫力満点の演出です。何段にもなった噴水は、当時のままの姿で絶えることなく水を噴出させています。水の噴き出し口がいろいろな動物にかたどられていたり、孔雀の羽を模した扇状に広がる噴水、それらの噴水の中央にはエステ家の紋章の鷲が配置されています。100mにも及ぶこの噴水は、自由な発想の中にもフォーマルな雰囲気が漂う実に見事なデザインだと思います。じつは、噴水はイタリア人が考え出した大発明の一つで、この庭では地形の落差を利用しながら、アニエーネ川から引いた水を使って、さまざまな形の噴水がつくられました。 宮殿から眼下に広がる庭園を見渡す。水面の輝きとしぶきが左右対称となり、たっぷりとした木々の緑が周囲を覆うチボリ公園。「アルハンブラ宮殿」をつくったアラブ人の考え、‘流れ出した水が世界を潤す’という世界観が、ここにも受け継がれています。 庭園の最大の噴水「オルガン噴水」 かつては流れる水がパイプオルガンを奏でるようになっていたそうですが、今では残念ながら曲を奏でてはいません。ここがこの庭の最下部。ここまで下りてくると、初めて庭の全貌が明らかになります。 次々現れるいろいろな噴水を見ながら歩を進めているうちに、いつの間にか急な斜面につくられているはずのガーデンの下方にたどり着いてしまうという心憎い演出に、ただただ感心するばかりです。 チボリ庭園と共に世界遺産となっているハドリアヌス邸、紀元1世紀にローマ皇帝ハドリアヌスがつくった別荘の遺構が、チボリ庭園から少し下った所にあります。ここでは、ハドリアヌスがギリシャを偲んでつくったというギリシャ式庭園を見ることができます。ぜひチボリ庭園を訪れた際には、時間をたっぷりつくって、当時の面影を残すこの地域を散策し、思いを巡らせてください。 併せて読みたい 世界のガーデンを探る旅1 スペイン「アルハンブラ宮殿」 世界のガーデンを探る旅14 イギリス発祥の庭デザイン「ノットガーデン」 松本路子の庭をめぐる物語 フランス・パリ「ロダン美術館の庭園」と秋バラ