イギリス式花の植え方【世界のガーデンを探る21】
日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはさまざまなガーデンスタイルがあります。そんなガーデンの歴史やスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る旅第21回。今回は、ガーデニングの元祖といわれるイギリスの植栽デザインにスポットを当て、特徴的なデザインと植物の使い方をご紹介します。
目次
イギリスの庭&花壇デザインのスタイルの源流とは
前回までは、イタリアやフランスなど、ヨーロッパ大陸の花の植え方を比較して解説してきましたが、今回は、ドーバー海峡を渡ったイギリスにおける花の植え方の話です。
イギリスの花の植え方に関して、圧倒的な影響力を今に与えているのは、以前に解説した、ガートルード・ジーキル(Gertrude Jekyll)女史です。彼女の植え方の特徴である「いろいろな植物を小さな区画ごとに植えていく手法」は、そのまま現代のイギリス庭園に取り入れられています。それは個人庭のみならず、チェルシーフラワーショーのようなショーガーデンの分野にまで色濃く影響しています。
イギリス式の宿根草ボーダーとは
写真は典型的なイギリス式の宿根草ボーダーの植栽です。植物を冬の寒い北風(ゲール)から守るために、2〜2.5mほどの高さのレンガのウォールで囲んだ空間に、ウォールの高さとほぼ同じ幅の植栽帯を設け、そこに3〜5列ほどの宿根草がパッチ状(品種ごとに数株集めてパッチワークのように配置すること)に植えられています。ジーキル女史は、自著の中で「ボーダーの幅とウォールの高さは同じがよい」と言っています。確かにウォールが高いと圧迫感があり、ボーダーの幅が広いと締まりがなく見えるような感じがします。
また彼女が始めたパッチ状の植物の植え方は、イギリスの多くの庭園のボーダー植栽に普遍的に見ることができます。多くは幅1〜2m、奥行0.5〜1mに、1種類の宿根草や低木などが植えられ、ボーダーの手前から草丈0.2〜0.5mのグラウンドカバー植物が、次に草丈0.3〜1.5m程度の宿根草が2〜3種類植えられ、そして一番奥のウォールに沿って、草丈1.2〜1.8m程度の宿根草や低木類が植えられていることが多いです。庭の一番奥には、視線を集めるアイストップとして、イギリス独特の色に塗られた規格外サイズの大きなベンチが置かれ、敷地全体の奥行きと安定感を演出しています。このようにベンチを置くことで、訪れる人を庭の一番奥まで誘う効果があります。
壁に向かってさまざまな植物がきれいなエレベーション(高低差)を作っています。一見、無秩序に混植されているようにも見えますが、以前ご紹介したフランスの花壇(写真下)ほどの混植ではなく、各種類がグループになるように植えられています。
イギリスの花壇では、葉の色やテクスチャーもとても大事にされていて、例えば、シルバーリーフのアーテイチョークやノコギリソウなどが、花の咲いていない時期でも存在感を発揮しています。さらには赤系のヒューケラ、スカビオーサ、エゾミソハギやブッドレア、ピンク花のゼラニウム、カンパニュラやカクトラノオやシモツケソウ、それにセージなどが植えられています。ちょっと茂りすぎているようにも感じられますが、ノコギリソウの黄花が引き締め役をうまく演じています。
イギリスの公園の花壇植栽
では、いくつかのイギリスのガーデンから花壇植栽の例を見ていきましょう。まずは「ハンプトンコート」の花壇です。こちらは、淡い黄花のマーガレットが一面に植わり、その間にカンナの赤い縞模様の葉が点々と飛び出て、白のマリーゴールドが花壇をぐるりと取り囲んでいます。イギリスの花壇のつくりかたは、前回ご紹介したフランスとはまったく違うテイストです。
淡いオレンジ色のルドベキアが全面に植えられ、花壇の中央付近にフランスでも使われていた銅葉のヒマが丈高くアクセントになっています。そして、その周囲を斑入りのセージが縁取っています。日本の花壇植栽に似ている部分もありますが、フランスの植え方に比べると、イギリスの花壇は立体感があります。
「ボーダー花壇」のバリエーション
イギリスで時々見られる「赤のボーダー花壇」です。赤花が咲く植物と、赤系の葉が茂る植物を混ぜ合わせて植えています。中ほどの赤い葉はニューサイランです。その奥に銅葉のコルディリネ・オーストラリス‘アトロプルプレア’がポツンと立っています。赤い花は手前からバラ、ダリア、ヘメロカリスなどです。
ここでも、ヒューケラ、数種類のダリア、クロコスミア、奥にはカンナの赤い葉も見え隠れしています。そして、薄黄色のヘメロカリスが全体を引き締めています。黄色の単色は、自己主張が強すぎて、なかなかうまく他の植物の花の色と混じりにくいものですが、写真でご覧のように、淡い黄色ならば他の植物ともうまく調和します。
宿根草や低木の前に、主に一年草が植え込まれているボーダー花壇です。ここでもやはりジーキル女史の手法に則り、パッチワーク状にさまざまな植物が植えられています。園路と花壇の間に、きれいに生え揃った帯状の芝生の緑があることで、バラバラになってしまいそうな多様な花の彩りを引き締めています。
個性的なガーデンデザインとしてあまりにも有名な「シシング・ハースト」のホワイトガーデンです。アーティチョーク、シャスターデージー、フロックスなど、銀葉やホワイトリーフ、白い花が咲く植物だけが集められています。これらの多くの植物が、日本では馴染みの少ない背の高くなる宿根草や低木類で構成されています。
グリーンの鞠のような丸い花を咲かせるアナベルと、細長い花穂を丈高く伸ばすクガイソウ(ベロニカ)の仲間。丸と線を組み合わせるという、見事なまでのコンビネーション。
夏のボーダー花壇の様子です。写真のように、どの植物も生き生きと茂っている様子からも、この土地と気候に合った植物の選択ができる知識と経験、それに加えて愛情までも伝わってくるボーダー花壇です。エゴポディウム、ゲラニウム、スカビオサ、そのほかいろいろな灌木や宿根草などが所狭しと植えられています。ボーダーのボリュームに対して園路の芝生の幅が十分でないため、印象が少し重く感じられますが、この庭らしい雰囲気を醸し出しています。
オーナメントグラスを上手に取り入れた植栽例です。とかくオーナメントグラスを使うと「草原」のようになりがちですが、このガーデンではその印象がありません。それは、赤みがかったグラスの穂に対して、株元に植えている植物も赤系を取り入れているため。奥に見えるイチイのトピアリーが、見事なまでにきっちり刈り込まれていることから、訪れた人にステップを上がってさらに先のエリアへ向かいたいという期待感を持たせてくれます。
このようにイギリスの花壇植栽は、フランスやイタリアとは大きく異なっています。ジーキル女史登場以降、フランスから受け継いだフォーマルな庭園様式をイギリス人らしくアレンジし、一つの文化として創造したことは、イギリス人の高い文化意識の表れではないでしょうか?
次回は「チェルシーフラワーショウ」を中心に、現代のイギリス式植栽方法をご紹介したいと思います。
併せて読みたい
・英国の名園巡り メッセル家の愛した四季の庭「ナイマンズ」
・英国の名園巡り、プランツマンの情熱が生んだ名園「ヒドコート」
・ガーデナー憧れの地「シシングハースト・カースル・ガーデン」誕生の物語
Credit
写真&文 / 二宮孝嗣 - 造園芸家 -
にのみや・こうじ/長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。
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