春を知らせる花として、古くから親しまれてきたスミレの花。日本には野生種が約80種あり、高山から街中まで至るところでさまざまな野生のスミレを見ることができます。草丈10㎝程度の可憐な花に心を奪われる人も少なくありませんが、実はこの小さな花にはたくましく力強い一面もあります。

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海に山に街に咲くスミレ

海辺に咲くイソスミレ。

スミレ科スミレ属の花は世界に約400種あり、そのうちの約80種が日本に自生しています。山で海で街で、可憐な花を咲かせるスミレは、古くから春を知らせる花として人々に親しまれてきました。毎年花を咲かせる多年草で、アスファルトの割れ目にも育つたくましさがある一方、庭に植えて手厚く栽培しても、いつの間にか消えてしまうものもあります。高山種など、平地での栽培がもともと難しい種類もありますが、種類による栽培難易度だけがスミレが庭から消えてしまう理由ではありません。枯れてしまうわけではなく、自分の力で移動してしまう可能性もあるのです。

明るい林床などでよく見られるタチツボスミレ。庭に植えても移動していってしまうことがしばしば。
アスファルトの割れ目に花を咲かせたヒゴスミレ。細やかな葉が特徴。
帰化植物で庭でよく増えて長生きするアメリカスミレサイシン‘スノープリンセス’。
斑入り種のアメリカスミレサイシン‘フレックルス’。

砲丸投げ選手並みのスミレのタネ飛ばし

サヤを開いたスミレのタネ。Photo/patchii/Shutterstock.com

スミレは春の開花後にタネをつけますが、このタネを遠くまで飛ばす力を持っています。タネは直径2㎜ほどで、3つの部屋に別れたサヤの中に並んで入っています。サヤは始め下を向いていますが、次第に上向きになり、サヤが開いてタネがむき出しになります。その後、先端からサヤが縦に閉じてタネを弾き飛ばすのですが、その飛距離は3mを超すことも。人に置き換えるとこの飛距離は砲丸投げのオリンピック選手に匹敵するようなパワーです。しばしば「なぜ、こんな所に?!」と思うような所からスミレが咲いているのは、このタネ飛ばしのおかげ。ですから、庭に定着させたいと思ったら、タネが上向きになった頃に採種しておきましょう。

アリに運んでもらうための戦略

スミレとアリは共生関係。

また、スミレにはエライオソームという甘い物質がついていて、アリもタネを運んでくれます。タネを運ぶアリを観察していると、アリにとっては2㎜のタネも重いのでしょう。タネの周りについたエライオソームだけをなんとか取り除こうとしますが、決して取れないようになっています。アリは諦めてタネを巣に持ち帰ります。かくしてスミレは確実にタネを運んでもらうことに成功します。ちなみにこのエライオソームはスミレだけでなく、カタクリやケマンソウなど春先に咲く他の花も持っており、アリとの共生関係を繁殖の手段の一つとしています。

美しい蝶を呼ぶスミレ

冬から春の花壇の素材として重宝するパンジーやビオラは、もともと野生のスミレを親としていますが、近年では個人の育種家の活躍もあって、多くの園芸品種が生まれています。魅力的な品種が増え、パンジーやビオラを育てる人が増えたおかげで、これまで街中では見られなかった蝶が街に増えてきたことが分かってきました。その蝶はツマグロヒョウモン。オレンジ色に黒い斑点で、アゲハチョウより一回り小さな美しい蝶です。かつては東海地方から南西諸島が生息域でしたが、花の普及に加え温暖化の影響も相まって北上を続けています。幼虫がスミレの花を食草としており、その園芸品種であるパンジーやビオラも食べます。幼虫は黒にオレンジ色のトゲトゲの派手な姿をしています。あまり数が多くてスミレが丸坊主になるようなら考えものですが、スミレ類を育ててこの蝶を呼ぶこともできるということです。

パンジーにとまったツマグロヒョウモン。旅をしてきたのか羽が傷ついています。Photo/RAJU SONI/Shutterstock.com
スミレを食草とするツマグロヒョウモンの幼虫。

花を咲かせずにタネをつくる!?

赤丸で囲った箇所が閉鎖花と閉鎖花のタネ。

通常、植物は花を咲かせた後にタネをつくりますが、スミレは花を咲かせないままでもタネをつくることができます。つぼみのような形をして開かない花を見つけても、それは病気ではないので大丈夫。これは閉鎖花(へいさか)と呼びます。中で自家受粉してタネをつくるのですが、この閉鎖花は開花期と関係なく発生するため、繁殖活動期間が長くなります。閉鎖花のタネも開放花と同じような経過をたどってタネを飛ばしますが、閉鎖花のタネの場合は多種との交雑の可能性がないため確実に親と同じ花が咲きます。

生きるためにあの手、この手とユニークな技を繰り出すスミレ。そばで育ててその賢さとたくましさを観察してみませんか。

Credit

写真&文/3and garden

ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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