日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。歴史からガーデンの発祥を探る旅。第5回は、豪華な邸宅が立ち並ぶことでも有名な北イタリアにつくられた「ヴィラ カルロッタ(Villa Carlotta)」をご案内します。

北イタリアの庭園巡りも、いよいよこの庭が最後になります。イタリア式庭園の特徴であるテラス状になった植栽帯や、豊富な水と巧みな高低差を使った噴水、そして大理石彫刻の見事さ。さらには、どこにも負けない鮮やかな花の色。そのすべてが見られるのが「ヴィラ カルロッタ」の庭です。

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コモ湖を望むこのヴィラは、湖畔の入り口からフォーマルなたたずまいの噴水と花壇を見ながら正面を見上げると、覆いかぶさるようにそびえ立つ白亜のお屋敷が、緑の山を背景にして威厳をたたえて我々訪問者を見下ろしているようです。

カルロッタ邸の歴史に関わった貴族たち

ここは元々16世紀に絹貿易で財産を築いたクラリチ一族(Clerici family)のものでした。17世紀にミラノの銀行家ジョルジョー・クラリチ伯爵(Giorgio Clerici)の別荘として今の姿になり、その後19世紀にナポレオンの友人のジャンバチス・ソンマリーヴァ伯爵(Gian Battista Sommariva)の手に渡り、庭を改修したり美術品を蒐集するなどしました。その後、この邸宅の名称になっているカルロッタの母親、マリアンネ公爵夫人の手に渡り、夫人の夫が広大な敷地内に植物園をつくりました。そして、結婚祝いに、このヴィラが娘のカルロッタにプレゼントされ、カルロッタ邸となったのです。この素晴らしいヴィラを贈られたカルロッタは、なんと23歳の若さで亡くなってしまいました。

何代もオーナーが変わりながら、7ヘクタールもの敷地の中には、カルロッタの父が世界中から集めた植物により植物園になったのですが、特に、日本のツツジやシャクナゲ、ツバキのコレクションで有名で、日本を思わせる竹林もあります。また、邸宅の中には数々の美術品も収蔵されていますが、なかでも、「ロミオとジュリエットの最後のキス」と題された18世紀末のロマン主義画家による作品が、近くの窓から見える湖の風景とも調和し、訪れる人にため息をつかせます。現在は、カルロッタ財団により運営・一般公開され、世界中から観光客が訪れています。

カルロッタ邸の敷地内をご案内します

外から見ても、敷地内に高低差があることをあまり感じませんが、一歩中に入ると前庭には十分な奥行きと広がりがあり、知らず知らずのうちにお屋敷の足下までたどり着きます。そこから見上げるヴィラは、白くそびえたっています。建物と庭の配置のすばらしい演出効果で、気がついた時は庭の中に吸い込まれてしまうのです。

前庭からお屋敷に登る左右対称につくられた階段には、白い大理石に映えるベゴニアとつるバラ、そして上階の手すりにはアイビーゼラニウムが飾られています。植物のセレクトは、すべてイタリアンレッドです。

最上階からの絶景と庭の融合

テラスの最上階ではコモ湖を望み、遠くの山々が見渡せる絶景が待っています。ここにたどり着くまで1段目のテラスと2段のテラスが、最上階で待っている景色への期待感を高めてくれます。

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まず、前庭から階段を上り、最初のテラスはレモンやオレンジなどの柑橘類のトンネルが現れます。ここで一度周囲の眺望を消し去り、2段目のテラスに到着すると、背丈より高い赤いサルスベリで少し視界と明るさを取り戻します。さらに3段目の最上階へ到達すると、この庭の最高の絶景が目を楽しませてくれます。コモ湖の向こうに濃い緑の山々と蒼い空。手前に配置された1列の赤いハイビスカスの鉢植えが、それらを十分引き立てる役割を果たしています。心憎いまでの演出にはただただ感心するばかりです。

お屋敷には美術品の数々

全体がパステルブルーに塗られた、吹き抜けのメインホールに一歩入ると、彫像やレリーフの白に目を奪われます。カノーヴァの彫刻をはじめ、さまざまな芸術品が当時のインテリアとともに鑑賞できるという贅沢なひとときも味わえます。

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お屋敷の裏手にはまぶしい緑、そして振り返れば深い群青色のコモ湖と蒼い空が窓の外に広がっています。天井画や美術品に水面の反射光がさして、鑑賞するものすべてが輝いて見えます。

ヴィラの裏側もかわいらしい花壇がありました。真っ白な大理石の砂利が緑の中に一際存在感を出しています。つげの生垣のデザインも、ちょっとユーモラスで、ここでは赤に変わって優しいオレンジ色がアクセントに。園主のおもてなしの心が感じられます。

植物園の中の毛氈花壇では、寒い北風からヤシを守るように、背景にさまざまな高木や針葉樹による森が広がり、緩やかな斜面には、ピンク、黄色、オレンジ、パープルとパッチワークのように夏の花が咲いています。木々の緑と対比する花色の洪水が、不思議な迫力をつくり出しています。写真の右端に写っている人と比べれば、この庭園のダイナミックなサイズ感がお分かりになると思います。

「ヴィラ カルロッタ」がある街、トレメッツォ

北イタリアの湖水地方の中でも美しいコモ湖を望む観光地、トレメッツォは豪華な邸宅が立ち並ぶことでも有名な場所です。かつて北イタリアはドイツ語圏(ドイツ、スイス、オーストリア)からの観光客が多かったのですが、今はアメリカンイングリッシュが聞かれ、英語がどこでも通じ、安心して旅行ができます。

トレメッツォから少し離れた郊外の小さな村でも、広場には花に飾られた道標が出迎えてくれます。ルネッサンスから連綿と続いたイタリアの庭の歴史、宮殿からヴィラ、そして町の中へ。着実に、花のある豊かな暮らしの精神は引き継がれているようです。

ヨーロッパの富と文化の中心はルネッサンスの後、フランスの王族文化へと移っていきます。ルイ14世の命を受けたルノートルがイタリアを訪れ、そこから得たインスピレーションからベルサイユ宮殿の庭をデザインしていくというお話は、また次回にご紹介しましょう。

Credit

写真&文/二宮孝嗣

長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表で造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑−彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。