テレビドラマなどでも大正から昭和初期の姿として女優さんが着用するモダン文様の着物の一つ「銘仙」が今、密かなブームです。銘仙と呼ばれる着物の文様には、当時流行したモチーフが描かれていましたが、西洋文化とともに日本へ持ち込まれたバラも銘仙の柄に描かれた人気の文様の一つでした。バラ文化と育成方法研究家で「日本ローズライフコーディネーター協会」の代表を務める元木はるみさんに、この貴重なバラが描かれた銘仙の着物をご紹介していただきます。

西洋文化とともにやってきた薔薇

2018年は、明治維新から150周年を迎えますが、維新後、西洋からさまざまな西洋文化と共にやって来た当時の薔薇たちが、「薔薇は文明の花なり」として、国内に於いても人気を博していきました。

最初は、外国人居留地の庭で咲いていた、それまで見たことのないような大輪の美しい高嶺の花であった薔薇も、輸入苗や販売苗の増加で、愛培家が増え、また、公園の普及などによって、徐々に庶民も薔薇を愛でる機会が増えていきました。

大正時代には西洋文化の定着も進み、薔薇が庶民の身近な存在になりつつありました。人々の西洋文化への興味と関心、活気に満ち溢れた時代背景の中、それを反映するかのように、女性たちの着物には、さまざまな西洋文化をモチーフとした新しい文様が描かれました。

その着物の文様を「モダン文様」といい、当時の女性たちは、モダン文様の着物を着て、時代の最先端のファッションを楽しんでいたといわれます。モダン文様の中には、当時人気の薔薇もあり、薔薇文様の着物は、やはり人気であったようです。

「青地薔薇文様銘仙」

今回は、大正~昭和初期の、特に若い女性たちが愛用した銘仙の着物の薔薇の文様を見ていきましょう。

銘仙は、絹100%の織物ですが、多くは廃棄処分となる「玉まゆ」や「屑まゆ」から採れる太い絹糸で織るため、大変丈夫でありながら安価で、庶民の普段着からお洒落着まで、とても人気がありました。産地は、栃木県足利市、群馬県伊勢崎市と桐生市、埼玉県秩父市、東京都八王子市などです。

絹糸は、蚕のまゆから採る訳ですが1枚の着物に要するまゆは、大小約2,500~4,000個にも及ぶのだそうです。写真のように、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を故意にずらすことで、色の境界がぼける「絣(かすり)」という技法が当時大流行となりました。

鮮やかな色彩の3種類と思われる薔薇が、雲を突き抜け青空に向かって枝を伸ばしています。大きく写実的に描かれた大胆な薔薇文様からは、それまでの奥ゆかしい日本らしさとは異なった、みなぎるような活力が感じられます。

着物は、元来、季節感を大切にし、描かれた花の季節より少し前に着るものとされていますが、新しく西洋からやってきた洋花は、季節に関係なくいつでも着てよいとされました。これは、当時、輸入植物の栽培に適した温室の導入・増加により、通年花が咲くようになったことと関係があるのかもしれません。薔薇のほかに、当時の新しい洋花には「チューリップ」や「鈴蘭」「洋蘭」などがあり、これらの洋花たちも着物の新しい文様になりました。

「白地梅薔薇文様銘仙」

こちらは、日本古来の花の文様である「梅」と、新しい花の文様の「薔薇」のコラボレーションです。つまり日本と西洋の混合、和洋折衷な文様となっています。そして、梅も薔薇も、かろうじて花の部分は写実性を保っていますが、どちらも茎の部分はデフォルメされて、線のみで表現されています。これは、当時西洋で流行していたアール・ヌーヴォーやアール・デコに影響を受け、異国への憧れを取り入れながら、和洋折衷でデザイン性のあるモダンを表現しているのです。

アール・ヌーヴォーは、19世紀末~20世紀初頭にかけてヨーロッパで人気を博した装飾様式で、日本の浮世絵や精巧な工芸品、また着物の流れるようなラインから影響を受けたといわれます。アール・デコは、アール・ヌーヴォーの大量生産には向かない不合理性からの脱却として、1920~30年代に流行した合理性のある簡素でパターン化された装飾様式を指しますが、当時の日本人にとっては、憧れの西洋文化として、どちらも取り入れたいものだったのかもしれません。

「桃橙色絣地薔薇文様銘仙」

ご覧の通り、薔薇の文様は、小さく簡素にデフォルメされ、薔薇自体の文様というよりは、着物全体の雰囲気を重視しているかのようです。言い換えれば、それほど、薔薇が庶民の身近なものになっていたのではないでしょうか。

銘仙は当時、大正ロマン、昭和モダンとして人気の的となった少女雑誌や婦人雑誌に描かれた抒情画や小説の挿絵などにも描かれ、人気を博しました。

このように、明治以降の西洋文化の流入と共に、日本でも栽培が広がり、着物の文様にもなった薔薇を見ていると、当時の幸せで活気に満ちた時代が垣間見えてきます。が、しかし、それは、第2次世界大戦に突入することで、一旦終焉を迎えることとなってしまいます。

平和の大切さを、薔薇は、物語っているかのようです。

Credit

写真&文/元木はるみ

神奈川の庭でバラを育てながら、バラ文化と育成方法の研究を続ける。「日本ローズライフコーディネーター協会」代表。近著に『アフターガーデニングを楽しむバラ庭づくり』(家の光協会刊)など。http://roseherb.exblog.jp