日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。歴史からガーデンの発祥を探る旅。第4回は、スコットランド人によって20世紀初めにイタリアにつくられた広大なガーデン「ヴィラ ターラント(Villa Taranto)」をご案内します。

世界中の植物が2,000種集まった 絶景も見逃せない植物園

今回ご紹介する「ヴィラ ターラントVilla Taranto」は、世界中の植物約2,000種類が集められた植物園(Botanical Garden)として公開されています。一つずつの植物を観賞するばかりでなく、丘の上からは遠くに雪をいただくスイスアルプスが望める絶景や、真っ青で穏やかなマッジョーレ湖を望む丘もあり、一日ゆっくり景色も堪能しながら、贅沢な時間を過ごすことができる場所です。そして何といっても、ここイタリアでしか見ることのできない素晴らしい色づかいの花壇植栽が魅力です。

お気に入りの土地にガーデンをつくったMr.ネイル

この庭は、20世紀の初めにスコットランド人のネイル・マックイーチャン(Neil McEacharn)によってつくられました。彼はお気に入りの土地だったマッジョーレ湖のほとりの古いヴィラを1931年に買い取り、世界中から植物を集めたのちに、この地に植物園を兼ねた壮大な庭をつくりました。それがこの庭園です。16ヘクタールの敷地内には、回遊式のイングリッシュガーデンスタイルをベースにした、世界有数の植物のコレクションがあります。フォーマルな庭をはじめ、噴水やさまざまなフラワーベッドなどがちりばめられ、園路の総延長は7㎞にも及びます。1939年、彼には跡取りがいなかったため、完成した植物園の中に自分を埋葬するという条件で、イタリア政府にすべて寄贈し、現在に至ります。彼は今もこの庭の中心にある花壇の中に眠り、庭を見守っています。

この庭をつくったネイル・マックイーチャンの碑を囲むように、ドーム状に花を咲かせているのは、黄色とオレンジのジニア。シンプルな植栽ですが、とても効果的で華やかです。

巨大なコニファーが並ぶエントランスからガーデン観賞スタート

両側に緑のグラデーションをつくるパイネータム(針葉樹園)のエリア「コニファーアレー」から、ガーデン散策がスタートします。ゆるやかな上り坂を進むと、森林浴をしているような清々しい気持ちになります。1930年代に植えられた樹木は、樹齢100年を超え、見上げるばかりの大木です。それぞれの種の持つ自然樹形や性質を比較しながら見ることができます。さまざまなコニファーの緑の株元を彩っているのは、カラフルなインパチェンスのボーダー花壇です。コニファーの緑の補色である赤いインパチェンスだけでなく、白やピンクを混ぜ合わせることにより、必要以上に鮮烈な印象になりがちな色の対比を和らげて、訪れた人を優しく迎えてくれます。

さらに進むと、夏の終わりのボーダー花壇のエリアに到着。手前には燃えるような黄色と赤のケイトウの花穂が眩しく輝き、陽射しの下で光り輝いています。芝の緑と空の青に対比する花色を選ぶのは、イタリアならではの組み合わせです。芝生はしっかり刈り込まれて、花壇のエッジが効いた、とても分かりやすいガーデンデザインです。

この庭で一番の見どころ 丘の上のフォーマルなテラスガーデン

丘の上に到着すると、テラス状になった敷地は、中央に水の流れを配し、左右対称のフラワーベッドになっています。遠くに山を望む素晴らしい借景の中、緑と赤の対比が目に飛び込んできます。ブロンズの少年が眺めているのは、屋敷の向こう、雪をいただくアルプスの山々でしょうか。

ガーデン全体が強烈なイタリアンカラーで、原色を対比させた配色の中に不思議な静寂感があります。イギリスのナチュラルな植物の組み合わせとはまったく違った、面で色構成されるイタリアの庭デザインは、ほかでは見ることのないものです。フラワーベッドの植物の使い方と配色は、日本のように夏が蒸し暑くなく、カラッとした気候の北イタリアならではの花風景。インパチェンスやケイトウが生き生きと育つ様子を見ると、日本でもこの派手な色づかいを試してみたくなります。

園路沿いには草丈2mにも育った赤やピンクのインパチェンスと、株元を引き締めるアゲラタムの紫。とても日本では考えられないボリュームです。

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園内のあちこちに見られる花の植え込み。散策の途中でも飽きさせません。

ハス池の周りにも、対比する花色のサフィニアの鉢植えがアクセントに。

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湖から8㎞離れた場所ですが、噴水はパイプで汲み上げた自然の水を使っています。

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屋敷を引き立てる強烈な花色のバランス

屋敷の横には、赤一色だけのケイトウ花壇と芝生の対比。アクセントにスタンダード仕立てのバラが空中に浮かぶことで、芝の庭との間をつなぎます。これも、この庭独特のデザインの一つです。

今回、この庭を取り上げた理由は、現代のイタリアの庭の多くが、これほどにはイタリアンカラーを強調していないという物足りなさを感じたためです。造園の歴史から考えると、この庭は時代としては比較的新しいほうですが、それぞれのお国柄に合った植栽と配色は、当時も現在も同じ傾向にあると思います。造園の歴史は、イタリアルネッサンスのあと、フランスやイギリスへと移っていきます。次回はもう一つ、イタリアルネッサンスのヴィラをご紹介します。

Credit

写真&文/二宮孝嗣

長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表で造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑−彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。