これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。記念すべき第1回は、愛知県豊橋市の黒田邸です。

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愛知県豊橋市の黒田和重さんがつくる庭は、数々のガーデン雑誌でも紹介されてきた花好きの人たちにとっては有名な場所です。これまで10年もの間、その成熟していく様子を毎年見続けてきた、僕にとっても思い入れのある庭の一つです。

シックスヒルズジャイアントの青、シレネ・ディオイカのピンク、エルサレムセージの黄色と緑の芝生。黒田さんは絵を描くように植栽する。

初めて黒田さんの庭を訪ねたのは、2007年2月の終わりのこと。とてもお世話になっていた豊橋にある花屋さんに「今井さん好みの最高に素敵なお庭があるから」と紹介されたのがきっかけでした。店での取材を終えて、さっそく車で10分ほどの場所にあるその庭を訪ねてみました。すると、庭主の黒田さんともお会いすることができ、聞くところによるとイギリスのコテージガーデンが好きで庭づくりを始めたといいます。いくつかのエリアに区切られた回遊式の、まるでイギリスの庭を移築してきたかと錯覚させられるほど素敵なデザインでした。

当時は大のバラブームで、つるバラの庭や、流行のイングリッシュローズをコレクションした庭などはたくさん見てきましたが、訪れた黒田さんの庭はほかとは違う魅力がありました。まるで、以前イギリスに行った時に巡った庭を思わせるような、しっかりとデザインされた庭でした。

きっと何度もイギリスに行かれたのだろうと思いながら、施主の黒田さんに僕のイギリスでの庭巡りについて話していたのですが、「私は一度もイギリスには行ったことがないんですよ。ひたすらイギリスのガーデン雑誌を見て勉強しました」と言うんですから、本当に驚きました。

初訪問は寒風が吹く2月でしたので、バラが咲き乱れる5月の庭を想像しながら初対面とは思えない黒田さんとの楽しい庭談義の時間を過ごして、5月に撮影に来る約束をして帰りました。

多くの人が育てている‘ピエール・ドゥ・ロンサール’も黒田さんの庭だとまた一段と美しい。

そして同じ年の5月中旬。期待に胸を膨らませて訪れた黒田さんの庭は、まさに想像以上! ちょっと大げさに言うと、本当にここが日本なの? と思わせるほど見事な景色でした。きれいに刈り込まれたツゲのヘッジ、庭を取り囲む塀にはさまざまなバラとクレマチスが咲き乱れています。

クレマチス‘ビルドリオン’。

当時いろいろな園芸雑誌の企画で、バラとクレマチスの組み合わせが注目されていましたが、実際にはなかなか成功させている庭がなくて取材に苦労していた頃です。そんななか、この庭ではごく当たり前に、しかもとてもセンスよくバラとクレマチス、ジギタリスやデルフィニウムまでが美しく調和して咲き誇っていました。黒田さんのセンスと植物をちゃんと育てられる力には本当に脱帽です。夢中で時間も忘れてシャッターを切り続けた幸せな時間を、今も思い出します。

オールドローズの名花‘シャポー・ドゥ・ナポレオン’のオベリスク仕立てとはしゃれている。

それから毎年5月になると、一番気になるのが黒田さんの庭です。黒田さんはいつも「自分の庭がどうしたらもっとよくなるか」ばかり考えている方です。お会いした時はいつも「よいバラがあったら教えて」とか「新しいバラでうちに入れたらよいバラは何か?」とか、庭の話題が尽きません。

女神の前のツゲのヘッジのエリアは2017年から芝のエリアに変わっていた。

2013年に伺った時も、バラのコンディションやボリュームともに完璧。ボーダー花壇にいたっては、イキシア・ビリディフローラという翡翠色の球根まで入っていて、これ以上ない完璧な庭になっていました。さすがに黒田さんの庭も完成だなと思っていたら、翌年には美しかったボーダー花壇をつくり直し、生け垣だった場所は、神谷造園さんのコッツウォルドストーンの塀につくり替えられていました。黒田さんの庭に完成という言葉はないようです。

2017年も5月22日、朝5時少し前に駐車場に車を止めると、もう掃除をすませた黒田さんがいつもの笑顔で出迎えてくれました。まだ5時前のボーッとした光の中、挨拶もそこそこに黒田さんの後ろについて庭の入り口に行ってみると、今年もまた一段と素晴らしい光景が目の前に広がりました。‘ランブリング・レクター’の花綱はまさに圧巻! 隣にはアルバローズの名花‘マダム・ルグラ・ドゥ・サンジェルマン’、奥には‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’が家の塀を覆い尽くしていました。3品種の白バラと青のキャットミント、ピンクの小花、そして青々と茂る緑の芝生……。息を呑むほどの美しさで、まるで一枚の絵画のようです。

朝の光を浴びて‘ランブリング・レクター’が輝き出すまで、まだ少し時間がありそうなので、三脚にカメラをセットして庭の中へ入っていきました。これまで何度も通った馴染みの光景だけれど、よく手入れされた朝の庭は本当に気持ちがよいものです。深呼吸をしながら、「キッチン前の窓辺のベンチとホスタ」、「フェンスに掛かっているピンクのオールドローズ」という風に頭の中で1枚ずつシャッターを切りながら歩いていきます。

塀は白バラの‘アルベリック・バルビエ’と小輪ピンクの‘夢乙女’。

そうこうしているうちに、東の空からパーッと朝の光が差し込んできました。急いでカメラに戻ってみると、柔らかな朝日が‘ランブリング・レクター’の左上から当たり始めていたので、何枚かシャッターを切ってひと安心。

もう一度庭に戻り、今日撮れそうなカットをまた探しながら、きれいに光が当たってきたコーナーでは撮影をして、光の感じが変わったらまた最初の入り口に戻ってもう一度シャッターを切ります。朝はほんの数分で全然違う光景になってしまうので、ここぞというチャンスには、いつもシャッターは5分おきくらいに数回は切るようにしています。

左手のベニカノコソウと右手のデルフィニウムがお互いを引き立て合っている。

僕の撮影を実際に見たことがある人から「今井さんは同じ所を、何回も何回も走り回っている」とよく言われます。そう、庭の撮影には微妙な光のニュアンスを見極める目が必要だと常々思うのです。光が強くなってくる7時過ぎには撮影を終了させて、ようやく黒田さんが入れてくれた香り豊かなコーヒーを飲みながら、しばし庭談義。こうして、今年もいい光を捉える幸せな撮影時間を過ごすことができました。

Credit

写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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