日本で見られる蝶は約180種。その中でもとりわけ馴染み深いのがモンシロチョウ。ところが、かつて日本には一匹もいなかったって、ご存じでしたか!? 本書は「蝶」という不思議ワールドへの格好の入門書です。

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『海をわたる蝶』

日浦 勇著(講談社学術文庫)

モンシロチョウは、中央アジア西部から地中海沿岸地帯が原産地。北アメリカにも南北戦争以前は全くいなかった。ところが、南北戦争勃発1年前の1860年、大西洋のセントローレンス湾に面したカナダのケベックで数匹が初めて採集された。

その後のモンシロチョウの勢力の拡大ぶりは、まさに驚異的だった。1863年にはケベック周辺で普通に見られるようになり、1865年には隣接する合衆国のメイン州に進出。続いて1868年にはニューヨーク州、1880年には中部のカンザス州に達し、さらに1881年テキサス州、1884年ミズーリ河源流域、1886年コロラド州デンバーへと棲息域を拡大。ケベックでの最初の発見からわずか30年で、モンシロチョウは大西洋岸から太平洋岸までアメリカ全土に拡大してしまった。

それで困り果てたのが、アメリカのキャベツ農家。モンシロチョウはアブラナ科の野菜、とくにキャベツに好んで卵を産みつけ、幼虫はそのキャベツの葉を食べて成長する。つまりモンシロチョウはキャベツの大敵、収穫量を激減させてしまう最大の害虫なのだ。

カナダのケベックで見つかったモンシロチョウは、おそらくはヨーロッパからの貨物船に乗って“密入国”したもので、その中にすでに交尾済みのメスが含まれていたのだろうと考えられている。

一方、日本の場合はどうかというと、どうやら江戸時代より前に、中国、あるいはシベリア方面から海を越えて侵入したらしい。

モンシロチョウが海をわたる様子は、漁業関係者によってしばしば目撃されており、大正年間には朝鮮海峡に出漁していた漁師が、あまりの大群を見て肝をつぶし、漁具を捨てて港に逃げ帰ったという記録があるという。

本書では、かつて漁船に乗っていたという人が海上でモンシロチョウの大群に遭遇したときのことを、くわしく証言している。それによると、ある日、サバ取り船に乗って航海していると、午後4時頃、青い空の彼方に突然白い雲のようなものが現れ、よくよく見てみると、それは長さ140〜150mのモンシロチョウの大群だった。

しかも、海の上にもモンシロチョウがいっぱい浮かんでいる。はじめは死んでいるのかと思ったが、近づいてみると、みんな生きていて、あるチョウは波の上にとまって呑気にサーフィンをしている。また別のチョウは波に揺られながら夢心地で昼寝をしている。その数、およそ数万。日本晴れの、波の穏やかな種子島沖でのことだったという。

本書『海をわたる蝶』にはそのほか、やはり大群をつくって移動するイチモンジセセリという小型の蝶の話、村の蝶と町の蝶、森の蝶と草原の蝶など、面白くて不思議な話がいっぱい。まるでファンタジーを読んでいるような楽しさと、ミステリーを読んでいるようなワクワク感が同時に味わえる素敵な本だ。

Credit

文/岡崎英生(文筆家・園芸家)

 

Photo/3and garden

ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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