日本庭園やイングリッシュガーデン、整形式庭園など、世界にはいろいろなガーデンスタイルがあります。歴史からガーデンの発祥を探る旅。第2回は、今も当時の姿をほぼそのまま残す、イタリア・ルネサンスの庭、「チボリ庭園」です。

イタリア式庭園は華やかな幾何学式庭園で、高低差のある斜面につくられるテラス状(階段状)の棚田のような庭園の中にふんだんに水を使った噴水を配したり、庭の随所には、国宝級の大理石の彫刻が効果的に配置されています。また、園路はタイルなどでモザイク模様が施され、それを引き立たせる糸杉や傘のような丸い形をしたイタリアマツが茂っています。そんなイタリア式庭園の原形ともいえる庭が、このチボリ庭園です。デンマークのコペンハーゲンにも、この公園をまねた同じ名の庭園があります。

ルネサンス華やかなりし頃(15~16世紀)、イタリアの貴族たちは、暑い夏のローマを嫌って北イタリアや丘陵地に避暑に出かけました。ローマ平野の東の端、ここチボリの丘も避暑地として古くからローマの富裕層や貴族に利用されてきた場所です。避暑とは、暑さを避ける目的だけではなく、いろいろな病気を運んで来る蚊を避けるためでもありました。今も昔もオリーブとぶどう畑が周辺に広がるこの場所へ、1550年、エステ家がアニエーネ川から水を引いて、500もの噴水を持つ庭園を急斜面につくったのです。

チボリ公園では、当時のままに保存されている宮殿の中とガーデンを見学することができます。

宮殿に入り、壁にかかったフレスコ画や壁や天井の装飾に目を奪われながら歩いて行くと、突然視界が開けます。足下には、イタリア式庭園の特徴である高低差を巧みに利用した、いくつものテラスとさまざまな噴水を持つ壮大な庭園が現れます。そして、そのはるか向こうには、遠くローマ平野を見渡すことができます。

宮殿から庭に下りて行くと、数々の噴水に驚かされます。しぶきを上げて水を噴き上げるものや、滝のように高所から流れ落ちる水、たっぷりと水を貯め絶え間なく波打つ水面など、あちこちから聞こえてくる水音と勢いのある水の姿。これほど贅を尽くした演出がほかにあるでしょうか。

苔むした名所「100の噴水」

今ではすっかり苔むした名所「100の噴水」も、迫力満点の演出です。何段にもなった噴水は、当時のままの姿で絶えることなく水を噴出させています。水の噴き出し口がいろいろな動物にかたどられていたり、孔雀の羽を模した扇状に広がる噴水、それらの噴水の中央にはエステ家の紋章の鷲が配置されています。100mにも及ぶこの噴水は、自由な発想の中にもフォーマルな雰囲気が漂う実に見事なデザインだと思います。じつは、噴水はイタリア人が考え出した大発明の一つで、この庭では地形の落差を利用しながら、アニエーネ川から引いた水を使って、さまざまな形の噴水がつくられました。

園路も細かなタイルによるモザイクが施してあり、訪れた人を決して飽きさせることはありません。

宮殿から眼下に広がる庭園を見渡す。水面の輝きとしぶきが左右対称となり、たっぷりとした木々の緑が周囲を覆うチボリ公園。「アルハンブラ宮殿」をつくったアラブ人の考え、‘流れ出した水が世界を潤す’という世界観が、ここにも受け継がれています。

庭園の最大の噴水「オルガン噴水」

Marco Rubino/Shutterstock.com

かつては流れる水がパイプオルガンを奏でるようになっていたそうですが、今では残念ながら曲を奏でてはいません。ここがこの庭の最下部。ここまで下りてくると、初めて庭の全貌が明らかになります。

次々現れるいろいろな噴水を見ながら歩を進めているうちに、いつの間にか急な斜面につくられているはずのガーデンの下方にたどり着いてしまうという心憎い演出に、ただただ感心するばかりです。

チボリ庭園と共に世界遺産となっているハドリアヌス邸、紀元1世紀にローマ皇帝ハドリアヌスがつくった別荘の遺構が、チボリ庭園から少し下った所にあります。ここでは、ハドリアヌスがギリシャを偲んでつくったというギリシャ式庭園を見ることができます。ぜひチボリ庭園を訪れた際には、時間をたっぷりつくって、当時の面影を残すこの地域を散策し、思いを巡らせてください。

 

文/二宮孝嗣