花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。今回は既存の木々を生かした和の庭と、モダンなパティオがある庭、2つの雰囲気の異なる庭を持つ東京の一軒家を訪れました。

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新緑が眩しい5月中旬、2階ベランダの手すりに誘引したつるバラ、ロサ・フィリペス‘キフツゲート’がポツポツと一重花を開き、大きく枝を伸ばすエゴの木には鈴のような愛らしい純白花を無数にぶら下げる。

両親が住んでいた家を建て替えて10年。施主である代田雅彦さんは、この家に住み始めてから「早起きをして植物の世話をするようになった」という。建物が完成してから、和の植物扱いに定評があるガーデンデザイナーの清水匠さんに依頼して、ヤマザクラやエゴの木など既存の木々を生かして和の庭をつくった。1階の和室からのぞむ庭には、モミジやカシワバアジサイ、ナツツバキなどが茂り、数年前からはつるバラも加わって、四季折々に美しい表情を見せる。

庭のバラが咲くと、床の間にも咲きたての枝を活ける。細い枝先に蕾をつけた房咲きの枝と艶やかな緑葉が、和の空間にも不思議と似合う。家の設計は竹山聖さんへ依頼し、1階の和室をはじめ、内装のいたる所に建て替え前の家で使われていた思い出のある建て具が希望通りに生かされた。そのことで新築当初から馴染みのある空間になったという。

音楽が好きな代田雅彦さんのもう一つのお気に入りの空間は、20人は入れるという半地下に作った音楽スタジオ。グラウンドレベルに開けたスリット窓の外にシェードガーデンをしつらえ、シダやハランなどをまるで小人になったようなアングルで眺める。ピアノの鏡面に緑が写り込むのもまた美しい仕掛けだ。ピアノを弾いていると通りがかる猫と眼を合わせることもあるという。スリットの上方に掛けられた抽象の版画は堀越千秋作「梅の庭」。

コンクリート打ちっ放しのモダンな雰囲気の玄関付近には、アガペの大鉢やカシワバアジサイなどの季節の鉢を置いて、来客や家主の帰りを迎える。

日々の暮らしで一番過ごすことが多い、リビングダイニングやパティオ、寝室などがある2階フロアへ向かって階段を登っていくと、親交が深かったスペイン在住のアーティスト、堀越千秋氏によって描かれた大らかな女性像が温かく迎えてくれる。傍らのニッチはこの壁画を描いた2カ月後にこの世を去った堀越氏を偲び、庭に咲く季節の花を捧げる場になっている。訪れた5月は、裏庭に咲いていた‘セプタード・アイル’など優しい色合いの5種のつるバラが、その女性に寄り添うように飾られていた。

2階の中心には、リビングダイニングとアルコーブ(壁面を少し凹ませた場所)に挟まれた広いパティオがあり、とても使い勝手がよく暮らしに大活躍する空間だ。床にはスペイン産のテラコッタタイルが一面に敷かれて、リビングとも一体感がある屋外空間。日当たりがよく、いくつかの鉢植えの中には、オリーブの大株もあり、夏にはたくさんの実をつける。春はヤマザクラの鑑賞会、初夏はバーベキュー、夏はオリーブの収穫祝い、秋には涼しい夜風が吹く中でお月見と、一年中人が集う。

写真左は、パティオから見たリビングダイニング。右奥にキッチンがあり、パティオへひと続きで行き来がしやすい。写真右は、パティオに面したアルコーブ。外の風を感じながらソファで読書するのにもちょうどよい、過ごしやすい場所。

部屋にいながら、パティオに降る雨の音や日暮れの様子、風の音も感じることができる代田邸。たとえ仕事で遅く帰っても、お酒を片手にパティオに出れば、オリーブの花が開き始めていることも見逃さない。新しい住まいを得たことで植物を育てる楽しみを知り、いつのまにか趣味を介して友人が増えた。自然の移ろいを感じることができるこの住まいは、今、この瞬間が楽しいと教えてくれる。

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