新潟県燕市にある〈Watanabe Garden蔵〉は、オーガニック栽培のハーブガーデンで、古い蔵を改装したカフェが併設されています。オーナーの渡辺公子さんは、ハーブや果実といった、庭で収穫したものに少し手を加えて、生活の中で役立てたり、カフェで提供したりしています。さまざまな庭の恵みを楽しむ暮らしを拝見します。

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ハーブガーデンの実り豊かな
〈Watanabe Garden蔵〉

「私の庭・私の暮らし」食と香りの楽しみに満ちた庭 新潟・渡辺邸〈Watanabe Garden 蔵〉』でもご紹介した、渡辺さんのガーデン。約100種の植物が育ち、樹木やバラなどの灌木、宿根草など、観賞を目的とした植物に加えて、和と洋のハーブを中心に、果樹や野菜など、食べられる植物がたくさん植えてあります。

Watanabe Garden 蔵
手前はバラと宿根草、中央左が地中海ハーブの植わるゾーン。奥に建つのは蔵を使ったカフェ。

今回は、渡辺さんが庭で収穫するさまざまな恵みをどのように活用し、楽しんでいるかをご紹介しましょう。

Watanabe Garden 蔵
古い蔵を改修したカフェ。

清涼ハーブ水でおもてなし

ハーブ水
庭のフレッシュなハーブをたっぷり使ったハーブ水。

夏の間、カフェでは、庭に茂るローズマリーとミント類を使ったハーブ水を、お客様に出しています。ハーブの清涼感で、スーッと爽やか! 体のほてりを冷ましてくれるようです。美味しくて、ごくごく飲めます。

立ち性のローズマリー
立性のローズマリー。

ローズマリーは、土を乾燥気味に保っている地中海ハーブのゾーンで栽培。コモンタイムやコモンセージなどの、料理によく使うハーブもこの区画で育てています。

キャンディーミント
キャンディーミント。

渡辺さんの庭には、キャンディーミント、レモンミント、グレープフルーツミント、ワハッカ、オーデコロンミントがあって、香りがそれぞれ異なります。ハーブ水には、キャンディー、レモン、グレープフルーツのミントをミックスして使っています。これらのミントはわりと華奢で、半日陰で育っています。

それから、どこからやってきたのか、植えたつもりがないのに、アップルミントとスペアミントも生えています。この2種類は香りが強く、とても丈夫。陽光をものともせず、庭のあちらこちらに広がっています。

グレープフルーツミント
グレープフルーツの香りがほのかにする、グレープフルーツミント。

水出しハーブ水は、新鮮なローズマリーの枝とミントの枝を水と一緒にポットに入れ、冷蔵庫で保管します。1~2時間置いたら飲めるようになり、渡辺さんは水を足しながら、2~3日間くり返し使っています。葉が茶色く変わり、香りが弱くなったら終わりのサインで、使えるのは2~3日が限度です。ハーブがほんのり香るハーブ水は、水を飲むのが苦手な方でも美味しく飲めます。

ハーブティーの楽しみ

コモンマロウ
初夏の収穫。手前は、コモンマロウの花、ユスラウメ、ニゲラの種。奥はリンデンフラワーとジューンベリー。

庭にあるいろいろな植物の花や葉を乾燥させて、ハーブティーに使っています。コモンマロウ(ブルーマロウ)を中心にしたブレンドは、ローズ、キャンディーミント、レモンバーベナを合わせた、爽やかな印象。エルダーフラワーとドッグローズのローズヒップを合わせたブレンドは、花粉症によいそうです。

コモンマロウ
6月、キッチンガーデンに咲くコモンマロウ。

コモンマロウの鮮やかなマゼンタ色の花を使うと、美しいクリアなブルーのお茶になります。コモンマロウは、咳や風邪の症状を緩和する飲み物として、西洋では知られています。

ハーブティー
コモンマロウにローズなどをブレンドした「蔵のハーブティー」。

ブルーのお茶は、時間とともに酸化してだんだんとピンク色に変わりますが、レモンのスライスなど酸性のものを加えると、手品のようにサッと色が変わります。カフェではアイスハーブティーの場合、レモンの代わりにカルピスの原液を添えてサーブ。加えてみるとどうなるでしょう?

ハーブティー

ほのかなピンクの、カルピス風味のアイスハーブティーに! レモンスライスを使うと酸っぱくなりますが、この色変わりの方法なら酸味の苦手な人も楽しめます。

有能な薬草 ドクダミ

ドクダミ
ドクダミの白い花とワイルドストロベリーの赤い実。

渡辺さんの庭には、フキやミツバ、ミョウガ、ヨモギなど、和のハーブもたくさんあります。その中にはドクダミも。時に雑草扱いをされることもあるドクダミですが、渡辺さんは、花をチンキに、葉をお茶にして活用。ドクダミは役立つ薬草なのです。

どくだみの花

6月の旬の時期に摘まれた真っ白な花はとてもきれい! ドクダミの花がこんなに可憐だなんて、新しい発見です。

ドクダミチンキ
ドクダミチンキ。右の2つは今年仕込んだもので、白い花が変色しかけています。左は去年のものを濾したもの。

摘んだ花はホワイトリカーに漬け込んで成分を抽出し、チンキを作ります。漬けて、常温で3カ月以上おいておくと、花が茶色く変わり、透明な液体も茶色くなってきます。いつも1年くらい寝かしておいて、前年のものを濾して使っています。

ドクダミチンキ
蚊に刺されたら、渡辺さんがチンキをシュッとしてくれました。

ドクダミチンキはスプレー瓶に入れて、庭仕事のお供に。虫さされにつけると、かゆみが和らぎます。それから、トイレや玄関の消臭剤として、臭いが気になるときにスプレーしています。ドクダミは消臭効果があるようで、数本切って水に挿し、臭いの気になるところに置いておくだけでも、臭いが消えるようです。

果実は酢に漬けて

クラブアップル
夏の終わりに色付き始めたクラブアップル。写真/渡辺公子

実をつける植物が大好きな渡辺さんは、マルベリー、ラズベリー、ブルーベリー、レッドカラント(フサスグリ)、ブラックカラント、プルーン、サンザシといった果樹を育てています。ひときわ可愛らしい小さな実をつけるのはクラブアップル(ヒメリンゴ)。そのままで食べるとちょっと酸っぱいので、いつも果実酢にしています。

クラブアップル酢
大瓶にたっぷり入った前年のクラブアップル酢。

クラブアップルの収穫は10月から11月頃。実の頭と底を切り落とし、甘めのまろやかな酢に漬けて、半年以上経てば完成です。昨年は市販の美味しいリンゴ酢を使いました。クラブアップルの果実酢は、炭酸水で割って夏の飲み物に。それから、ハーブティーを入れる際にはちみつと一緒に加えると、お客様に喜ばれます。

レッドカラント
バラの花壇に植わるレッドカラントは初夏に収穫。
サンザシとローズヒップ
10月の収穫。かごの中の真っ赤に色づいたサンザシの実と、ドッグローズのローズヒップ。写真/渡辺公子

レッドカラントやサンザシ、クコの実も、甘めのまろやかな酢に漬けて果実酢を作っています。こちらも、炭酸水で割ると、さっぱりとした夏の飲み物になります。

果実酢
左から、クコ、レッドカラント、サンザシの実を漬けたお酢。一番右はタイム醤油。

赤色がきれいな果実酢が並びます。一番右は、庭のコモンタイムとチャイブ、ニンニク、トウガラシを醤油につけた「タイム醤油」。「チャーハンや、それから、お肉や魚のソテーの仕上げに使うと美味しいですよ」とのことですが、どんな味か、試してみたくなりますね。

実も葉も重宝するマルベリー

マルベリー
たくさんの実をつけるマルベリー。
マルベリーの実
黒く熟したマルベリーの実。

6月から7月にかけて、たくさんの実を収穫できるマルベリー(クワ)。黒く熟した甘酸っぱい実は、生のままデザートに添えたり、果実酢を作ったりもしますが、ジャムにするのが定番です。

手作りジャム
鍋一杯のベリーベリージャム。写真/渡辺公子

そこで渡辺さんはひと工夫。マルベリーに、やはり庭で収穫したラズベリーやブルーベリーを合わせて煮ます。名付けて「蔵のベリーベリージャム」。マルベリーだけ煮るより美味しくなるそうです。

プルーン
夏の終わりに、大きくなって色付いてきたプルーン。写真/渡辺公子

マルベリーとプルーンを合わせて煮るのもよいとのこと。マルベリーのきれいな色とプルーンのとろみが互いを補い合って、美味しくなるそうです。ジャムはヨーグルトのソースとして、カフェでも提供されます。

マルベリーの茶葉
乾燥させたマルベリーの葉は野草茶に。写真/渡辺公子

マルベリー、つまり、クワの葉は乾燥させて、お茶にしています。クワとドクダミの葉、玄米をブレンドして、「蔵の野草茶」を作ります。

玄米炒り
玄米炒りには、鎚起銅器職人の大橋さんの手による銅製フライパンを愛用。写真/渡辺公子

これは、冬に石油ストーブの上で玄米を炒っているところ。玄米は、焦がさないようにゆっくりじっくり炒る必要があって、それには、部屋を暖めるのに使う石油ストーブの上がちょうどよいのだそうです。冬ならではの、一石二鳥の仕事です。「炒り玄米は冷蔵庫で保存しておき、クワの葉とドクダミの葉が揃った時に、一緒に再び軽く炒って、仕上げます。玄米が入ったほうが美味しいお茶になると思います。玄米もできるだけ無農薬がよいですね」。

無農薬の健やかな庭から生まれる、健やかな野草茶です。

インテリアにもさりげなく

のれん
昔の蚊帳を使ったのれんは、ポシャギ(韓国のパッチワーク)作家の道見先生の手によるもの。

古い蔵を改修したカフェの内部にも、庭の恵みがさりげなく散りばめられています。

マルベリーとドクダミ
2階に干しているのはマルベリーとドクダミ。

蔵は半分が吹き抜けで、半分がロフトのように2階のある構造です。入ると正面にキッチンカウンターが。

Watanabe Garden 蔵

アジサイ‘アナベル’のドライフラワーを使った壁飾りは、立体感があってオブジェのよう。キッチンの棚にはたくさんのスパイスと乾燥ハーブが並びます。右下の大きめのコンテナには、タイム、ミント、セージ、ローズマリーなど、自家製の乾燥ハーブが入っています。

Watanabe Garden 蔵

収穫した花や葉は蔵の中でも乾燥させています。これはチャイブ。味のあるワイヤーワークは、知り合いの工芸家さんが作ってくれたものです。乾燥させたチャイブは、ラタトゥイユなどの煮込み料理に使います。

アジサイのドライ

吹き抜けの壁にもアジサイのドライフラワーが。

Watanabe Garden 蔵
2階からの眺め。

蔵の中は、山小屋のようなナチュラルな雰囲気です。広い空間に飾られたドライフラワーやリースが、居心地のよさを生み出しています。

ユーカリと唐辛子
左はユーカリの葉、右はトウガラシを使ったリース。

壁には植物を使ったリースが飾ってあります。ユーカリの葉を使ったリースは、剪定した際に出る枝葉を使って作りました。葉だけのリースも素朴で素敵。ユーカリの葉は、染め物にも使います。

大きなトウガラシを使ったリースは、魚沼のリース作家、ひと葉さんのワークショップで作りました。

ラベンダー
左/クラフト作りに使うラベンダー。右/スリッパにラベンダーバンドルズを置いて。

蔵の2階に上がるために置かれたスリッパには、ラベンダーの花穂を茎に挟み込んでリボンで編んだ、ラベンダーバンドルズが載せられています。抗菌、消臭作用のあるラベンダーを添えておくという、さりげない心配りです。ラベンダーはこの他に、蒸留器でハーブウォーターを作ったり、ドライにしてポプリに使ったりしています。

ラベンダーバンドルズの作り方はこちら

Watanabe Garden 蔵のランチ
蔵のミニランチセット。奥はグリーンカレー、手前はチーズドックとラタトゥイユなどの盛り合わせ。
Watanabe Garden 蔵
左は蔵のハーブティー、右は泡立てアイスコーヒー。

カフェでは、庭の恵みを使ったランチや飲み物が味わえます。サラダにはキッチンガーデンの採りたて野菜が、ヨーグルトには自家製マルベリージャムが添えられ、マルベリーやジューンベリーなどの果実が添えられることも。何に出合えるかは、その日のお楽しみです。

Watanabe Garden 蔵

庭の旬の素材を使って、その時々の料理や手仕事を楽しんでいる渡辺さん。自分の手で育てたものを、自分の暮らしに役立てる。それは、いささか手間のかかることだけれど、じつはとても豊かなことなのだと、彼女の暮らしぶりから伝わってきます。

Information

Watanabe Garden

〒959-0235 新潟県燕市吉田旭町1-7-3(渡辺医院駐車場脇に入口) TEL:0256-78-7785
http://www.cl-watanabe.com/watanabegarden_kura.html

営業月 4~11月まで (12月~3月は教室開催のみで、通常営業は休み)
営業日 火~金、第2土曜、第4土曜 (祝日は休み)
営業時間 10:00~16:00

Credit

取材&文/ 萩尾昌美 (Masami Hagio)
早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。神奈川生まれ、2児の母。

写真/3and garden

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