世界のガーデンの歴史や、さまざまなガーデンスタイルを、世界各地の庭を巡った造園家の二宮孝嗣さんが案内する、ガーデンの発祥を探る旅第23回。今回は、世界中のガーデンファンが毎年注目するイギリスのチェルシーフラワーショーにおける植栽についてご紹介。ショーガーデンならではの植栽のポイントや、実際のガーデンにも生かせるアイデアについて解説していただきます。

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100年以上の歴史ある花と緑と庭の祭典

チェルシーフラワーショー
2019年5月に行われたチェルシーフラワーショー。JosephWGallagher/Shutterstock.com

これまでは、西洋の庭デザインの変化をたどりながら、国ごとにスタイルが異なる花の植え方を紹介してきましたが、今回はイギリスのフラワーショーについてご紹介します。

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フラワーショーといえばイギリスで毎年開かれるチェルシーフラワーショー(RHS Chelsea Flower Show)があまりにも有名です。100年以上の歴史を持ち、世界中のガーデンデザイナーが目指すコンテストの一つがチェルシーフラワーショーです。園芸文化の普及と発展を目的としたフラワーショーなので、庭だけでなくさまざまな植物の新品種や希少な植物の紹介の場所にもなっています。

チェルシーフラワーショー
庭をご覧になる女王陛下。ホンダティーガーデン(1996年)。

上写真は僕がイギリス人の友達と一緒につくった「ホンダティーガーデン」で、日本人初のゴールドメダルをいただいた庭です。チェルシーフラワーショーは王立園芸協会主催のフラワーショーなので、一般公開になる前日の午後、ロイヤルビジット(皇室の訪問)があり、女王陛下も毎年お見えになります。

ショーガーデンをつくる時
デザイナーが心がけることとは

チェルシーフラワーショー
2019年5月に行われたチェルシーフラワーショー。Richard RinaldoShutterstock.com

ある意味、世界中のフラワーショーのお手本になっているチェルシーフラワーショーは、審査から一般公開を含めて1週間しか開かれません。植物をふんだんに使い、作り込まれてお金も非常にかかっている庭が、たった1週間で取り壊されてしまうことはもったいないと思う面もあるかもしれませんが、デザイナーの立場から見ると来場者に一番いい状態の庭を見てもらうには、やはり1週間が限界です。それ以上時間が経つと、多くの花が傷んだり散ったりして、最高の状態で見てもらうことができなくなってしまうからです。

チェルシーフラワーショー
満開のヤブデマリ。チェルシーフラワーショーにて。

デザイナーとしては最高の状態で審査を受けたいのですが、その日に花を満開に咲かせるのは並大抵の苦労ではありません。

ショーガーデンに使われる植物の選び方

チェルシーフラワーショーの花
花期の長いバーバスカムと花期の短いジャーマンアイリス。アイリスは審査の当日の朝までつぼみをティッシュで軽く包んでおきます(写真左、花の部分に白いティシュが巻かれている)。

例えば、アイリスの仲間は存在感があるのですが、一日花なので、なかなか花の開花をピンポイントで合わせることが難しい植物です。ですから、一般公開の間も楽しんでもらえるように花期の長い植物を組み合わせる必要があります。もちろん会場前の花の手入れは毎日、怠ることはできません。

チェルシーフラワーショー
常緑の植物を使った庭。

フラワーショーの庭は細かな制限が設けられているわけではないので、デザイナーの自由な発想のもとに楽しくつくることができます。上の写真のような常緑の植物を多く使うと落ち着いた雰囲気になり、庭が短期間で乱れることはない反面、庭に華やかさが欠けてしまいます。

チェルシーフラワーショー

黄花の植物の中でもバーバスカムの黄花は、主張が強くなく花期が長いので、ショーガーデンにおいて常連の植物の一つです。多くの花を使いすぎると、まとまりのない配色になってしまい、テーマが見えにくくなってしまいます。

チェルシーフラワーショーの花々
白のアリウムとオダマキ、その奥にバーバスカム。オレンジのポピーと壁にはクレマチス・モンタナを配置した庭。

落ち着いた花色でまとまった庭をよく見てみると、チェルシーフラワーショウで定番となっている植物たちが取り入れられています。この中でも、手前に咲いている八重咲きのオダマキは珍しい花色で、奥の紫ミツバの白花がポピーのオレンジ色を中和させて、軽やかな雰囲気が生まれています。

フラワーショーの参加条件

チェルシーフラワーショー
左/審査委員長のロバート・ヒリヤー氏と話をする筆者。右/一般公開前に行われる審査風景。

では、こうした特別なショーのガーデンはどういった経緯を経て完成へと向かうのでしょうか。まず、チェルシーフラワーショーの人気のデザイナーは、フラワーショーが終わるとすぐに翌年のデザインを始めます。特に「ショーガーデン」と呼ばれる大庭園部門では、最低でも1,000万円以上のお金が必要なので、来年に向けて早くスポンサーを探さなくてはいけないという大仕事がまず起こります。R.H.S.(王立園芸協会)に出品するには、満たさなくてはいけない条件が以下のようにあります。

  • 実績のあるデザイナーであること(過去の受賞歴等のあること)
  • 実績のある施工業者がついていること
  • 資金が十分であること
  • 資材や植物の調達計画がしっかりしていること
  • いいデザインであることは必須条件

多くのデザイナーは、まず小庭園部門での受賞実績を経て、大庭園部門への参加にステップアップしますが、僕の場合は、1995年にイギリスで手がけた個人庭園が「B.A.L.I.(英国造園協会)」の年間のグッドデザイン賞をいただいたことが実績となり、初回からショーガーデンをつくることができました。

ガーデンをつくるための石材の調達

石材の調達現場
石材の調達現場。

イギリスでの庭づくりの苦労には、まず、日本では当たり前に見つかる同じ材料はなかなか見つけることができないということがあります。例えば、イギリスは火山国ではないので、きれいな御影石(花崗岩)を手に入れることが難しかったことを思い出します。また、ゴロタ石などはウェールズ地方に行って、氷河期のモレーンの石を使いました。また、イギリスのモルタル用の砂は赤いので、白いモルタルをつくることも苦労した点です。

ガーデンをつくるための植物の調達

ナーセリー
植物の調達のために訪れた大規模ナーセリーの苗木ハウス。

イギリスにある樹木の多くは、アジア起源だったり過去に日本から持ち込まれたものも多いので、さほど苦労はしません。しかし、樹形は左右対称に育てられていることがほとんどのため、いつもナーセリーの圃場の隅でいじけた形(自然樹形)の樹木を探すことになります。

草花は、日本のように酸性土壌で育つようなものは少ないので、結構苦労しますが、我々の感性に合ったもので東アジア的なものを探します。ショーガーデンで大活躍するのはギボウシやイカリ草です。他にもいろいろ揃えなくてはいけないので、あちこちのナーセリーを回ってガーデンをつくる前年の秋までに苗の予約をします。

植物の搬入
日本ではあまり見かけない大型のコンテナで多数の苗が搬入される様子。

手配する植物の量は、全部使われることはなくても2〜3割ほど余分に注文しておきます。また会場がとても狭いので、配送の日時は時間まで指定して運搬してもらうのですが、どの庭も大抵一緒の時期に運び込まれるため、会場内で大渋滞がどうしても起こってしまいます。それでも日本のように大声が飛び交うような事は滅多にないのがイギリス。こうした全体のマネージングや他の庭との人間関係などをスマートに行うことも、いい庭をつくるためにはとても大事な条件です。

植物の苗
車から降ろされた苗は、庭づくりのスタッフたちによって、植える前に花がらを摘んだり、傷んだ葉を取り除いたりして、十分な手入れがされます。

フラワーショー開催の風景

ヒリヤーナーセリー
ゴールドメダルしか取ったことがない「ヒリヤーナーセリー」の前で。サイトマネージャーを務める旧友のリッキードール氏と一緒に。
チェルシーフラワーショーのデルフィニウムとベゴニア

チェルシーフラワーショーの会場では、地面に庭をつくるショーガーデンのほか、巨大テントの中に多数のナーセリーが最新品種や定番品種を発表します。こちらは、デルフィニウムと球根ベゴニア専門店のディスプレイ。クレマチスにバラ、球根花、ダリアなど、これでもかという色と量に圧倒されてしまいます。

チェルシーフラワーショーのダリア
ダリアの専門店のディスプレイ。
チェルシーフラワーショー
タイのデザイナーによる庭。

チェルシーフラワーショウが開催された後、例年7月に開かれるハンプトンコートフラワーショーは、チェルシーと比べると、もっと自由な発想でデザインされた庭が多い傾向にあります。

養蜂家のための庭
養蜂家のための庭。ミツバチの大好きな植物を中心につくられています。
赤の庭
赤でまとめられた庭。

イギリスのフラワーショーの審査のポイント

チェルシーフラワーショー
女王陛下と庭の話をする筆者。英語には敬語がないことと、女王陛下がとてもフレンドリーな方だったので僕みたいな者でも普通にお話しすることができました。
  • テーマ性がしっかりしていること
  • 全体の調和がとれていること
  • 植物と構造物の組み合わせがうまく調和がとれていること
  • しっかりした施工と最高品質の植物が使われていること
  • 人を驚かすような斬新なデザイン性があること

などが大事なチェックポイントになっています。こうしたショーガーデンが毎年開催されることで、新しい庭デザインの発想が生まれたり、新品種が注目されたりと、イギリスではガーデニングが文化として定着し、未来のガーデンへと引き継がれていくのだと思います。

では、次回はイギリス以外のフラワーショーについてお話ししたいと思います。

Credit


写真&文/二宮孝嗣
長野県飯田市「セイセイナーセリー」代表で造園芸家。静岡大学農学部園芸科を卒業後、千葉大学園芸学部大学院を修了。ドイツ、イギリス、オランダ、ベルギー、バクダットなど世界各地で研修したのち、宿根草・山野草・盆栽を栽培するかたわら、世界各地で庭園をデザインする。1995年BALI(英国造園協会)年間ベストデザイン賞日本人初受賞、1996年にイギリスのチェルシーフラワーショーで日本人初のゴールドメダルを受賞その他ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール各地のフラワーショウなど受賞歴多数。近著に『美しい花言葉・花図鑑-彩と物語を楽しむ』(ナツメ社)。

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