これまで長年、素敵な庭があると聞けばカメラを抱えて、北へ南へ出向いてきたカメラマンの今井秀治さん。カメラを向ける対象は、公共の庭から個人の庭、珍しい植物まで、全国各地でさまざまな感動の一瞬を捉えてきました。そんな今井カメラマンがお届けするガーデン訪問記。第20回は、ガーデニング歴も長く、長野市を拠点とした「オープンガーデンオブ信州」を率いる、稲葉典子さんの庭です。

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稲葉さんの庭に訪ねた日のこと

‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘サマー・スノー'
ガーデンへの入り口には‘ピエール・ドゥ・ロンサール’と‘サマー・スノー’の2種の白つるバラのコラボレーション。

今月のお庭は長野市「オープンガーデンオブ信州」会長の稲葉典子さんの庭です。僕もガーデンフォトグラファーを名乗りだしてもう随分と長いので、古いお付き合いの方も多い中、稲葉さんもそんなお一人です。撮影当日の6月5日は「ここが長野ですか?」と言うくらいによく晴れた暑い日でした。

ガーデン
午後6時30分。お庭の入り口から左(真西の方向)へレンズを向ける。太陽が隣のお宅の屋根の影に入った瞬間、ファインダーの中の庭は魔法の時間に包まれていた。

この日は、稲葉さんにご紹介いただいた「オープンガーデンオブ信州」の事務局をなさっていた会員さんのお庭を拝見した後、午前10時に稲葉さんの庭に到着しました。庭の入り口のパラソルの下で待っていてくださった稲葉さんのご案内で、早速庭の中へ。回遊式の庭には、バラのアーチや塀沿いには高い木もありましたが、日向はギラギラ。日陰は真っ暗に影が落ちていたため、とてもすぐに撮影できる状態ではなかったのです。しかし、よく目を凝らして見ていくと、バラも宿根草もコンディションがとてもよいのです。このまま夕方まで天気がもってくれれば、きっと夕方のきれいな光で最良の撮影が出来ると確信しながら、久しぶりとなる稲葉さんの庭を拝見いたしました。

庭づくりに気候もぴったりの信州

バラのアーチ
庭に入って正面のアーチ。足元の宿根草と奥のフェンスにかかる赤いつるバラ‘ドクター・ヒューイ’のコントラストがきれいだ。ベテランのガーデナーさんのお庭では赤バラが上手くポイントとして使われていることが多いように思う。

稲葉さんに初めてお会いしたのは、2006年に「オープンガーデンオブ信州」の総会にお邪魔した時ですから、もう13年も前の事になります。その頃は、雑誌『花ぐらし』でオープンガーデンのページを妻と2人で担当していたこともあって、その日も稲葉さんにお会いしてすぐに取材の約束を取り付け、改めて翌年の6月に、稲葉さんの庭と他に2軒の計3軒の庭の取材をさせていただきました。以前から信州にはよく通って、庭づくりに気候も適していると分かっていたので、きっとよい庭があるだろうと想像はしていました。予想が的中して、3軒とも想像以上に優れた庭だったことを覚えています。

ガーデニング
南側から北の方角にレンズを向けた写真。画面左手からの夕方のサイド光は一番好きな光。

中でも稲葉さんの庭は、当時としてはちょっと珍しい回遊式のガーデンで、アーチをくぐるたびに違うテーマの植栽がされていたことも印象に残っています。当時撮影した写真は『花ぐらし』でも好評で、その後発行された、夫婦で巡った各地のオープンガーデンをまとめた本の表紙にも稲葉さんの庭の写真を使わせていただきました。

いい光を待って庭の撮影がスタート

赤バラ‘レッド・グルーテンドルースト’
ガーデンシェッド前の‘レッド・グルーテンドルースト’。バラらしくない、この赤いオールドローズがこの庭にはよく似合っていると思う。

稲葉さんに庭をご案内いただいた後も、まだだいぶ時間があったため、近隣で知り合いだった庭にお邪魔して、お茶をご馳走になったり、園芸店のガーデンソイルにも行ったりしながら、夕方まで時間を使いました。そして、午後5時ぴったりに再び稲葉さんの庭へ。稲葉さんは山梨でハンギングバスケットの審査会で留守にしていたため、ここからは僕一人です。午後5時の光はまだ少し強かったのですが、あと30分も経てばきれいな光が庭を包み込んでくれるのは容易に想像できます。

アキレアの咲くガーデン
小径をふさぐように咲くアキレア(セイヨウノコギリソウ)も、後方のフェンスに咲く‘ヴィオレット’も、本当に生き生きとしていて、この道を何度も行ったり来たりしたものだ。

まずは庭の西側の既に日陰になっているエリアから撮影を開始。きれいな光を求めて庭の中を何周もして、光と影の境界辺りできれいに咲いているバラを撮ったりしていると、時間はあっという間に過ぎました。午後6時を過ぎたころ、庭全体がさーっと明るい影に入っていきます。それまで強い光を浴びてギラギラ見えていたバラたちが、きれいに見えてきたら、いよいよ魔法の時間の始まりです。赤いオールドローズの株元には、青や白の宿根草が優しい逆光に輝いています。また、その奥には紫のバラのアーチが。そうして無心で30分ほどシャッターを切って、撮影は午後7時少し前に終了しました。

バラの咲くガーデン

毎年、いろいろな所でいろいろな素敵な庭の撮影をさせてもらっていますが,当たり前のことだけれど、庭ってつくり手さんの好みやセンスでみんな違う顔をしていますよね。「ピンクの可愛いバラと小さな青いお花が好き」な方もいれば、甘さを引き算したカッコいい宿根草使いの方もいる。稲葉さんの庭も、回遊式のしっかりしたデザインの中で、オールドローズと宿根草が実にのびのびとよい顔をして咲いていて、楽しく撮影ができた素敵な庭でした。

Credit


写真&文/今井秀治
バラ写真家。開花に合わせて全国各地を飛び回り、バラが最も美しい姿に咲くときを素直にとらえて表現。庭園撮影、クレマチス、クリスマスローズ撮影など園芸雑誌を中心に活躍。主婦の友社から毎年発売する『ローズカレンダー』も好評。

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