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コノフィツムの夏越しの真実「夏は水を切って日陰に」はNG!?

コノフィツムの夏越しの真実「夏は水を切って日陰に」はNG!?

冬に生育し、夏には休眠する多肉植物のコノフィツム。一般に栽培が難しいと思われていますが、その原因の一つは、コノフィツムの育て方について誤った情報が広まってしまっていること。コノフィツムのタイプごとの性質を正しく理解し、タイプに応じた管理をすれば、夏越しも難しくありません。コノフィツムの栽培歴40年以上のonoconoさんに教えていただきました。

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なぜか普及してしまった「間違いだらけのコノフィツムの育て方」

コノフィツム

多肉植物のうち、低温期≒冬に生育するものを「冬型多肉植物」などと呼ぶことがあります。

南アフリカ原産のコノフィツムも、この「冬型」としてくくられる多肉植物です。

冬型多肉植物の育て方を取り上げるメディアでは、「初夏になって気温が上がってきたら水やりをやめ、棚の下など雨と日光を避けられる場所で夏越しをする」などと書かれていることがあります。

「そのような管理で夏越しできるのはコノフィツムのうち、一部の種類だけです」

そう語るのは、40年以上のコノフィツムの栽培歴を持つconoconoさん。

「コノフィツム・ビローバム(Conophytum bilobum)や、それを交配親とした園芸品種など、頂部が2つに割れた、いわゆる『足袋型』といわれるコノフィツムは、そうしたやり方で夏越ししても枯れないというだけで、種や品種によっては、決してベストな方法ではありません。

多肉植物を仕事として生産、販売している人は大勢いますが、さまざまな種類のコノフィツムを育てた経験がある人はあまりいないようです。

そうした人たちがコノフィツムの育て方を説明する際に、強健な足袋型品種や普及品種を基準に説明したり、あるいは育てた経験がないので、ネットなどで見た情報を元に説明してしまっているのではないでしょうか」(conoconoさん。以下同)

雑誌、書籍などで足袋型を基準としたコノフィツムの育て方が広まり、それをネットに掲載。さらにそれが、まとめサイトなどを通じて拡散されることで、足袋型を基準としたコノフィツムの育て方が、あたかもコノフィツム全般の正しい育て方であるかのようにとらえられるようになってきたようです。

コノフィツム栽培のNG①
「夏は日陰で管理する」

夏のコノフィツム

コノフィツムは、一日のうち多くの時間日光に当たる環境で自生している植物。

「しかし、日本では夏と冬の日差しの強さの差が大きく、特に初夏からの日差しは急速に強烈になります。そのため、春までの比較的弱い光に慣れていた球体に直射日光が当たると、表皮が焼けたり、ひどい場合は球体全部が茹だったりしてしまうことがあります。

それを避けるために、5月上旬から10月上旬の間は50%程度の遮光をするとよいでしょう。私の栽培環境では、ポリカーボネート製の透明波板の屋根に遮光ネットをかけて遮光しています」

市販の遮光ネットには、遮光率が明記されているので、合うものを選ぶとよいそう。

「50%の遮光下というのは、葉が茂りすぎていない樹木の下の木漏れ日が当たる場所のような、明るい木陰に近い環境です。しかし、ネットに書かれている情報では、これが『明るい日陰』『半日陰』など、あいまいな表現で書かれていることがあったり、中には『夏は日陰に置く』などとしているものもあります。

コノフィツムは暑さに弱いとされてきたため、涼しい日陰に置けば失敗しないだろうという発想かもしれませんが、これでは耐陰性のある強健種しか生き残れません。コノフィツムの栽培に失敗する大きな原因は、年間を通じての日照不足と水不足です。

特に成長期の日照不足は致命的で、気温が上がる初夏の頃に、突然溶けるように腐ってしまうのです。

全ての種や品種にいえることですが、冬の日照時間が4時間未満の場合は、初夏に溶ける確率が非常に高くなります。また、休眠期に地上部が無くなる球根類とは違って、地上部が残った姿で乾燥した夏を乗り切るコノフィツムは、休眠期も一定以上の日照は必要だと考えてください。ただし、雨ざらしにすると過湿になるので、必ず雨よけをしましょう」

コノフィツム栽培のNG②
「休眠したら断水して夏越し」

コノフィツム

休眠期の夏は水やりを行わず、秋に生育が再開してから水やりをスタートするという説明をされることがあるコノフィツム。

「これはおそらく、植物体が大きい足袋型コノフィツムについて説明していたのが、いつの間にかコノフィツム属全体に対する説明として広まってしまっているのではないでしょうか。

植物体が大きな足袋型は、夏に断水をしても秋に水やりを再開するまでもちこたえます。しかし、生長期に入っても吸水しないようなら乾燥させすぎです。この場合は、用土にある程度の湿気を持たせるようにしたり、休眠期に少し水やりをしたほうが株も傷まず、秋以降の生育も順調に始まります。

このように、比較的丈夫で育てやすい種であっても、性質に合わせた管理が必要になります」

コノフィツム属は多様性に富んだ多数の種を含んでいますから、上手に栽培するためには、種による性質の違いを理解しておくことが重要。コノフィツムを、好む環境によって4つのタイプに分け、タイプごとに育て方のポイントを見ていきましょう。

コノフィツムの4つのタイプ

コノフィツムの4タイプ

「コノフィツムというと『足袋型』『丸形』『鞍型』など、見た目の形で分けられがちですが、これは植物分類学的な分け方や、それぞれが持つ性質とは全く関係ない、単なる見かけに基づく分け方なので、育て方について考える際にはあまり意味がありません。

コノフィツムの育て方については、上の写真のように、およそ4つのタイプに分けて考えるとよいでしょう。

①……乾燥に強く、光を好むタイプ
②……あまり乾燥に強くないタイプ
③……植物体が大きく、丈夫なタイプ
④……コノフィツム・ブルゲリ

4つのうち①〜③は複数のコノフィツムを含むグループですが、④だけ、ほかのコノフィツムとは大きく異なる性質を持つコノフィツム・ブルゲリ1種で扱います。

以下では、それぞれのタイプの性質を踏まえた管理の方法をご紹介します」

① 乾燥に強く、光を好むタイプ(有窓系)

ペルシダム 変種テリカラーConophytum pellucidum var. terricolor

ペルシダム、マウガニー(Conophytum maughanii)など、球体頂部に『窓』と呼ばれる透明な部分がある種のグループ。
(上の写真はペルシダム 変種テリカラーConophytum pellucidum var. terricolor。9月下旬の状態)

コノフィツムの夏越し

夏越しの時期は、上のような状態になります。

「このグループは、最も乾燥にも強いタイプです。日陰をつくるものがない開けた場所で生きている種が多く、一日中日光に晒されているため、非常に光を好みます。

コノフィツムの中には、強い光の環境にも、やや日陰ができるような環境にも適応できるものもありますが、このタイプは光が足りないと弱ってしまいます。冬の生育期は、遮光率0〜30%の明るい環境に置きます。5月を過ぎると殻を被って、休眠するようになりますが、通年、明るい場所で過ごさせましょう。

生育期は1〜2週間に1回程度の水やりをしますが、休眠期には3〜4週間に1回表面が湿る程度の水やりにとどめます。夏の間に脱皮が始まってしまうようであれば、水が多すぎです」

② あまり乾燥に強くないタイプ(小粒タイプ)

ステファニー ヘルムーティ Conophytum stephanii ssp. helmutii

上の写真のステファニー ヘルムーティ(Conophytum stephanii ssp. helmutii)などの小粒のコノフィツムは、岩の隙間などにへばりつくようにして生きている種。有窓系のように開けた場所に生きているわけではないので、終日直射日光が当たらなくても生きていけるそうです。

「ただしこれは、光量の許容範囲がある程度広いという意味で、日陰で育てられるということではありません。やはり、通年最低4時間以上の日照が得られる場所で育てる必要があります。

岩の隙間には雨や夜露などの湿り気が長く残りますが、そうした水分を頼りに生きる種です。なので、有窓系ほどは乾燥に強くありません。

生育期は遮光率0〜30%の明るい場所に置き、5〜9月は50%程度の遮光をします。

水やりは、生育期には鉢土が乾ききる前にたっぷり与えます。根を完全に乾かしてしまうことは禁物ですが、水が残りすぎない用土を使いましょう。休眠期も根を乾かし切らないように水を与えますが、高温期に過湿な状態が続くと腐る原因となります。真夏は鉢底から水が抜けない程度の軽い水やりを2週間に1回程度、あるいは週に1回のミスト散水で表土を湿らせる程度にとどめましょう」

③ 植物体が大きく、丈夫なタイプ(足袋型を主とする丈夫な普及種)

コノフィツムの普及種

「コノフィツムの中では丈夫で、最も普及しているグループです。一つの粒が大きく、その分、環境が悪くなっても持ちこたえることができます。

そのため、光が十分ではない環境や、水が足りなくてもすぐに枯れたりはしません。しかし、生育期の日照不足が原因で初夏の頃に突然腐ってしまう失敗が初心者には多いです。

通年、葉焼けしない程度の明るい場所に置き、休眠期も極端に乾かし切らないほうがよく育ちます」

④コノフィツム・ブルゲリ

コノフィツム・ブルゲリ

翡翠の玉かゼリーのボールのような、透明感のある美しい姿がとても目を引くブルゲリ(Conophytum burgeri)。南アフリカ共和国南西部、ナミビアとの国境に近い地域の、ごく限られた地区にのみ自生しています。
(上の画像は11月下旬の様子)

夏のコノフィツム・ブルゲリ

夏越しのときは上の画像のような状態(6月下旬の様子)になります。

「人気がありながら難しいとされるブルゲリは、コノフィツム属の中では特殊で、強い日照と水を好みます。ですから、ブルゲリを『夏は断水し、日陰で管理』してしまうと、間違いなく失敗してしまいます。

強い日照と適度の水を好むので、生育期は無遮光、夏の高温期も遮光率は50%未満にとどめ、用土を乾かし切らない水管理をしたほうがよく育ちますよ。

C.ブルゲリの自生地は、地面を少し掘ると水がしみ出すような環境というような話も聞きます」

コノフィツムのタイプごとの性質をしっかり把握し、元気な株を育ててみてください。

※この記事でご紹介した栽培法は、関東地方平野部を基準にしています。

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Credit

アドバイス/conocono
千葉大学園芸学部卒業、同大学大学院薬学研究院博士課程修了。企業研究所勤務を経て現在・某大学薬学部教員。幼い頃から植物に魅せられ、数多くの種類の植物を栽培してきた。関東地方在住。

写真&文/土屋 悟(つちや さとる)
フリーライター。
インドアグリーンの最新事情に強い、園芸・ガーデニング関連のライターとして活動中。自宅でも、水槽、透明ケースなどを使って試行錯誤しながらランなどの植物を栽培。ときおり実家の庭の手入れも行い、家の中、外での園芸ノウハウを蓄積。
https://twitter.com/tutti0514
https://www.instagram.com/satorutsuchiya_/

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